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警備業ヒューマン・インタビュー
――全警協表彰警備員⑤2022.01.21

森敏也さん(百五ビジネスサービス営業部 部長代理)

「国際ロマンス詐欺」防ぐ

「百五ビジネスサービス」の森敏也さんは2020年12月21日、三重県内にある百五銀行のATMから米国在住をかたる女性に現金を振り込もうとしている50歳代の男性を説得。特殊詐欺を未然に防いだ。

<<貴重品運搬警備業務でATMへの現金補充をしていたときに、たまたま利用客の話し声が聞こえ、「これはおかしい」と感じたそうですね>>

私は百五ビジネスサービスで、三重県津市に本店を置く地方銀行「百五銀行」の集配金業務やATM(現金自動預け払い機)の現金補充・回収作業などを行っています。

その日は伊賀市内にある城北出張所で、ATMの現金補充作業を行っていました。業務中にすぐ近くで男性が慌てた様子で「SNSで知り合った米国に住む女性に、ATMから40万円を振り込みたい」と銀行員に相談する声を耳にしたのです。

私は前職が百五銀行の銀行員で、30年余勤めた経験から、男性の話に違和感を覚えました。ATMから海外への送金はできませんし、振込先の相手の名前もあいまいだったため「特殊詐欺の可能性がある」と直感しました。すぐに行員に警察へ通報してもらい、駆け付けた警察官と一緒に現金を振り込まないよう説得したところ、男性は納得した様子でその場から立ち去りました。

ところがその出張所の作業を終えて約1時間後、次の業務先である上野支店に到着すると、先ほど説得した男性が、またATMを操作しているではありませんか。男性は実は納得しておらず、理解したふりをして別の支店のATMから現金を振り込もうとしていたのです。

私は再び、男性に振り込まないように説得し、行員には先ほど別の出張所であった出来事を説明して、警察への通報をお願いしました。到着した警察官と共に不審な点などを具体的に伝えて根気強く説得を重ね、ようやく男性に理解してもらうことができました。

<<海外在住をかたり、恋愛感情を抱かせた相手から大金をだましとる卑劣な手口は「国際ロマンス詐欺」と呼ばれています。コロナ禍により行動が制限された2年間で、被害が急増したと聞いています>>

全国的に被害が多発し、特殊詐欺が社会問題となっていることは認識していましたが、実際に被害の現場に居合わせたのは初めてです。まさか都市部ではなく地方の街で国際ロマンス詐欺の現場に遭遇するとは思いませんでした。人生経験の豊かな中高年の方が詐欺犯の巧妙な誘いに乗ってしまうことの怖さや、思い込みに支配されている人を説得することの難しさなどを、今回の事案を通じて身を持って知らされました。

特殊詐欺の手口は年々巧妙になっているようですが、もしだまされていたとしてもATMからの振り込み時に周囲の誰かが気が付けば“水際”で防ぐことができます。特に高齢者が携帯電話をかけながら操作している状況を見掛けたときには注意を払うよう、銀行員時代から学んできました。 

<<被害者の振り込みに2度の「待った」をかけ、詐欺被害を未然防止できました。全警協のほかに三重警協、三重県警伊賀警察署、百五銀行、百五ビジネスサービスから、合計5回の表彰を受けたそうですね>>

私はただ、目の前にいらっしゃるお客さまを詐欺被害から救いたかっただけだったのですが、各方面から身に余る評価をいただいて恐縮しています。表彰は一般紙にも記事掲載されたことから、多くの同僚に「よくやった」と声を掛けていただきました。

妻は以前、私と同じ百五銀行の行員でしたので、状況がよく理解できたようです。社会人として独立している息子と娘も表彰を喜んでくれました。

<<今回の事案をきっかけに、感じたことは何でしょう>>

「事案を機に今後こうしたい」というよりも、これまでと同様にお客さまが困っていると感じたらこちらから声掛けして、問題を吸収していきたいです。

私は銀行員と警備員を経験していますが、どちらの仕事も百五銀行に関わる「サービス業」と捉えています。業務内容は違っても「お客さまあっての銀行」という思いは、これからも持ち続けていきます。

警備業ヒューマン・インタビュー
――全警協表彰警備員④2022.01.01

髙橋正幸さん(スワット)

現金輸送の経験が活きた

スワットの髙橋正幸さんは2020年9月2日、警備を担当していた千葉県市川市の大型商業施設「ショップス市川」で立哨警戒中、万引き犯を取り押さえた。その後通報で駆け付けた警察官に犯人の身柄を引き渡した。

<<男性2人が駐輪場で口論している現場に遭遇したことが始まりだったそうですね>>

最初は買い物客同士のもめごとだと思いましたが、しばらく見ていると万引き犯と店舗内で万引き行為を取り締まる私服警備員だということが分かりました。犯人が私服警備員を振り切って逃走したため、2人で30メートルほど追いかけ身柄を確保したのです。

まず私服警備員が犯人を捕まえたのですが、犯人は私服警備員の左手親指にかみつき抵抗しました。私が代わって犯人の上半身を押さえ制圧します。犯人は話し方から東南アジア系の外国人だと分かりました。

犯人を追いかける途中、買い物客の若い男性が逃走する犯人を阻止しようとします。お客さまにけがをさせるわけにはいきませんから「絶対に逃がすものか」との思いで犯人を取り押さえました。

<<強い意志が犯人逮捕につながりましたが、身柄確保の決め手となったのは何でしょうか>>

当時、私はスワットに入社して1年半でしたが、それ以前は他社で約20年現金輸送警備に携わり年2回の現任教育も受けていました。今回の犯人逮捕にも、現金輸送警備を担当していた時に受けた盗難防止のための技能教育が役立ったと思います。

<<犯人制圧の過程で危険は感じなかったのですか>>

犯人は50歳くらいで体格がよく、72歳の私からみると制圧は難しいと思いましたが、警備員としての使命感もありました。刃物などの凶器を出す恐れもありましたが、最初に犯人が私服警備員ともみ合っている時は何も出さなかったので「凶器は持っていないだろう」と判断しました。逮捕後の取り調べで中国人と判明しました。

警察官に犯人を引き渡した後、私服警備員が「力がありますね」と驚いていました。現金輸送警備に携わっていた時は重量物を運搬することも多く、力を使うことに慣れていたのかもしれません。

<<勇気ある行動が評価され、数回にわたって多方面から表彰されました>>

会社や千葉県警備業協会、「警備の日」全国大会など計4回表彰されました。会社で表彰された時は会長・社長以下が勢ぞろいしていましたので、非常に緊張したことを覚えています。黒川利夫会長からは「けががなかったのは何よりだった。さすが髙橋さんだ」との言葉がありました。金一封もいただいています。

<<ご家族からは?>>

妻からは「非常に名誉なこと。けががなくてよかったし、よくがんばった。でも無理しないでね」とねぎらわれ、「せっかくだから背広を新調したら」と言われました。背広は十年以上購入していませんでしたが、今回新調したものを着用して「警備の日」全国大会の表彰式に臨みました。一人娘も「おめでとう」と言ってくれ喜んでいると思います。

<<警備業との出会いはどのようなものだったのでしょう>>

私は北海道出身で、20歳の時に東京で袋物繊維製品製造・販売会社を営んでいた姉夫婦を手伝うため、上京しました。その後社長だった義兄が亡くなり30代半ばで経営を引き継いだのです。厳しい経営環境でしたが、後継者だった甥が成長したので50歳で道を譲り警備員として働き始めました。

友人の紹介で現金輸送警備の仕事に就き70歳まで勤めます。経営の重圧からは解放されましたが、新たに警備業務に対する責任感が生まれました。上司や仲間に恵まれたことは幸いだったと思います。スワットで施設警備を始めてからは、以前はなかった買い物客との触れ合いがあり、自分なりにやりがいを持って仕事をしています。

<<警備員人生も20年を超えましたが自身の評価はいかがですか>>

最近、警備員が自分に向いていると感じることが多くなっています。思いがけず始めた仕事ですが、人との出会いなど多くを得ることができました。これからは、新たに警備員を始める後輩に自分の経験を伝えていきたいと思います。妻からは「大変だったらいつでも辞めていいよ」と言われていますが、体の続く限り続けていくつもりです。