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警備業ヒューマン・インタビュー
――サービス介助士2021.04.21

長谷川清さん(KSP サービス介助士育成推進室担当顧問)

「付加価値」持つ警備員に

<<警備員が「サービス介助士」の資格を取得するプロジェクトを進めています>>

サービス介助士は、高齢者や体が不自由な方に接する時の「おもてなしの心」と「介助技術」を身に付ける民間資格です。日本ケアフィット共育機構(東京都千代田区、畑中稔代表理事)が認定し、サービス業などを中心として取得者は19万人以上にのぼります。

当社グループの警備員は、この9年間で若手からベテランまで800人余りが試験を受けて取得しました。

資格取得にはコストはかかりますが、育成した人材は会社の財産に他なりません。手厚い教育訓練によって警備員に付加価値を与え、ユーザーの信頼を獲得する取り組みが重要と考えています。

<<取得した警備員からはどんな感想が寄せられますか>>

「車椅子の人や白杖を持つ人が困っている様子の時に、ためらうことなく声を掛けられるようになった」などの感想が多くあります。正しい知識を持つことで自信が付き、積極的な行動につながるものです。公共交通機関などでハード面のバリアフリーが進んでいますが、警備員が介助の知識を備えて対応力を高めることは“心のバリア(壁)”を取り除くことにつながると思っています。

商業施設や病院などには投書箱があり、利用者から「警備員さんに親切にしてもらい助かりました」などの感想が寄せられることは、励みとなります。ユーザーからは「より質の高い業務サービスを行う警備員が良い」と評価され、新規のユーザーを紹介していただけるなどビジネスチャンスが広がっています。入札物件では「サービス介助士が複数いること」が要件に含まれる場合も増えているのです。

<<取り組みの出発点は、どのようなことでしたか>>

9年ほど前、複数の支社長を兼務していた時に、サービス介助士の資格取得を進める新プロジェクトの立ち上げを任されました。当社グループの田邊龍美会長は、社会が超高齢化に直面する中で警備員に求められるニーズを考え、この資格に着目したのです。

私は入社以来、複数の支社で業務一筋でしたので、福祉関係の知識や経験はありませんでした。しかし、名古屋市内や茨城県内で新たに営業所を立ち上げて支社に成長させた経験があり、“新しい取り組みに向いている”という印象があって任されたようです。

高齢化問題や障害者福祉について勉強を始めると、非常に興味深く感じました。加齢、負傷、病気などによって体が不自由になる状況、認知症などは身近に起こる人生の課題です。仕事を超えてのめり込み、介護職員初任者研修などの資格も取得しました。

多くの施設には消火器やAEDとともに車椅子が置いてあります。警備員は消火器やAEDの訓練を行うのと同様に、車椅子の扱いを心得ていることが大切になります。当初は、各部門の責任者から資格取得を開始して、徐々にグループ内に広げていきました。当社が警備を受託する空港内で介助の実技セミナーを開くなどして、警備員の資格取得を着実に進めてきました。

<<若い警備員も積極的に取り組んでいます>>

社内で開催する実技セミナーでは、車椅子の操作方法、視覚障害により白杖を使う方を案内する場合や耳が聞こえない方への対応方法などについて学び、理解を深めています。若い警備員を指導する時に「これは仕事ではなく、あなたのおじいさんやおばあさん、身近な人たちに接すると思って知識や手順を覚えて下さい」と言い添えると、興味を持ってくれます。“もっと多くの知識を覚えたい”という意欲を引き出すような指導を心掛けています。

昨年4月からは、災害時に役立つ知識や負傷者などへの対応を身に付ける「防災介助士」の資格取得を始めました。新型コロナ対策により実技教習の参加人数が限られる中、警備員50人余りが取得しています。

また、「認知症サポーター養成講座」(厚生労働省推進)では講師を務めています。これは認知症に対する正しい知識を持ち理解を深め、高齢者や家族の安全安心に役立てるもので、受講した当社の警備員は約600人になりました。警備員の技能を磨く取り組みは、企業の発展に結び付くと実感しています。

警備業ヒューマン・インタビュー
――空調服を販売2021.04.11

久保達也さん(ベスト 代表取締役社長)

酷暑乗り切る「自信作」

<<「空調服」は夏を乗り切る警備用アイテムとしてすっかり定着しました>>

主に作業用に活用されていた空調服を2015年、警備業向けに販売開始、丸5年が経過したところです。おかげさまでこれまで約400社の警備会社に採用いただき、累計で約8万着を出荷できました。

空調服は、服の左右に取り付けた2つの小型ファンが衣服内に大量の外気を取り込み、身体の表面に風を流して汗が蒸発する気化熱で身体を冷やします。炎天下の過酷な環境でも、快適に警備業務を行うことが可能なのです。

服本体のほかにファンやバッテリーなどの備品を組み合わせたセットは約2万円で、一般的な警備服と比較すると高価です。熱中症対策に大きな効果があることに自信を持っていましたが、警備会社の方々に購入していただけるか、確信は持てませんでした。

業界内の認知度が低かったことから初年度は全く売れませんでした。「とにかく一度試着してみてください」とお願いし、涼しさを体感していただくことで少しずつ認知されていきました。昨年はコロナ禍と梅雨明けが遅く短い夏で心配しましたが、順調に目標値をクリアすることができました。

お客さまからは「酷暑の中でも警備員がテキパキと働くことでクライアントから評価された」、「警備員の定着率が上がり採用コストの削減につながった」、「通常の制服より高価と思ったが効果とトータルで考えると買い得だ」などのありがたい言葉をいただいています。

<<新商品のアイデアはどのように生まれるのでしょう>>

営業スタッフの情報収集力、つまり「お客さまが持っている不満や要望をどれだけ吸い上げられるか」が重要です。その一方で「お客さまが気付いていない“潜在的なニーズ”を先に見つけて掘り起こすこと」も求められます。空調服はまさに後者のケースで、当社からお客さまに新たに提案した商品です。ニーズはどんどん多様化しており、それに細かくお応えできる商品を作っていくため、営業力と開発力の両面に一層磨きをかけていくつもりです。

私自身は、入社して営業部に配属されました。扱っていたのは作業服のみでしたが、2000年に警備業向けブランド「G―BEST」の立ち上げと同時に開発部が創設され、私は商品開発の任に就きました。装備品も含めて試行錯誤を繰り返しながら、ラインアップを増やしていきました。

警備業界は当時、メーカーが直接お客さまに販売する方法が主流でした。作業服業界はメーカーが作って代理店が販売するケースが一般的で当社には代理店の販売ネットワークがありました。それを使って、警備業という新たな市場できめ細かいフォローを行いながら販売を広げてきました。

<<空調服のほかにも、開発した夏用制服があります>>

「清涼シャツシリーズ」として開発した3タイプが好評です。通気性と着心地を両立させた「G156・G166」は、背中に内側がメッシュのベンチレーションを装備、表はポリエステル・裏が綿の二重構造の生地で快適に着られます。「GS614・GS616」も同様に背中にベンチレーションを備え、太さの異なる糸を混織することで生地表面に凸凹を出しベタつきを抑えます。生地自体が抜群の通気性で速乾性がある「G193・G196」は、吸水した汗が薄く引き延ばされ素早く発散されるため爽やかな着心地が長続きします。スマートなシルエットと作業性を両立させシワになりにくいストレッチパンツも好評です。

<<最初はたった一人で商品開発を担当しました。かなり苦労されたのではないでしょうか>>

私は「やりがいがあって楽しい」と感じていました。営業はお客さまとの信頼関係を築けているとき、生産では工場と密接な関係をとりながら創意工夫を重ねて生産性や品質を上げたりコストを削減できたときに達成感を感じます。楽しければ長く続けることができ壁に当たっても乗り越えられるものです。

従業員にも、楽しくやりがいを持って仕事に取り組んでもらうことを願っています。自分が仕事に満足していなかったら、お客さまを満足させることは到底できないと思うからです。また仕事も大切ですが、家族と過ごしたり趣味に費やす時間もバランスよくとってもらうことを心掛けています。

コロナ対策として現在、社内を2グループに分けて交互に出勤するローテーションを組んでいます。朝礼は在宅勤務の人もZoomで参加してもらい、全員の元気な顔を確認できるようにしています。

警備業ヒューマン・インタビュー
――講師のスキルアップ2021.04.01

中村明美さん(シムックス 業務部担当課長)

受講者とともに成長する

<<警備業界の教育活動に長年取り組まれています>>

私は、全国警備業協会・技術研究専門部会(技研/前島秀規部会長)の部員を務めて23年になります。技研は、都道府県警協の会長推薦を受けた特別講習講師などで構成され、業界の教育事業全般に携わっています。部員は31人で、女性は私を含め2人です。

業務は、特別講習などに関連する各種研修会の運営をはじめ、教本の執筆や改定、資機材の研究などを行います。

全国の特別講習講師や講師の候補者が参加する研修会では、講義や実技指導を行って参加者の“教える技能”に磨きを掛けます。警備業の発展に向けて講師のスキルを一層高める取り組みが欠かせないのです。

<<講師のスキルアップではどのようなことが重要になりますか>>

講師研修会に参加して技術や要領を覚えても、それだけでは自分の財産にならないと思います。講師が特別講習の受講者に対し、単に合格へのテクニックを伝えるだけでは本当の教育とは言えません。合格と受講者の成長とがイコールになってこそ意味があると考えます。

そのためには、受講者の意欲をどう引き出すかがポイントです。講義を通じて、警備業務に対する認識を深め、意欲をより高めて学び、合格につなげることが講師の目標となるのです。

例えば法律知識を解説する場合は、具体的な事例を挙げ、業務の中で身近に起こりうる問題として説明すれば、知識の吸収が早まります。「警備員規範」などを説明する際、自分の現場体験を交えて語ることで受講者の心に響くと思っています。

講師は限られた時間の中で受講者と向き合い、相手の個性を把握して的確に教えなければなりません。常に「受講者のために何ができるか」と自問して取り組むことが大切です。

たとえ結果は不合格であっても、特別講習で学んだ知識を業務に活かすことができればプラスになります。また、教壇に立つ講師の姿に憧れてスキルアップに取り組む警備員もいます。講師は受講者の“職業人生”に影響を与える存在だという自覚を忘れず、他の講師の取り組み方なども参考にして自分を磨き続けることが肝要です。

<<技研部員として教育に取り組んできた原点は何でしょう>>

根っこにあるのは「警備員の仕事を極めたい」という思いです。

24年ほど前、シムックスの警備員として交通誘導警備2級の特別講習を受講しました。当時の全警協常務理事・木村清先生(故人)や技研の先輩方に技能を評価していただいたことが契機となり、その後、技研の研修を受ける機会に恵まれました。

当初は自信もなく“恐れ多い”という気持ちでしたが、私は日常の安全安心を守る警備員の仕事に非常に愛着があり“この仕事は奥が深い。極めたい”と知識や技能を懸命に学びました。

部員となって、先輩方の講義の進め方、受講者への接し方などを研究しました。まず模倣からスタートして、自分なりの講義のスタイルを見つけていったのです。結婚・出産により一度退社した後も、二人の子育てをしながら技研部員の活動を継続してきました。

<<講師活動に女性目線が生かされることはありますか>>

特別講習を受講する女性はまだまだ少なく、多くの男性に囲まれ緊張しがちです。女性講師として緊張をほぐすような言葉掛けをして、安心して能力を発揮できるように心掛けています。

<<社業でも教育に携わります>>

新任・現任など警備員教育全般、オンラインの活用などを担当しています。

社業と講師活動を両立するためには、所属する会社の理解や配慮が欠かせないものです。講師として成長し、身に付けた教育スキルを活かして会社に恩返しすることは大切です。

当社には、元特別講習講師の役員、私を含む現役講師などの社員30人で構成する「講師会」があります。現任教育とは別に警備員のレベルアップを図る研修会を定期的に開きます。

また、特別講習を受講する警備員には、座学と実技の“送り出し教育”を行っています。これを受けることで、自信を持って講習に臨むことができるのです。

コロナ禍は続いていますが、警備業は今後も教育を根幹として、社会の新たなニーズに対応しながら発展していくと考えています。