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警備業ヒューマン・インタビュー
――全警協表彰警備員⑨2023.03.21

大坂龍彦さん(エース警備)村田光さん(タスクマスター)

中央道、逆走車止めた

エース警備の大坂龍彦さんとタスクマスターの村田光さんは2022年1月26日午後2時頃、中央自動車道上り線の山梨県大月市付近を業務車両で移動中、前方に逆走してくる軽自動車を発見。自車を直ちにバスストップ内に停めて逆走車に合図を送って停止させ、引き込み線内に誘導した。衝突事故などの発生を未然に防いだ。

<<高速道路を走行中に対向車が近づいてくる。想像しただけでゾッとします>>

大坂 私たちはそのとき、高速道路工事の交通規制区間で交通誘導警備業務を行うため、配置場所に業務車両で移動中でした。私が運転し村田さんは助手席でした。 見通しの良い下りに差し掛かったとき、前方500メートルぐらいの地点に追い越し車線を逆走してくる車両が見えました。私は驚き、目に入った「真木バスストップ」の引き込み線に入り停車しました。

村田 大坂さんは同じ現場で顔は知っていましたが、一緒に業務を行うのは初めてでした。お互い警備業の経験を長く積んでいたことから、今思うと迅速に役割分担して行動できたと思います。

私はまず積載している装備品を確認しました。車から降りると車両に注意しながら本線に出て、点火させた発煙筒を追い越し車線に置き、後方からの車両に危険を知らせました。そして大旗を振って走行車線に後続車両を誘導しました。

大坂 私は後方を警戒しながら追い越し車線に立ち、逆走車に向けて停止するよう手を振って合図を送りました。逆走車は軽自動車で、追い越し車線の中央分離帯近くを時速10〜20キロメートルぐらいでゆっくり走行していました。

軽自動車はなかなか止まってくれず、私は車の横に付いて50メートルほど歩きながら車体をたたき説得を続けました。ようやく停車したので後続車が来ないタイミングを見計らって、バスストップの引き込み線内に誘導しました。

<<交通量がさほど多い状況ではなくてよかったです>>

大坂 軽自動車はどこかで車両と接触したのか運転席側のドアミラーが根元から折れてぶら下がっており、フェンダーから運転席ドアまで擦り傷がありました。運転していたのは80歳代ぐらいの男性で、助手席に毛布をかぶった5〜6歳ぐらいの女の子、後部座席には高齢の女性が乗っていました。

男性に逆走していたことを伝えても理解してもらえず「孫を病院に連れていくところだ。孫の両親がそこで待っており急いでいる」と強く主張します。まずエンジンを止めてもらい、高速道路管制に連絡して警察への通報を依頼しました。

後部座席の女性には間もなく状況を理解してもらえ「あなた、私たち大変なことをしたんだよ」と言っていました。通報から10分ほどで高速道路交通警察隊が到着し引き継ぎました。

<<警察の調べで、逆走した軽自動車は大型トラックと正面衝突しそうになったり、普通車と接触事故を起こしてなお逆走を続けていたことが後に判明したそうです>>

大坂 高齢者の逆走が社会問題になっていることから、NEXCO中日本は対策として「こちらへは進めません」などの標識を設置したり、逆走車を感知したとき警告標示を出して運転者に気付かせる取り組みを進めています。私はそれらの装置を設置する現場で警備業務を行ったことがあり、心構えはできていました。

<<お二人が警備業に就いたきっかけは何でしょうか>>

大坂 私は自営で飲食店を営んでいました。エース警備に6年前に入社したのは、学生時代にアルバイトで警備員の経験があったこと、警備業は飲食店と同じ「サービス業」で、お客さまに対応してきた経験を活かせるからです。

村田 私は以前、ホテルマンをしていました。求人広告にあった就業条件が良かったことからタスクマスターに転職し15年ほど交通誘導警備業務に従事しています。

これまでにインターチェンジを逆走する車両を見掛けたり、高速道路や一般道路での警備業務で事故現場も目撃しました。業務中は常に危険と隣り合わせの環境にいることを意識し想像力と集中力を高めるようにしています。

当社代表取締役の秋山は、KB―eye代表取締役を兼任し交通誘導警備業務のAIシステムの開発を進めています。私は「KB―eye取扱責任者講習会」を受講し、現在は県内の崖崩れ発生箇所の片側交互通行のための交通誘導警備業務でAIシステム「KB―eye for 交通制御」を活用中です。

AIシステムの警備現場への導入がこれから進みますが、作業人数の効率化とともに「警備現場の安全確保」の効果に大きく期待しています。

警備業ヒューマン・インタビュー
――全警協表彰警備員⑧2023.03.11

樋口竣介さん(ALSOK岡山支社)

負傷者止血し交通誘導も

ALSOK岡山支社倉敷支店の樋口竣介さんは2022年3月7日、商業施設からの非常警報を受けて岡山県玉野市内の県道を社用車で走行中、交通事故直後の現場に遭遇。負傷した男性に止血処置を施すとともに、事故現場で交通誘導を行って二次災害を防いだ。

<<警備先へ急行中、事故現場に遭遇しました>>

私は、施設からの非常警報やATMの故障などに緊急対応する機械警備隊員を務めて7年目になります。

その日は前夜から待機所で勤務に就き、午前6時20分過ぎ、非常警報を発する施設に向かって社用車で急いでいる時でした。前方に壊れた原付バイクが転がり、路側帯内に男性が倒れているのが見えたのです。

ガソリンスタンドの空きスペースに駐車させてもらい、男性の様子を確かめに行くと、ヘルメットは割れ、頭部から流れる血で顔が染まっています。衝突した乗用車から降りた中年の男性と女性は動揺していました。

血を流す男性に「大丈夫ですか」と声を掛けると返事はありましたが、自力で立つことはできません。事故車の男女に携帯電話で119番通報するよう促して、私は110番通報しました。続けて当社ガードセンターに状況を報告したところ、対象施設には他の隊員が急行することになり、私は救助活動に専念できたのです。

<<どう対処したのですか>>

負傷部位が頭部であり、倒れているのは路側帯の中なので負傷者を移動せず安静にして救急隊を待とうと判断し、現任教育の救急救命講習で学んだ「直接圧迫止血法」を実践しようと、傷口にハンドタオルを強く押し当てました。

朝の県道は多くの車が通行し、二次災害を防がなければなりません。事故車の男女と圧迫止血を交代して、私は壊れたバイクを路肩に移動し交通誘導に取り組みました。通報から10分ほどで警察官と救急隊が到着して引き継ぎ、病院に搬送された男性は命に別状なかったと後で聞いて安堵しました。

<<今回の経験で感じたことは何でしょう>>

突発的な出来事は、警備先に限らず、いつどこで起きるか分かりません。教育訓練をしっかりと受けていれば平常心で対応できると実感しました。

私が高校生の時に、道で目の前を歩いていたお年寄りが突然、倒れたことがありました。近くの薬局で電話を借りて119番通報をしたのですが、救急車が来るまでの間、何をすれば良いか分からず、ただ焦るばかりでした。

現在の私はALSOK隊員として心肺蘇生法、心臓マッサージやAEDの正しい使用法、止血法などを身に付けています。さまざまな状況に的確に対応できるよう技能をさらに高めたいと思います。

<<昨秋の全国警備業協会創立50周年記念式典では、同じ岡山支社の機械警備隊員・大野提亮さんとともに会長表彰を受けました>>

大野隊員は1年先輩で、警備先に急行する途中に目の前で起きた交通事故の負傷者を救助し、好事例として社内で情報共有しました。その7か月ほど後に自分も同様の事案に直面するとは予想していませんでした。

記念式典の表彰式は緊張しましたが大きな励みとなっています。

妻も表彰を喜び「警備は世の中になくてはならない仕事だから、健康に気を付けて無理をしないで頑張ってほしい」と言っています。

<<就職で警備業を選んだのは、どのような理由ですか>>

私は幼稚園の頃、迷子になって警察官に保護されたことがあり、子供の頃から警察官に憧れて「人の安全を守る職業に就きたい」と思っていました。大学は法学部に進み、就職活動をする中で民間警備会社の業務を知ったのです。社会公共の安全安心を守るとともに暮らしに密着した多様なサービスを展開していることに魅力を感じ、当社に入社しました。

安全安心を守るためには防犯対策や救命活動、消火器操作などの技能向上に加えて、コミュニケーション能力も大切になります。

以前、侵入警報を受けて夜間のオフィスに駆け付けると、そこにいた男性は「身分証は持っていないが、ここの社員です」と名乗りました。お客さまか、侵入者か、両方の可能性を念頭に身元確認を慎重に行いました。話をするうちに警備員の担う役割に理解を深めていただいたようです。「警備員さんのおかげで安心できます。ありがとう」と言葉を掛けられ嬉しく思いました。

常に安心感を持っていただけるよう、はつらつと業務に取り組み、地域社会の安全に貢献していきたいと思っています。

警備業ヒューマン・インタビュー
――全警協表彰警備員⑦2023.03.01

三木健司さん(ALSOK福島富岡支社)

火災発生! 急行、消火

ALSOK福島・富岡支社で機械警備業務を行う三木健司さんは2022年3月19日午前0時22分、福島県楢葉町の大型商業施設からの火災警報を受信した。現場に急行し、惣菜調理室内に上がる炎を消火器で消火。通報を受け駆け付けた消防隊を誘導するなど、消火活動に貢献した。22年5月に双葉町地方広域市町村圏組合消防本部消防長から感謝状を授与された。

<<冷静な判断で初期消火を行い、火災が施設に広がることを防ぎました>>

その夜、私は楢葉町にある機械警備業務の待機所に居ました。契約先の大型商業施設内での火災警報を受信し、直ちに現場に向かいました。

従業員通用口から施設内に入るとすぐに館内に異臭を感じ、天井にはうっすらと煙が立ち込めているのが見えました。事務所にある自動火災報知設備の警報表示盤を確認すると、火災は惣菜調理室で発生していることがわかりました。

惣菜調理室に駆け付け、戸を開けると室内には煙が充満しており、中央付近にあるポリバケツから腰ぐらいの高さに火柱が上がっていました。近くには惣菜包装用の容器や紙類などの可燃物が見えました。

<<もし燃え移れば火の手が広がり、大規模な火災につながります>>

私は基地局に携帯電話で状況を報告し、消防署への通報を要請しました。そして現段階ではまだ初期消火が可能であると判断し、調理室の入口付近に設置してある消火器を使ってポリバケツの炎を消し止めました。

店舗バックヤード搬入口のシャッターを開放して、室内に充満した煙を換気し消防隊からこちらの場所をわかりやすくしました。さらに戸や窓を全て開け放っていると、間もなく消防隊が到着しました。消防隊員の方からは「火災発生後すぐに初期消火をしていただき、被害を最小限に食い止めることができました」と感謝の言葉をかけられました。

後で消防署から聞いたところ、火災の原因はポリバケツに廃棄されていた天ぷらの「揚げカス」が自然発火したためと判明したそうです。

私にとって初めての経験でしたから、今思い返してみると現場に向かうときはかなり緊張していました。消火栓や消火器の操法については、社内教育を受けて知識がありました。機械警備隊の教育時に先輩から初期消火の経験を聞いていたので、それを思い出しながら対応しました。

<<三木さんが警備業に就職したきっかけは?>>

私は高校を卒業してALSOKのグループ会社に入社し、東京電力福島原子力発電所の常駐警備業務を行っていました。1年ほど勤めて原子力発電所の作業員に転職し、原子炉のバルブ(弁)のメンテナンス作業に従事している時に東日本大震災に被災しました。

私は地下で作業を行っていましたが、立っていられないほど大きな揺れで、その後は皆が出口への階段に殺到したため脱出に時間を要しました。そのまま高台にある自宅に帰って家族と合流し、津波の情報を聞いてさらに高台に避難しました。津波は地震発生からわずか30分あまりで楢葉町に到達しました。私と家族が助かったのは、判断が正しかったというより運がよかっただけと思います。

隣町に避難しましたが第一原発が爆発してそこに居られなくなり、知人の方のご厚意で神奈川県川崎市内の住居をお借りすることになりました。しかし日々の生活の中で「いずれは生まれ故郷に戻り、地元のためになる仕事をしたい」と思っていました。そして以前、ALSOKのグループ会社で警備員の仕事をしていたときの先輩からの勧めで、ALSOK福島に入社しました。

<<今回の事案を経験して感じたことは何でしょう>>

今回の事案があった大型商業施設は、町民の帰還促進につなげようと“復興のシンボル”として2018年に建設されたもので、町民にとって生活に欠かせない重要拠点でもあります。何かの縁で今回、地域に貢献できたことはとても嬉しいです。

機械警備業務を始めてまだ1年目で、事案への対処に不十分な点もあったと思います。これから勉強して経験を積み、後輩ができたら私が先輩からそうされたように初期消火の体験を伝え、力になりたいと思います。

私には5歳の息子がいるのですが、小学生になったら今回の事案と警備員の仕事について話そうと思っています。