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警備業ヒューマン・インタビュー
――若者の定着2024.12.21
長田健太郎さん(ギルド 代表取締役)
気の合う仲間がいる
<<2号警備専業で過半数が若い世代という隊員構成はどうやって実現したのですか>>
当社の警備員は20〜30代が5割以上、50代以上が3割弱、平均年齢は45歳という構成です。2号警備といえば、若者から敬遠されがちで、高齢の方が交通誘導に当たっているという印象かもしれませんが、所属する若い隊員の大半は好んで警備の仕事に就いています。学生など若い人の中には、自分の好きなスポーツや文化・芸術活動、アルバイトに打ち込んできた人もいます。交通誘導警備やイベント警備の経験があるなら、当社にとっては歓迎すべき人材です。そういった人が集まることで、“気の合う仲間がいる職場”が形成されます。
当社の商号「ギルド」には、中世ヨーロッパの同業者組合という意味がありますが、若者になじみのあるロールプレイングゲームに登場する冒険者が仲間を募るために登録する組織に由来します。それが内勤者も警備員も同じ志で仕事に取り組むという社風に表れています。
<<どうすれば隊員の満足度は上昇しますか>>
まず、2号警備専業の会社で陥りやすい年間の業務の繁閑差が大きくならないよう、仕事や取引先を厳選しています。繁閑差の要因となる公共工事関連の警備業務に頼り過ぎず、季節変動の少ない業務を受注するよう営業しています。受注している業務は交通誘導警備が中心で、イベント警備など雑踏警備は全体の2割前後です。どの取引先とも売上高の10%を超えないなど、バランスを意識して経営しています。
隊員から「あのイベントの警備がしたい」などの要望が出ると、営業担当者も希望をかなえようと、仕事を取ってきます。地方で開催される全国的に有名な花火大会や、プロ野球のローカル開催試合などのイベント警備が予定に入ると、隊員は主業である日々の交通誘導警備の業務も意欲的に取り組んでくれます。それが定着につながっています。
隊員たちが気分よく働くことで警備現場は明るくなり、取引先と隊員の関係も良好になります。結果的に顧客満足度も上昇すると考えています。
従業員の処遇は、営業拠点がある都県の中で最も高い東京都の最低賃金を下回らないことを前提に、新人の日給を9500円に設定しています。他社と比べて特別に高いわけではありませんが、日給1万2000円の隊員も多数います。従業員の満足度は、金銭以外の面でも見える形で還元することで上昇していると考えます。
<<従業員の満足度上昇のためにどのような取り組みをしているのですか>>
例えば「体を動かそう会」というスポーツ活動を月に2回は開催しています。
当社には福利厚生の一環で独身寮があります。そこで暮らす若い従業員は、同世代同士でゲームをしたり旅行に出掛けたりと、プライベートでの交流が活発です。従業員が喜ぶ福利厚生を突き詰めた結果、スポーツ活動に至りました。部員を募って活動していますが、部員以外でも興味がある企画の時だけ飛び入りで参加することもできます。
埼玉をはじめ、茨城や群馬、栃木と各拠点の内勤者が持ち回りで球技や軽めの登山などを企画するので毎回、場所を変えながら開催しています。スポーツの後は現地の観光や慰労会を兼ねた食事会を催します。費用は会社の負担です。
隊員には年配者で独身の人もいます。おせっかいかもしれませんが、会社で誕生日や季節の行事にちなんだ食事会を開き、バランスの良い手作り料理を提供しています。作った料理はSNSで紹介します。従業員への還元が社会への還元につながると考えます。隊員一人ひとりに向き合い、満足度を上昇させることが私の役目です。各拠点の内勤者たちも私の方針を理解し、協力してくれています。
<<2号以外の警備業務を手掛ける考えはありますか>>
引き続き2号警備を柱に、顧客のニーズに応えながら「地域になくてはならない会社」を目指します。社内では1号警備に進出するべきか2、3年おきに議論になりますが、誰も賛同しません。2号警備業務の取引先を大切にしながら提供するサービスを充実させていくことに注力しつつ、業務の拠点を増やすなどして交通誘導警備業務とイベント警備業務の経験値を伸ばし、従業員と共に成長していきたいです。警備業法に基づき、いつでもどこでも、どんな警備業務でも最善を尽くし、そして地域に根付いた会社を目指します。
警備業ヒューマン・インタビュー
――長野から挑戦2024.12.11
小池博士さん(アンゼン産業 代表取締役社長)
警備品質はバランス
<<警備業界に入って15年になります>>
父親が縁あって譲り受け、社長をしていたアンゼン産業に2009年、入社しました。アミューズメント関係の仕事をしていた時に駐車場の警備を依頼したことはありましたが、業務のことは分からなかったです。実際にやってみると奥が深いことを感じました。
警備の品質というのはなかなか見えないところがあり難しさがありますが、「お客さまサービス」と「安全を守る」という、相反する部分のバランスを取ることが品質だと思っています。お客さまの要望だけに応えていると危険なことも起きますし、「だめです、だめです」と言い続けていたらサービスではなくなってしまう。
常に正解がない中、最適解を考えて取り組んでいくところにやりがいを感じます。
<<2022年に代表取締役社長に就任しました>>
私一人でやれることは限られていて、皆さんの力を借りて成り立っているので、感謝とリスペクトを大切にしています。
弊社は2号警備がほぼ100%。平日は交通誘導、土日は行楽地の駐車場やマラソン大会の警備などをしています。私も現場を経験しましたが、暑いのは比較的得意な一方、寒いのが若干苦手でした。冬はヒーターベストを全員に支給するなど、経験を踏まえて装備品を整えています。
新任教育、現任教育の時に話をすることがありますが、「まずは自分の身を守って下さい。けがをしてでも安全を守るということではありません」と言葉を掛けています。
<<今年の秋に、長野県内の警備会社で初めて、KB―eye(山梨県昭和町)のAI交通誘導システムを導入しました>>
(KB―eye共同代表の)秋山一也さんとは、同じ検定講師として知り合い、交流を深めていく中で「2号警備の再定義・付加価値創出」「労働災害の撲滅」など共感できる部分が多く、導入を決めました。弊社の挑戦はまだ始まったばかりですが、警備業の発展に寄与できればと考えています。
<<警備業界では課題が山積しています。どのように受け止めていますか>>
警備という仕事の社会的な価値や地位を上げていくことが求められていると思います。一部ですが、「警備の仕事をやっていることをあまり知られたくない」「自宅の近くで仕事をしたくない」という人もいます。待遇の改善はもちろんですが、社会、一般の方たちに警備の仕事をアピールしていくことが大事だと感じています。警備員であることを、胸を張って言えるようにしていかなければなりません。
<<長野県警備業協会の青年部会に21年の設立時から所属し、幹事(事務局)を務めています>>
仕事ではライバル関係で、会社の状況も違いますが、自由闊達に話ができる場所になっています。気持ちよく参加してくれる方たちばかりです。仲がいいので、話がしやすく、相談がしやすいです。
青年部会ではSDGs(持続可能な開発目標)の勉強会を重ねています。企業がSDGsに取り組むことは当たり前の流れになってきていて、就職活動をしている学生さんに話を聞くと、就職先を選ぶ一つの基準になっています。SDGsというと構えがちになってしまいますが、勉強会を通じて、「効率よく仕事をする」「会社のごみを削減する」「相手を思いやる」といった日常のことがつながっていることを学びました。弊社としてもSDGsへの挑戦を続けていきます。
青年部会の活動は、今までどちらかというと、内向きというわけではありませんが、勉強の場でした。これからはもっと、外部に発信していくことが必要ではないかと考えています。どういう方向に青年部会が向かっていくか、私たちも模索しているところがありますが、期待に応えられるようにやっていきたいと思います。
<<青年部会では女性も活動しています>>
いい意味で目線や切り口が違っているので、本当にありがたいです。警備の現場で困っていることや働く時間の考え方など、男性目線では気付かないことを教えてもらっています。
<<仕事のオンとオフでバランスを取っています>>
家族と一緒に美術館へ行ったりしています。一人でドライブを兼ねて、東京へ芸術鑑賞に行くこともあります。仕事はどちらかというと理論的に進めなければいけないので、オフのときは感覚的なものに触れたくなります。
野球、サッカー、モータースポーツの観戦や、最近乗れていませんが自転車も趣味です。
警備業ヒューマン・インタビュー
――警備用ロボット2024.12.01
松井健さん(ugo 代表取締役CEO)
「腕」でエレベーター操作
<<警備用ロボット「ugo(ユーゴー)」が話題を呼んでいます。開発に踏み切ったきっかけは?>>
「ugo」は「人とロボットの『融合』で社会を豊かにすること」を目指し名付けました。社名も同じugoです。
2018年の創業当時は警備用ではなく、家事代行を行う家庭向けロボットの開発を考えていました。「国内の労働生産性を上げるためには家事負担を減らす必要がある」と考えたからです。
しかし家庭ごとにロボットの稼働スペースは異なり、家具の配置も違うことから技術的に難しい。また一般家庭では導入コストが高額すぎるなどの問題があり、行き詰まってしまいました。
そんなとき、家事代行ロボットに装備する予定だった2本の「腕」に目を留めたビル管理会社の方から「腕でエレベーターのボタンを押せないだろうか。ロボットがフロアを移動できれば活用の幅が広がる」とのアイデアをいただきました。それがきっかけで、ロボットは「巡回警備の用途で自動化する」方向に舵を切り、提案があったビル管理会社と一緒に実証実験を進めました。
そして2021年に多くの機能を備えた「ugo Pro」が完成。その後、DIYモデルの「ugo Ex」、見回りに特化した「ugo mini」と開発し、使用目的に応じた3機種のラインアップとしました。
おかげさまで現在、警備用ロボとして国内1位のマーケットシェアとなっています。今年9月の「第11回ロボット大賞」(主催=経済産業省など)ではビジネス・社会実装部門の優秀賞を受賞しました。
<<「ugo」は、どのように活用されていますか>>
「巡回業務」ではSLAM(自己位置推定機能)による自動巡回を行っています。エレベーターを操作し、階をまたいだ巡回が可能です。「立哨業務」は不審者や不審物がないか360度の全方位カメラで監視します。警備本部などから遠隔での声掛けや問い合わせ対応も可能です。
今年6月には行動認識AIのアジラ(東京都町田市、尾上剛代表取締役CEO)と業務提携しました。アジラのAI警備システム「AI Security asilla」がugoのカメラ映像を通して施設内の状況を自動監視。迷惑行為や侵入行為、転倒者などを検知した際に警備員に通知することができます。
導入実績としては、全国のビル管理会社などで警備業務に活用されています。品川シーズンテラス(東京都港区)などのオフィスビル、セントラルパーク(名古屋市)などの商業施設のほか、データセンターや美術館にも導入しました。データセンターや発電所の点検業務にも活用されています。
導入にあたっては初期費用はかからず、リースとレンタルの月額払いで提供します。「ugo Pro」は人件費の約半額、「ugo mini」は約3分の1の料金設定です。
<<松井CEOはもともとロボット開発に興味があったのですか>>
私は自分が実現したい社会課題を解決する手段として会社経営をしています。ugoで3社目の起業となります。
大学を卒業してシステムエンジニアを経験したあと、スマートフォンやウェブなどのITシステムを開発する会社を共同で立ち上げました。2社目はシステムを暮らしの中で使うため物と物をインターネットでつなぐ「IoT機器」の製作会社を創業。3社目は固定ではなく移動できるロボットを開発する会社を設立したのです。
<<今後は「ugo」をどのように展開させていきますか>>
警備現場で働く方々のノウハウをさらに先進技術と融合させ、警備用ロボットを進化させていきたい。そして警備業務の生産性を上げたり、安全・安心を高めたり、雇用率・定着率をアップさせる道具として使ってほしい。それは、新しい「警備の型」として浸透させたいと思います。警備業をはじめ多くの業種で人が足りない状況が続いていますが、ピンチをチャンスに変え業界を発展させることを警備業界の皆さんと一緒にチャレンジしていきます。
日本は少子高齢化を世界で最初に経験する国です。労働力不足の課題解決のために作り出した新しい「警備の型」は国内で広げるだけでなく、海外に輸出するところまで実現させたいと思います。