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警備業ヒューマン・インタビュー
――健康経営2024.03.21

澤井敬輔さん(アダムスセキュリティ代表取締役)

<<3月11日発表の「2024年度健康経営優良法人・中小規模法人部門」で、アダムスセキュリティは4年連続して認定されました>>

社員の健康増進は、重要な経営テーマの一つと考えて「健康経営」に取り組んでいます。2021年に滋賀県内の警備会社で初めて認定され、22年度と23年度は上位500社の「ブライト500」にも選ばれています。

<<どのように健康増進を図っていますか>>

「健康促進手当」を支給し、体のメンテナンスとなる鍼灸治療、整体、スポーツジムやヨガに通う費用を補助して社員から喜ばれています。「禁煙手当」は、禁煙にトライする社員だけでなく、タバコを吸わない社員にも支給して健康管理に対する社内の意識を高めてきました。

毎年の健康診断では通常の検査に加え、各種のオプション検査を会社負担で行ったところ、複数の社員が疾病の早期発見と治療、復帰につながっています。インフルエンザの予防接種は全員行うほか、社内報では健康に役立つ情報も発信しています。

弊社は交通誘導警備がメインで、若者から高齢者まで幅広い年代の隊員が勤務しています。暑さ寒さが厳しい環境にあって皆がいきいきと働き続けるためには、個人まかせでなく会社全体で健康増進に取り組むことが必要だと考えます。社員の健康づくりをバックアップすることは定着促進、離職の防止に結び付くと実感しています。

<<取り組みの原点にあるものは何でしょう>>

私は19歳で警備業界に入り、警備現場や営業、管理職などを経験してきました。交通誘導警備は日常生活の安全安心を担っていますが、低賃金で過酷という“負のイメージ”がつきまとう状況を悔しく思ってきました。

厳しい現状を少しずつでも改善して警備員の社会的な地位の向上を図りたいとの思いは高まり32歳の時に弊社を起業しました。

理想とする会社を自分なりに思い描いて、処遇の改善、社会保険加入、福利厚生の拡充を実践してきました。健康経営は、警備員が健全に働き続ける職場を目指す“旗印”なのです。

処遇改善の賃金アップに加え、月給制で安定的に働くことのできる給与体系の整備も進めているところです。原資となる警備料金は、地域の相場よりも高く設定しています。雨天中止のキャンセル料は当日なら100%です。お客さまには、法定福利費や警備員教育などのコストについて説明します。料金が高くても納得いただけるように隊員も内勤者も一丸で努めています。土・日・祝日に行う工事現場などの警備では料金を上乗せさせてもらい隊員に還元しています。

受注する立場だからと一歩下がるのではなく、お客さまに提案し交渉する中で弊社は成長させてもらいました。昨今は多くの業種で価格転嫁が課題となっていますが、より多くの警備会社に価格転嫁の動きが広がることは業界にとって重要だと思います。

<<デジタル化が進む中、スマートフォンによる勤怠管理システム「警備管制奉行」を自社開発し運用しています>>

「警備管制奉行」は、管制業務と出退勤の管理、日報、給与明細や請求書の作成などを一元化したシステムです。既製品でなく“警備会社が警備会社のために開発するシステム”を目指し、アプリ開発会社と1年かけて実験を重ね実用化したのです。

導入から2年余り、ペーパーレスによる経費削減や管制業務の効率化に結び付いてます。アプリを使い慣れていない高齢の隊員のために講習会を行って、皆が円滑に利用しています。

少子高齢化で労働人口が減少していく中、次世代を見据えた業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)は必須となるものです。交通誘導警備にAIシステムを導入することは、警備員の負担軽減と受傷事故防止につながるはずです。

<<社内報「アダムス通信」を毎月発行しています>>

社内報は社員とご家族、お客さまに届けるとともにホームページで公開しています。インターネット、SNSを活用した情報発信の意味は、自社のPRにとどまりません。警備員という職業の魅力や存在意義を伝えて、関心を持ってくれる若者が増え、認知度の向上を願っているのです。

<<草津市商工会議所青年部で活動されてきました>>

異業種交流は、経営者として視野を広げ最新の知識を得るうえで欠かせないものです。昨年度は滋賀県商工会議所青年部連合会の会長を務めました。「100年企業」をテーマとするパネルディスカッションを行うなどして学びを深めています。地域と共にさらなる発展をめざしていきます。

警備業ヒューマン・インタビュー
――全警協表彰警備員⑥2024.03.11

鉾立修さん・鉾立薫さん(F・Cガード)

F・Cガードの鉾立修さん・薫さん夫妻は、大雨が降る2023年6月30日午後6時ごろ、私用のため乗用車で福岡県久留米市内の筑後川沿いの道路を走行中、傘を差さず堤防の斜面にいる9歳女児を発見し、心配になり停車した。女児が川に向かっていったため、修さんは車を降りて、女児を救助。薫さんは110番通報するとともに女児を車内で励まし続け、駆け付けた警察官に引き渡した。

<<女児を救助した前日から福岡県久留米市をはじめ西日本は大雨が降っていました>>

鉾立修さん この日は高速道路の交通誘導警備の夜勤明けでした。当日の夜間警備は雨天中止になり、義母の様子を見に、同じ久留米市内にある妻の実家に行くことにしていました。過去に大雨で実家の周りが冠水した事があり、避難を手伝うためです。私が車を運転し、妻は助手席に座っていました。

午後5時半ごろ、筑後川沿いの歩道のない堤防道路を通っていると、大雨なのに傘も差さずに歩いている女児が見えました。堤防の斜面は草が刈られて間もなく、離れていても見えたのです。

鉾立薫さん 車道の左端(河川側斜面の上部)を歩く女児を追い越した際、助手席の私は女児が衣服を着ておらず全身に草や葉っぱが付着している状況を目撃しました。何かの事件に巻き込まれている可能性も考え、携帯電話で110番通報しました。

<<警察が到着するまではどのように対応したのでしょう>>

修さん 拡幅部に車を停め見守っている時、女児は増水した川の堤防の斜面にいました。女児を刺激しないよう、警察が来るまで監視することにしました。妻から携帯電話を受け取り、改めてこちらの状況を警察に伝えていると、女児が川に向かい始めました。

<<川は増水していたのではないですか>>

修さん 堤防下の河川敷グラウンドの駐車場も、そこにつながる道路も既に水没していました。女児に近付いて「川から上がろう」と呼び掛けました。しかし、なおも流れの速い方へ行こうとしたため、私も水没した河川敷に入りました。腰辺りまで水に浸かりながら女児に近寄り、堤防に上がるよう声を掛けながら手を差し出すと、素直に手を握ってくれました。手を強く握らないよう注意しながら慎重に斜面を上がりました。女児は怯えた様子もなく、私は着ていたジャージの上着を掛けてあげました。女児を車に乗せ、妻が声を掛けて励ましました。

ほどなく警察が到着し、保護した女児を託しました。駆け付けた母親の元に女児が戻った様子を見届けた私たちは、再び妻の実家に向かいました。

<<警察との連携もスムーズでした>>

修さん 久留米警察署生活安全課の松岡誠倫課長から警備員としての心構え、警察への通報から女児の救出・保護までの一連の動きを評価していただくとともに「今後も警察と警備員の力を合わせて街の安全を守りましょう」と声を掛けていただきました。過去にも私用で移動中に、発生直後の交通事故に遭遇し、警察が到着するまで交通誘導を行った経験があります。日々の安全訓練などを通じ、常に危機意識を持っていたから行動できたと思います。

<<「全警協模範警備員表彰」で、夫婦の受賞は初です>>

修さん 会社や周りの皆さんの恩に報いることができました。

薫さん 17年3月、私が激しい腹痛で倒れ、入院することになりました。勤務中に現場で倒れ、会社に連絡すると、勤務地の近くにいた隊員が、公休にもかかわらず駆け付けてくれました。その隊員が言った「当たり前のことをしたまで」という言葉は今も忘れません。私たちもそうありたいと思っています。入社して半年ほどのことでしたが、対応してくれた会社と隊員にいつか何かの形で恩を返したいと思っていました。

<<私用中の人命救助でしたが、会社への恩返しになったことでしょう>>

修さん 私たちは共に離婚を経験しています。別の警備会社の異なる営業所に所属し、大規模工事の現場で知り合いました。療養中の義父を安心させたく、1年程の交際を経て08年に再婚しました。F・Cガードには16年に2人同時に入社し、当初は私の地元・小林営業所、現在は妻の地元・久留米営業所に所属しています。会社の計らいにより同じ現場で警備業務に従事しています。妻の体調が心配なので有り難いことです。

今年の元旦、妻の還暦を祝いました。休日は別府など各地の温泉巡り、映画鑑賞などでリフレッシュしています。これからも一緒に過ごしていきます。

警備業ヒューマン・インタビュー
――全警協表彰警備員⑤2024.03.01

飯田聖司さん 吉田芳成さん(イビデンキャリア・テクノ)

「暗闇に動く指」何だろう

イビデンキャリア・テクノの飯田聖司さんは2022年9月10日午前1時すぎ、岐阜県大垣市にあるグループ会社の建物を定時巡回中、敷地外の用水路の中にいる高齢女性を発見。警備室にいる同僚の吉田芳成さんに連絡し応援を要請した。2人掛かりで女性を用水路から救出し、警察に通報したあと自宅に送り届けた。

<<真夜中に用水路に落ちた女性を発見したときは、驚いたでしょう>>

飯田 私は自転車で夜間巡回中でした。懐中電灯で照らした水路のへりに、小さな影が動いているのが見えたのです。

最初はそれが何か分からず「普段はない何かがある」と違和感を覚え、近付いてようやくそれが人の指と確認できました。幅1.5メートル深さ2メートルぐらいの用水路の中にいる高齢女性が指をへりにかけ、必死に助けを求めていたのです。

私は驚いて手を差し伸べ、指をつかんだところ温もりがあったので「まだ落ちて間もない」と感じました。すぐ引き上げようと思ったのですが「衣服が用水路の水を吸って重くなっているかもしれない」と考え、警備室にいる同僚の吉田さんに携帯電話で連絡をとり応援を要請しました。待っている間、「すぐに助けますから心配いりませんよ」など女性に声掛けを続けました。

吉田 飯田さんから緊急連絡を受けた私は直ちに現場に急行し、3分ぐらいで到着しました。

飯田さんは用水路の中に下りて脛ぐらいまで水に浸かりながら女性を抱え上げ、私が用水路のふちから両手を持ち引き上げて救出できたのです。

女性が小柄だったこともあり、時間をかけずに助けることができました。あとで聞いたところ、女性の年齢は88歳とのことでした。腕に少し擦り傷がありましたが、大きなけががなくてよかったです。私は門監視業務と受付業務があったため、そのまま警備室に戻りました。

<<無事に助け出すことができてよかったです>>

飯田 すぐに携帯電話で警察に連絡しました。女性の自宅はそこからさほど離れていない距離とのことで、家まで送ることにしました。歩くことが困難な様子だったため巡回用の自転車に乗ってもらい、私がハンドルを押しながら5分ぐらい歩いて無事に送り届けました。

親族の方からは「一つ間違えば大変な事態になるところでした。ありがとうございました」と感謝の言葉をいただきました。女性からも何度も御礼を言われました。

<<自転車で巡回しながら暗闇の中、女性の指をよく見つけましたね>>

飯田 巡回時には「いつもと違うものを発見すること」を強く意識しています。

私は警備業務に就くまでの33年間、グループ会社で製造業務に携わってきました。そのときに「見る・嗅ぐ・聞く」などと五感をフル活用し、設備の異常があった際にいち早く気が付くことを心掛けていました。その頃の習慣を警備業でも活かすことができて嬉しいです。

<<大垣警察署長から感謝状が贈られたそうですね>>

吉田 事案から約2週間後、人命救助への貢献で、警察署内で感謝状をいただきました。署長からは「これからも地域の安全安心に貢献してください」との言葉をいただきました。今後も業務の基本である「ほうれんそう(報告・連絡・相談)」はしっかり続けながら日々の業務を続けていこうと思います。

飯田 私たちは警備員として当然のことをしただけだと思っています。しかし妻からは「大変なことをしたんだね」と驚かれました。今後も勤務中に何か事案が発生した場合は、自分の身に危険がないと判断したうえで解決に向けて行動すると思います。

<<緊急事態に的確な対処が求められる厳しい業務です。気晴らしになる趣味はお持ちですか>>

飯田 何といっても「美味しいもの」を食べに行くことが好きです。岐阜県は味処が多く、インターネットで探しては妻と車で向かいます。先日は絶品のたい焼きを満喫しました。鰻屋も好きでよく巡ります。

吉田 私は休日の朝、馴染みの喫茶店でモーニングセットをゆっくり味わうことが楽しみです。喫茶店は愛知県内に数多いことが有名ですが、岐阜県も引けをとりません。私にとって何より心落ち着くひとときなのです。