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警備業ヒューマン・インタビュー
――大阪・関西万博2020.11.21
池田博之さん(東洋テック 代表取締役社長)
活性化、再び元気に
《コロナ禍の6月、社長に就任されました》
私は金融機関の仕事を長く務めてきましたが、38年前の入行時に上司から「君の仕事は命の次に大事なお金を扱う仕事だ。きちんと取り組みなさい」と教えられました。今は「命の次」どころか「命そのもの」を預かる警備業に携わっており、それを社員に言い聞かせています。
《来夏に東京五輪・パラリンピックが予定されていますが、大阪では2025年に「大阪・関西万博」が控えています。地元の警備会社としてどう取り組みますか》
万博はwithコロナ、afterコロナの状況下で、バーチャルリアリティーなどデジタル技術によって来場しなくてもあたかも現地にいるような臨場体験が可能になるといわれています。しかしどんなに技術が発展しても、会場で実際に人が顔を合わせることで生まれる充実感があるはずです。
コロナ時代があったからこそ、万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」は、一層重要な意味を持つのではないでしょうか。関西経済同友会の松本正義会長(住友電気工業取締役会長)は「1970年の大阪万博の時、関西2府4県のGDPは日本の20パーセントを占めていたが、今は15パーセントにダウンしている。関西を活性化した地域に戻さなくてはいけない」と述べました。私もそう思います。万博を機に関西が再び元気になるため、安全・安心に開催できるよう貢献したいと考えています。
《イベントにはソフトできめ細やかな対応ができる女性警備員の存在が欠かせません。積極的に採用・増員しているそうですね》
施設警備では、女性用のトイレや更衣室の巡回は女性警備員が行う方がお客さまにとって安心です。警備品質の向上を目的に開催している社内競技大会「S1(スキルナンバーワン)グランプリ」にも多くの女性警備員が参加し、入場チェックの技術などを競っています。当社は女性が働きやすい職場環境が重要と考えて整備し「大阪市女性活躍リーディングカンパニー」の認証を受けています。
《業務の効率化や、RPA(ロボットによる業務の自動化)にも、取り組んでいます》
東大阪に大規模な集中回金センターを新設し、8月に竣工しました。これまで分散していた現金配送業務をセンター1か所に集中し、効率化を図ることが狙いです。センター内には11月からAIを搭載した巡回ロボットを導入する予定です。これは人手を減らし効率化を図るとともに、お客さまにRPAの取り組みを見ていただく目的もあります。
当社は今後、メーカー各社と連携をとりながら先進機器を活用して効率化・合理化を進め、各待機所で管理できる件数を1件でも増やしていきます。現在の機械警備やホームセキュリティは、センサーが異常を検知して警備員が駆け付けますが、強風などが原因の誤報や緊急性の低いアラートもあります。そこでセンサーを監視カメラに切り替え、監視センターから現場の状況を確認し、不必要な出動を減らす取り組みも始めます。
一方で、最終的な判断はやはり「人の経験と知識」が必要です。私は社長に就任後、機械警備を担当する警備員に同行して現場の業務を視察し、プロフェッショナルな仕事ぶりに感銘を受けました。お客さまとの最後の接点“ラストワンマイル”に駆け付ける警備員は、当社の財産であると確信したところです。警備員一人ひとりの力を最大限に生かすことが経営者の責務と感じています。
《警備業界は今年、コロナ禍の影響を大きく受けました》
当社はこれまで、機械警備と施設警備、金融機関に向けて貴重品運搬警備、ATM管理などの業務を提供してきました。ここ数年はさらに仕事の幅を広げ、ビルメンテナンス業務などにも取り組み、おかげさまで今年の3月決算までは9期連続増収、4期連続増益を達成できました。
しかし今、業界全体と同様、コロナ禍の影響を受けています。具体的には店舗やオフィスが閉鎖・集約化して施設警備・機械警備の受注が減り、キャッシュレス化によるATM管理業務の減少も重なっています。
とはいえ、人の安全・安心に対する要望がなくなることはありませんから、新規にお客さまを広げる余地はあると思っています。今後は関西地区、さらに西日本にまでエリアを拡大していくつもりです。
警備業ヒューマン・インタビュー
――eラーニング2020.11.11
安富恭正さん(シンコー警備保障 課長代理)
画面越しに〝熱意〟伝える
《コロナ禍で警備員教育にeラーニングが採用されました。取り組みは早かったですね》
コロナの影響で、4月初旬から一堂に会しての教育ができなくなり、教育担当者で集まって対応を話し合いました。その結果、昨年8月の警備業法施行規則の一部改正で法定教育に認められたeラーニングを活用して、このピンチに立ち向かうことになったのです。法定の新任教育では5月から講義の授業をeラーニングで行っています。現任教育でも8月に試行的に採用しました。
できるだけ早く教育を再開する必要があったため、私はオンライン会議システム「Zoom」(ズーム)を使って講師による講義を各拠点で視聴してもらう方法を採り入れてみてはどうだろうかと提案しました。当時は企業が在宅勤務を始めたころで、オンライン会議システムを利用した業務の様子がマスコミで取り上げられているのを見て、教育にも使えるのではないかと考えていたからです。
《「Zoom」を使った教育はどのように行うのでしょうか》
ビデオカメラに向かって私を含めた講師が講義を行い、それを各拠点にいる受講生が視聴します。システム的には一度に何人でも受講することができるのですが、eラーニングを採用するための必要条件として一人ひとりの受講状況を確認しなければならないため、一度の講義は30人を上限にしています。
オンライン講義だからといって教える内容を従来のものから変えることはありませんが、パソコンを使用するため、動画やスライド資料をこれまで以上に利用しやすくなりました。
《オンライン講義で重視するのはどのような点でしょうか》
本当に講師が目の前に立って講義をしているような、画面から熱意が伝わる講義を目指しています。開始から5か月が経ち、講師陣はオンライン向きの発声方法や間の取り方などを身に付けました。それでも教育担当者たちは現状に満足せず、今以上に臨場感がある講義の進め方や、もっと良い機材はないのかなど貪欲に効果的な方法を追及しています。
《撮影機材で苦労したと聞きました》
初めは会社にあった放送用のビデオカメラを使っていたのですが、各拠点から音が聞き取りにくいと指摘がありました。そのため高性能なカメラを買おうと家電量販店を訪れたところ、どの店舗でも売り切れていました。多くの企業が同時期にテレワークを導入しため、深刻な供給不足になっていたのです。
何とかカメラを入手しても、音の問題だけでなく映像が止まってしまうなどのトラブルが相次ぎました。高価で高性能なカメラならば順調にいくという訳ではなく、パソコンやモニターとの相性が良くなかったようです。製品をいくつか購入して試した結果、ようやく円滑な講義を可能にするシステムが構築できました。
《以前も別の業務でインターネットライブ配信を担当していたそうですね》
2017年の春から夏にかけて、毎週木曜日の夕方にインターネットライブ配信サービスの「ツイキャス」を使って、当社の業務内容の紹介や社内行事の説明などを私自身が発信していました。会社を広くアピールして人材確保につなげたいとの狙いや、警備業の面白さを多くの人に知ってもらいたいと考えたからです。
私は大学在学中に当社でアルバイトを始めて、そのまま社員になりました。25年ほど警備業に携わっていますが、これほど奥が深く、人の命や身体を直接的に守ることができる仕事は少ないと実感しています。それにも関わらず警備業の社会的地位は決して高いとは言えず、常に人手不足が続いています。警備業以外の人には知る機会がない詳しい業務内容や仕事のやりがいを紹介して、警備業の面白さを伝えようと試みました。
この経験があったためカメラに向かっての話し方や、マイクとの距離といったオンライン講義で役立つ技術を身に付けることができました。
オンライン講義でも警備業の面白さを伝えたいですね。どのようにすれば、私が実感しているやりがいを感じてもらうことができるのか――。その答えを探しています。
警備業ヒューマン・インタビュー
――警察官魂2020.11.01
原田光生さん(ワールド警備保障 取締役会長)
「オカン泣かせぬ」社会貢献
《「関西万引対策連合会」の大阪府代表を務めています》
私は大阪府警備業協会の専務理事在職中、当時協会会長だった若林清氏から「保安警備を行っている会社を集めて保安警備部会のようなものを作れないか」との相談を受けていました。そこで退任後は会長が経営する警備会社で保安警備に携わり、協会の外に保安警備部会的な団体を作って万引き対策の連携を図ることを目指しました。それは警察官の務めを果たした私にとって、人生最後の“ご奉公”になるとの思いからです。
入社して間もなく、当社の女性保安警備員が書店で万引きをして逃走する男を追いかけ手提げ袋をつかんだところ引きずられ、アゴを縫うケガを負いました。男は逮捕されましたが、私は保安警備が危険でリスクを伴う業務であることを痛感させられました。
《ゼロから団体を立ち上げることには苦労があったのでは》
当時、関西で万引き問題に正面から取り組み対策を講じている組織はありませんでした。私はまず保安警備会社、次に大阪府警・京都府警・兵庫県警、そして被害に遭う店舗などユーザーを訪ねて協力を要請しました。連合会会長には元大阪警協会長で日本警備通信会長の松田敦嗣氏にお願いし、全国組織「全国万引犯罪防止機構」の協力も得て2018年4月、「関西万引対策連合会」、通称“関西万防会”の設立にこぎつけました。
《連合会のキャッチコピー「万引アカンで! オカン泣くで!」は、分かりやすくピンときて秀逸です》
連合会の山内浩司事務局長が考えてくれたものです。この言葉が書かれたのぼり旗を掲げて大阪市阪急梅田駅前や京都市四条河原町、神戸市三ノ宮商店街など人通りの多い場所で地元警察署・防犯協会・商店街などの協力を得て街頭キャンペーンを行い、万引き防止を訴えました。拡声器を持って広報する私の前を顔見知りの警察OBが通りかかり、「原田さん、何してまんねん」と笑いながら通り過ぎことがありました。私自身「70歳過ぎて本当に何してまんねん」と思うこともありますが、すべて「社会のお役に立ちたい」という信念でやっているだけです。今後も地道に活動を続けていきます。
松田会長と大阪市内で万引きが多く発生している警察署の署長や地域課長に万引き犯罪の現状を訴え、対策強化と交番などでの取り扱い時の適正な措置をお願いして回り、設立1周年には初の定期総会を開きました。
《今年6月には大阪府防犯設備協会の専務理事に就任しました》
これも奉職40年で培われた“警察官魂”からくる「社会貢献がしたい」という気持ちからです。刑法犯認知件数は2002年をピークにその後減少しました。それは官民一体となった防犯活動の成果ですが、民間企業によるセキュリティー機器の発達も貢献しました。特に監視カメラの技術革新は目覚ましく、被疑者の逃走経路を追うなど犯罪捜査と抑止に欠かせないものになっています。
《万引き対策にも監視カメラや防犯ゲートが効果的です》
今やAI搭載カメラが不審な挙動を検知して、店員に通報する時代となりました。しかし声掛けで万引きを未然に防いだり、犯行が行われたとの判断を下すのは「人」なのです。先進技術の発達は日進月歩ですが、人の力が必要でなくなることはないでしょう。
「人」といえば、大阪警協専務理事在職中に強く感じたことがあります。寝屋川市内で夜間、交通誘導警備員が工事現場で車にはねられ亡くなりました。協会役員らとお通夜・葬式に参列しましたが、ささやかな家族葬でした。
警察学校で同じクラスだった40人のうち2人が殉職していますが、葬式のあと公葬があって多くの人が参列し偉業を称えました。毎年11月には警察学校にある慰霊碑の前に遺族と大阪府警の幹部が列席し慰霊祭を行っており、それは自衛隊・消防も同様と聞いています。
一方、警備業はどうでしょう。交通事故、転倒、熱中症、水害などの労働災害で毎年20〜30人の警備員が命を落としており、記録が残る1985年からの死亡者は600人以上にのぼります。
警備業も全国のどこかに「警備員労災事故者慰霊碑」を建立し、毎年慰霊祭を行っていただくことをお願いしたいのです。それは業界全体の責務であり警備業を社会に認知してもらうためにも、また警備業の仕事への誇りを持ってもらうためにも必要だと思います。
《そうした思いや経験をつづった「大阪雑感」の2冊目を上梓されました》
大阪警協の機関誌「ザ・ガード」に連載させていただいた拙文をまとめたものを協会を退職するときに自費出版で発行させていただきました。警備業は警察と同じく生命・身体・財産を守る生活安全産業であり、警備員の皆さんに何かひとつでも参考になればと願い、書き始めたものです。少し自叙伝的になったのですがその続編が完成し、一冊目と同様、お世話になった方々に感謝の気持ちを込めてお配りしています。