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警備業ヒューマン・インタビュー
――創立50周年2022.06.21

中田文彦さん(ジャパンパトロール警備保障代表取締役社長)

「継続受注」に力注ぐ

<<5月に開かれたジャパンパトロール警備保障の創立50周年記念パーティーは盛会でした>>

当社の今があるのは、人のつながり、“人の和”のおかげと思っています。お客さま、業界関係の方々、社員と家族、全ての人間関係において“和を保つ”ことを心掛けて経営に携わってきました。

創業者は私の従兄弟で、メインは交通誘導警備業務です。24年ほど前、バブル経済の崩壊後に当社は業績が落ち込み、深刻な経営難に陥りました。

当時、私は不動産会社に勤めており、ビル事業の運営や人事、役員秘書などを12年ほど経験していました。従兄弟から「会社の再建をやってみないか」と声を掛けられたのです。警備員とその家族の生活がかかる当社の先行きを憂い、不動産会社を辞めて入社しました。

経営改善のため取り組んだのは、業務の見直しと警備員教育の充実でした。

社内では、受注が不安定な交通誘導警備よりも長期間の施設警備を受注すべきだとの意見が多くありました。しかし私は、受注の不安定さを解消することができれば活路が開けるのではないかと考えました。方策を検討した末に、交通誘導警備の「継続受注」を目標に掲げたのです。

<<継続受注のためにどのような工夫をされていますか>>

例えば、1つの建設現場で工事が完了すると、工事所長は新たな現場を担当し、副所長は所長に昇格して別の現場を担当し、それぞれ警備会社を選びます。両者から「次の現場も警備をお願いします」と言ってもらえれば、受注は広がります。新規開拓の飛び込み営業に労力を費やす必要はなく、互いに分かりあう顧客と信頼関係を築いていくことができるのです。

全てのユーザーにリピーターになってもらう継続受注のためには、警備の質の高さを評価してもらうことが絶対条件となります。教育体制を強化し、マニュアルを作成するなどして警備員の技能の均一化を図り、顧客満足度アップを心掛けました。

入社して2年余りで業績は回復に向かい、順調に成長を続けて今に至ります。

<<顧客満足度をどう高めていますか>>

それぞれの警備現場の特性に即した実地教育に力を注ぎます。当社は、隊長経験を持つスキルの高い若手メンバー10人ほどを選抜して「機動隊」というチームを編成し、名前の通り機動力を発揮して各現場を巡回し教育指導を行うのです。15年になりますが、現場ごとの特徴や留意点、警備員一人ひとりの技量や個性を把握したうえで丁寧な指導を行い、ユーザーから好評を得ています。

併せて、育成した警備員が定着することが重要です。給与アップや福利厚生の充実、人事評価制度や社内規則を整えて、安心して長く働くことのできる職場づくりを進めてきました。

処遇改善の原資は警備料金ですが、価格を上げると受注が減るリスクはつきまといます。警備料金をめぐるさまざまな問題を改善していくことは、1社の努力だけでは不可能です。業界としての足並みをそろえた活動で徐々に改善が進むと思っています。都道府県警備業協会は、会員へのアンケート調査や啓発活動、関係各所に対する要望、働き掛けなどを行ってきました。こうした協会活動は、業界と各社が発展するために欠かせないものです。

<<東京都警備業協会では教育事業、警備料金適正化、社会保険加入促進、災害対策などに取り組まれてきました>>

警備業の地位向上を願う協会関係者の方々とともに、さまざまな活動で汗を流して20年余り、業界は活性化し一層発展していると実感します。「自主行動計画」などを経営者が一丸となって推進していけば、警備業の社会的地位、対外的な発言力は、さらに高まると思うのです。

近年はSNSが盛んになっていますが、当社の公式ツイッターで“温かい雰囲気の職場”を広く情報発信しています。ツイッター効果か警備員募集に応募する20代の人は増えました。先輩社員が後輩に手本を示し、指導する時は良い所を見つけて、ほめることも大切になります。

技術革新、IT化が進む中にあって警備業は「人間を育て、人間が判断する仕事」の象徴であると思います。これからも人の和を大切にして100年企業を目指し、取り組みを続けます。

警備業ヒューマン・インタビュー
――特別講習講師2022.06.11

髙島広行さん(東京工事警備)

「教育の道」掘り下げる

<<警備員に対する教育者の道を志したきっかけは>>

就職氷河期世代の私はアルバイトを長く経験しました。二人暮らしだった父がある日重い病になり、早く安心させたい思いで正社員の仕事を探したのです。当時31歳、正直に言うと警備員に興味があったのではなく、福利厚生の良さが東京工事警備に就職した決め手です。

東京支社に配属され現場で数年警備員として働いていた時、当社独自の制度である「指導員」を目指してみないかと会社から声が掛かりました。指導員は指導教育責任者資格を持つ選任指導教育責任者の補佐役です。私にとって以前から憧れの存在でしたのですぐ引き受けました。

まずは指導員の「補助」からスタートです。教育前の準備や進め方などについて学ばせてもらいました。この時はまだ教育を受ける側ですが、しばらく続けると「見習い」になり、そのときすでに指導教育責任者資格の取得条件を満たしていた私は資格試験を受験し合格、有資格者として現任教育を行いました。

東京支社で4年ほど勤めた後、千葉支社への異動命令が出され、赴任先で現任教育を行うことになりました。「東京での経験もあるからやれるだろう」くらいの気持ちで教壇に立ったのですが、私の講義を聞いた警備員たちの実技は「基本動作」や「手旗の動き」がバラバラ、中には全く動けない警備員もおり「東京ではできたのに何で…」と悔しい思いでいっぱいになりました。この時の感情が教育の道をもっと掘り下げようと思ったきっかけです。

<<同じ人が講義を行ったのに東京と千葉では何が違ったのでしょう>>

理由はおそらく二点。東京支社では顔見知りの警備員も多く、私の話を「身内の話」として聞いてくれたこと。もう一点は、東京では私の横にいた指導員が「彼がやるのを見てやってくれ」と受講生に促したりしていました。だから先輩の警備員も私の話を聞いてくれていたのだと思います。自分の力だと過信していたようです。

千葉で初めて現任教育を行った日、私のすぐ次に教壇に立った千葉支社の指導員の教え方を見たとき自分の力を思い知らされました。受講者たちと「対話」をしながら講義を進めるやり方の彼に代わったとたん「場」の空気が一変、警備員たちが身を乗り出すように彼の話を聞き出したのです。いかに自分が「あるべき論」を一方的に押し付けていたかを痛感しました。

この日以降、指導員に講義の仕方を教えてほしいとお願いし続けました。すると「特別講習講師をしているんだ。優秀な講師が大勢いて彼らのやり方を見て勉強もしている。興味があるなら君もどうか」と言われ「やってみよう」と決心しました。

<<経験が浅かった時と今の自分とでは何が変わりましたか>>

事業所に必ず1人置かなければならない選任指導教育責任者となった私は、会社の推薦をもとに埼玉県警備業協会の「特別講習講師」になりました。千葉での苦い経験を土台に受講者たちの気持ちに寄り添えるようになったと思っています。講習が行われる当日、あいさつや何気ない声掛けをこちらから積極的に行うようにしていますが、それをするとしないとでは大違いで、警備員からの質問が大幅に増えました。こちらの思いが届きやすくなったと思います。

特別講習講師は社内講師とは違い料金の発生するいわば「プロ」。警備員を検定に合格させることが使命です。分からない点は積極的に質問してほしいのです。

<<教育者を目指した理由がほかにもあるのではないですか>>

入社当時は知りませんでしたが、警備業は仕事を通じて得られる喜びが大きい。その喜びをできるだけ多くの警備員に味わってもらいたい思いがあります。例えば真夏の路上で交通誘導を行っていると近所の方から「励ましの声」や「冷たい差し入れ」をいただくことがあります。「警備員でよかった」と思う瞬間でこの思いを広めたい。周辺住民に受け入れられる必要があり「教育」が不可欠です。私はその立場からかかわっていきたいのです。

気が付けば「中堅」と呼ばれる立場ですが、今でも優秀な講師の教育技法を見習っています。「あの講師のやり方はいいな」と思えば自分の中にできるだけ取り込むよう努力しています。他の講師の学ぶべき部分を参考に、まだまだ成長したいと思います。

警備業ヒューマン・インタビュー
――万引防止2022.06.01

稲本義範(工業会 日本万引防止システム協会 会長)

科学の力で保安警備支援

<<万引きは、高齢者による犯行や外国人などプロ集団の大量窃盗などが社会問題になっています。先進技術を活用した防犯対策への期待が高まっているそうですね>>

「JEAS」を略称とする工業会 日本万引防止システム協会は、設立から20年を迎えました。EASとは万引防止システムのことで、店舗や図書館から不正な持ち出しがあると警報音などで知らせます。現在国内で約25万台が活用されています。

EASを販売する各社は総務省などから2001年、機器が発する電波によるペースメーカーなど医用機器への影響について問い合わせを受けました。その指導に応え安全な普及を進めるために翌年、JEASが設立されたのです。

工業会指定の検査機関で試験を行い、合格した機種には「EASステッカー」を貼付してもらうなど安全対策を図る活動が認められ、経済産業省から18年に「EASと防犯カメラ分野の工業会」の指定を受けました。20年には内閣府の外局「個人情報保護委員会」認定の認定個人情報保護団体となり、EASに関連した業務に従事する企業が参画する会員数50法人の産業団体に成長しました。

私はセキュリティー機器などの技術商社である高千穂交易に勤めており、4年前に高千穂交易の元社長・戸田秀雄さんから、JEASの会長職を引き継ぎました。

<<活用が広がる顔認証システムについては特に、個人情報保護の重要性が指摘されています>>

JEASはセキュリティーシステム分野の個人情報保護の推進を目的として、個人情報保護委員会の認定を受けた唯一の団体です。

JEASが定めた個人情報保護指針に基づき、防犯カメラや顔認証システムの安全利用の冊子作りや普及のための研修会などを積極的に行っています。「セキュリティショー」などの展示会での安全利用に関するセミナーの開催、公式SNSの配信も行い、セキュリティーシステムを扱う店舗や警備会社に向けて個人情報保護法への対応について呼び掛けています。

<<顔認証システムの性能審査も行っているそうですね>>

一口に顔認証システムといっても認識性能が著しく劣るもの、情報セキュリティーやマニュアルの内容に不備があるものが少なからずあります。ユーザーや警備現場の視点から役立つシステムを提供することは当工業会の責務と捉え、20年にスタートさせたのが「推奨顔認証システム制度」です。

この制度は個人情報保護法を遵守し、その運用が満足できるシステムを推奨する自主認定制度です。推奨基準としては、小売業の利用者が目的に合う使い方ができるよう取扱説明書の記載内容を明確に指示します。個人情報保護法に関して「カメラ画像の利活用を行なう際に注意する点」等の記載があり、性能面では誇大性能表示にならないように測定方法を明確化することなどを定めています。

現在、マスク着用時の検知精度試験も行っており、パナソニック、グローリー、NEC、ジオビジョンの4社のシステムが合格しました。それらのシステムは実際に市場評価が高く、商品のロス削減などで大きな効果を生み出しています。

<<EASを法に遵守して効果的に活用するため昨年10月、警備会社などを対象に「第1回科学保安講習会」を開きました>>

誤認逮捕のリスクやシステム化の遅れ、低い生産性、人手不足など保安警備の課題を打開するため、顔認証システムを活用した新たな保安警備サービスを適法に実施する手助けをすることが講習会の趣旨です。受講者には「次世代に保安警備を継承していくためには科学の力を活用することが必要」と理解していただきました。

研修を修了し「科学保安員」となるメリットとして、当協会が作成した確認表を使った店舗診断があります。診断に合格すれば店頭にステッカーを貼付し防犯対策を講じた店舗であることを表示でき、犯罪の抑止にもつながります。第2回科学保安講習会は11月18日に予定しています。

<<協会では会員以外の警備業関係者も受講できる講習会を開いているとか>>

講義内容はEAS機器に関するものだけではなく、防犯カメラや顔認証システム、保安警備業務、防犯機器の市場調査結果など、さまざまな最新情報を学ぶことができます。第7回JEAS講習会は7月14日に「必須の基礎知識習得」のテーマで開催予定です。聴講をご希望の方はJEAS事務局までご連絡ください。

私は警備の現場や各種会議などを通じ、警備業の皆さまから保安警備に関する多くのことを学んできました。当協会の特別会員である全国警備業協会や、会員のセコム、セフトHD、ゴジョウ・ウェイズ、日本保安、JSSなど警備会社との連帯は今後も不可欠と感じています。