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警備業ヒューマン・インタビュー
――全警協表彰警備員④2024.02.21

鈴木駿大さん(セコム)

盗撮犯、取り押さえた

セコム千葉統轄支社の鈴木駿大さん(26)は2023年4月6日、千葉駅のホームで女子高校生と男(40代)が言い争っているところを目撃した。女子高校生から事情を聞き、逃げた男を取り押さえ、駆け付けた警察官に引き渡した。男は盗撮をしたとして、千葉県迷惑防止条例違反で逮捕。千葉中央警察署長から鈴木さんに感謝状が贈呈された。

<<電車での通勤途中に盗撮犯の逮捕に協力しました>>

その日は午後4時頃、乗り継ぎで駅のホームに降りました。階段付近で女子高生が男の腕をつかんでいましたが、男が女子高生の手を振り払って電車に入っていきました。女子高生に「どうしたの」と聞いたところ、「盗撮されました」と。私は男を追いかけていって電車からホームに降ろしました。少し抵抗されましたが、加勢してくれた男性がいて、周りの人が警察に通報してくれました。目撃から警察官が駆け付けるまで、15分から20分くらいだったと思います。

<<通勤途中でもあり、見て見ぬふりをすることもできたのではないかと思います>>

体が勝手に動いていました。男の身長は私と同じくらいで、体格は私より大きかったです。でも、ひるむことはありませんでした。

男が逃げていった後、女子高生が悲しそうな顔をして立っていたので、何とかしてあげたいと。悪いことをした人を許さないというより、困っている人を助けたいという思いでした。

今回のようなことに遭遇したのは初めてでした。警察署長から感謝状を受けたことを家族に報告したら、「すごいね」と言ってくれました。

<<小学生のときに野球を始めて、高校では甲子園常連校の八戸学院光星(青森県)の野球部に入りました>>

私がいた時は2年の春、2年の夏、3年の春に甲子園に出場しました。ただ、甲子園でプレーしたこと、ベンチ入りメンバーになったことはありません。親元を離れ、野球をするために行っていたので悔しさはありましたが、それ以上に学べることが多かったです。上下関係や私生活に対して厳しかったので、我慢すること、忍耐を学ぶことができました。

野球はチームプレーのスポーツ。高校では全国から集まった皆と寮生活をしていました。その中で、助け合いというか、誰かのミスを誰かが補うということを教わった気がします。

<<大学卒業後、セコムに入社して、BE(ビートエンジニア=緊急対処員)として働いて4年。業務で特に、記憶に残っていることはありますか>>

入社2年目に不審なグループと出くわしたことがあります。侵入による異常検知ではなく、電圧が異常に低下したことで現地に向かいました。元事務所で当時は備蓄庫として使われていた建物の周囲を確認していたところ、車のヘッドライトが建物の裏の方から見えて、覗いたら3人組がいました。

コントロールセンターとの電話を切ったタイミングで車は走り去っていきましたが、逃走方向と車のナンバーをコントロールセンターに伝え、警察が来ました。後で聞いたところ、銅線の窃盗犯だったとのことです。

仕事で防犯センサーやバッテリーの交換に行った時、「セコムさんに入っているから本当に安心できるよ」と言っていただくと、うれしく思います。

私は、センサーの誤作動による「不必要出動率」を下げることにも取り組んで、いろいろな対策を考えてきました。対策をしてセンサーの誤作動がなくなると、達成感があります。

目標は社内試験に合格して、BEのグレード4(最上級資格)を取得すること。今はグレード3です。そして、チーフBEになることを目指しています。緊急対応や機械のメンテナンス、事務処理の知識・技術の引き出しを増やして、視野を広げて、頼られる存在になりたいと思っています。

<<一人暮らしで猫6匹を飼っているそうですね>>

3年前に友人から「猫が産まれたけど、もらい手がどうしてもいなくて」と相談がありました。家で動物を飼った経験はなかったですが、「もらって育てるよ」と言って、きょうだい3匹を引き取りました。それからペットショップで1匹を買って、別の友人から同じ相談があって2匹を引き取りました。

2LDKに住んでいますが、一部屋は猫だけの部屋にしています。トイレ掃除が大変ですが、仕事が大変な時でも猫の写真をちらっと見ると、頑張ろうと思えます。

これからも勤務中であってもプライベートであっても、困っている人がいたら率先して助けていけたらと思います。

警備業ヒューマン・インタビュー
――全警協表彰警備員③2024.02.11

村上良文さん(セコム)

火災車両の運転者助けた

セコム盛岡北営業所のBE(ビートエンジニア=緊急対処員)・村上良文氏(60)は2022年12月30日、自家用車で帰宅する途中に盛岡市内の交差点で後続車に追突された。直後、後続車に火災が発生、放心状態の運転者を村上氏は迅速に助け出した。

<<追突事故に巻き込まれての人命救助でした>>

私はセコムに40年間勤務して昨年10月に定年退職しました。現在は再雇用により、転勤のない「地域限定社員」として緊急対処などの業務に従事しています。

今回の事案が発生したのは定年を迎える10か月ほど前、一昨年の暮れも押し詰まった日の夜7時前でした。セコム東北本部岩手統轄支社の業務次長を務めていた私は、年内最後の勤務を終え、車を運転して家路につきました。国道4号線の交差点で信号待ちのため先頭で停車していた時、追突されたのです。

全身に衝撃を受け、状況を確認しようと降車したところ、相手の車はSUV(スポーツ用多目的車)で、運転席では中年の男性がうつむいていました。ボンネットから煙が出ていて、私は携帯電話で110番し状況を説明していると、炎が上がってきたのです。

<<一刻を争う状況です>>

運転していた男性は事故のショックなのか放心状態で、私がドアを開けて声を掛けても降りようとしません。ただちに車を出なければ危険であり、男性を抱きかかえて降車し、車から30メートル余り離れた場所へ避難しました。

追突から5分足らずで火柱が上がり、車は炎に包まれていきました。消防車5台が到着して消火活動を展開し、警察官が道路を封鎖しました。燃えた車は大破し、私の車は延焼を免れましたが、事故処理に伴う交通規制は4時間に及んだようです。

<<怪我はありませんでしたか>>

男性とともに避難する一連の行動の間は、全く痛みを意識しませんでした。ぼう然としている男性を警察官に引き継いで一息つくと、首から背中に痛みが広がりました。その後、病院で「頸椎捻挫」の診断を受け、通院治療を3か月ほど続けて快方に向かいました。

<<今回の経験で感じたことは何でしょう>>

ボンネットから火の手が上がった時、落ち着いて救助活動を行うことができたのは、長年の業務経験が役立ったと思っています。

入社以来40年にわたってセコムグループの行動規範「誠実、責任、機敏、奉仕」を常に心掛けてきました。お客さまの所へ駆け付ける緊急対処では、侵入などの容疑者逮捕に協力した経験も複数回あります。

管理職となって社員を育成する中で、制服を着用する職業の責任、誇りと使命感を感じて取り組んできました。

今回、直面した状況のもとで当然の行動をしただけと思っていたのですが、盛岡東警察署長から感謝状をいただき、社長表彰を受けることができました。さらに昨年11月に開かれた「警備の日」全国大会の表彰式では、全国警備業協会・中山泰男会長から表彰状を受け取り、祝福の言葉も掛けていただいて身が引き締まり、感無量でした。

<<ご家族からはどのような言葉がありましたか>>

妻からは「よく救助しましたね、大変だったでしょう」と言われました。セコムに勤務して40年が過ぎ、結婚生活も40年を数えます。本当に早いものですが、一日ごとの積み重ねで今日があると思っています。日頃は照れくさく、なかなか言葉に出してはいないのですが、家族の支えにとても感謝しています。

<<人命救助は地元の新聞、テレビで報じられました>>

契約先のお客さまから「さすが安全のプロですね。これからも安心できます」との電話をいただいて、うれしく思いました。ご近所の方々からも言葉を掛けてもらい恐縮しました。地域社会の皆さまから弊社が“頼りにされている”ことを改めて実感する機会になったのです。

近年、警備業界は人材不足が大きな課題となっていますが、日常の暮らしに寄り添って安全安心を守る職業に対する理解が一層広がって、警備業界に関心を持つ若者が増えてほしいと願っています。

定年を迎えるにあたって会社からは「引き続き管理職として後輩社員の育成に取り組んでもらえないか」と、ありがたい打診を受けました。光栄でしたが、私は“今まで自分を育ててくれた会社に、現場の業務を通して恩返しをしたい”との思いから、盛岡北営業所のBEを務めています。

これからも誇りと使命感を胸に業務に邁進していきます。

警備業ヒューマン・インタビュー
――企業提携2024.02.01

坂本歩さん(セキュリティ代表取締役社長)

雇用を守りグループ拡大へ

<<埼玉県の2号警備主体の警備会社、セキュリティの社長に昨年10月、就任しました。親会社の共栄セキュリティーサービス(KSS)では経営企画室長を務めています>>

セキュリティの前社長は埼玉県警備業協会会長を歴任された方です。同社のM&Aを担当しましたが、その後任という重責に緊張とやりがいを感じています。

新参者の私は今、従業員200人との面談を続けています。警備の現場に足を運んで話すこともあり、新人警備員の頃を思い出します。

「上場企業のグループ会社へと変わったことで、達成しなければならなくなった数字もあるけど、それが皆さんに還元されるから一緒に頑張っていこう」とKSSグループの方針を伝えつつ、要望を聞き取っています。

<<なぜKSSはM&Aに積極的なのですか>>

M&Aは企業の買収ですが、時間を買っている側面もあるからです。もし、従業員を30人雇い警備員を教育し、土地勘のない地を営業開拓し、安定的に収益を出し続けるなら、膨大な時間を必要とします。その労力をM&Aは省いてくれます。

警備会社の価値は「人」です。価格交渉によって警備料金を引き上げ、警備員の賃金に還元する「正のスパイラル」によって警備員の処遇を改善し、企業の価値を高めたいと考えています。

<<KSSはグループの売上高800億円、従業員2万人体制の実現を目標に掲げています>>

KSSは2019年に上場しました。売上高は上場前の50億円から5年で90億円を超え、100億円に迫っています。目標については達成時期を設定していませんが、KSSを創業した我妻文男社長が現役のうちに達成したいという思いが私にはあります。

我々のM&Aは友好的買収です。後継者がいない警備会社を存続させ、取引先のニーズに応え、雇用を守りながら、グループの拡大を目指しています。若手の採用もグループとして取り組んでいきます。

<<セキュリティの業務はM&Aによりどう変化するのでしょう>>

これまでの2号警備が主体であるという点は変わりないですが、KSSグループに加わったことで、1号警備の人材を育成し、ゆくゆくは施設警備にも取り組んでいく方針です。埼玉は企業や工場が多く、東北道、関越道という2本の高速道路のIC付近には物流倉庫も並んでいます。施設警備の市場として有望です。

KSS本社には営業所長など幹部社員を対象とする「Kトップセミナー」という研修体系があります。昨年12月上旬に実施したKトップセミナーにはセキュリティからも数人参加しています。

学んだことを持ち帰ってもらい、社内で浸透させ、セキュリティをグループにおける埼玉の統括会社という位置付けにしていきたいと考えています。埼玉にはこれまでグループ会社がなかったので、提携の意義ははかりしれません。

<<現場からステップアップした社長として警備員からも親近感を持たれているのではないですか>>

高校卒業の時点で大学受験を失敗し、浪人するつもりだったのですが、勉強は正直言って嫌いでした。親の勧めもありアルバイトをすることにしました。偶然、警備員を募集するチラシを見かけて電話で応募したことがこの業界に関わったきっかけです。4月から始めて、5月に交通誘導警備2級の検定に合格したことで、腹が固まりました。18歳ということもあり、お客さまからも隊員からも可愛がってもらい、仕事がきついとは感じませんでした。ここまで続けることができたのは、人間関係が良好だったことが大きいです。

検定合格により、少人数の現場でリーダーを任されました。リーダーシップを発揮することにやりがいを見出し、2年目には社内で管制を担当することもありました。「内勤の仕事は格好いい」という憧れがあり、管制以外に教育、営業も挑戦したいとも思っていました。受験勉強を蹴って警備の道を選びましたが、社会に出ても勉強は続きました。営業では入札に向けた積算、上場の準備作業やM&Aでは、会社法や会計資料、東証の規約の読み解きなど、学びは続きます。

KSSに入社し、これまでトップが発するメッセージの重みや方向性を示してくれたことがいかに重要で、現場の意欲に直結するのかということを肌で感じてきました。経営層と現場の警備員の信頼関係が構築されることで強いチームになっていくと考えています。

セキュリティでも現場の意欲を引き出し、強いチーム作りをしていくつもりです。