警備保障タイムズ下層イメージ画像

トップインタビュー

警備業ヒューマン・インタビュー
――有害鳥獣対策2021.06.21

戸田卓さん(ALSOK 営業総括部 課長代理)

1日4頭イノシシ捕獲

<<野生動物による農作物被害が深刻です>>

農林水産省によりますと、2019年度の農作物被害は年間約158億円にのぼります。被害の約6割はイノシシとシカによるものです。

農作物以外にもシカによる森林の樹皮摂食被害、車・電車と野生動物の衝突事故、アライグマやハクビシンなどの外来種による家屋への糞尿被害、カラスやハトなど鳥による糞被害など、被害額の合計は計り知れません。被害が拡大した背景として、鳥獣の生息域の拡大、狩猟者の減少と高齢化、耕作放棄地の増加などが挙げられています。

<<鳥獣被害対策は、地域の安全安心を守るエッセンシャルワーカーである警備業の範疇にあります>>

ALSOKは「地域の安全・安心を守る」という意味では警備と同じと考えています。7年前、日々行っている機械警備業務の特性を活かし、わなの監視装置を販売することで「狩猟者の方々のお力になれないか」と検討したことがきっかけでした。現在は、鳥獣対策の各種機器の販売、香川県内を中心とした鳥獣の捕獲業務、問題解決に向けたコンサルティングの3業務を実施しています。

<<捕獲業務で印象的だった経験を聞かせてください>>

私は3年前、初めて茨城県山中の現場に出て業務を行ったことを今も鮮明に覚えています。

仕掛けた「箱わな」にイノシシが掛かっており、私自身が対応しました。その際に近くの民家の方から「ありがとうございました」と感謝の言葉をかけてもらったことが思い出されます。

その日の業務はこれで終了の予定でしたが、連絡を受け2件目の現場に向かったところ、箱わなには50キログラム近い大きい雄イノシシが捕獲されておりました。その処理を終えるとまた連絡を受け、現場に向かうと今度は30キログラム級のイノシシ2頭が捕獲されており、結局一日に4頭ものイノシシに対応することになりました。

<<販売機器には、どのようなものがありますか>>

一昨年から販売している「鳥獣わな監視装置Ⅱ」は、設置したわなが作動すると画像を撮影し、あらかじめ設定した人にメールで通知するものです。最大30基のわなを管理できます。毎日見回りをする労力を低減することができ、処理にあたる準備も可能になります。

ほかに有害獣の調査などに活用できる「センサー付き自動撮影カメラ」があります。捕獲時に使用する「箱わな」は、組み立て式のものから丈夫で長持ちするものまで揃えています。野生動物を侵入させない「侵入防止柵」は周囲に合わせた配色で景観を損なわない製品です。蓄光材を使ったイノシシ避け「イノ用心」など安価な忌避器具のご紹介も行っています。

鳥対策としては、災害直前に鳥が感じて逃げる音波を発生させ、寄り付かなくする商品も販売しています。

<<各地のグループ会社でも鳥獣対策業務を行っています>>

環境省は2014年の鳥獣法改正で「認定鳥獣捕獲等事業者」制度を導入しました。安全で効果的に捕獲を行う事業者を都道府県知事が認定する制度で、新たな捕獲事業の担い手を育成・確保することが目的です。

当社と神奈川、千葉、宮城、福島、秋田、群馬のALSOKグループ6社が認定を受けています。今後は福岡、北海道、茨城のグループ会社も認定取得を予定しており、広い地域で鳥獣捕獲業務を推進していきます。

<<ALSOK千葉は昨年、自治体と連携して捕獲したイノシシを食肉へ加工する『ジビエ工房茂原』を開設、販売業務を開始しました>>

『ジビエ工房茂原』では徹底した衛生管理の中、剥皮、解体から食肉加工、検査、真空パック化、冷凍保管、商品発送までワンストップで行います。

ジビエとは狩猟で得た野生動物の肉のことで、欧州では古くから冬の高級料理として愛されてきました。日本でもイノシシ肉は「ぼたん」、シカ肉は「もみじ」として、焼いたり鍋にして親しまれ、近年はヘルシーな健康食・美容食としても関心を集めています。

<<今後はどのように業務に取り組んでいきますか>>

国が掲げる「個体数削減」と「ジビエ利活用」を推進するためにも、鳥獣対策業務は当社だけではなく、地域の皆さまや機器メーカー、自治体など関係者との連携が不可欠で、一丸となって取り組むための仕組み作りが重要です。その中で当社とグループ各社は捕獲事業者を全国に拡大させていき、捕獲から食肉加工まで、新たなイノベーション(技術革新)を取り入れた事業展開を目指します。

警備業ヒューマン・インタビュー
――最年少会長2021.06.11

炭谷勝さん(トップセキュリティ 代表取締役)

「社会貢献」を活動の柱に

<<現職「最年少」での会長就任です>>

最年少とはいえ私も45歳です。言われるほど若いとは思えませんので、最年少ではなく「主力」と言われるよう頑張ります。この業界には2代目世代をはじめ次代を担うべき若手が大勢います。彼(彼女)らがもっと前に出てこられる環境をつくるにはどうすればいいか、考えたいと思います。

亡くなった父が建設の仕事をしていたこともあり、まだ給料が良かった当時の警備業を身近に感じ憧れてもいました。学校を卒業して1年間、交通誘導警備のアルバイトをし、わずかな原資でプレハブ事務所を構え、自ら現場にも立つ形で会社を創業しました。

私を会長に推薦してくれた理事の方も話していましたが、大宮支部長時代に行った「社会貢献活動」が一定の評価を得たのだと思います。せっかくいただいた機会ですから、社会貢献を協会活動の柱の一つにしたい気持ちが現時点ではあります。

<<取り組んだ社会貢献はどのようなものですか>>

埼玉県警をはじめ大宮署や鉄道警察隊と連携した「防犯キャンペーン」「痴漢防止キャンペーン」「振り込め詐欺の未然防止活動」「さいたま市との子供安全協定の締結」などです。活動には会員企業から「人」を出してもらわなければなりませんから、最初は数人しか参加してくれなかったのが実態です。それでも取り組みを続けていると、活動の理念に共感してくれる会員の経営者がどんどん増え、会社同士のつながりが生まれるなど、我ながら「やってよかったな」と思える活動でした。

会社側にも取り組むメリットがあると思います。駅前でキャンペーン用のティッシュやチラシを配るのですが、警備服姿で行ったので道を歩く人々の目には「警備員が社会に貢献している」と映ったはずです。

もちろん、誰かに褒められることが目的ではなく、大宮で生まれ育った身として「地元に貢献したい」――まさにその一心で始めました。結果として、県警本部長から警察業務協力功労感謝状をいただいたり、全国防犯協会連合会から防犯功労銅賞を受けたりしましたが、実際に取り組んだ警備員たちが受賞したのだと思っています。

<<子供を笑顔にする活動も行ったと聞いています>>

県立小児医療センターに入院している子供たちに「本」をプレゼントしました。学校に行けず、つまらない日々を過ごしている子供たちの笑顔を取り戻したいと思って始めた活動ですが、会員企業からの評価も高く、こういった取り組みを埼玉全域に広げられないかとも思っています。

ただ、大宮支部の会員数は県内最多ですので、全く同じ取り組みを他の支部に促せるかどうかは今後、検討していきます。

<<人手不足と警備料金の値上げという喫緊の課題にはどう取り組みますか>>

いずれも根本的な原因は適正取引がなされていないことです。人手不足の最大の理由は「低賃金」で、低賃金にならざるを得ないのは警備の受注料金が安いからです。2つの課題はまさにつながっています。

警備業の主要な取引先の一つは建設業ですが、建設業の団体の方に「業界外」の枠で協会理事になってもらうことがこれまでにもありました。しかし、個々の企業に値上げを促してもらうのにも限界があり、たとえば建設業協会と警備業協会で料金の課題を話し合う「場」が持てれば、今より展望が開けるかもしれません。

<<警備業は100人未満の中小企業が9割で課題も多いようです>>

「仕事を奪い合うばかりで淘汰が必要」という厳しい声があるのは承知しています。しかし、警備員にも家族をはじめ守るべき人がいます。業界全体を考える「マクロ」の話と個々の警備員の生活も含めた「ミクロ」の話は、ともに「良い方向」にもっていかなければならない大事な課題です。

いずれにせよ、協会の会員企業を増やし、業界が一つになって話し合ってこそ前に進めると思います。そのためにも、協会としては加盟メリットを真剣に考えなければなりません。なかなか妙案が思い浮かびませんが、しっかり検討したいと思います。日時の制約を受けない自前の教育センターを持つ当協会は全国でも稀ですが、ほかにもメリットが感じられるようにしたいと思います。

警備業ヒューマン・インタビュー
――安全優良職長2021.06.01

古瀬孝幸さん(トヨタエンタプライズ東京警備部 部長)

「昨日と同じ現場はない」

2020年度の「安全優良職長厚生労働大臣顕彰」に警備業から2人が選ばれた。古瀬孝幸さんは、機械警備、施設警備に携わって34年、労災事故防止の取り組みが評価された。もう1人は、竹村ゆかりさん(北海道、テックサプライ警備課長)。

<<安全優良職長は、どのような基準で顕彰されますか>>

事業場での労働災害を防ぐためには、部下の安全意識をより高める指導教育が大切です。顕彰を受ける目安は、職長の実務経験が10年以上であり、担当部署で休業4日以上となる労災事故が5年以上発生していないことなどがあります。

これまでに私は、機械警備の機器設置工事、自動車工場などの施設警備に従事し、現在は複数の施設で10警備隊の隊員115人を統括しています。幸いなことに、携わってきた現場で大きな労災は1件も起こることなく34年が過ぎました。

しかし業務中、雨に濡れた高所の階段で転倒しかけるなどの“ヒヤリ・ハット”は何度も経験しました。転倒災害は、労災事故で最多を占め、一つ間違えば骨折や重傷、命にかかわり深刻な後遺症が残る場合もあります。日ごろから“安全な職場づくり”の取り組みが欠かせないと思っています。

<<安全な職場をつくるポイントは何でしょう>>

「安全が最優先」との認識を職場全体で共有することです。そのために、警備隊ごとにKY(危険予知)訓練を重ねています。さまざまな状況を想定し、起こりうる危険、受傷を防ぐ行動などについて、警備隊の全員が積極的に意見を言い合うのです。

新人で引っ込み思案な隊員にも意見を言ってもらいます。回数を重ねる中で“職場の安全は、皆で一丸となってつくるものだ”と理解するようになり発言も増えます。3年もたつと、見違えるようにしっかりと意見を言い、新人を指導しています。隊員が警備業務のスキルアップとともに“危険予知の感覚”を磨きながら成長していくのは頼もしく感じます。

<<その感覚を磨くためには、どのようなことが必要ですか>>

「昨日と同じ現場はない」と常に意識することです。これは、20歳で警備業に入って以来、先輩方から受けてきた指導やアドバイス、自分の経験から身にしみて感じる言葉です。

現場の安全、危険は常に変わるものです。人生には似たような日があっても全く同じ日はないように、同じ施設であっても訪れる人々の行動、物の置かれ方などで変化が生まれます。

警備員が巡回する際に、慣れや油断、過信から安全でない行動をとることは厳禁です。例えば巡回中に角を曲がる時は、出会い頭の衝突を避けるため最短距離を歩かず大きく曲がるなど、一つひとつの基本行動を怠らない心構え、絶えず周囲を観察する姿勢が、感覚を鋭敏にさせるのです。

<<機械警備、施設警備で事故予防に取り組んできました>>

18年前、前職で機械警備の業務管理を行っていた私は、自動車関連施設の案件を担当しました。顧客関係者と意気投合する中で、新たな可能性にトライしたいと思い立ち、転職して当社で施設警備に取り組むようになったのです。

機械警備では、警報を受信し警備員が駆け付ける場合、それぞれの建物の特徴や構造に応じ適切に行動することが求められます。

一方、常駐して警備を行う場合は、施設の特徴を把握し、巡回ルートに潜む危険を見つけ「ヒヤリマップ」を作成して隊員に周知するなどの地道な取り組みが欠かせません。

隊員が事故予防に関心を高めて安全についての情報を話し合い、職場のコミュニケーションが深まることは、安全確保に加えて良好な人間関係づくり、風通しの良い職場環境にも通じるものです。

<<顕彰を受けて、ご家族からどのような言葉がありましたか>>

妻と3人の子供(大学生、高校生、中学生)にはこれまで、業務に関係する話はしていませんでした。今回は話してみたところ「お父さん、すごい仕事をしているんだね」と言われました。

数年来、業界は慢性的な警備員不足が続いていますが、警備業がどのような職場か、認知度をより高めていくことは大切と考えます。労災事故防止など職場環境の改善に積極的に取り組む業界であるとの情報が広まることで、警備員を志望する人が増えてほしいと思います。