トップインタビュー
課題克服シリーズ20
我が社はこうして社保加入を果たした2016.2.21
磯部光一さん(エス・ジー・プロ)
教育で「警備のプロ」を養成
――2号業務が中心とか。
交通誘導警備は、土木建設工事、電気工事、電話工事の3本柱でバランスをとりながら行っています。土木建設のみだと4~6月の端境(はざかい)期に発注が減りますが、電気と電話は一年を通じて仕事量が比較的安定しています。
――社会保険加入の状況は。
18年前、私と佐藤貴寛専務取締役、そして60歳以上の警備員5人の合計7人で会社をスタートさせました。当時、加入率はわずか30%でしたが、8年目に社会保険庁の調査が入り加入勧告を受けたことがきっかけとなって、促進を決意しました。当時はデフレで警備料金が安く思うように進みませんでしたが、今から5年前にようやく100%加入を達成できました。
――先日国土交通省が公表した公共工事設計労務単価を見ると、福島県は全国の中でも高い方です。
東日本大震災の被災県として、復興事業が続いていることが要因でしょう。震災以降、50人近くいた当社スタッフのうち15人が、単価が良い除染作業や警備業以外の仕事に移行しました。原発被害からの避難のため、他県に移り住んだ人もいます。県内で警備業の資格検定を持った人が他業種に移ってしまったことは、業界にとって大きな損失だと思います。
――除染作業の受注は?
当社は除染関係の仕事は、ほとんど行っていません。県内で除染の仕事をメインで行っている警備会社は多数ありますが、作業が終了したときには2号業務で競合することが予想され、ダンピング競争になるのではと今から危惧しています。市内の除染作業は約9割が既に終了しており、あとは仮置き場から中間貯蔵施設に移す作業ぐらいと聞いています。
――人手不足問題への対応は、どのように?
ありがたいことに仕事の依頼は多いのですが対応できず、毎日警備員5~10人の要請をお断りしている状況です。今は人を増やす時期ではないと考え、社内的に勤務条件や環境を整え長く勤めてもらえるようスタッフを大切にしてします。自衛隊の20代の「即応予備自衛官」2人も勤務しています。年間50日間の自衛隊訓練には参加する必要があり、震災など有事には自衛隊として現場で活動を行いますが、警備員としての基本ができていて礼節もきちんとしており、貴重な人材です。
――磯部社長は県協会の理事であり、支部長も務めています。
6年前から支部長を務めている県北支部は会員数36社で、約65%が2号業務の会社です。支部では雑踏警備で協力し合っています。福島市内にあり初夏にかけて多くの花が咲く「花見山公園」は約1か月間に限定して一般に開放され、観光客が多く集まります。その雑踏警備は一日50人、延べ1500人という大きな規模で、市内に本社がある警備会社が中心となって行います。
8月の「ふくしま花火大会」も一日160人が必要で、支部を中心に対応しています。ボランティアで行う支部活動としては、春と秋の交通安全週間に児童のための交通誘導を行っています。
――適正料金の確保はできていますか。
私は、警備のレベルを上げることこそ、何よりの営業活動だと思います。社名のエス・ジー・プロはセキュリティー・ガード・プロの略です。若い警備員を教育して質を上げ、警備のプロフェッショナルとして質の高い仕事をすることが、会社のポリシーです。専務取締役は県内で唯一の全警協技術研究専門部会のメンバーですし、彼を含めて3人が県協会の講師を務めています。警備のレベルの高さが、ユーザーとの信頼関係につながっています。
――教育に尽力しています。
警備業は、教育産業です。時間はかかっても教育を続け、業務に精通した警備員を育てることが会社として将来への投資になると信じて、力を注いできました。
課題克服シリーズ19
我が社はこうして社保加入を果たした2016.2.11
我妻和文さん(共栄セキュリティーサービス)
「辞めたくならない」環境作る
――社員数が多いですが、社会保険の加入状況はどうでしょう。
「コンプライアンスを重視せよ」という当社会長・我妻文男の号令一下、全力で加入を促進してきました。昨年3月に対象者については業務内容に関係なく、100%加入を達成しました。
――費用面での負担は?
料金を確保する前に社保加入させましたから、正直、負担はありました。しかし、平成29年3月末の期限は近づいています。法令遵守を優先させるなら、たとえ売上が落ち込んでも加入させなければなりません。
――加入促進で、ほかに苦労は?
中には「手取りが減ってしまう」という理由で、加入を拒む者もいました。「社保加入は本来、義務だから」と繰り返し話し納得してもらいましたが、残念ながら賛同を得られず辞めた人もいました。
――適正料金の確保は、できていますか。
警備の質ではなく、料金のみを比較されて解約になることもあります。そういう場合は、安い料金で無理して業務を続けないで、理解あるユーザーを新たに探す方が賢明だと思います。
警備会社は、営業が大事な時代です。営業部員は10人いて、社会保険を含めた諸経費を項目別に細かく明記したオリジナルフォーマットの見積りを提示しているほか、内容を理解してもらうための交渉術も磨いています。
――社保は、求人にも影響します。
当社は2号業務からスタートしましたが、1号業務の割合が増えていき、現在は施設警備が半数以上を占めています。そうした状況下で新卒者が占める割合が増えていき、一昨年は80人、昨年は40人採用しました。もはや社保加入は求人条件の必須事項です。
――業界全体が人手不足です。
従業員の定着率を高めるため、「辞めたくならない」環境づくりに努めています。例えば入社後、各現場に配属されてしばらく経った5月か6月に“決起大会”を開きます。“同期の桜”による久しぶりの再会は現場の苦労話に花が咲き、横のつながりが強まって士気が上がります。
失敗したときの叱り方ひとつをとっても、最終的に本人を笑顔にさせるような配慮ある気付かせ方が大事だと伝えています。
――教育に力を入れているとか。
品川区五反田に研修施設があり、新任教育、現任教育を行っています。何らかの資格を持つことを義務としており、入社後は全員、防災センター要員と自衛消防技術の資格をとります。業務経験後に警備業務の検定資格をとり、1年当該業務に従事したら指導教育責任者に挑戦してもらいます。
2号業務の検定資格を持つ警備員の配置が必要な指定路線の拡大が始まりました。1号業務も東京オリンピックをはじめ大型イベントが控えていますから、テロ対策を見据えた配置基準が施行される可能性があります。警備員にとって検定資格を持つことは、ますます必要になっていくでしょう。
――女性警備員も活躍中です。
「レセプション・コンシェルジュ」と呼ぶ、企業・病院などの受付、商業施設のインフォメーションを行う女性が15人います。受付のほかに巡回などの警備業務もできるため、需要が高いです。受付は企業の顔ですが、当社では同時に、安全安心にも貢献できます。パソコンを自在に使えたり、英会話が流暢なら、さらに価値は上がります。社内で外国人講師による英会話研修を行っています。
――業務の種類が多いですね。
依頼に対する受け皿の幅をできるだけ広くしています。実施した業務の中で継続性が見込めれば、体制を拡大し対応を図ります。
――社是は「誠実かつ確実」。
警備会社は、後ろ指をさされない誠実な企業体質であることが最低限の基本です。それと"働く社員がやりがいを感じ、家庭を持てる仕事である"ことが求められます。辞めないで一つの会社で頑張りたいという社員の気持ちに、会社は応えなければいけません。また、そうでなければ、業界全体が社会的に認めらないでしょう。
課題克服シリーズ18
我が社はこうして社保加入を果たした2016.2.1
国安秀昭さん(黒潮警備保障)
適性料金確保で課題解決へ
――社会保険の加入期限まで、あと14か月に迫りました。
高知県の警備業協会に加盟するには、法人で社会保険に加入していることが条件のひとつですから、加盟会社に関しては企業単位で加入率100%です。
――従業員単位の加入率は、どうでしょう。
当社では入社後、試用期間の2か月間が終了してから、本人の意向をきいて雇用形態を決定し、正社員を希望する場合は加入させています。それと合わせて交通誘導2級以上の検定資格についても、正社員を含めて従業員全員に取得してもらいます。
――全員が検定資格を所持?
国土交通省が発注元の業務が多く、当社警備員は社保加入と検定資格所持の両方を充たすことが求められます。ですから、もし検定を受講して不合格の場合は、再チャレンジしてもらっています。
警備業法上の配置基準を満たすにとどまらず、国交省からはより多くの検定資格者配置を要請されています。警備会社は直接発注ではなく、建設業者から発注される下請けの立場ですから、発注元に当社からの要望が伝わりにくいのがつらいところです。
――料金は確保できていますか。
私は適正な警備料金を得ることが、社保加入を含め警備業のすべての課題解決に結びつくと信じています。当社の見積りは、必要な金額を逆算して割り出し、法定福利費の内訳を別項目で明示して、わかりやすい内容にしています。そのうえで、相手の心に響く説得力ある営業を心掛けています。
このところ労務単価が上がっていますが、期限が過ぎた平成29年4月以降は国からのそうした配慮もなくなるでしょう。今のうちに各社が雇用体制を見直すなど経営基盤を整えないと、またダンピング競争が再開するのではないか、と危惧しています。
――社会保険は本来、所定労働時間を満たす場合は加入が義務ですが、そのためには原資が必要です。
現場で業務を行う警備料金のほかに、イベント警備等と同様、警備計画をはじめ管理面で発生する費用についても、見積りに計上したいところです。
ご存知のように2号業務では、年度始めの4月から6月までの事業の端境(はざかい)期に仕事量が落ち込みます。また悪天候、発注者側の何らかの都合などで作業が突然ストップすることもあります。
そんなとき、費用の補償さえあれば警備のスキルアップ教育ができます。社保加入を進めた会社が経営に苦しむような状況は、改善してほしいものです。
経営者に向けて勉強会
――国安常務は、高知県警備業協会の副会長でもあります。
3年前の通常総会のあと、社会保険未加入問題に対応する研修会を開きました。全国警備業協会にお願いして労務管理問題小委員会の松尾浩三委員に講師としてお越しいただきました。私は、そのときの講演内容を更に噛み砕いてわかりやすくアレンジした資料を作成して、2号業務を主に行う経営者を対象にした勉強会を数回行いました。その上で会員各社に協会主催の勉強会に出席してもらい、徐々に加入促進の気運が高まっていきました。
――良い方向です。
高知県では県民を大家族に見立て「高知家(こうちけ)」と呼んでいますが、「高知家警備塾」という警備会社経営者による集いがあります。昨年2月に発足し、横田商事という警備会社の横田章次社長がリーダーを務めています。当社を含め現在8社が所属しており、今後、増えていきそうです。
活動としては月に1回集まって課題を持ち寄り、皆で議論しています。また、揃いのベストを着用して繁華街、学校、コンビニエンスストア等のパトロールを行ったり、AEDを使った救命講習を実施しています。これらの活動は、業界の社会的イメージを少しでも良くすることを目的とし、利害関係抜きのボランティアで行っています。