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警備業ヒューマン・インタビュー
――全警協表彰警備員⑩2022.03.21

片倉勲さん(コアズ東京事業部)

銀行強盗、組み伏せた

コアズの片倉勲さんは、2021年3月3日、東京・新宿区内の「あおぞら銀行新宿支店」で施設警備中、刃物を持つ強盗に遭遇した。冷静に対処し、同僚の警備員2人の協力を得て犯人の男を私人逮捕(刑法で認められた一般人による現行犯逮捕)した。

<<刃物を持った銀行強盗を素手で取り押さえたとか。驚きです>>

私は日ごろ、制服ではなくスーツを着て銀行のロビーで立哨を行います。間断なく警戒するとともに、お客さまへの丁寧な接遇サービスを心掛けています。

その日の昼前、60歳くらいの中肉中背の男性が来店しました。あいさつして用件を聞いたところ、男性はジーンズの後ろのポケットからカッターナイフを取り出し「金を出せ」と言って私の胸の手前30センチメートルに刃先を向けたのです。

とっさに「あっ!」と声を上げ、相手と距離を取りました。同僚の野並保文警備士(54歳)と永井洋一警備士(65歳)が異変に気付いて駆け付けました。

強盗に遭遇する可能性は非常に低いと思っていたので一瞬驚いたのですが、冷静になって観察すると、相手には隙があります。腰の左側を蹴りつけると、すぐに倒れました。馬乗りになって組み伏せ、カッターナイフを手放した男の身柄を私と同僚で確保しました。銀行の通報により警察官が到着して引き継ぐまで10分足らずの出来事です。けが人はいませんでした。

<<武道や格闘技の心得があるのですか>>

小学1年生から18歳まで剣道を続けて、2段を取得しました。相手と距離を保って動きを先読みし、隙あれば打ち込むことは剣道に通じるものと後になって思いました。長らく竹刀は握っていませんが、刃物を持つ相手と向き合って体が反応したようです。

<<今回の経験を通じてどのようなことを感じましたか>>

社内で行われる教育・訓練の重要さを改めて実感しました。現任教育では、さまざまな状況を想定して救命救急、初期消火、護身術などに取り組みます。強盗などの犯罪についても、過去の事例などをもとに対処方法を学びました。お客さまと自分の身を守るためにスキルアップは欠かせません。

会社の手厚い教育に加え“想定外”と思われるような非常事態も念頭に置いて、いざという時に落ち着いて行動できるよう心掛けています。

<<前職を経て警備業界に入り、1年ほどでの功労となりました。中高年で新たに警備業に従事する場合、どのようなことが大切になるでしょう>>

教育を受けて知識と技能を身に付け、健康管理に留意するとともに、インスピレーション、“ひらめき”を大切にして働くことが必要だと思います。

中高年は、人生経験が豊富になる一方で、慣れや固定観念に縛られがちです。凝り固まることなく、しなやかな思考で周囲の事象を観察すると、ひらめきが生まれます。それは毎日の業務におけるちょっとした工夫や新しいアイデアにつながり、事件事故・トラブルの予防、不測の事態への対応に役立つのではないでしょうか。

私は40年にわたり、休日は湘南や房総の海に出掛けサーフィンをしています。波は一つひとつ形が異なるものです。波を選んで乗るには、ひらめきがないとできません。仕事や人生もまた、同様なのではないかと思うようになりました。

<<小塚社長も今回の功労を喜んでおられます>>

野並・永井両警備士とともに社長賞をいただいて、大変光栄に思いました。私たちは、来店するお客さまのためにより良い接遇と安全確保の両立を図ろうと、入念な打ち合わせを重ねます。そうした毎日の取り組みが緊急時の連携、チームワークにつながるようです。

<<ご家族からは、どんな言葉があったのでしょう>>

妻からは「正義感を持って安全を守ることは尊いと思うけれど、無理をしてけがなどしないように」と言われました。

犯罪や事故は、いつどのようにして起こるかわかりません。同じような毎日が繰り返されても、全く同じ日はないのです。安全安心を守る警備業に対するニーズは、一層高まるものと考えます。暮らしに身近な警備業に携わることに責任とやりがいを感じて取り組みを続けます。

警備業ヒューマン・インタビュー
――全警協表彰警備員⑨2022.03.01

羽場幹人さん(パルコスペースシステムズ)

腹くくって刃物男追う

パルコスペースシステムズの羽場幹人さんは2020年8月、百貨店「名古屋PARCO(パルコ)」(名古屋市中区)で勤務中、刃物を持った男が店内に駆け込むのを目撃。男は近くの郵便局を襲った強盗犯で、羽場さんはすぐに後を追い来店客に避難を呼び掛けた。男は店外に出てタクシーで逃走したため、記憶した車両ナンバーを警察官に伝えて逮捕につなげた。

<<刃物を持った男を目の前にして、恐怖心はなかったですか>>

そのとき私は名古屋パルコで駐車場の交通誘導警備に当たるため、東館から外へ出たところでした。女性の悲鳴を耳にして「何ごとか!?」と目を向けると、刃渡り15センチぐらいのナイフを手にした若い男が、百貨店内に走り込むのが見えました。

平日の午後でしたがフロアには買い物客の姿があったことから、私は「お客さまを守らなければ」と強く思いました。その一方で、18年に新幹線で発生した刃物を持った男に正義感ある乗客が立ち向かって死亡した事件が脳裏をよぎり、「最悪の場合、私はここで死ぬかもしれない」という恐怖もありました。覚悟を決めて腹をくくり、男の後を追いました。

<<来店客をどのように守ったのでしょう>>

私は男から2〜3メートルの距離に立ち両手を広げ、周囲のお客さまに「危ないですから逃げて下さい!」と叫びました。男は階段の方に走り去り、地下へと下りていきました。

私は防災センターに無線連絡を入れてから男を追いましたが、相手は若くて足が速い。店舗の間を駆け抜けて別の階段から1階に上り、店外に逃走しました。私も後に続きましたが見失いぼうぜんとしていると、通り掛かりの人が「犯人はあのタクシーに乗り込みました」と教えてくれたのです。

タクシーは走り出しましたが、運よくすぐ交差点で信号待ちとなったため、私は駆け寄って車のナンバーをその場で覚え、付近で捜索に当たっていた警察官に伝えました。すぐに周囲に手配の連絡がまわって該当するタクシーが見つかり、約20分後に男の身柄は確保されました。タクシーのナンバーの目撃情報は数件あったそうですが、私のほかは全て間違いだったそうです。

<<あきらめない気持ちと正確な記憶力が男の逃走を阻み、スピード逮捕につながりました>>

あとで知った話では、男は近くの郵便局に押し入って現金約220万円を奪い、局内にいた女性客を人質にとって逃走を図ったとのこと。すぐに女性を放置して一人で逃げ、パルコに駆け込んできたのでした。またお客さまを人質にとるような事態にならずに済んで、本当によかったです。

こうした事案は、対処について社内で教育を受けたことはありますが、実際に体験したのは初めてでした。

<<全警協以外からも、表彰を受けたそうですね>>

愛知警協会長と愛知県警中警察署長からも、感謝状をいただきました。警察署では多くの警察官の見送りを受け一斉に感謝のお辞儀をされたとき、警備員の仕事を通じて社会の役に立てた喜びを感じました。

私は一般企業の内勤として勤めたあと警備会社を3社変わり、今の会社に入社しました。職場では同僚との人間関係も良好で、お客さまとのコミュニケーションも楽しい。名古屋パルコは創業2年目から警備を担当させてもらい、私にとって思い出深い勤務地です。それだけに今回の事案では「お客さまを守りたい」という気持ちが強かったのだと思います。

<<ご家族も喜んだのでは?>>

表彰を受けたことは大変光栄で、母や姉にも喜んでもらえました。しかし今回の事件で最もうれしかったことは、テレビニュースを通して私が犯人逮捕に貢献したことを知り、学生時代の友人たちが久しぶりに連絡をくれたことでした。

職場も私生活でも、よい人間関係こそが人生を豊かにしてくれるのではないでしょうか。

最近、休日には友人たちと畑仕事を楽しんでいます。作物はサツマイモなどで、気の置けない仲間と耕作から収穫までいい汗をかいています。郊外で空気も美味しく、私にとって掛け替えのない時間です。