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警備業ヒューマン・インタビュー
――教育活動2023.06.21

福原要さん(サンプラス 専務取締役)

警備と講師、そして「除雪」

<<全警協から昨年、警備業教育関係等功労者表彰を受けました。会社では専務として本社と支店・営業所を往復。新潟県警備業協会特別講習講師も務め多忙です>>

表彰を受けたことで私も会社も報われた思いです。20年あまり続けられたのは、所属する会社が送り出してくれたからです。

講師を始めて13年後、42歳の時に「中途採用」でサンプラスに入社しました。加藤社長は快く送り出してくれるので、転職後も長く講師活動を続けられたと実感しています。職場で重要な仕事を抱える人材を講師に送り出すには、会社の理解が必要です。

長く講師を続けているうちに、社内でのポジションが上がり、講師に時間や労力を割くことが難しくなる状況に直面します。表彰されたことは励みになりますし、職場や県内でも講師を志す人が増えることを願っています。

<<講師を続ける意志を持ち続けられたのはなぜでしょう>>

警備業の職についたのは今から30年くらい前です。警備業の社会的ステータスは今よりも低い時代でしたが、この業界で「人より稼げる人間になろう」という目標を立てました。その手段の一つとして資格が重要だと考え、交通誘導警備業務の資格を取得しました。

2001年、初めて講師を委嘱され、続けていくうちに講師として評価され、会社での評価も上がり、収入も徐々に増えるという循環が生まれました。社内での指導・教育や、講師としての指導・教育の影響力がモチベーションとなりました。

<<ウェブサイトの「事業内容」には警備業のほか「除雪」と記載されています>>

新潟県では除雪が冬の主要な仕事になるという地域特性があります。特に「特別豪雪地帯」に指定されている上越・中越地域の警備会社では「公共事業が除雪」というほど需要があり、除雪とそれに伴う交通誘導、高速道路入口などでのチェーン規制のチェック誘導作業があります。私も除雪車を運転して未明の道路で除雪作業を行っています。除雪作業は交通誘導が伴うので地域の特性を生かした警備会社の仕事だといえます。

<<ウェブサイトからの求人に力を入れている印象です>>

最近、ウェブ担当の職員を配置換えし、更新作業に専念してもらっています。現在は求人のほか仕事の依頼も「お問い合わせフォーム」からいただくようになり、サイトが認知されています。

「お知らせ」には、硬めの話題と軟かめの話題を織り交ぜて発信しています。文章は更新作業の担当とは別の社員が担当していますが、前職の飲食店で接客を担当していたため、丁寧な言葉遣いが身に付いているようです。

ご当地グルメの「バスセンターのカレーライス」や大盛りラーメンなど、食べ物のエピソードを出すよう指示しています。業務とは関係ありませんが、偶然ホームページを訪れた人が興味や親近感を抱くきっかけになればと考えて「お知らせ」しています。

<<自社サイトとハローワークで応募者の相違点は何ですか>>

連日情報が集まるハローワークに求人票を出しても、短期間で新しい情報に埋もれてしまい、求職者の目に留まるとは限りません。自主的にサイトを訪れた求職者には積極性を感じます。

現在、本社での採用者の大半がウェブ経由です。日常のさまざまな情報収集や発信、決済をウェブ上で処理する世代に訴求できるよう、求人にもSNSを活用していかなければならないです。

<<若者の働き方や仕事に対する価値観の変化に、講師として気づくことがあると思います。一方、処遇改善と離職率低下が必ずしも相関しない時代になっています>>

労務単価が上昇したことで賃上げしやすくなりました。今後はもっと賃上げしていくことと、今いる人材を手離さないことが重要です。そのための処遇改善を進めています。警備員の賃金形態は日給制が主流ですが、月給制にしていきたいと考えています。

一方、若者の中には「お金よりも休みが欲しい」という人も増えています。休みよりもお金が欲しかった昭和世代とは価値観が様変わりして戸惑っています。特にこの数年、講師として若者に接していても、講義内容を理解しているのか表情から読み取りにくくなりました。受講者の年齢に関わらず、動機や目標が明確な人は合格しやすく、「会社の指示でとりあえず来ました」という人は合格しない傾向です。

講習を通じて、受講者の意識を高めることが警備の質向上、会社が提供する警備の品質につながると思いますが、浸透するように伝えるのはなかなか大変です。

警備業ヒューマン・インタビュー
――教育活動2023.06.11

鈴原正人さん(イセット 警備部課長兼教育研修室)

講師陣、白熱した議論も

<<法人化35周年を迎えた三重県警備業協会(菊田喜之会長)の教育委員長を務めています>>

三重警協教育委員会のメンバーは8人で、私は委員長を務めて6年目になります。特別講習など各種講習の開催に加え、警備員指導教育責任者(指教責)を対象とする勉強会、警備員が座学と実技に取り組む勉強会も行います。

こうした勉強会は「会員が“協会に入っていて良かった”と感じるメリットをさらに増やそう」という菊田会長の号令で5年前に始まり、テロ対策、AED講習、群集心理と適切な避難誘導など、多様なテーマで開催してきました。

昨今の警備は、先入観にとらわれることなく想定外の事案も視野に万全の備えが必要です。警備員は基本をしっかりと身に付けた上で、状況に応じ的確に対応する能力を高め、顧客や社会の期待に応えなければなりません。

勉強会は毎回、委員それぞれがテーマを提案し、討議して内容を決めます。資料を作成し、参加者にはアンケートを行って次回に活かす“手作り”の勉強会です。会員の方々からは「社内教育の参考になります」などの感想が寄せられています。

<<特別講習の主任講師を務めて5年目になります>>

三重県の特別講習講師14人はそれぞれ個性豊かで、教育に携わる誇りと信念を持ち情熱にあふれています。より良い講義の方法をめぐって意見がぶつかり議論が白熱することもありますが、一度決定したら皆が一丸となって取り組みます。

講師陣の融和を図ることが主任講師の役割と考え、率直な意見を言い合うことのできる雰囲気づくりを心掛けています。講師研修会では、若手講師が模擬講義を行い、先輩講師は聴講しアドバイスします。若手のアイデアに「こういう方法もあったか」と大いに刺激を受けることもあります。打ちとけても仲良しクラブにならないよう、切磋琢磨しています。

特別講習では修了考査(試験)の合否とは別に、受講者が講習で得た知識や技能を業務に活かし活躍することを願っています。

社業も教育がメインです。地域に密着し機械警備業務などを手掛ける「イセット」(伊藤尚貴代表取締役社長)に入社20年目で、現任教育や指教責の育成、警備先を巡察しての指導などを行っています。

教育は、単に警備員の技能を磨くだけでなく、社会に欠かせない職業としてプロ意識を高めることが肝心と考えます。それは業務への愛着、自社への帰属意識も高めて離職の防止、定着促進につながると思っています。

<<教育活動に取り組む原点は何でしょう>>

ある警備員の真摯な姿を見て、強い印象を受けたことが始まりです。26歳の時、前職で住宅資材を扱う企業に勤めていました。早朝、社屋に警備会社の機械警備隊員が駆け付けました。それはセンサーの誤作動だったのですが、その警備員の規律正しい態度、異常はないか点検する姿を見て、警備業に関心を持ったのです。

少年の頃には警察官、刑事になりたいと思ったこともあり、安全を守る機械警備隊員を志望して転職し、今に至ります。

警備員として勤務する中で、質の高い業務の提供、警備業の社会的な地位向上のためには、教育の充実を図ることが重要だと実感しました。より多くの人材を育てることは地域社会の安全安心を確かなものにするという使命感、義務感で取り組んできました。

<<社業と講師活動の両立では、どのようなことが大切ですか>>

会社のバックアップ、経営者と直属の上司の理解があってこそ講師活動を続けることができます。

当社には私を含め特別講習講師が3人在籍していますが、これは社長が「警備員のスキルアップは業界の発展に結び付き、社内だけでなく県全体で資格者を増やすことが大切になる」と講師活動への参加を後押ししていただけるからです。

当社の経営理念は「お客さまの生命財産と生活環境を守ると共に、従業員の物心両面の幸福を追求する」というものです。安心して働くことのできる職場だからこそ教育活動に力を注ぐことができます。

<<三重警協ホームページでは警備業のPR動画を公開中です>>

会員各社の警備員が多数出演して制作しました。1号から4号まで警備業務の分かりやすい紹介に加えて、警備を通じた地域の方々とのふれあいや、ともに技能向上に励む同僚との絆、仲間意識などもアピールできるよう関係者が意見を出し合って制作した動画です。業界内外の多くの方々に見ていただきたいと願っています。

警備業は奥が深いと思います。今後も教育を通じて警備業の担う役割の大きさ、やりがいのある職業であることを伝えていきます。

警備業ヒューマン・インタビュー
――行動認識AI2023.06.01

木村大介さん(アジラ 代表取締役)

人とシステムが助け合う

<<「AI警備システム」が、注目されています>>

アジラは2015年の創業以来、行動認識AIを独自に開発し、多くの企業の製品開発や課題解決を支援してきました。その経験やノウハウを活かし、AI警備システム「アジラ」を開発しました。

監視カメラにシステムをインストールすることで、映像から人の侵入や暴力などの不審行動を検知し、パソコンやスマートフォンなどにリアルタイムに通知します。転倒やふらつき、白杖・車いすの人、迷子などを検知する「見守り」も可能です。それらはAIが人の姿勢を推定する最新技術を使用しています。

<<警備会社との連携が始まっているそうですね>>

セコムの協力を昨秋から受けています。AIの精度が高いことと、軽量なCPU(中央演算処理装置)・GPU(画像処理装置)でも動作する実用性を評価いただいています。同時期にキャノンマーケティングジャパンとニコンからも出資が決定し、映像解析事業が加速しました。

23年4月には東急セキュリティが施設警備を行う都内の複合施設「東急歌舞伎町タワー」で、警備業務を支援する目的で導入されました。5月からは東急電鉄の車両基地や京浜急行電鉄の屏風浦駅で実証実験を開始しています。

当社のAI警備システムは既に、大規模商業施設や複合施設をはじめ高層マンションや病院・大学構内、鉄道施設などで広く活用されています。不動産開発会社や施設運営会社を主体に導入を広げ、各施設に勤務する警備員の方々に利用してもらっている状況です。今後は警備会社とも連携し、各警備現場で人とAIが助け合う施設警備業務を支援させてもらいたいと思っています。

警備業は人手不足が深刻な課題と聞きます。人が少なくても警備品質を保ちながら業容の拡大を進められるように、システムを活用していただきたいと思います。既設の防犯カメラがそのまま利用でき、サーバー1台で最大50台分のカメラ映像を解析できることから、大規模な施設では特に運用コストが安価で済みます。

<<AIは独自開発とのことですが、どのような経緯でしょう>>

私の父は小売関係の企業の経営者で、早くからパソコンを導入し経理などの事務処理をシステム化していました。私は小学生の頃、父から譲り受けた旧型のパソコンを使い雑誌から得た知識をもとにプログラミングして遊んでいました。晴れた日は自宅近くにある木曽川の渓流釣りに夢中だったのですが、雨の日にはパソコンを持ち出し、自作の「釣りゲーム」で友人たちと遊んでいたのです。

大学を卒業してNTTグループの研究所に就職し、当時登場した「i―モード」のポータルサイト関連の仕事をしていました。その後、事業会社に転職してシステムを統括する立場となり、統計データからビジネスに有益な方向性を導く「データサイエンス」の仕事に就きました。広告効果を予測する営業支援システムを提案し採用されたことから、高校生などを対象に数学の問題を解く能力を各国が競う「国際数学オリンピック」の強豪国・ベトナムに優秀なエンジニアをスカウトに行きました。

その頃「ディープラーニング(深層学習)」というAIの基礎的な機械学習手法が話題となり、私は「これは世界を変えるものだ!」と確信、ベトナム人エンジニア4人と共に起業しました。現在、日本はAIを開発する人材が不足していることから、当社はベトナムをはじめインド、台湾などアジア全域から優秀なエンジニアを集め、社員の約8割をエンジニアで構成しています。

「行動認識AI」は17年に世界に先行する形で開発しました。21年には小田急線・京王線車両内の刺傷事件や大阪・北新地ビル放火殺人事件が立て続けに発生し、「行動認識AIを使えばこうした犯罪を未然に防ぐことができるのでは」と思い立ち、「AI警備システム」を開発したのです。

<<体感治安の悪化から、犯罪未然防止の需要はさらに高まっています>>

人による目視以上に、AIが正確に行動分析できる時代になりました。当社は今、名古屋大学の平井真洋准教授と連携し、人の動きから感情を読み取ったり、マイクロジェスチャーと呼ばれる微細な動きを分析することで、ストレス・緊張を検知する技術の研究を進めています。AI警備システムに加えることで、犯罪未然防止の精度はさらに上がります。

人手不足は日本が他の国に先駆けて体験する課題です。働き手の省人化を実現するAI技術は、日本の新たな輸出産業になり得ます。当社は経営基盤を固めたうえで東証上場を果たし、国内のみならず海外にも安全安心の技術を展開していきたいと思います。