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警備業ヒューマン・インタビュー
――全警協表彰警備員③2021.01.21

新谷宗久さん(阪奈警備保障)

救命ロープ投げ水難防ぐ

新谷宗久さんは2019年8月13日、奈良県吉野町を流れる一級河川・吉野川(紀の川の上流)で水難事故防止の監視業務中、溺れる男性を発見し救命用ロープを投げ入れて救助した。

<<警察署長、消防署長から感謝状を贈られ、全警協会長からは模範警備員表彰を受けました。おめでとうございます>>

ありがとうございます。私は日ごろ、建設現場などで交通誘導警備業務を行っていますが、7月中旬から9月上旬にかけては、奈良県の土木事務所から委託された吉野川の安全対策事業に携わり、5人編成の警備隊で隊長を務めています。今回の表彰は、私一人の働きよりも、警備隊の全員で10年にわたって水難防止に取り組んできた結果だと思います。

監視するエリアは景勝地で、バーベキューや川遊びをする人々でにぎわいます。川幅は約15メートル、両岸には高さ10メートルほどの巨岩がそびえ、過去にインターネットで“飛び込みの人気スポット”として広まりました。水の深さは平均4、5メートル、流れは穏やかに見えても速く、岩にぶつかって渦を巻いています。

遊びで飛び込み溺れる死亡事故が相次いだことから、2号の雑踏警備業務として警備員が配置されるようになったのです。

<<表彰の対象となった人命救助はどのように行いましたか>>

その日の吉野川は少しずつ増水し、流れが速くなっていました。午後3時過ぎ、岩場から飛び込んだ女性が流され、すぐに自力で上がったのですが肩を脱臼した様子で動けません。隊員が通報して消防署員が到着し、女性は担架に乗せられました。

そうした出来事の直後、高さ4メートルほどの岩場に立って監視する私は、浮き沈みしながら流されてくる男性(30代)を発見しました。いつも足元に丸めて置いてある先端に浮き輪が付いた救命用ロープを持ち上げ、狙いを付けて投げ込み「ロープをつかんで下さい!」と何度も叫びました。発見して投げるまでは3、4秒です。

男性は流され岩陰に入って見えなくなりましたが、ロープに重い手応えがありました。「手を離すな、しっかりつかんで!」と励ましながら、岩石が散在する足元の悪い場所で転倒しないよう懸命に両足を踏ん張りました。

女性の救護を終えたばかりの消防署員、同僚の隊員がすぐに駆け付け、ともにロープを引っ張り、男性を水から助け上げることができました。怪我はなく意識もはっきりしていて、禁止の飛び込みをしたことで消防署員から厳重注意を受けたようです。

<<これまでに大勢の人を救助しました>>

私と同僚の隊員が救命用ロープや浮き輪を投げ入れるなどして助けた人は、この10年で100人以上にのぼります。

私たちは拡声器を使って「飛び込みは禁止です」と呼び掛け、高い岩場によじ登る若者には「危険です、やめなさい」と注意します。しかし仲間とはしゃいで聞き入れない人がいるのです。

飛び込んで流されていく人に、ロープを投げます。長さは10メートル余りで、移動するたびに持ち運びます。うまく投げるコツは、溺れる人の上流側をめがけて、ロープが体に絡みつくように狙うことです。相手がつかむと、隊員が協力して引っ張り上げます。負傷して歩けなくなった場合などは消防に通報します。

私たちは毎朝、配置に付く前に川の水位や流れの状態を把握しながら、溺れる人を想定してロープを投げ込む練習を欠かしません。胸骨圧迫、AEDなどの訓練も重ねています。

<<救命活動で重要なポイントはどんなことですか>>

自分の身を守ることです。ロープを引っ張る際は、自分も川に落ちる危険がつきものです。配置に着く前の朝礼では、隊員に「いざという時は自分を守ることが優先する」と強調します。救助に取り組む時、私たちは皆「助けなければ」という一心で全力を尽くし、身の危険を忘れてしまう恐れがあるのです。

今回の表彰を受けて、妻からは「人を守る仕事の大切さと大変さをあらためて感じました」と言われました。

安全安心を守る警備業は、奥の深い仕事だと実感しています。今後も同僚と力を合わせて夏の河川の安全を守り続けます。