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警備業ヒューマン・インタビュー
――全警協表彰警備員⑥2023.02.21

大野提亮さん(ALSOK岡山支社)

事故負傷者止血、交通誘導も

ALSOK岡山支社の大野提亮さんは2021年7月22日、岡山市内で商業施設からの非常警報を受けて社用車で急行中、自転車の男性が車にはねられるのを目撃。負傷した男性を安全な場所に移して止血処置を施し、事故現場で交通誘導を行って二次災害を防いだ。

<<警備先へ駆け付ける途中、事故に遭遇しました>>

私は機械警備隊員として、施設などからの非常警報、ATMの故障などに緊急対応して7年になります。

その日の午前11時過ぎ、待機所から非常警報を発する施設に向かって3輪バイクで走っていた時でした。県道で自転車の中年男性が無理な横断をしようと飛び出し、私の前を走行する乗用車に衝突、激しく跳ね飛ばされたのです。

道路の左端にバイクを止めた私は、転倒した男性の様子を確かめました。声を掛けると返事があり意識ははっきりしているようですが側頭部からの出血が激しく“直ちに救護しなければならない”と判断しました。

立ち上がろうとしてよろけた男性を支え、周囲の状況に注意し安全な歩道上に移動しました。事故車のドライバーは気が動転しており、私が携帯電話で119番通報しました。続けて当社ガードセンターに事故の状況を報告すると、対象施設には他の隊員が急行するので人命救助を行うようにと指示を受けたのです。

<<救助活動に専念できました>>

男性の頭部からは血がだらだらと流れています。私は訓練で学んだ「直接圧迫止血法」を試みました。ハンドタオルを折りたたみ傷口に強く押し当て「すぐに救急車が来ます」と励ましました。

県道は交通量が多く、事故車や倒れた自転車による二次災害を防がなければなりません。圧迫して数分、出血が治まってきたので、私は事故車のドライバーと協力し追突防止の三角表示板を設置したうえで交通誘導を行いました。

通報から10分ほどで救急隊が到着し男性は病院に運ばれ、命に別状なかったと聞き安堵しました。対象施設には他の隊員が駆け付けて対応し、問題ありませんでした。

<<今回の経験で感じたことは>>

日頃から手厚い教育訓練を受け、心肺蘇生法などの知識と実技を身に付けていたことで、落ち着いて行動できたと思います。

入社3年目の時、警備先へ駆け付けると火災が発生しており消火器で消し止めた経験などはありますが、今回のように対象施設に到着する前に緊急事態に遭遇したのは初めてでした。どんな時も冷静に最善の行動がとれるよう、社内の教育訓練や業務を通じて自分を磨くことが大切だと実感しました。

<<全国警備業協会の会長表彰では、同じALSOK岡山支社の機械警備隊員・樋口竣介さんも感謝状を贈られています>>

樋口は私の1年後輩で、私の救命活動から7か月ほど後に岡山県玉野市内で起きた交通事故の負傷者を助けたのです。業務の担当エリアは違いますが時折、電話やメールをして親しくしています。

昨秋、全警協創立50周年記念式典の中で私も樋口も表彰状を頂けると聞いて「すごいなぁ、緊張する…」などと互いに話し、表彰式に臨みました。

職場では表彰の新聞記事を飾っていただき、誇らしい気持ちになりました。家では妻から、いつにない褒め言葉をもらったものです。

<<警備業界は若手の人材確保が課題の1つです。どのような理由から警備業を選んだのですか>>

私は小・中・高・大学と柔道を続けてきて「人を守る職業に就きたい」という思いを持つようになりました。オリンピック選手が出演する当社のCMを見て安全安心を守る業務に関心を持ち、入社したのです。

機械警備は、お客さまの鍵を預かる重責を担います。覚える事柄も幅広く、さまざまな対応が求められます。強い緊張感、プレッシャーで“しんどい”と感じた時もありますが、お客さまから寄せられる感謝の言葉は非常に嬉しく、達成感を得ることができます。より多くの若い人たちが警備業界に入ってほしいと願っています。

母校の岡山商科大学柔道部に出向いて、就職について考えている後輩たちに「警備員は社会に欠かせない存在で、やりがいのある仕事だよ」と説明しています。教育体制が充実していることや、ALSOKグループが毎年「綜合警備連盟柔道大会」を開催し私も出場したことなどを伝えたところ、これまでに後輩が5人ほど入社し、ともに業務に励んでいます。

今後は警備員指導教育責任者の資格取得を目標に自分の可能性をより広げていきたいと考えています。

警備業ヒューマン・インタビュー
――全警協表彰警備員⑤2023.02.11

松田浩二さん(ワールドセキュリティーサービス)

高速道路 逆走車!止めた

ワールドセキュリティーサービスの松田浩二さんは2022年6月10日午後10時35分、西名阪自動車道の香芝インター(奈良県香芝市)付近の上り車線で交通誘導警備業務に従事中、「進行方向から逆走する普通自動車が向かっている」との連絡を受けた。松田さんは大型トラックの協力を得て走行道路を塞ぎ、逆走車を停止させることに成功。急行した奈良県警に現場を引き継いだ。

<<夜間の高速道路はスピードを上げて走行する大型車両が多く、危険な状況です。逆走車をどのようにして止めたのですか>>

私はその日、2車線の高速道路工事現場で交通誘導警備業務を行っていました。1車線を道路の施工作業のため規制し、規制帯へ入退場する工事車両を誘導する業務です。

現場の責任者である施工管理業者から「逆走車がそちらに向かっています。対応は可能でしょうか」と電話連絡を受けました。私は、部下である3人の隊員に逆走車が近づいている旨を無線で伝え、直ちに安全を確保できる決められた配置につくよう指示しました。

高速道路の交通誘導警備を始めて16年になりますが、逆走車に対応する経験は初めてでした。一瞬とまどいましたが、正面衝突という最悪の事故を防止するために巡行で通行する車両に停止を求めることにしました。

私は規制帯の最先端に移動し、通行車両が来るのを待っていると、隊員から「大型トラックが通行します」と連絡がありました。私は隊員全員に「トラックに減速するよう身振りで伝えてほしい。後続車両にも追突を防ぐため同様の合図をするように」と伝えました。

<<緊迫した状況下での判断と指示でした>>

大型トラックが時速20キロメートルぐらいで近づいてきたので、規制帯横への停止を求めました。停止後、窓から60歳ぐらいの男性ドライバーが顔を出したため状況を伝え、逆走車の衝突を防ぐためのハザードランプ・ヘッドライトのハイビーム点灯をお願いしました。後続車がトラックの後ろに止まり、増えていきます。

間もなく逆走車のヘッドライトが見えました。「時速40キロメートルぐらいで走行する軽自動車」と確認でき、警笛と誘導灯を使って減速を促し停車させることができました。窓をたたいて合図を送ってもドライバーは窓を開けません。ドアを開けるとドライバーは高齢で、逆走していることを伝えても状況を理解できていないようでした。規制帯の中に車両を引き込んだところで奈良県警の高速道路警察隊員が到着し、引き継ぎました。後で警察から聞いた話では、ドライバーは90歳くらいの高齢者だったそうです。

<<これまでにも高速道路の交通誘導警備を行う中で、不測の事態に遭遇したことはありましたか>>

9年ほど前、名阪国道の規制車線で交通誘導警備業務を行っていたところ、通行車両が規制車に追突する事故がありました。規制車がなかったら規制帯に突っ込まれるところでした。高速道路が現場の仕事ですから予期せぬ状況に遭うことは常に意識して業務に就いており、何より自分の身の安全を念頭に置いていることは妻や息子にも伝えてあります。

毎年1月と8月には高速道路の交通誘導警備員を対象に、不測の事態に備える実地訓練を行っています。場所を借りて高速道路に見立て、実際に規制車両を配置し、車両が突っ込んできた際の回避の仕方などを確認しています。

今回の逆走車の事案については全警協からの表彰のほかに、昨年6月に近畿管区警察局広域調整部高速道路管理官からも感謝状を授与いただきました。そのとき管理官の方から「重大事故が起こらないように対応していただき感謝しています。今後はくれぐれも受傷事故を負わないよう自分の身の安全を第一に考えてください」との言葉がありました。私も職場の同僚や部下に「身の安全を第一に」と強く伝えています。

<<気の緩みが許されない仕事です。休日はどのように過ごしているのですか>>

私は体を動かすことが好きで中学校、高校は野球部でセカンドを守っていました。今はケガをしたり疲労をためて勤務すると危険なので仲間と月一回のゴルフを楽しんでいます。広いコースに出ることが息抜きにもなっています。

当社には「釣り部」があって皆で海釣り、川釣りを楽しみ、懇親を図っています。オフの時間は神経を緩めて楽しみ、生活にメリハリをつけることが安全確保につながると感じます。

警備業ヒューマン・インタビュー
――全警協表彰警備員④2023.02.01

出村雅敬さん(近鉄ファシリティーズ)

飛び降りる! 女性を説得

出村雅敬さんは2022年3月3日午後8時45分頃、大阪市天王寺区内の13階建てビル屋上から飛び降りようとしている40歳代の女性を、説得しながら慎重に近づき救助。通報で駆け付けた警察官に引き継いだ。

<<目の前で女性が飛び降り、命を失うところでした>>

私が施設警備を担当しているビルの警備室にいると、屋上の扉のセンサーが発報しました。定期巡回するコースでしたが通常発報する場所ではなく、不思議に思いながら確認に向かいました。

現場に到着すると閉まっているはずの扉が開いています。私は設備担当者に無線連絡して工事関係者などが通行していないか確認しました。「特にその予定はない」との返事だったので、警備室に連絡してから屋上に出ました。

暗がりの中、屋上の隅に人影が見えたので息を潜めて近づくと、女性がコンクリートの手すりから上半身を乗り出している状況が確認できました。私は「この人は飛び降りようとしている!」と直感し、距離をとり刺激を与えないよう優しく「どうされたのですか?」と声掛けしました。

<<こちらの対応を間違えると、取り返しがつかないことになる緊迫した状況です>>

私はまず警備室に無線連絡し警察への通報を要請しました。それから女性が動くと立ち止まり、声掛けしながら慎重に距離を縮めていくと、その方はセーターにロングスカート、小柄であることを確認できました。

女性は「誰も私を構ってくれない、生きていても仕方がない」と訴えたので、「そんなことはない、落ち着いてください」と説得しながら一歩ずつ近づきました。あと3メートルぐらいまで迫ったところで駆け寄って女性を引き寄せ、無事に身柄を確保しました。

丁度そのとき設備担当者が屋上に駆け付け、私と2人でエレベーター近くの安全な場所まで女性を運び、到着した警察官に引き継ぎました。

<<こうした局面での対処については、社内の現任教育などで学んでいたのでしょうか>>

具体的な局面は想定しませんが、緊急事案が発生したときの連絡など対処方法については、ロールプレーイング(役割演技)を交えて訓練していました。

今回の事案の教訓として、自分の身に危険が及ばないように気を付けることは大事ですが、怖がらずに一歩踏み込む勇気も必要と感じました。事態が悪い方に行かないように慎重に考え判断を間違えない事が大切で、今後の警備業務でも心掛けたいと思います。

私は警備員の仕事を始めて12年になります。友人の紹介で当社に入社しました。それまでは百貨店の外商部で営業の仕事をしていました。企業や個人のお客さまの元に出向いて商品を販売する業務です。

若い頃から人と話をすることが好きで、営業の仕事も苦にならず楽しくやらせてもらいました。今回表彰を受けた事案も含めてさまざまな人間模様を目の当たりにし、この歳で改めて人生勉強をさせてもらっています。こうした経験は警備員だからできるものだし、この仕事に就けてよかったと思っています。

施設警備の業務は日々さまざまな人と顔を合わせるサービス業と捉えています。施設のテナント(入居店舗)から連絡を受け、万引き犯を拘束したり未然防止することもこれまで15回ほどありました。

<<出村さんは何事に対してもプラス思考で、人生を楽しんでいるように見えます>>

仲間と行く練習を含め月4回のゴルフと月1回のカラオケは欠かせません。特にゴルフ歴はもう30年近くになります。中学時代はバドミントン部で、県大会でベスト8まで行くほど熱中しました。今でも体を動かすことは好きです。

<<全警協の模範警備員表彰の他にも表彰を受けたのですか>>

大阪府警・天王寺警察署長と当社社長から3月、大阪府警備業協会会長から5月に表彰いただきました。

家内は「あなた、すごいことしたんだね」と驚く一方、「成り行きによってはあなたの身も危なかったかもしれない」と注意深く事に当たるよう言われました。

職場の同僚からは「私だったら足がすくみます」「怖くなかったですか」などの声が多かったです。確かに今思い返すと、身柄を確保したときに暴れて一緒に落ちる可能性もあり身が縮む思いです。その時は助けたい一心でした。

警察から後日、女性の家族の方より「警備員の人にお礼を伝えてください」と伝言を頼まれたと聞きました。生きていればいろいろありますが、今は元気に暮らしていることを願っています。