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「人材確保と定着」我が社の取り組み⑧2016.6.21
中西昌美さん(セキュリティー 専務取締役)
働きやすい職場をつくる
――人材確保と地域貢献を兼ねた試みとして、プロサッカー選手を目指す若者を警備員として雇用する取り組みを、以前、紹介させてもらいました(平成27年5月1日号8面掲載)。 サッカーJリーグJ2「FC岐阜」セカンドチームに所属する18歳から24歳までの7人が、交通誘導警備に従事しています。一週間のうち月・火・水・金曜は夜8時から10時まで、木曜は一日、土曜は午前中練習して、日曜は試合に出場しています。
―――警備の現場で評判が良いとか。
サッカーの練習同様、真面目に業務に取り組んでいます。それは有り難いことですが、彼らはプロの選手を目指しているわけですから「いつまでも当社にいてはいけない」と伝え、早く巣立って活躍できるよう応援しています。
――一般の採用に関しては順調ですか?
1号業務は媒体に向けて求人広告を出しますが、2号業務については広告を出しても反応が少ないため、ハローワークに求人票を出すのみです。社員が知り合いを紹介して採用に結びつくケースもあります。
今年、高等学校からの紹介で初めて新卒の警備員3人が入社しました。これはハローワークに「高校新卒」の条件で求人を出して、2校から紹介があったものです。
――将来が楽しみです。
当面は教育の受講とさまざまな業務を経験させて、将来は当社の中核として力を発揮してほしいと思っています。今までも若い社員が入社したことはありましたが、当時はまだ会社の受け皿が整っていなかったので、十分な対応がとれませんでした。FC岐阜セカンドチームのメンバーたちとも、年齢が近いこともあり上手くコミュニケーションがとれています。年配の社員からは、息子や孫のように可愛がってもらっています。
―――定着についてはどうでしょう。
健康上の理由などを除き、ほとんど退職者が出ず、長く働いている社員が多いです。
“社員は家族”と思い、話を聞くことが何より重要ではないでしょうか。当社ではどの管理職よりも社長(幾田弘文氏=岐阜警協会長)がそれを実践しており、社員が話しかけてきたときには、たとえ自身が多忙でも話を聞いています。課題を感じたときには、すぐに担当部署にそれを伝えて迅速に解決を図ります。
自己を顧みず他人に尽くす姿勢を学んだことは、私にとって大きな財産になっています。花火大会など大規模なイベント警備のときは、社長自ら制服を着用して視察し、飲料水をはじめ差し入れします。そうした気配りは“自分が大切にされている”という安心感を社員に与えているようです。
――専務取締役の立場からの取り組みとしては?
社長や営業の業務が社外での“攻め”だとすると、私の業務は社内に向けての“守り”。社員をどれだけ守れるか、居心地よい職場にできるかが大きな務めだと感じています。理想として、毎朝、仕事に行くのが楽しくなるような「働きやすい職場」にしていきたいです。
今年3月に会社を新社屋に移転しましたが、これも空調設備などをより快適なものにして、働きやすい環境で作業の効率アップを図るためです。
――社員の“やる気”は大事です。
モチベーションを上げるきっかけのひとつに、資格検定の取得があります。できるだけ取得してもらっています。合格率を上げるべく送り出し教育をしっかり実施して、受講料は会社負担で取得後は手当を出しています。新卒で入社した3人も受講を希望しており、目下勉強中です。
――社会保険の加入も、定着につながっているのでは。
業界の喫緊の課題としてクローズアップされていますが、当社は28年前の創業時からまもなく、全員が加入しています。会社として当然の義務ですが、その上で給料の手取りが減らないように適正額の警備料金を頂かなくてはいけません。「お宅の会社は高いから」と言われ、発注に難色を示されたことも何度かありました。しかしそこで料金を下げずに根気強くその根拠を説明し、理解を得る努力を続けてきました。
――今後、会社はどの方向に?
最近、10年以上勤務している社員が、休日に高校生の息子さんを連れてきました。「自分が働いている会社を見せたかった」とのことでした。警備業を社会や家族に誇れる仕事として、次の世代にバトンタッチする。そういう業界になるよう、当社も一層努力していきます。
「人材確保と定着」我が社の取り組み⑦2016.6.11
小宮武之さん(協和警備保障代表取締役社長)
社員の悩みを聞く
――社屋が新しいですね。
3月11日に完成し、移ったばかりです。現在、隣接する土地に研修棟を建設中で、来春の完成予定です。100人規模の教育研修や会議に使用できる仕様で、全事業所で使用するほか地域貢献を含め有効活用を目指します。
――人材確保は順調ですか。
求人については各種媒体による募集活動を行っていますが、これだけでは「待ち」の求人になってしまいますので、より積極的な「攻め」の求人に取り組んでいます。各事業所業務課と本社業務統括部の連携による採用専門部署を設置し、求人計画やそのための各種イベント企画を進めています。
――求人が目的のイベント?
中途採用に関しては、地方及び民間を含めた各種団体と連携し、警備業に興味を持っていただくための説明会を年数回開催します。新卒採用については業界的に厳しい環境にありますが、積極的に進めることが受入体制、教育研修の充実につながると信じています。
その中でもまず各種学校の先生・父兄の方々に警備業界・業務の内容を説明し理解を深めてもらう活動が必要です。面接希望者には関係者を通じ当社が主催する説明会に参加してもらい、疑似体験などを経験して頂きます。
まだ大きな結果は見えませんが各種スポーツイベント、青少年のスポーツ競技会に協賛・支援し、周辺の警備・防犯・AED・応急救命等の説明・体験をして頂き、若い方や関係者との距離を地道に縮めていく活動を行っています。
――社員の定着については。
定着率アップは、売上・利益増と同様に最重要視しています。具体的には、警備員の不安要素を早期に発見する取り組みを行っています。警備業でいう「巡察指導」を単なる業務上の管理指導のみではなく、人間関係・顧客対応・個人的悩み等メンタルな部分まで行います。膝を付き合せて対話し、内容を各業務課・業務統括部・担当役員までデータとして共有し、解決を図る努力を続けています。 社員が流出する要因は、待遇や労働環境だけではありません。
――メンタル面が重要だと。
仕事上や個人的な悩みを聞いてあげることは大切です。警備員の年齢は様々ですが、高齢の方は「人生経験・警備知識」が豊富です。若い社員と目線を同じにして伝えてほしい。また私自身を含め、謙虚に高齢の方から学べることを発見し、仕事面でも人間的にも自身を磨いてもらいたい。
警備隊は、年齢構成や業務レベルごとの配置・組織作りを心掛けています。コミュニュケーションは退職防止につながります。
――定着には教育も重要です。
警備業法で定められている法定教育の他に、入社後のキャリアアップ研修の一環として、経験年数、責任者(役付)、業種・業務スキルごとに分けた「特別研修」にも力を入れています。更には本部管理指導へのステップアップ教育研修にも併せて取り組んでいます。段階的にステップが上がっていく構造は具体的に将来像が描けるため、安心して業務に就けます。
各種資格取得にも力を入れています。特に警備業務検定受講は本人からの自己申告制ですが、警備員はもとより営業や事務担当者に至るまで全社員が対象です。警備業務を知ることで全体のモチベーションが上がり、社員間の距離を更に縮めて定着に寄与します。
――労働災害防止については。
各種労働災害防止教育の徹底はもとより、昨年の夏は各種業界において熱中症による死亡者が多く発生しました。対策のひとつとして、服に小型ファンが付いた「空調服」を2年ほど前から駐車場など、施設警備の屋外勤務の警備員へ必要枠内で着用させています。気化熱を利用した仕組みで、「快適」との感想を聞いています。取引先からも警備員の身体を気遣っていると好印象のようで、良い効果が生まれています。
――社会保険など処遇面は?
課題の社保未加入問題ですが、当社は社員区分や勤務状況に応じ積極的に加入させています。これは人材の定着・育成と同様に、先々会社の屋台骨を大きく揺るがすことになります。また、今年10月から実施される短時間労働者への社保加入対象拡大については、常勤社員が多いことから影響が出ないよう進めています。ストレスチェック等も同様です。
――警備業務に適性はありますか。
危険予知する五感、健康な身体、真面目な性格、この3点は必要です。常に警備員の方に望むモットーとしては「一に心、二に健康、三に知識」の順番と心しています。
警備業はサービス業の一つであり、それだけにお客さまからの要望は多岐にわたります。「警備業はまだ発展途上で伸び代がある」といつも社員に話しています。皆で知恵を絞って価値を創造し、前進を続けないといけません。
「人材確保と定着」我が社の取り組み⑥2016.6.1
菅原正秀さん(東洋ワークセキュリティ代表取締役)
“従業員満足度”を上げる
――人材確保、定着ともに順調と聞いています。
今年度は新卒者70人が入社しました。そのほとんどが大卒です。
――採用は具体的にどのように?
媒体広告と新聞折り込み広告、ハローワークなどで募集をかけており、県内の警備会社でも募集コストはかなり多くかけている方だと思います。一人を採用するために募集コストがいくらかかったのか、10年程前からデータ化しています。その数値を検証して内在する問題を精査し、解決する取り組みを続けています。
おかげさまで人材確保に苦慮する時代にあって、ここ一年間で在籍している従業員は150人ぐらい増えています。「人手不足の時代だから採用に苦労している」と嘆く経営者や幹部の方がいますが、良い人材が応募してきたとき、雇用に結びつけるシステムをきちんと確立することが重要です。当社の場合、元アナウンサーなどが講師となって、採用担当者の研修も行っています。
――雇用に結びつけるコツは。
求職者は勇気を出して応募の電話をかけてくる場合が多いですから、きちんと対応しなければ会社の信頼に関わります。採用が決まって研修に入るまではお客様と同様に丁寧に接しています。
具体的なキャリアアッププランを明示することも大事です。「警備員として採用したが、やる気次第で様々な業種に就くことができる」と伝えます。実際、私も前身の会社に警備員として入社しましたし、当社はここ10年で拠点数が倍増し、成長戦略に乗れていることから管理職のポストが増えており、出世のチャンスがあります。業容の拡大により、事務や営業職など内勤へのシフトも可能です。
――従業員の定着については。
大切なのは、教育に時間と費用をかけることです。警備員が退職する理由として“教えてくれないから出来なかった”場合が多いことを認識している経営者は、どれぐらい居るでしょうか。
業法上の警備員教育だけではなく、入社後の導入研修に始まり、3か月後のフォローアップ研修、基礎研修、ミドル研修、マネージメント研修と受講させ役職に付けます。ほかにキャリアアップに沿った研修など、ほぼ毎月研修や勉強会などをテレビ会議システム等を駆使しながら実施しています。
資格検定の取得には力を入れていて、受講者は県内最多です。社内教育の甲斐もあって、合格率は県の平均と比べて高い水準です。受講料は全額会社負担で、資格取得後は手当を付けています。
賃金ベースも上げていますし、年2回の賞与も出しています。会社の利益は、できるだけ現場に還元していきたいと思っています。
社会保険加入も定着の要素ですから、当社は業界の課題としてクローズアップする前から加入促進を図ってきました。そのため早い段階で100%加入を達成し、離職率は下がりました。加入促進の秘訣は、本人が納得するまで根気強く説得を続けることです。
――社員のやる気を喚起します。
よく一般企業で顧客満足度を上げる努力をしますが、当社の場合は従業員満足度を上げることに力点を置いています。現状に満足してない警備員は、人の生命・身体・財産を守れません。満足させるということは、甘やかすということではなく、会社として身分を保障し昇給制度を確立して福利厚生などの体制をしっかりとるということです。
契約社員やパートを含め全従業員に感謝の意を込めて中元・歳暮を10年前から差し上げています。内容は拠点がある土地の蕎麦など名産品ですが、好評です。警備会社は内勤と現場に間に距離ができがちですが、少しでも縮めて風通しを良くしたいと願っています。
――働きやすい職場環境が重要。
当社は8月決算で9月から新年度となり、毎年経営方針を出します。来期から中期5か年計画を出しますがそれは事業戦略上の背骨で、それに肉付けするのは役員や幹部です。さらに彼らがそれを咀嚼して各部署や拠点に落とします。こうして経営目標と個人の目標の方向が違わないよう方針を一本化しているので、研修やOJTにより従業員個人のスキルを高めキャパシティを広げれば会社全体が成長していけます。
――業界の固定概念に留まらず、先進的ですね。
後発の会社なので、新しいものを取り入れたり形を変えたり、自由な発想でチャレンジを続けています。求職者にとって魅力ある事業の創成や、マンパワーに頼らない商材の企画開発も手掛けていきます。
