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警備業ヒューマン・インタビュー
――会社会長・連盟理事長2023.12.21

田中範弥さん(朝日管財取締役会長)

営業力で人脈広げて

<<岐阜県下呂市(旧萩原町)の出身で、卒業時の伝統行事「白線流し」で知られる斐太高校(高山市)を卒業されました>>

のどかな町で生まれ育ちました。斐太高校、白線流しは誇りです。白線流しは私の卒業後、ドラマ化もされて有名になりました。一生に一回しかできないものですし、年とともに思い入れが強くなり、自分がやったときのことを思い出します。

高校卒業後は東京の大学に進学しました。大学に行きながらアルバイトをしていました。喫茶店を皮切りに居酒屋、ホテル……。そこでコミュニケーション能力が培われたと思います。アルバイトを通じて他の大学、異業種の方々と知り合っていく中で、もっと人脈を広げたいという思いも強くなり、就職で営業職を目指すことの礎になりました。アルバイト仲間の何人かとは今でも付き合いがあります。

<<大学卒業後は東京の自動車販売会社に入社されました>>

営業の仕事に“根拠なき自信”を持っていました。車は形があるし、売りやすい。配属された販売店、エリアに恵まれたことで営業成績は良かったと思います。12年間の勤務では、本社の営業本部で管理職を経験することもできました。

スカウトや面談の機会があって、自動車販売会社から、コンサルティングセールスを取り入れている生命保険会社に転職しました。形のない商品の販売は難しく、うまくいくことばかりではなかったですが、チャレンジできて良かったと思っています。人脈を広げることもできました。

<<生命保険会社に8年間勤務した後の2004年、朝日管財に入社。ビル総合管理の会社で、警備業務では施設警備を主力にしています。未経験の業界に飛び込んだ理由は何だったのでしょう>>

自分を過大評価していたという反省もありました。人材紹介会社に登録し、新たなチャレンジができる仕事を探していたときに警備業に出合い、朝日管財を紹介されました。管理職で入社させていただき、担当は主に営業。今まで作った人脈を生かして、契約先の新規開拓をしましたし、既存のお客さまのところを足しげく訪問しました。営業に軸足を置き、売り上げを作ることに注力させてもらえたことはありがたかったです。警備現場の巡察や採用面接、経営に関わる資料作りに携われたこと、業界に名前と顔を売る活動ができたことも良かったです。

本来、業者同士はライバルなのに、警備業界は不思議と“ライバル感”がありません。一致団結して頑張っていこうというのを強く感じています。経営者同士がスクラムを組み、課題に向かっている姿を見る度にそう思います。

課題となっている警備員の地位や収入、定着率を上げていくためにはやはり、その原資となる契約単価を上げていかなければなりません。業界として取り組んでいますが、もちろん会社としても価格交渉、価格転嫁へのチャレンジを続けていきたいと思います。

<<取締役を経て2015年、社長に就任されたときはどうでしたか>>

身の引き締まる思いは当然ありましたし、品性、品格というものをより一層意識するようになりました。朝日管財というブランドイメージを維持して上げていくためには、“会社の顔”である自分がまず、襟を正さなければいけないと思ったからです。

会社では社長が実務、会長が渉外というような住み分けをしています。今年4月に会長になってからは、外に軸足を置いて仕事をしています。

<<東京都警備業連盟の理事長を2021年4月の設立時から務めています>>

業界を良くするために政治の力を借りることが連盟の仕事です。今年9月に連盟として開いたフォーラムでは驚かされました。このフォーラムは、連盟で行った会員アンケートの結果を元に、四つのテーマ(人材確保、警備料金、警備員の地位向上、入札案件)を抽出して、テーマごとにグループディスカッションするものです。ライバル感がなく、仲の良い業界といえども、参加した皆さんがどこまで本音を言って下さるのか不安でしたが、どのグループも活発に話し合ってくれて、困っていることも出てきて、非常に有効でした。課題はその場で解決はしませんが、解決のために連盟が何を目標にして、どこへ向かっていけばよいのかがよりクリアになりました。皆さんの声を吸い上げて、政治に届けることを続けていきたいと思います。

連盟の会員数を増やすことにも一層力を入れていきたいと思っています。

警備業ヒューマン・インタビュー
――全警協表彰警備員①2023.12.11

延永大空さん(愛媛綜合警備保障)

脅す男止め、再び表彰

全国警備業協会(中山泰男会長)は11月2日に開催した「警備の日」全国大会で、顕著な功労があった「模範警備員」13人(10事案)を表彰した。当欄では表彰者をシリーズで紹介する。

◇◇

愛媛綜合警備保障の機械警備隊員・延永大空さんは、今年2月12日に松山市内のうどん店で店員に暴言を吐いて脅迫していた容疑者の逮捕に貢献した。延永さんは2020年にも、小学校に侵入していた窃盗犯を取り押さえた功労により表彰を受けており、2度目の表彰に輝いた。

<<おめでとうございます。新たな功労は、オフの日の出来事でした>>

ありがとうございます。「警備の日」全国大会で、再び表彰状をいただけるとは思っていませんでした。

その日は休務日でしたので筋力トレーニングのためスポーツジムに行きました。私はアームレスリングの愛媛県選手として茨城国体、栃木国体に出場した経験があり、日頃の鍛錬に努めております。トレーニングを終え、行きつけのうどん店で夕食をとっていた午後9時半ごろ、今回の事案に遭遇したのです。

私が食事をしていると、酒に酔った中年男性が入店し、声高に何かを注文しました。若い男性店員が応対して「それは夏限定のメニューなので、お作りできません」などと答えると、その男は更に声を荒らげて無理な注文を繰り返したのです。困惑した店員が厨房に逃げ込むと、男も追って入り込み怒鳴っていました。

“顔を覚えた、家まで行くぞ”などの脅し文句、さらに身辺に危害を加えることをほのめかす言葉を浴びせ始めたことから“今すぐ止めなければ”との思いで私も急いで厨房に入りました。

<<その時に心掛けたことは>>

相手が、刃物などを所持している可能性も考えて警戒するとともに、刺激を与えないよう配慮することも意識しました。

私は身長175センチで体重が105キロあり、周囲から“威圧感がある”と言われます。その時はジムで鍛えた筋肉が熱を帯び、半袖シャツを着ていました。両者の間に割って入ったところ、男は怒鳴るのをやめました。

「どうしましたか」などと、なるべく穏やかに話し掛けながら店員を引き離し、それから、男に厨房を出るよう促してテーブル席に座らせました。まもなく店舗からの通報で警察官が到着し、その男は素直に応じて脅迫容疑で現行犯逮捕されました。

この店は、当社の機械警備を契約いただいているお客さまです。私が業務で駆け付けたことはありませんが「ALSOK」のロゴ入りポロシャツを着て何度も食事に行ったことがあったので、お店の方々は私の職業を知っていたようです。

後日、店長さんが当社を訪れ、身に余る感謝の言葉をいただきました。業務とは別の形で貢献できたことを嬉しく思います。

<<今回の経験で感じたことは何でしょう>>

事案は、いつどこで起こるか分かりません。警備業務以外でも、いざという時は場の状況を見極め、より的確な行動をとれることが大切だと実感しました。護身術など各種の訓練に取り組み、更に自分を磨かなければと思いを新たにしています。

<<ご家族からはどんな言葉がありましたか>>

私は男4人兄弟の末っ子です。両親と3人の兄に表彰を報告したところ、祝福の言葉と共に「けがなどしないように気を付けてほしい」と念を押されました。それは3年前、最初の表彰を知らせた時と同じ言葉でした。

次兄は自衛官で、私は高校生の時に「人を守る職業に就きたい」と考えるようになりました。進路選択の時期にALSOKのテレビCMを見まして、世の中を守る警備業に関心を持ち入社したのです。

<<日ごろは、どのように機械警備業務に取り組んでいますか>>

警報を受信して対象施設に駆け付ける時は、さまざまな状況を想定することに加え、最悪の事態もシミュレーションしながら急ぎます。侵入犯との格闘や呼吸困難に陥ったお年寄りの救命措置など、多くの経験を重ねました。ATMの障害対応、保険会社と連携した交通事故現場への駆け付けなどもあり、スキルアップが欠かせない仕事です。プレッシャーを感じる時もありますが、経験を積むと自信は確かなものになり、お客さまからいただく感謝の言葉は大きな励みにもなります。

また当社は、柔道部、剣道部、野球部などスポーツの活動が盛んです。20歳の時からアームレスリングを続けてきたので、会社が応援してくれることは非常にありがたいと感じます。

今後も業務を通じて地域社会の安全安心に貢献したいと強く思っています。

警備業ヒューマン・インタビュー
――高速道路に特化2023.12.01

水戸守一岳さん(株式会社エル代表取締役)

「1人何役できるのか」

<<福井県内で、2号警備の中でも高速道路に関連した業務に特化した事業を展開しています>>

当社は2号警備、とりわけ交通誘導警備を主体としてきた会社ですが、近年は自動車専用道を含む高速道での業務に特化した警備会社へと舵を切っています。

県内では中央道、東海北陸道および北陸道を連絡する高規格道路「中部縦貫自動車道」(延長約160キロ。長野県松本市〜岐阜県高山市、福井県大野市〜福井市)の県内区間の全面開通が2026年春に迫っていますが、高速道の業務では、交通誘導警備以外に「交通規制の設置・撤去」を行っています。従来、発注者である中日本高速道路(NEXCO中日本)やその関連会社が担っていた交通規制の作業が、2010年代以降は災害対策や老朽化対策に関連する発注が飛躍的に増え、人手が不足し「おたくは高速に交通誘導警備員を出しているし、高速道のこともよく知っているだろうから規制もやってくれないか」と誘われたことがきっかけで引き受けることになりました。元々県内に高速道の規制を担う警備会社はありませんでしたので、規制に必要な資格も自社の警備員が取得し、業務に臨みました。当社の売上高は9割以上が高速道での業務が占めるに至っています。

<<交通誘導警備1級が5人、2級は24人在籍しているとのことですが、警備業以外にどのような資格者がいるのでしょう>>

まず、高速道で必要な「保全安全管理者」が7人います。ほかに運転免許で大型特殊(一種)、車両系建設機械運転員(3トン以上)、高所作業車運転員(作業床10メートル以上)など、従業員35人の事業所ながら、1人で複数の資格をもつ従業員が多く、少数精鋭で業務に従事しています。

加えて、この冬からは除雪の仕事を始めようと考えていて、ホイルローダーなど除雪作業車を購入し、従業員も重機の免許を取得し準備しています。これまでは除雪作業の交通誘導警備として作業を支えてきましたが、警備も除雪作業も人の生命・財産を守る点で共通するので、手探りではありますが除雪作業そのものを担っていこうと考えています。

<<資格保有者を育てることが警備以外の有償業務の獲得、顧客の課題解決につながっています>>

建設業では重機オペレーターの高齢化や、若い人の離職対策が課題です。若手に資格を取らせても一人前になったところで辞められることもあると聞きます。そのような課題は警備業にも通じますが、離職を恐れて何もしないより、今できることを準備していきたい。警備員が重機オペレーターの資格を取ると、本人も会社も付加価値を高められます。値上げにはいろいろな理由や方法がありますが、商品やサービスの価値自体を上げることも一つです。お客さま側から見て、発注先が複数あるよりも、ひとまとめに1社に依頼できた方が、コストを下げられ喜ばれるのではないでしょうか。当方は複数の仕事を受けて売上が上がれば、双方ウィン・ウィンになると考えています。

人手不足の時代「一人何役できるのか」という視点が必要です。

<<人材が資源の警備業において優秀な若者の定着が理想です>>

今の従業員は若い年代ほどスキルを身に付けたいという意識が高いように見えます。

ただし、純粋にうちの仕事に役立てようということではなく、資格を取って他の職場に転職する際に役立てようという動機かもしれません。それでも構いません。会社で時間を費やして何も残らなかったというより、資格がいくつか手に入って意義があったと思ってもらえた方がましです。育てた人材が流出するのは企業にとって痛手になると思われますが、再び戻ってくるかもしれないと考えています。「また帰ってきたくなる会社づくり」を心掛けています。

<<離職しても戻りたくなる会社とはどんな会社ですか>>

シンプルに「ノンストレス」な会社です。職場でのストレスは、人間関係やサービス残業などで仕事に見合った賃金がもらえないことが大半です。これを解消するにはあえて私が“ワンマン”経営者を演じないと成り立たないと考えています。父が経営していた前身の会社では100人程いた時期もありましたが、現在の規模ならワンマンの方が目は行き届くと考えています。売上もさほど下がっていません。従業員が少なくても従業員を精鋭化し、質の高い仕事を提供することで売上効率も1人当たり賃金も他社より高くなります。従業員にとっても、自分の役割が複数あると面白がって飽きずに取り組んでくれるのではと考えています。

人材確保も求人広告に頼るサイクルを抜け出し、従業員からの紹介で採用する方にシフトし、離職率も低下傾向にあります。