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警備業ヒューマン・インタビュー
――地区連青年部会2023.05.21

佐藤平八郎さん(ジェイエスケイ 代表取締役社長)

活動共有し「横展開」に

<<地区連単位として全国初となる関東地区連の青年部会会議が6月22日、茨城県で開かれます>>

4月の地区連総会では、地区連青年部会の活動を支えるための予算計上が承認されました。これを受けて予算について具体的に協議していきます。今後は関東地区10県が足並みをそろえた活動することも想定され、部会活動の予算化は心強いことです。

3月に東京で関東地区の部会長と顔を合わせ、「関東地区連の青年部会として何をするか?」が話題になりました。まずは6月の会議にアイデアを持ち寄ることにしています。

<<茨城警協は2010年5月、全国でトップを切って青年部会組織「青友会」を立ち上げました>>

業界で長く続く“値下げ競争”により、互いに疲弊すれば警備業の発展が見込めないと危機感を抱いた島村宏会長が「若い経営者の柔軟な発想で、現状を打破できないか」と、30〜40代の協会会員に声を掛けました。これが青年部会設立のきっかけです。31歳だった私も発起人の一人として携わり、部会長を拝命して今に至ります。

<<地区連青年部会が目指すところはどこですか>>

10県の青年部会は設立時期に関わらず、それぞれ活動について頭を悩ませているかもしれません。地区連青年部会を通じ、各警協の活動情報を共有すれば「横展開」できます。同じ広報活動を一斉に広域展開すれば、警備業のイメージアップやPR効果が高まると期待しています。こうした発信力や展開力が地区連青年部会には求められていると考えています。

<<青年部会の視点から、警備業界にはどんな課題があると思いますか>>

警備業の課題は何といっても人手不足をどう解決するかです。残念ながら警備業の「社会的ステータス」はまだ低いです。警備業の社会的な地位や魅力が向上すれば人手不足も解消すると考えています。そのような視点で警備業者が行う業務を見つめ直すと、新事業のアイデアが生まれるのではないでしょうか。

<<青友会はこれまでにどんな成果を上げてきたのでしょう>>

部会員が本音で意見交換する場を定期的に設けたところ「交通遺児を支えよう」との提案があり、街頭募金を実施しました。部会員の多くは交通誘導警備に携わっており、交通事故の被害者の苦しみや、子を残して犠牲になった親の無念も「自分ごと」として理解できたから寄り添えたのです。

あいにく募金活動は2度実施したきりでした。それは、私を含め部会員が警協本体の活動を担う立場となり、当初ほど手が回らなくなったというのが実情です。しかし、各地の青年部会から刺激を受け、昨年ごろから再び活気を取り戻しています。

<<大学在学中に起業したと聞いています>>

私は自主防犯設備の設置や販売を行う会社を創業し、警協に入会した年に雑踏・交通誘導警備をスタートさせました。現在は機械警備も手掛けるようになり、営業の拠点は水戸のほか県内2か所、県外では福島県のいわき市と郡山市、埼玉県羽生市に展開しています。当時は全国的に侵入盗被害が問題になっていました。「日本の安全を守る」という思いを込めて「ジャパン・セキュリティ・キーパー」の頭文字を社名にしました。

<<業界ではDXの推進が求められ、AIの導入も進んでいます。エッセンシャルワーカーとして魅力ある警備業の地歩を確かなものとするには、人とAIの共存策が求められます>>

国土交通省は交通誘導での人手不足の解消策としてAIの導入を推し進めています。確かにAIは短期的には人手不足の解消には有効です。それを突き詰めていくと「信号機やAIに任せれば人を雇って教育する必要がない」という発想につながりかねません。

10年以上前から警察は駐車違反の取り締まりを、民間の有資格者に委託しています。警察の人手不足が解消され、交通違反や事故が減るという社会的メリットにつながった好事例といえます。こんな風に公的な業務を警備業者が担うことで、警備業の社会的ステータスの向上や職域拡大につながるのではないかということも考え方の一つとして持っています。

警備業に限らずAIの導入は人との共存が課題です。時代に適合した業務や業法の改善や改革と並行してAIの採用を進めていくことが望まれます。各地の青年部会と知恵を出し合い、業界の未来を真剣に考え、柔軟な発想で提案していきたいと考えています。

警備業ヒューマン・インタビュー
――離職防止2023.05.01

小林多喜さん(日章警備保障 代表取締役社長)

ストレス測定、迅速対応

<<スマートウオッチを活用し警備員のストレス値を測定しています>>

日章警備保障は首都圏で施設警備を展開しています。慢性化した人手不足の中で、コストを掛けて採用・教育した警備員の早期離職を防ぐことは重要課題です。対策の一環として昨年春から、スマートウオッチを活用して業務ストレスの計測を始めました。

手首に付けて心拍数や血中酸素濃度などをセンサーが捉えることで、ストレスを数値化(最大100%)します。

現在、新人を中心に警備員25人ほどが装着し勤務しています。管理者は、パソコン画面に表示された折れ線グラフを見て、業務タイムスケジュール「定時巡回」「警備室で出入管理」などと照らし“どの業務を行っている時、心身に負荷が掛かったか”を把握できます。

ストレス値が急上昇すればアラートが発せられ、内勤の担当者が現場に出向いて対面、あるいは電話やメールで迅速にヒアリングを行います。これは求人サイトなどを運営する企業・ミライユ、ITベンチャー企業のScoville(スコヴィル)との提携により実現したもので、人手不足に悩む介護業界で活用されていると知り、1年ほど前から試行を続けています。

<<どんな効果がありますか>>

1年前と比べ、離職率は10%ほど下がりました。警備員が“辞めたい”と言った時は遅く、その前に問題点を見つけ改善を図り、離職の芽を摘むのです。

ある高層マンションの常駐警備では、毎日夕方になると警備員のストレス値が急上昇する傾向がありました。料理宅配サービスの配達員が続々と訪れて対応に追われ、配達を急ぐ相手とトラブルも起きていたのです。警備現場ごとのストレスの傾向を把握すると、その現場に固有の問題点が浮き彫りになり、業務改善の明確な指針となり得ます。

また、経験者と新人では、例えば同じルートの巡回で経験者はストレス値が低く、新人は高い場合があります。新人に対し「この巡回は、経験を積むとストレスを感じることなく行えるようになるはずです」と数値を示して説明すると安心につながるようです。

新人からは「スマートウオッチを付けると、自分が会社から大切にされていると感じて、業務への意欲が高まります」と嬉しい感想がありました。

<<警備員を大切にする取り組みの原点にあるものは何でしょう>>

私は34年前、まだ規模が小さかった当社に警備員として入社し、さまざまな現場を経験しました。

老朽化して労働災害の危険がある階段、その修繕や警備員の仮眠室の整備などは、警備会社がユーザーに申し入れて理解を得ることで実現します。個人の努力では対処できない問題に、会社が親身になって取り組むことの重みは、身をもって知っています。

入社3年ほどで営業や管制業務を担当し、将来は会社の舵取りに携わりたいと目標を持ちました。入社22年目で社長に就任し、処遇改善とともに、より長く気持ちよく働くことのできる環境づくりを心掛けてきました。

5年ほど前から、警備員の悩みなどを聞き取って対応する専任の社員を置いています。上司やユーザー関係者など人間関係をめぐる悩みは打ち明けにくいものですが、根気よく耳を傾けると「実は…」と話してくれるようです。

どんな職場にも苦労は付き物ですが“個人まかせ”にせず、組織として改善を図ることは企業の責務だと考えます。

<<東京都警備業協会では業務適正化委員会(佐々木誠委員長)の副委員長として協会活動に取り組まれています>>

交通事故や熱中症の撲滅をめざす活動を重ねてきました。根底にある思いは「警備員の地位向上」です。警備現場で、ないがしろにされ危険にさらされることがあってはなりません。各社が安全衛生の意識を一層高めて、事故防止対策を推進することは業界の発展に欠かせないと思います。

同じ現場で勤務する複数の警備員のストレス曲線を分析すると、個々人の適性を知る一助となり、また、別々の現場でのストレス曲線を比較することにより業務の難易度を数値化し、警備料金の適正化に役立たせることもできます。スマートウオッチの活用を広げ、ストレス値測定の「検査母数」を増やせば測定精度の向上につながります。

今後は、勤務の状況や健康状態をリアルタイムで確認するシステムが可能になると見込まれます。警備員が今まで以上に安心して業務に取り組むことのできるサポート体制を整えていきます。