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警備業ヒューマン・インタビュー
――新会長④ 徳島警協2022.08.21

松岡宏さん(ALSOK徳島 代表取締役社長)

全国1位、女性管理職比率

<<徳島県の夏の風物詩といえば「阿波おどり」です。徳島市が主催する阿波おどりが8月12日から15日まで、3年ぶりに有観客で開催されました>>

新型コロナウイルスの感染は重症化のリスクは低減していますが、いまだ予断を許さない状況です。今年の阿波おどりは通常4か所の有料演舞場を2か所に削減するなど規模を縮小し、各会場に救護スタッフを設置、運営側に向けたコロナ予防マニュアルを策定するなど、感染対策を講じて開かれました。

警備はALSOK徳島が幹事会社となって警備計画書を作成し、協会加盟員でJV(企業共同体)を組み対応しました。会場周辺の雑踏警備や周辺道路の交通規制に伴う交通誘導、会場まで往復するシャトルバスの誘導などに警備員を配置しました。

<<若者を含め多くの参加者、見物客が集まる機会は、警備業をアピールするチャンスにもなったのでは?>>

徳島県民は約400年の歴史を持つ阿波おどりに特別な思い入れがあります。伝統行事を成功させる一翼を担う警備員という仕事を多くの人に見てもらうことができました。警備員の仕事は「過酷な環境で働くキツいもの」というイメージを持つ人が多いですが、実はさまざまな業務があり、現場業務から管制業務や管理部門へと道が続くことを若い人たちに知っていただきたい。そのためには積極的に広報活動を行い、負のイメージを払拭する努力が必要ではないでしょうか。

東京2020では“メイドインジャパン”の警備業務が海外メディアから高く評価されました。警備業はホテルマンやテーマパークのキャストと同じサービス業であり、制服などの外観や接遇の所作によってお客さまが受ける印象は大きく変わります。各社ではビジネスマナーを含めた警備員教育をより充実させて提供する「業務の質」を磨き、イメージアップを図ることが大切です。

<<全国各地の警備業協会では青年部会の創設が広がっています>>

若いみなぎる力は業界を盛り上げる原動力になり得ると思います。当協会では2020年10月に青年部会が立ち上がり、コロナ禍でしばらく活動できませんでしたが、今年6月に意見交換会を開催して今後の活動について部会員で話し合ったところです。

統計(国勢調査)によると徳島県は、課長職以上に就く女性管理職の割合が20%を超えて全国1位の“女性活躍県”です。その背景には「おんなは元気で明るく働き者」と古くから認知されている風土があります。警備業に関わる女性もさらなる活躍に向けた取り組みが求められています。

<<警備業の仕事に興味を持ち、それを「一生の仕事」として選んでもらうためには手厚い処遇が必要です>>

警備員の処遇の中で最も重要なものは「賃金」です。ロシアのウクライナ侵攻で物価は急騰し、最低賃金が上昇した中で、経営者は原資を得て経営基盤の強化に一層努めなければなりません。全国警備業協会が改定を重ねている「警備業における適正取引推進等に向けた自主行動計画」を参考に発注者の理解を得て、労務単価に必要経費や一般管理費を加えた適正料金を確保することが重要です。

<<松岡会長は、地元徳島県の出身です>>

私は大学卒業後、綜合警備保障に入社し、徳島支社で機械警備の法人向け営業業務に従事しました。それから東京都の本社をはじめ全国各県の支社、グループ会社を巡り、主に管理側の立場から地域の警備業に広く携わってきました。昨年6月に徳島県に戻り、ALSOK徳島に入社して代表取締役に就任しました。気が付けば、警備業に携わって37年になります。

当協会は県や県警本部とさまざまな協定を締結しています。鳥インフルエンザ等発生時の適切な対応を目的とした「家畜伝染病発生時における交通誘導警備業務に関する協定」、県民の暮らしを守る「子供・地域の見守り活動に関する協定」などです。懸念される南海トラフ大地震に備え、県警と結んでいた「災害時における交通誘導や安全確保業務に関する細目協定書」の内容見直しも行いました。こうした地域に根ざした取り組みは、今後も引き続き推進していきたいと思っています。

人手不足をはじめ業界に課題は尽きませんが「生涯の仕事として警備員を選んでよかった」と誇りを持てる仕事になるよう、会員各社の協力のもと協会活動に邁進してまいります。

警備業ヒューマン・インタビュー
――新会長③ 東京警協2022.08.01

村井豪さん(ALSOK 代表取締役 グループCEO兼CTO)

五輪遺産「価値創造」共有へ

<<東京警協の12代会長、ALSOKではCEO(最高経営責任者)とCTO(最高技術責任者)を任されました。はた目には、重い責任を双肩に担ったように思われます。感慨はいかがですか>>

いずれも重責であることは間違いありません。東警協は6月の理事会で新会員を承認し、加盟社は大台を超えて1002社になりました。ALSOKの社員は連結グループで4万3000人を超える会社になりました。それぞれ歴史のある組織です。びっくりするようなことをやるのではなく、積み上げてきたものをしっかり継続しながら発展していく道筋を示したい。皆さんの信任を得られるように頑張りたいという思いです。

<<「東京2020」から、ちょうど1年です。警備JVでは幹事長を務められました>>

いろいろなことがありました。なにしろ、553社が「オールジャパン」「ワンチーム」で過去最大の警備を展開したのです。国際オリンピック委員会(IOC)にJV方式を提案したときのことです。「そんなにたくさんの会社を集めて統制はとれるのか?警備の品質を保てるのか?」と散々でした。私らは「日本はものを決めるまでは慎重だ。しかし形が見えてきてやるとなったらやる。約束は守る。他の国とは違う」とIOCの責任者にはっきりと言いましたよ。

警備の人数一つでも50人だ、それを100人にしてくれ、やっぱり30人でいいみたいな。そんな話が何度も発生しました。そんな困難を乗り越え、踏みとどまって、やりきる力がこの業界にはあるということを確認できたことが大変なレガシー(遺産)なのじゃないか。警備業界は「約束を守れる業界」を示した。日本だからできたのではないかと自負しています。

<<JV警備のポリシーは「想像と準備」でした」>>

何が起こるか分からないことを想像し、警備計画を練るということです。いろいろなトラブルが起こったので、その都度警備の仕様を練り直すことになりました。担当者は追い込まれることもあり、それを担っていただいた人たちは変更を強いられたのです。東警協の主要会社には、運営サイドにも回っていただきました。いくつかの仕掛けが機能したからこそやりきれたと考えます。途中でJVから離脱するとペナルティーを課すルールも作りました。1回参加を決めた会社には約束を守ってもらいたいという思いからです。

一方で、仕事が減ることがあれば、キャンセルフィーを払います、という仕組みも作りました。参加するに値するしっかりした体制です。そういう仕事の進め方を東警協会員の皆さんも体験できた。協会には衣川淳一専務理事をはじめ有能なスタッフが揃っています。これは今後の仕事に生かされると思います。

思い起こすと、スタジアム設計のやり直し、ロゴの変更、そしてコロナ、組織委の会長さんも途中で代わられました。想像できるトラブルは全部来た感じです。起こらなかったのは地震、台風とかの「天災」だけだったのではないでしょうか。

<<好結果をもたらしたカギは、どのあたりにあると?>>

2つあります。1つはトラブルを回避できたこと、もう1つは先端技術を使用したということです。象徴的だったことをお話しします。大会期間中、クリーンにしなくてはいけないエリアで23件の侵入被害を防ぎました。ペリメーターフェンスにセンサーを張り巡らし、カメラと連動して侵入者があれば、センサーが反応しカメラがその方向に向き、警備員の所持するデバイスに映像が送られる仕組みです。侵入者に「あなた、何をしているのですか?」と身柄を抑えることが出来たのです。

警備員はそういうものを使ってテクノロジーを体感できました。顔認証の使い方も彼らは習熟したのです。業界の向かう方向をイメージできたと思います。使った人と使わなかった人では差が出ますよ。

<<警備員の高度な技術は警備料金の適正価格につながります>>

新しい価値の提供なしに自分たち側だけの主張をすることは難しいことだと思っています。警備会社は頼りになると認められ、マーケットはそれに見合う対価を払ってくれるのです。適正な金額を払っていただくには、その前提となる丁寧な説明が必要です。ここは警備会社に頼まなければダメなんだ、となることに価値がある。先端技術をきちんと使って、どんなにしんどくても逃げ出さない。そういうことになってくると周りの人が認めてくれるのです。警備業界は世の中に貢献している、給料も悪くないじゃないか、ということになれば若者の目も警備業に向いてくるのではないでしょうか。

「東京2020」は警備業の新しい半世紀への転換点でした。体験を生かす50年にしていかなければならない。チャレンジする業界であることを念頭に置いて、皆さんと取り組みたいのは「価値の創造」です。これが共有できれば、業界は日々成長するでしょう。そこを疎かにしてしまうと単なる要求団体になってしまうのです。

<<代表取締役社長でCOOに就任された栢木伊久二さんとは、どんなタッグを組みますか。退任された代表取締会長でCEOだった村井温さん、代表取締役社長でCOOだった青山幸恭さんのリーダーシップはどうでしたか>>

栢木さんとは緊密に連絡しあって二人三脚でやっていくことが大事だと思います。ざっくり言いますと、グループ全体は私が制度、仕掛けを考え、ALSOK本体は栢木さんがしっかりやっていくことになるでしょう。

村井前会長は当社を「規律と秩序」ある会社に仕上げてくれた人です。20年くらい前はかなり“やんちゃな会社”でした。自由で、型にはまらない会社で、世間も寛容でした。現在は世の中も規律を求めるようになって、コンプライアンスが重要視されるようになりました。時代の流れに合わせるように、大きな会社に変わっていく「成長痛」みたいなものではないでしょうか。そんな中で規律と秩序をもたらせた人です。

青山前社長は、仕掛けができつつあるときに、それをうまく活用して具体的に推進する、いい時期に来ていただいた。官僚時代に培ったネットワークをもって、それを生かすフットワークを存分に発揮された。高速回転で仕組みを活用する人の陣頭指揮は当社に幸運だったと思います。

私がこの会社にお世話になった20数年前に比べ、仕組みが整ってきています。それを丁寧に育んでいきたい。まだ根付いていないものにはしっかり根を張らせ、成長過程にある木には養分と水分を与え、多少の風にはびくともしない大きな木にしたいと考えているのです。