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警備業ヒューマン・インタビュー
――全警協表彰警備員③2025.03.01
磯政志さん(北関東綜合警備保障)
花火大会で「痴漢」確保
北関東綜合警備保障の磯政志さんは2023年8月5日午後7時45分頃、栃木県足利市内で開催された花火大会の雑踏警備業務に従事していたところ、観覧客の女性から痴漢被害の申告を受けた。加害者の特徴を聞き付近を探したところ、似た男を発見。行動を注視していると、別の女性への痴漢行為を確認し、身柄を確保。警備本部へ連行して警察官に引き渡した。功労に対し、足利警察署長から感謝状を贈呈された。
<<花火大会の群衆にまぎれた、卑劣な行為です>>
私はその日「足利花火大会」の会場である渡良瀬川河川敷で雑踏警備業務に従事していました。打ち上げ場所に近い堤防の上から会場を広く見渡し、事件事故を防ぐ警戒活動を続けていたのです。
花火の打ち上げが後半に入ったころ、20歳ぐらいの浴衣姿の女性2人が私の方に近づいてきて開口一番、「お尻を触られました」と申告を受けました。私は警備本部に無線で報告したあと、女性に「犯人はどこにいますか」と訊ねると、「近くにまだいると思います」とのこと。
男の特徴を聞くと「口ひげをはやし、細マッチョ(痩せた筋肉質)で黒いTシャツを着ていました」と教えてもらいました。私は辺りを見回し、その特徴によく似た40歳ぐらいの男を見付けました。
「あの男ですか?」と女性に訊くと「そうです」との返答。さらに注視していると、花火を観覧している他の女性にも近づき、身体を触る様子を確認しました。
直ちに警備本部に無線で応援を求めましたが、丁度花火の打ち上げがクライマックスに入り、各隊員とも配置場所を離れるわけにいかない状況でした。時間が経つと逃走する可能性があったため、私は男の背後から近づき肩から手をまわして確保しました。特に抵抗する様子はなかったです。
確保した旨を無線報告してから、男の肩に手を回したまま100メートルほど先にある警備本部まで歩いて向かいました。被害者の女性2人にも一緒に来てもらいました。
警備本部から出てきた警察官に、女性2人が被害者であること、続けて別の女性も被害に遭ったことなどを伝え、男を引き渡しました。
<<男は犯行を認めたのでしょうか>>
いえ、警備本部では否認を続けたそうです。数日後、足利警察署に呼ばれて事情聴取があり、改めて詳しく状況を説明しました。また数日して検察庁からも連絡を受けて調書の作成に協力しました。時間が経ってから、ようやく犯行を認めたようです。
同月中に足利警察署長から感謝状を授与され、「人が多い中、よくやってくれました」と労いの言葉をいただきました。
<<こうした事案に対処したのは初めてでしょうか>>
警備会社に入社してからは初めてです。入社前、私は栃木県警察に勤務していましたので、警察官時代には同様の事案を何度か経験しています。
警備員と警察官の業務範囲を分けて対処することも必要ですが、目の前に困っている人がいて救いを求めている場合、「自分にできることは何か」と考え行動することが大切と感じました。
警備業務に従事している際に突発的な事案が発生すると、つい慌ててしまいがちです。しかしそこで沈着冷静に、迅速・適正な対処をすることが重要です。
<<北関東綜警で現在、どのような業務をされていますか>>
足利花火大会のような大規模イベント警備の際には、現場で雑踏警備業務を行いますが、通常は警備員の指導や教育に携わることが多いです。入社前の事前教育や業務別教育、現場警備員の視察などを行っています。
39年間の警察人生では、捜査一課での刑事をはじめ、さまざまな業務に就きました。当時の経験を、少しでも警備業で活かしたいと思っています。
<<同僚や家族から、何か話しはありましたか>>
同僚からは「よく捕まえましたね」とか「痴漢の被疑者を確保した事案は初めてです」などの声をいただきました。
妻は、警察署長から感謝状、全警協から模範警備員表彰と大きな表彰に驚き、喜んでくれました。
<<磯さんの趣味は何でしょう>>
仕事のあとに職場近くのジムで行う週5回のウエートトレーニングです。私は高校時代は空手部に在籍し、警察では柔道を経験しました。筋トレはその頃から始め、もう40年以上になります。
妻と行く買い物やドライブは、リラックスできるひと時です。