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警備業ヒューマン・インタビュー
――全警協表彰警備員③2021.12.21

池田一さん 山田和也さん(日本通運北関東警送支店)

高速道で「寝込み人」救助

日本通運北関東警送支店の池田一さんと山田和也さんは、2020年12月4日午後10時ころ、首都高速道路の出口レーンで寝込んでいた男性を救助した。「男性はひかれていても不思議ではなかった」(所轄警察署)が、冷静かつ危険を省みない勇気ある2人の行動により一人の命が救われた。

<<夜間、道路に寝込んでいた人をよく発見できました>>

池田 本線を走っているとき、出口レーンに人が立ち入ったことを知らせる電光掲示板があったためです。見過ごされがちだと言われますが、私の目にはとまりました。

都内の客先から埼玉県内の客先に向かうため、首都高速道路を使って最寄りの「出口」付近に到着した時のことです。出口レーンは一車線のやや薄暗い地下道で、地上出口に向かう上り坂手前の路上ほぼ中央部分に「黒い塊」が見えました。

山田 見えた瞬間は「黒い塊がある」としか思えませんでしたが、「人、立ち入り」の電光掲示板を見ていたので、もしかしたら「人」ではないかと思いながら徐行しました。

進んでいくと、徐々に「黒い塊」が「人」だとはっきり認識できるようになりました。私は周りの安全を確認しながら車両から降りて駆け寄りました。池田さんは倒れている人の10メートルくらい手前まで慎重に車両を走らせ、後続車両に知らせるため道路中央付近にハザードランプを点滅させて停車。私が110番通報しました。

<<倒れていた人は無事でしたか>>

池田 通報の後、池田さんとともに倒れている人のそばまで近づいて行って「大丈夫ですか」「ケガはありませんか」と声を掛けました。しかし「アー」とか「ウー」とうめくばかりです。周辺に漂うアルコール臭もかなり強く、酔って歩いているうちに、間違えて入りやすい構造の高速出口の下り坂をそのままフラフラ歩き、いつのまにか横になってしまったようでした。

特にケガをしている様子はなかったので、体を起こして道路の端まで運ぼうかと一瞬迷いました。しかし、倒れた際に頭を打っている可能性もあると考え、動かさない方がいいと判断して見守っていました。

その後、首都高速道路公団の黄色いパトロールカーが到着して男性を救助したというのがその時の状況です。

<<警備の訓練に「酔客対応」はありませんが、何か特別の技法などを学んだ経験があるのですか>>

池田 私はごく当たり前の行動をとっただけですし、表彰してもらうようなことをしたとは思いません。ただ、当社が所属する埼玉県警備業協会が県警交通部と締結している「路上寝込み等による交通事故防止に関する協定」も役立ちました。会社から同協定の存在は何度も聞いていましたし、12月は「年の瀬」です。コロナ禍ではありましたが「家飲み」する人ばかりでもないと思い、いざというときに備えた行動をとれたのかもしれません。その日の朝、会社を出発する時も同様の注意を払うよう、上司から指導を受けていました。

<<警察は「安全安心を確保することが仕事の警備員だけあって、注意力は一般人より優れている」と話しています>>

山田 電光掲示板の文字を見落とさなかったことについて後で警察の方からそう言われました。やや大げさな気もしますが、「一般的に掲示板の文字は自分には関係がないと思って見ない人が多く、徐行せずに走ってひいてしまっていた可能性が高いようです。さすがに安全確保に対する考え方や行動は一般の人よりもしっかりしている」とお褒めの言葉をいただきました。

<<見事なコンビネーションプレーでした>>

山田 いつも私たち2人でコンビを組んでいるわけではありませんが、池田さんは「点呼手順」や「荷物の積み方」、「基本動作の順守」などが他の隊員よりワンランク上だと社内では評価されています。周りの「模範」でもあり、そうした普段からの仕事ぶりが今回の冷静な対応につながったのではないでしょうか。

池田 山田さんもどんな頼みごとにも嫌な顔をせず対応してくれる人だと周りは見ています。チームプレーには欠かせない存在です。以前、自衛隊で働いていたこともあり、とても私がかなわない経験をお持ちです。

警備業ヒューマン・インタビュー
――全警協表彰警備員②2021.12.11

富田恵介さん(ALSOK奈良支社)

事故バイクに消火器噴射

ALSOK奈良支社技術課の富田恵介さんは2020年7月18日の夕方、奈良市内を社用車で移動中に軽自動車が中型バイクに追突した現場に遭遇した。バイクの出火を発見、社用車の消火器を使って消し止め、運転者を避難させ交通誘導を行うなどして二次災害を防いだ。

<<担当業務外で非常事態に直面しました>>

私は入社以来一貫して技術畑を歩み14年目になります。機械警備の各種センサーなど機器類のメンテナンスや設置工事に携わってきました。

法定教育を受け警備員として登録されていますが、技術一筋であり警備の現場に就いた経験はありません。非常事態に対処したのは今回が初めてです。

その日、社用車を運転してお客さまのもとへ機器のメンテナンスに向かう途中でした。世界遺産「平城宮跡」に近い二条大路南の2車線道路で、信号待ちのため停車しようとした時、前方から大きな衝突音が響きました。

10メートルほど先の交差点近くで中型バイクと運転者の男性が転倒した状態で、追突したらしい軽自動車から運転者の女性が降りたところでした。

男性を救護しなければと思い、安全な場所に車を停めました。私が近づく前に男性は自力で立ち上がりバイクを起こしましたが、その時、エンジン付近から30センチ余りの火の手が上がったのです。

<<現場はどのような場所でしたか>>

車や歩行者は多く、道路に面して店舗が並んでいるところです。“ガソリンに引火すれば惨事になりかねない”と判断して行動しました。

社用車に積んである消火器を持って駆け付け、動揺する男性の手をとって安全な場所へ誘導し、エンジンめがけて噴射しました。粉末の消火剤が炎にかかるよう狙いを定め30秒ほどで火は消えました。消火する間に通行人の方が119番通報をしてくれました。

二次災害を防ぐためにバイクを移動させようと考えた時、近くの自動車整備工場の方々が協力してくれたのです。十分なスペースのある駐車場にバイクが運ばれる数分間、交通誘導を行って安全を確保し、到着した消防隊員に状況を説明して引き継ぎました。バイクの男性は病院に運ばれ、軽傷だったと聞きました。

<<危険な局面で消火活動を的確に行うことができた理由は何でしょう>>

これまでに社内教育で培ってきたスキル、実技訓練の賜物だと実感します。技術職なので頻繁に訓練を行うわけではありませんが消火器の操作、心肺蘇生法などを身に付けており、慌てることなく最善を尽くすという心構えで行動できたと思います。

当社グループは毎年「品質向上競技大会」を開いて全国の代表者が技能を競うなど、日ごろからスキルアップを図る意識が社内に浸透していると感じます。

<<警備業界に入られたのはどのような思いからですか>>

私は大学で電子工学を専攻し、就職活動の時には専門知識を生かすだけでなく社会に貢献する職業に就きたい、より多くの人の役に立てる仕事をしたいと考えました。警備業の予備知識は特になかったのですが「社会公共の安全を守る役割」というイメージがあり、入社したのです。

私が勤務する奈良支社(土田勝𠮷支社長)の社員は約60人で、うち10人が技術職です。今回、思いがけず表彰をいただくことになり、支社長からは「ALSOK社員の代表として堂々と表彰状を受け取って下さい」と言われて緊張しましたが誇りに思います。

<<業務を行う中で大切にされているのはどんなことですか>>

「発生している問題に対処する」ことと同時に「新たな問題点を洗い出す」ことです。例えば建物への侵入者を検知するセンサーが、室内のレイアウト変更や荷物が置かれた影響など、複合的な要因により反応しにくくなる場合があります。メンテナンスを継続し、不具合が生じる前に改善点を見つけ出すことが重要です。

これからも社業を通じて社会に貢献したいという初心を忘れることなく日々の取り組みを続けていきます。

警備業ヒューマン・インタビュー
――全警協表彰警備員①2021.12.01

篠原敏之さん(東亜警備保障)

万引き犯を「けさ固め」

全国警備業協会(中山泰男会長)は11月4日に都内で開催した「警備の日・全国大会」で、顕著な功労があった「模範警備員」14人(12事案)を表彰した。表彰者をシリーズで紹介する。

1回目の篠原敏之さんは今年1月の公休日、宇都宮市内のスーパーマーケット駐車場で若い男性2人が立った状態で格闘しているところを目撃。一人は私服警備員、もう一人は万引き犯とわかり、犯人を組み倒して確保。通報で駆け付けた警察官に引き渡した。

<<正義感からの危険を顧みない勇気ある行動でした>>

私はこの日夕方4時ごろ、馴染みのスーパーに夕食の材料を買いに来ていました。買物を終えて店を出たところ、駐車場で20代くらいの男性2人が組み合っていました。てっきり喧嘩と思い「君たち、やめなよ」と声を掛け仲裁に入ろうとしたとき、一人の男がもう一人を殴りました。殴られた男性は「この男は万引き犯で、私は私服警備員です」と訴えたため協力が必要と判断し、抵抗する男を仰向けに組み倒して取り押さえました。

<<犯人に向かうときに身の危険は感じなかったのですか>>

私服警備員の男性は、殴られながらもつかんでいた服を離さず、逃げようとした万引き犯は体勢を崩しました。私は飛びついてそのまま倒し、柔道の「けさ固め」のような形で押さえ込みました。仲裁に入る前にナイフなどの武器を持っていないことは確認済みでしたので、あとは服のポケットから武器を取り出さないことだけを注意していました。

多くの買い物客が少し離れた場所から成り行きを見守っており、その中にいた女性が110番通報しているのが見えました。約5分後に駆け付けた警察官に犯人を引き渡し、現場と宇都宮東警察署で状況を説明して帰宅しました。

あとでわかったことですが、男はそのとき酒のつまみなど約2000円相当を万引きしたとのことで、犯行は今回が初めてではなかったそうです。

<<夕食の買物のつもりが事件に遭遇しました。家族も驚いたでしょう>>

調書の作成に長くかかり、帰宅したのは夜中の11時すぎでした。妻は「大変だったね、おつかれさま」と言ってくれました。その後、当社社長、宇都宮東警察署長、栃木県警備業協会会長、全国警備業協会会長から表彰していただくうちに、妻と高校2年生の娘は功績の大きさを一層理解してくれたみたいです。

両親も喜んでくれました。表彰式で撮影したスナップ写真を渡したところ、今も部屋に大切に飾っています。

<<思わぬ事態に遭遇したときの対処の仕方は、社内教育で学んでいたのですか>>

現任教育では、警戒棒の基本操作要領、徒手の実施要領などの教育は受けています。学生時代は中学校ではサッカー部、高校では野球部に所属していて武道を本格的に習った経験はありません。

私は機動巡回車警備隊の副隊長を務めています。業務車両で小学校、中学校、高等学校の夜間巡回警備、機械警備の発報対応などがメインの業務です。不審者などに遭遇したときの心構えは日常的に持って業務を行っています。

<<仕事に警備員を選んだ理由は何でしょう>>

私は高校卒業後、郵便局やガソリンスタンドなどに勤務後、当社に勤めていた友人の紹介で入社しました。警備業界は定着する人が少なく人手不足の状況にあるとよく耳にします。当社は県内でも歴史があり業務を幅広く実施しており経営も安定していて、私は20年以上勤務を続けてきました。

学校の巡回という業務上、夜勤もありますが、妻と娘は理解してくれています。休日には友人と鬼怒川や那珂川まで出掛け、20代から続けているルアー・フィッシングを楽しんでいます。若い人にはぜひ、社会の安全を守る警備員という職業を選択肢のひとつに考えてほしいですね。

<<表彰を受けて感じたことは>>

正直なところ、そのときはこんなに大きな評価をいただけるとは想像もしていませんでした。万引き犯の逮捕に協力するという、当たり前のことをしたぐらいに思っていたのです。

今後は“警備のプロ”の一人として「勤務中でも公休のときでも、常に気を引き締めておきたい」という思いを強くしています。