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警備業ヒューマン・インタビュー
――全警協表彰警備員⑤2025.03.21

古谷康一郎さん(セコム)

暗がり消火、訓練活きた

セコムの古谷康一郎さん(26)は2024年4月12日深夜、JR町田駅(東京都町田市)に隣接する商業ビル1階で起きた火災を消火し、被害拡大を防いだ。火元は閉店後のスーパー店内にある惣菜調理場のごみ箱。余熱を含む「天ぷらかす」から発火していた。延焼すれば鉄道運行にも支障を来した恐れがあった。

<<迅速な消火活動により大規模火災を未然に防ぎました>>

入社以来、町田支社でビートエンジニア(緊急対処員)として勤務している私にとって、火災対処は初めての事案でした。第一報は、ちょうど別の現場での駆け付け対応を終え、ひと息ついていた時に入りました。神奈川本部コントロールセンターから「火災異常信号」を発したビルに向かうよう、最も近い私が指示を受けたのです。

4分後にビルに到着し、自動火災報知設備を確認すると、1階にあるスーパーの箇所が異常を示していました。

店に向かいながら「火災原因の8割は油火災」という、直近の現任教育で学んだばかりの情報が頭をよぎりました。

閉店後の店で火災を検知したということは、直感的に火元は調理場の可能性が高いと考えました。このスーパーでは店内で調理した総菜を販売していることも知っていました。

売り場は真っ暗でしたが、調理場のドアのすりガラスからオレンジ色の光が見えました。扉を開けると、揚げ物調理設備の下に置かれていたごみ箱から私の腰の高さほどの炎が上がっていたのです。

炎を見た瞬間、心臓はバクバク、頭は真っ白になりかけましたが、これなら消火器で消せると判断し、コントロールセンター経由で119番通報しつつ、備え付けの消火器で火を消し始めました。

<<床から腰の高さの炎を消火器で簡単に消せるものなのでしょうか。恐怖はなかったですか>>

1本目の消火器を使い切っても火が消えなかったので、自力で消せるか確信が持てなくなる瞬間もありましたが、ひるまず冷静に2本目の消火器で消し止めました。火に向かいながら、入社1年目の研修で繰り返し行った消火訓練を思い返しました。水が入った訓練用の消火器を構えながら、大声で「火事です、逃げてください」と叫びながら対象物に放水するという行為を反復する訓練です。訓練で身に付いた消火器の操作や構えが、現場で活きました。

<<現場は駅に隣接するビルで、金曜午後11時前の発生でした。消防署は、迅速な対応と機転の利いた行動で大惨事を未然防止できたと評価しています>>

私は町田に隣接する神奈川県相模原市の自宅から支社までの通勤にJRを利用しており、町田駅周辺は私の生活圏です。金曜の夜で、駅周辺も終電近くまで賑わっていましたので、初期消火が間に合わなかったことを想像するとゾッとします。スーパーの店長からは翌日も休業せずに営業することができたと感謝の言葉をいただきました。地元の「安全・安心」に貢献することができたのだと実感しました。両親からも「町田を守ったね」と祝福されました。

<<警備会社に就職するきっかけは何だったのでしょう>>

私は大学の経済学部に進学しましたが、就職活動を通じ社会のためになる意義ある仕事をしたいと考え、警備会社に応募しました。幼い頃から見てきた長嶋茂雄さんの「セコムしてますか?」というテレビCMのインパクトが強く、迷わずセコムを受けました。

<<CMといえば、“夢の対決”のテレビ放映が3月15日に始まりました>>

私もいつか経済学部で学んだマーケティングをCMの企画に活かしたいと考えていたところ、大谷翔平さんと長嶋さんの対決というかつてないインパクトのCMが登場しました。CMを通してセコムを知ってもらい、若い世帯の契約やビートエンジニアを志す学生を増やせたらと考えています。

<<警備業界では警備員の離職や若い年代の比率が低いといった課題があります。これまで辞めようと思ったことはなかったですか>>

全くないと言えばうそになりますが、私の職場では、周りとの支え合いがあり、前向きに働くことができます。上司からのアドバイスや仲間からの励ましに加え、対処した契約先からいただく「セコムに入っていて良かった」「来てくれてありがとう」といった言葉が仕事へのモチベーションになっています。私自身の生活圏である町田の「安全・安心」を守る仕事にやりがいを感じています。

<<仕事がオフの時のリフレッシュ法は何ですか>>

1年ほど前から実家でハムスターを飼育しています。よく懐いてくれていて、愛らしいしぐさに、私も両親も癒されています。

警備業ヒューマン・インタビュー
――全警協表彰警備員④2025.03.11

川口紀生さん(セコム)

“見て見ぬふり”しない

セコムの川口紀生さん(59)は2024年1月22日午後3時半ごろ、社有車で岡山市内を走行中、歩道で男性と女性がつかみ合う光景を目撃した。仲裁に入って女性の安全を確保し110番通報。暴れる男を制止し、駆け付けた警察官に引き渡した。その後、男は窃盗容疑で逮捕された。

<<運転中のとっさの判断が、逮捕貢献につながりました>>

私はセコムに勤務して41年を数えます。機械警備のビートエンジニア(緊急対処員)を長年務め、2年半ほど前から岡山西支社の「お客さま担当」を務めています。

ご契約先を定期的に訪問して話をうかがい、顧客満足度の向上を図る業務です。「家族みたいに心配してくれますね」などの言葉をいただくと励みになります。

その日もお客さま訪問のため車で走行中でした。前方の車道に接する遊歩道で、男女がつかみ合って争う光景が目に入ったのです。男性は60歳くらい、女性は中年で、「これは男女間のDV(ドメスティック・バイオレンス)かもしれない。今すぐ仲裁に入らないと傷害事件などに発展する恐れがある」と判断し、行動しました。

車を安全な場所に停め、事情を聞こうと近づくと、女性が「助けて下さい、この人は下着泥棒です」と叫んだのです。男は、女性の手を振りほどこうと暴れています。

<<どのように対処しましたか>>

女性の身の安全を第一に考え、暴れる男を制して引き離し、携帯電話で110番通報しました。この時点では、女性が嘘をついている可能性も頭をよぎり、冷静に見極めようと注意を払いました。

男は逆上し、私の携帯電話を奪おうとしました。通行人を巻き込む格闘は避けねばなりません。

「私は警備会社の者です」と名乗った上で「暴れても無駄だ。まもなく警察官が来るからおとなしくしている方が良い」と言い聞かせたところ、抵抗をやめました。

万一、刃物などを所持している可能性も考え、近くのベンチに腰掛けるように促しました。いったん座れば、何をするにも立ち上がる動作が必要になり、その一動作の間に私は身構えて対処することができます。男が逃走しないよう警戒するとともに、プライバシーに配慮して通行人にスマホで動画や写真を撮らせないことも心掛けました。

5分ほどで警察官が到着したので事情を説明し、身柄を引き渡しました。後で分かったことですが、女性は帰宅した時、盗んだ物を抱えてベランダから逃げる男に出くわし、勇敢にも追いかけ、取り押さえようともみ合っていたところに私が割って入ったのでした。

<<異変を見逃しませんでした>>

歩道で起きた事案に気づくことができたのはセコム独自の運転方法「セキュリティドライビング」の結果だと思います。これは、飛び出しや自転車の転倒など、さまざまな危険を予測し備えるもので「防衛運転」とも呼ばれます。社内で研修を受け、運転中の絶え間ない安全確認を徹底してきました。

“見て見ぬふり”をせず仲裁に入ったのは、長年にわたり肝に銘じてきたセコムの基本的理念「誠実・責任・機敏・奉仕」の実践であり当たり前の行動でしたが、地域社会の安全・安心に貢献できたことをうれしく思います。

<<岡山南警察署長から感謝状を贈られました>>

ビートエンジニアを務めていた当時、お客さまのもとに駆け付けて不法侵入などの容疑者逮捕に協力した経験は複数あります。相手が激しく抵抗した場合や、施設の関係者を装って言い逃れようとしたケースなど、さまざまな事態に直面してきました。

警察から感謝状をいただくのは5回目となり、入社以来受けてきた手厚い教育訓練の賜物だと実感しています。今回、セコム中国本部長表彰を受け、さらに全国警備業協会会長表彰をいただくことができて感無量です。

<<ご家族からはどのような言葉がありましたか>>

妻から「あなたはすぐに飛び込んで行きますね。危険なことはしないでほしいですが、とても良い行いをしたと思います」と言われました。

世間一般では警備員の仕事に対し、危険が伴うイメージがあるようですが、基本行動の積み重ね、点検や確認の徹底、起こり得る危険を予測し装備品を活用することでリスクは軽減できるものです。

<<オフの日の過ごし方は>>

私は家事が好きで、休日に掃除をして料理を作ると良いリフレッシュになります。手の込んだ料理はできませんが、だし巻き玉子をよく作って妻から喜ばれます。

日常の小さな幸せは安全・安心と隣合わせにあるものと感じます。今後も業務を通じ、より多くのお客さまに確かな安全・安心を提供してまいります。

警備業ヒューマン・インタビュー
――全警協表彰警備員③2025.03.01

磯政志さん(北関東綜合警備保障)

花火大会で「痴漢」確保

北関東綜合警備保障の磯政志さんは2023年8月5日午後7時45分頃、栃木県足利市内で開催された花火大会の雑踏警備業務に従事していたところ、観覧客の女性から痴漢被害の申告を受けた。加害者の特徴を聞き付近を探したところ、似た男を発見。行動を注視していると、別の女性への痴漢行為を確認し、身柄を確保。警備本部へ連行して警察官に引き渡した。功労に対し、足利警察署長から感謝状を贈呈された。

<<花火大会の群衆にまぎれた、卑劣な行為です>>

私はその日「足利花火大会」の会場である渡良瀬川河川敷で雑踏警備業務に従事していました。打ち上げ場所に近い堤防の上から会場を広く見渡し、事件事故を防ぐ警戒活動を続けていたのです。

花火の打ち上げが後半に入ったころ、20歳ぐらいの浴衣姿の女性2人が私の方に近づいてきて開口一番、「お尻を触られました」と申告を受けました。私は警備本部に無線で報告したあと、女性に「犯人はどこにいますか」と訊ねると、「近くにまだいると思います」とのこと。

男の特徴を聞くと「口ひげをはやし、細マッチョ(痩せた筋肉質)で黒いTシャツを着ていました」と教えてもらいました。私は辺りを見回し、その特徴によく似た40歳ぐらいの男を見付けました。

「あの男ですか?」と女性に訊くと「そうです」との返答。さらに注視していると、花火を観覧している他の女性にも近づき、身体を触る様子を確認しました。

直ちに警備本部に無線で応援を求めましたが、丁度花火の打ち上げがクライマックスに入り、各隊員とも配置場所を離れるわけにいかない状況でした。時間が経つと逃走する可能性があったため、私は男の背後から近づき肩から手をまわして確保しました。特に抵抗する様子はなかったです。

確保した旨を無線報告してから、男の肩に手を回したまま100メートルほど先にある警備本部まで歩いて向かいました。被害者の女性2人にも一緒に来てもらいました。

警備本部から出てきた警察官に、女性2人が被害者であること、続けて別の女性も被害に遭ったことなどを伝え、男を引き渡しました。

<<男は犯行を認めたのでしょうか>>

いえ、警備本部では否認を続けたそうです。数日後、足利警察署に呼ばれて事情聴取があり、改めて詳しく状況を説明しました。また数日して検察庁からも連絡を受けて調書の作成に協力しました。時間が経ってから、ようやく犯行を認めたようです。

同月中に足利警察署長から感謝状を授与され、「人が多い中、よくやってくれました」と労いの言葉をいただきました。

<<こうした事案に対処したのは初めてでしょうか>>

警備会社に入社してからは初めてです。入社前、私は栃木県警察に勤務していましたので、警察官時代には同様の事案を何度か経験しています。

警備員と警察官の業務範囲を分けて対処することも必要ですが、目の前に困っている人がいて救いを求めている場合、「自分にできることは何か」と考え行動することが大切と感じました。

警備業務に従事している際に突発的な事案が発生すると、つい慌ててしまいがちです。しかしそこで沈着冷静に、迅速・適正な対処をすることが重要です。

<<北関東綜警で現在、どのような業務をされていますか>>

足利花火大会のような大規模イベント警備の際には、現場で雑踏警備業務を行いますが、通常は警備員の指導や教育に携わることが多いです。入社前の事前教育や業務別教育、現場警備員の視察などを行っています。

39年間の警察人生では、捜査一課での刑事をはじめ、さまざまな業務に就きました。当時の経験を、少しでも警備業で活かしたいと思っています。

<<同僚や家族から、何か話しはありましたか>>

同僚からは「よく捕まえましたね」とか「痴漢の被疑者を確保した事案は初めてです」などの声をいただきました。

妻は、警察署長から感謝状、全警協から模範警備員表彰と大きな表彰に驚き、喜んでくれました。

<<磯さんの趣味は何でしょう>>

仕事のあとに職場近くのジムで行う週5回のウエートトレーニングです。私は高校時代は空手部に在籍し、警察では柔道を経験しました。筋トレはその頃から始め、もう40年以上になります。

妻と行く買い物やドライブは、リラックスできるひと時です。