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警備業ヒューマン・インタビュー
――全警協表彰警備員②2020.12.21
荒井美和さん(三越伊勢丹アイムファシリティーズ)
保安警備30年「天職です」
荒井美和さんは、2006年からデパートで保安警備に従事し、店内の治安維持と万引き犯罪の防止、一般人による「私人逮捕」に努めている。
<<警察署長から長年の功績に対して感謝状を授与され、全警協からは模範警備員表彰を受けました。おめでとうございます>>
ありがとうございます。今年は私が保安警備に携わり30年の節目に当たり、記念の年に表彰状を頂いて幸せに感じています。
<<現在はどのような業務を行っているのですか>>
三越銀座店(東京都中央区)の警備部員リーダーとして、男性制服警備員と私服警備員の合計40人の仲間をまとめています。主に保安警備員の指揮や勤務管理、万引き事件の書類作成といった内勤業務を担当しています。近ごろは店内を巡回することは少なくなりましたが、犯行を検知する感覚を鈍らせないように、時間があればできるだけ見回るようにしています。決まった日時に来店する万引き常習者がいれば、それに合わせて店内で待ち構えたり、売り場からの要請を受けて警戒することもあります。
<<2010年から19年までの10年間で116人の万引き犯を逮捕したことが評価されました>>
逮捕件数を追い求めることはしていませんが、警察の方から「どうして婦警にならなかったのですか」と言われたこともありました。自分でも“天職”に就いたと思います。
始めたきっかけは19歳の時に、アルバイト情報誌を手に取ったことでした。保安を専門に手掛ける警備会社の「万引き犯を捕まえるため一日中店内を巡回する仕事です。土日休みではありません」という募集を見て、休日数など気にせず体を動かして働きたかったため応募し、採用されました。
<<初めての現場はいかがでしたか>>
万引き件数が多い大型雑貨店でした。同僚の警備員は成果を上げているのに、私は全くできず、落ち込んでいるところを先輩になぐさめてもらう毎日でした。万引き行為を発見できなかったのです。
ある日、思い詰めて泣きながら会社に「辞めさせてください。これ以上は続けることができません」と電話しました。すると上司が家を訪れ「せっかく入社したのだから技術を身に付けないともったいないよ。退職はそれから考えてみては」と諭されました。私もその通りだと思って続けることを決めました。
<<そこからどうやって気持ちを切り替えたのですか>>
しばらくして、店内で万引き行為を発見しました。初めてのことだったので、声を掛けて「盗んでいません」と返されたらどうしようと思うと怖くて足がすくみました。それでも勇気を振り絞って声掛けして対処したところ、現行犯で「私人逮捕」できたのです。それから少しずつ成果を上げられるようになりました。
<<万引防止や逮捕の特別なノウハウはありますか>>
品物を隠しやすい口の大きく開いたマイバッグやかばんを持っていて、購入する気がなさそうなのに売り場を何度も往復して周囲を見回すなどの怪しい行動をしている人がいれば、注視するといった基本を守っています。常習犯の顔や特徴を覚え込むことも欠かせません。
結果が出るようになってからも、辞めたいと思うことはありました。その時は店舗スタッフからの「万引を防いでくれてありがとう」という感謝の言葉を思い出し、お店のために頑張りたいと考え直すことができました。
<<現在の職場は日本の商業地を代表する銀座の老舗百貨店です>>
店舗の品位を保つため端正な装いをしつつ、買い物を楽しんでいるお客さまに緊張を与えないように「固すぎず、緩すぎず」といった身なりを心掛けています。
コロナが拡大する前は政府がインバウンドに力を入れている影響から、ここ数年で外国人客が急増しました。店舗内のお客さまの数が格段に増えたため、これまで以上に集中力を保って業務に当たっています。
<<コロナ禍で生じた業務への影響は?>>
店舗は緊急事態宣言発出から5月末まで休業したため、警備スタッフは交代での勤務となりました。営業再開後は来店者全員がマスクを着用しており、ほとんどのお客さまが大きなマイバッグを所持しているので、常習犯を見つけることが難しくなりました。
万引犯を見つけにくい状況となっているため、以前よりも注意力が求められるようになりました。保安スタッフ全員で協力して、万引被害の防止に貢献したいと思います。
警備業ヒューマン・インタビュー
――全警協表彰警備員①2020.12.11
円谷裕美子さん(キステム)
事故現場の「救護リーダー」に
全国警備業協会(中山泰男会長)は11月12日に都内で開催した「警備の日・全国大会」で、顕著な功労があった「模範警備員」13人(8事案)を表彰した。当欄では、表彰者をシリーズで紹介する。
1回目の円谷裕美子さんは、勤務場所の工事現場に自動車で向かう途中、交差点で乗用車と人の交通事故に遭遇。周囲の人に協力を求め負傷者を救護、交通誘導を行って二次災害を防ぎ、到着した救急隊に負傷者を引き継いだ。
<<警察署長から工事作業員の方2人とともに「素晴らしい判断と行動力」と感謝状を授与され、全警協からは人命救助の功労で模範警備員表彰を受けました。おめでとうございます>>
ありがとうございます、立派な表彰状を頂いて恐縮しています。
私は5月21日の朝、電話工事用の高所作業車2台と計3台で茨城県日立市内の現場に向かう途中、T字交差点で交通事故を目撃しました。高齢の女性が横断歩道を横断中に乗用車に巻き込まれ、片手をタイヤの下にはさまれた状態で意識を失っていました。
運転手も高齢の女性で、乗用車から降りて呆然と立っていました。近くに携帯電話を手にしている人がいたので緊急連絡済みかと思ったのですが、気持ちが動転しているようで「指が震えて電話ができない」とのことでした。私はすぐ、同行していた工事作業者に救急車要請を指示しました。
<<どのように負傷者の安全を確保したのですか>>
私は負傷者を救護するために、運転手と携帯電話を手にした人、作業者の4人で乗用車を持ち上げようとしましたが、重くてビクともしません。そこで通りかかったトラックを止め、運転手に事情を話して力を借り、ようやく車体を浮かせることができました。
私がタイヤの下から注意深く負傷者を引き出したところ、意識が戻ったようで「痛い、痛い」と声をあげて訴えました。私は負傷者を安全な場所に移動させたあと、意識が遠のくと危険と判断し、近くにいた女性に「意識がなくならないように声掛けを続けて下さい」とお願いしました。
そこはスーパーマーケット駐車場の入り口近くで、交通量が多い場所でした。私は救急車が到着するまでの約20分間、買い物にきた車両を別の入り口へ迂回させる誘導を続けました。駆け付けた救急隊に引き継ぎ、負傷した女性は病院に搬送されました。あとで命に別状がなかったと聞いたときはホッとしました。
その日の電話工事はあらかじめ、5〜6軒のお宅で実施する予定が組まれていました。お客さまを待たせるわけにはいきませんので、私たちは気持ちを切り替えて通常通りの業務を行いました。
<<切迫した状況の中で、冷静沈着に救護のリーダー役を果たしました>>
そのときは、とにかく夢中で行動しました。当社の警備員は現任教育や勉強会で、「交通事故の対処」や「二次災害の防止」についてどのような行動をとればよいか、詳しく学びます。事故現場で私はそれを、無意識のうちに実践していたようです。
私はこれまでにも現場への移動中に2回、交通事故を目撃しています。負傷者の救護や道路の危険防止に対処できるよう、知識を得ておくことは大切と思います。
<<交通誘導警備業務に就いて、長いのですか>>
現在、7年目になります。通行する人や車両など周囲から常に見られている仕事ですから、服装や言葉遣いには常に気を配っています。人の生命を含め安全を担っている業務であることを意識し、気を引き締めて業務にあたるよう心掛けています。
<<表彰について、ご家族からはどんな声がありましたか>>
表彰を受けたことを周囲に話すことは自慢するようで嫌だったので、子どもだけに話したところ、「お母さん、よかったね」と喜んでくれました。地元の新聞に大きく紹介されてしまったことから親戚からも電話があり、「良いことをしたのに、どうして教えてくれないの」と叱られてしまいました。
私の母親は今年、体調を崩して療養していました。「喜んで元気になってくれるかな」と思い、表彰を受けたことを報告すると、もう言葉は帰ってこなかったですがニコッと笑ってくれました。それから間もなく78歳で亡くなりましたが、最期によい報告ができて「警備員の仕事に就いてよかった」と改めて感じました。
警備業ヒューマン・インタビュー
――病院警備2020.12.01
花田剛祐さん(日章警備保障 専務取締役)
感染対策の徹底、心のケアも
<<コロナ禍と懸命に闘っている複数の総合病院で警備を続けています>>
私が勤める日章警備保障は、首都圏にある9つの総合病院で警備を行っています。そのうち都内と埼玉県内にある4つの救急指定病院が新型コロナウイルスの感染者を受け入れているのです。この4病院の警備隊の人数は合わせて40人余りで、基本は24時間勤務です。私は各病院の警備隊を統括しています。
警備員は、感染リスクと隣り合わせで業務を行っています。PCR検査で陽性の判定を受けて自宅待機していた人の病状が急変し、救急搬送されてくることがあります。その度に警備員は防護服で全身を覆い医療用のN95マスクを付け、他の来院者や入院患者が接近しないよう注意喚起して“対人距離”を確保しつつ、患者を搬送するストレッチャーを先導します。
<<感染を防ぐ装備はどのようなものですか>>
防護服とN95マスクは病院から支給され、警備員は感染者の救急搬送時など原則として感染が確認された人に対応する際に着用します。通常の受付業務や院内の巡回警備では、マスク、フェースガード、ゴーグル、使い捨ての手袋、消毒スプレーで身を守っています。
病院内はゾーニング(感染・非感染の領域で分離)され、来院者は入館する時にサーマルカメラで検温されます。発熱している人は、専用の経路を通って専用の診察室へ入るよう警備員が案内します。
感染者の病棟は巡回警備のルートから外され、警備員は近づきません。しかし、夜間の救急外来に救急車を使わない病人や怪我人が訪れた場合、最初に対応するのは警備員です。非接触の検温で発熱の有無や症状を確認した上で、どの科の医師に連絡すべきか判断します。感染リスクを完全になくすことはできない環境なのです。
<<業務を続けていく上で重要なポイントは何でしょう>>
病院と連携した感染対策の徹底とともに、隊員の家族が抱く「お父さん、大丈夫?」などの不安感を少しでも減らすことが、勤務の継続につながると思います。当社は、各病院の近くに隊員のために日用品をそろえたアパートを借りて、感染リスクを自宅へ持ち帰ることなく体を休めることができるようにしています。給与には「危険手当」を上乗せします。
心のケアも欠かせません。今春、感染が拡大した時に病院への出勤を拒む隊員が出るのではないかと心配しました。しかし、そうした隊員は1人もいませんでした。当社の小林多喜社長は日ごろから「強い責任感で勤務する隊員の心身をケアし、支えなければならない」と指示し、管理職は現場の意見を吸い上げています。専任のメンター(支援者)である女性社員が隊員一人ひとりと面談、現場での悩みごとなどを聞きとり、会社として把握し問題解決や改善も図っています。全員の勤務継続は、そうした成果と思うのです。
<<最前線で働く警備員のために公的な支援は大切になります>>
「新型コロナウイルス感染症対応従事者慰労金」という厚生労働省の支援事業があります。これは、都道府県から感染者の受け入れなどを要請された病院などの医療従事者1人あたりに最大で20万円(10万円、5万円もあり)の慰労金が給付される制度です。
当社は、病院を通じて都と県に申請を行いました。申請した段階では、警備員が医療従事者と判断されるか分かりませんでしたが、申請は認められ9月から10月にかけて当社の病院警備隊の全員に1人20万円が交付されました。
隊員からは「医療従事者の一員として認められたことは嬉しい」との言葉がありました。中には、除菌を徹底しようと慰労金で自宅に空気清浄機を買った隊員もいるようです。
<<病院警備では、どのようなことが核となりますか>>
警備員のスキルと“豊かな人間性”によって安全安心を守り続けようとの思いです。私は各種の警備現場を経験しましたが、特に病院は、さまざまな事情を抱える方への対応が求められ、奥の深い業務であると実感しました。細やかな気配りが欠かせず、知識だけでなく人間性が大切になります。
警備員が感染症予防の意識を高く持ち、的確な業務サービスを提供するためには、会社が警備員を大切にすることが必須です。ユーザーの理解を得て適正料金を確保し、処遇や労働環境の改善を進めることが重要と考えます。
幸いなことに、当社警備員に感染者は1人も出ていません。今や感染防止を講じる警備は、特別なことではなく“日常”なのだと改めて認識しています。
コロナ禍の影響で病院経営は全国的に厳しい状況にあると聞きますが、社会に不可欠な警備業として今後も病院警備を継続していきます。