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警備業ヒューマン・インタビュー
――全警協表彰警備員②2025.02.21

松尾翼さん(企業警備保障)

「普通ではない」と感じて

企業警備保障の松尾翼さん(36)は2023年12月19日、松江市内のショッピングセンターでの警備業務中に、行方不明者届が出されていた女子中学生の保護に協力した。“異変に気づく力”を生かし、誘拐事案の解決に貢献した。

<<警察に保護された女子中学生をどのように把握しましたか>>

12月18日の朝の時間帯に、ショッピングセンター1階のソファーで眠っているのを見かけました。「ごめんなさい。ここは寝るところじゃないので」と声を掛けたのが午前8時40分頃。私服姿の女子中学生は、2階以上がオープンする午前9時になると、上の階へ行きました。成人はしていそうな若い男性が一緒でした。

その後、3階のフードコートで机に肘をついて眠っているのを見ました。問題行動とまではとらえませんでしたが、平日でもあり気になったので、定期的な巡回や防犯カメラでの遠隔監視を行いました。2人が退店したのは夜でした。

次の日(12月19日)の朝も店内1階のソファーで眠っていました。“家出”の確証がなかったので、警察へ通報することまでは考えなかったです。ただ、普段からいろいろなお客さんを見ていたことで、普通ではない雰囲気は感じ取っていました。

その日の午前10時40分頃、警察から情報提供のあった捜索対象の顔写真を、ショッピングセンターの保安部長を通じて確認したところ、「あの子じゃないか」と思い、警察に連絡しました。その時、一緒にいた男性の服装や髪形についても聞かれました。

<<何人もの私服や制服の警察官が、2人がいたフードコートに来ました>>

詳しくは分かりませんが、他県での誘拐事案で、一緒にいた男性を警察が追っていたとのことでした。保護された女子中学生とはSNSで知り合い、携帯電話の電源を切らせていたそうです。男性は警察の声掛けに素直に応じていました。

今回の事案では、事件に発展する恐れがあったことを防ぐことができました。警備員をやっていて本当に良かったです。私がお客さんだったらスルーしていたかもしれません。警備の仕事をやっていたからこそ、気になったのです。

<<警備員になる前に人助けをしたことはありますか>>

高校生の時、アルバイトでプールの監視員をしていました。50メートルプールを泳いでいた高齢男性が沈んでいく場面に遭遇したことがありました。いつも泳ぎに来ていた方です。私はプールに飛び込んで潜っていって、男性を引き上げました。救急隊員が来るまで心肺蘇生を行いました。

男性は病院に救急搬送されましたが、亡くなりました。助けることができなくて悔しかったです。私の中で大きな出来事でした。

人を助ける仕事をしたいと思い、高校卒業後、航空自衛隊に入りました。メディック(救難員)になりたいと思ったからです。浜松や福岡などで勤務しましたが、家の事情で地元の島根に帰らなければならなくなり、5年で辞めることになりました。

地元に帰って仕事を探していた時も人を助ける仕事をしたいと思っていました。警備業のことはよく分からなかったのですが、交通誘導だけでなく、施設警備があることを知り、「できるかもしれない」と思って選びました。

<<警備員になって10年が経過しています>>

なくてはならない仕事です。警察や消防、施設管理などの「縁の下の力持ち」のポジションだと思っています。事案の大小に関わらず、子供からお年寄りまでから感謝されることが多く、やりがいを感じています。「ありがとうございました」と言っていただくと、「警備員をやっていて良かった、きょう勤務していて良かった」と思います。

企業警備保障に入社してからずっと、プラスアルファを心掛けてきました。例えば、基本教育や業務別教育だけでは理解が及ばないことがあり、法律関係や建物・消防の設備関係について勉強しました。いろいろな判例も見ています。これからも自己学習を怠らないようにしていきます。

<<若い世代の人材確保が警備業界の課題です>>

企業警備保障では若い人が多いので、あまり実感がありませんが、警備業の本質や、私が思っている「縁の下の力持ち」の部分が社会に伝わっていないのかもしれません。職場見学に来た若い子たちは交通誘導のイメージを持っていることが多い。警備業というものが浸透していない気がします。

<<休日はどのように過ごしていますか>>

まとまった休みがあった時は、車で下道を走って観光地に出掛けています。温泉や鍾乳洞が好きで、滝を見るとリセットできます。

警備業ヒューマン・インタビュー
――全警協表彰警備員①2025.02.11

平野守さん(コアズ)

「小刀男」を地面に制圧

全国警備業協会(村井豪会長)は昨年11月11日に都内で開催した「警備の日」全国大会で、2023年7月1日から24年6月30日までの間に顕著な功績があった「模範警備員」15人(12事案)を表彰した。当欄では表彰者をシリーズで紹介する。

1回目の平野守さんは24年7月6日(土)午後2時ごろ、愛知県内の公営競技場で交通誘導警備業務に従事していた際、酒に酔った高齢男性が駐車してあった車に乗り込み運転しようとするのを目撃した。近づいて声を掛けて止めたところ、男性が車内にあった小刀で平野さんに向かってきたため、習得していた護身術で制圧、駆け付けた警察官に引き渡した。功労に対し、愛知県警中村警察署長から感謝状を授与された。

<<危うく小刀で刺されるところでした>>

公営競技場内で酒に酔ったような足取りの男性が見えたので「転倒しなければよいな」と思いながら見守っていました。すると駐車場に停めてあった車の運転席に乗り込むではありませんか。

私は駆け寄って「お客さま、お酒を飲まれていますね」と声を掛けると「おまえには関係ないだろう」と言い、車のエンジンをかけようとしました。

その駐車場の出口付近には家族向けの賃貸住宅があり、ベビーカーを押している人や親子連れが歩いていました。酒を飲んだ状態で運転して交通事故を起こし、住民や通行する人が犠牲になる可能性がありました。

「酒を飲んで運転してはだめです」と伝えたところ、男性は「おまえ、殺してやろうか」と言うなり、ハンドル横のドリンクホルダーに立ててあった小刀の鞘を抜き、10センチほどの刃を私に向けて腹部あたりを突いてきました。

<<車内に小刀を携帯しているとは尋常ではありません。無事でしたか>>

私はとっさに男性の手首をつかみ、車の外に引き出しました。腕をひねったところ小刀を地面に落としたので、そのまま76キロの体重を寄せて地面に押さえ込みました。

男性を制圧しながら、なんとか無線を取り出して報告すると、巡回中の同僚が駆け付け110番通報してくれました。私は大声でわめく男性をそのまま地面に押さえ続けました。6、7分経って警察車両が数台到着し、警察官に男性の身柄を引き渡しました。後で男性の年齢は75歳と聞きました。

<<刃物で向かってくる男に、なかなか応戦できるものではありません。平野さんには武道などの心得があったのでしょうか>>

社内研修や検定資格受講時に講師の方に教えていただいた徒手(素手)の護身術が役立ちました。私は警備隊の隊長を務めていますが、身をもって知った護身術の重要性を部下に伝えたり、朝礼で訓示して社内に浸透させています。

<<話を聞いたご家族は心配されたでしょう>>

妻や子供は心配して「正義感を持ちすぎないで自分の身体を大切にしてほしい」と言ってました。同僚の方々からは「すごいですね」とか「私なら距離を置きながら説得します」という意見など、さまざまな声がありました。

<<警備業務の中で、こうした緊迫した状況を経験したのは初めてでしょうか>>

実は9年前に同じ公営競技場内でお客さま同士が乱闘になり、一人が打ち所が悪くて亡くなる傷害致死事件が起きました。そのときも私は、加害者の身柄を警察が到着するまで確保しました。今回のように私自身が直接攻撃を受けた事案は初めてです。

私は還暦を過ぎて、これからは後輩を育てたり、警備現場全体のスキルアップに貢献していきたい思いがあります。私なりに29年間の警備業務を通じて得たノウハウを、会社のために役立てたいと考えています。

<<緊急事態への対応が求められる警備現場です。息抜きはどのように?>>

私の趣味は自転車です。最近はなかなか時間がとれませんが、以前はロードバイクでよく遠乗りをしました。20代の頃に乗り始め、愛知県の犬山市や三重県の二見町など風光明媚な景勝地を巡ったものです。

日ごろは緊張感を持ちながら勤務していることもあり、自転車で風を切って走るときの解放感がたまらないのです。

警備業ヒューマン・インタビュー
――沿線の安全20年2025.02.01

下形和永さん(東急セキュリティ 代表取締役社長)

デジタルでブランド化

<<昨年10月に設立20周年を迎えました>>

「よくぞここまで来た」というのが率直な感想です。

当社が所属する東急グループは、大正期に開業した目黒蒲田電鉄(現・東急目黒線)に端を発する交通事業、それに先立つ田園調布での住宅開発を祖業とし、幅広い分野に事業展開する160社あまりの企業集団です。

当社は東急線沿線での安全・安心を強化し、沿線の価値向上を図る目的で2004年に設立されました。グループ内では設立20年の“スタートアップ企業”です。当時は1990年代後半からグループ内の再編がひと段落し、次のステージに進もうという時期で、ビル管理主体の東急ファシリティサービス(当時)を会社分割し、沿線住民の安全・安心に寄与するセキュリティー事業専門会社としてグループの生活サービス事業の領域に設立しました。

私は、東京急行電鉄(現・東急)のリゾート事業部から出向し、マーケティング、個人・法人営業開拓、人材育成と同時に会社組織を構築していくという走りながらの仕事に汗をかきました。

<<沿線は国内屈指の人口密集地域です>>

東急グループとはいえ、ホームセキュリティー市場で東急ブランドを浸透させるのは大変でした。グループの祖業の地である田園調布の住宅街で売り込もうにも、既に大手の警備会社が席巻しています。田園調布にお住いの著名人がホームセキュリティーをテレビで宣伝していた時代で、業界でも新参者なのだと痛感したものです。設立当初はグループ内の不動産会社からも「大変だね」と心配されたり、分譲住宅を手掛けるデベロッパーを訪問しても「東急グループの会社が採用していないなら採用するわけには」とあしらわれたりと苦労しました。

<<どのように打開していったのでしょう>>

スマートフォンもDXという言葉も一般に普及する以前のことですが、設立当初から当社はデジタルの活用には積極的に挑んできました。そこで2007年、首都圏での私鉄・地下鉄のICカード乗車券「PASMO(パスモ)」導入に際し、子供が東急の電車でパスモを利用すると、改札の通過情報を保護者にメールで知らせる「子ども見守りサービス」の提供を始めました。15年からは路線バスにも対応しています。

新興企業でしたが、東急グループの警備会社がデジタル技術で沿線の安全安心に役立つ新サービスを提供するからこそ、同業者との差別化やブランド化につながったのだと思います。23年度末現在、子ども見守りサービスが約10万件、ホームセキュリティーを含む機械警備は約9万件を数えます。

<<現場での業務効率化にもいち早く取り組みました>>

昨年4月に「コネクチーム」というスマホ向けの現場アプリを、国内で最初に本格導入しました。電話による上番連絡などシフト管理や、紙ベースだった業務通達や日報がスマホで完結します。

当社の隊員は駅や商業施設などに約1000人配置しており、導入前は各施設の隊員から業務開始連絡が集中すると電話回線はパンク状態でしたが、1日につき数百本の電話や判子を押す作業、紙の削減につながりました。順次導入しており、6割ほどに普及しました。年内には全体に行きわたる見通しで、社内の担当者が隊員に使い方をレクチャーしています。

当初は私自身も「さほど活用されないのでは」と懐疑的でした。巡察した際、隊員から出退勤連絡以外にも巡回ルートのチェックリストやマニュアルなどの機能も「使い倒しています」と聞かされ驚きました。

施設警備で欠員が生じた際、施設ごとの警備マニュアルやチェックリストが代理で勤務する隊員と共有できるので、警備品質を維持しながら柔軟に人員配置できる点も助かっています。

大型施設で防災センターが複数ある場合、拾得物の情報共有が図られていないと、問い合わせても長時間待たされるなどしてお客さまを不快にさせる恐れがあります。アプリ導入で顧客満足度の向上にもつながるでしょう。

当社は渋谷駅周辺でグループが運営するビルや施設を連携した警備ネットワークを構築しており、コネクチームは不可欠です。地元の警察や消防とも防犯・防災の訓練を重ねています。多くの人が行き交う渋谷でスマホを業務ツールとして使いながら巡回し、いざという時は警察・消防と共に対処する警備員を目の当たりにして「かっこいいな」と憧れてもらえる存在になればと考えています。