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警備業ヒューマン・インタビュー2025.10.21

片山寿和さん(関東トラストガード 代表取締役)

時代の流れについていく

<<18歳の時に警備業界に入りました>>

祖父が警察官だったことや3歳上の兄が自衛官をしていたこともあり、興味を持った警備会社でアルバイトから始めました。東京に本社があり、保安警備を主にやっていた会社です。私の仕事は「万引きGメン」。主に神奈川県内のディスカウントストアが担当でした。私服でお客さんにまぎれ、複数階のフロアを巡回して、目線や商品の持ち方などで気になった人を監視していました。

危ない思いをしたこともあります。ゲームソフトを大量に万引きした3人組を捕まえようとした時、店の外に仲間がいて、暴力を振るわれました。私はけがをしましたが、店のスタッフや制服警備員が駆け付けてくれて、万引きグループの全員を取り押さえ、警察に引き渡しました。

文房具を万引きした中学生を見つけたこともあります。その時、電話で保護者に状況を説明して、店へ来てほしいと伝えましたが、「うちの子はそんなことしません。だから私は行きません」と言われました。いま、私が親になって思うことは、「子供がやってしまったことは受け入れてもらいたかった」という思いです。

生活が大変で万引きをしてしまう人、遊び心やゲーム感覚で万引きをする人。万引きGメンの仕事では、いろいろな人を見てきました。私自身、万引き犯を捕まえるということよりも、「店の財産を守る」ことにやりがいを感じていました。

<<20歳の時、群馬県高崎市内の警備会社へ転職しました>>

私は20歳で結婚しました。地方で暮らしたいと思い、横浜から妻の出身地である群馬に移りました。そして、保安警備員を募集していた会社に入りました。

入社から4年後、施設警備部門の立ち上げを担当することになりました。保安警備先の新規出店が増え、それに伴い施設警備の契約が増えていくなかで、警備計画の作成や新任警備員の教育、サポートに携わるようになりました。施設の防犯体制に万引きGメンの経験を生かすこともできました。

<<2011年に埼玉県本庄市で、保安警備と施設警備を主な業務とする「関東トラストガード」を設立しました>>

前職で全国各地を回るなか、幼い子供がいる自宅に帰れないことが多かったことが会社を立ち上げた理由です。群馬と埼玉の県境に近い本庄に拠点を置いたのは事業展開でメリットになると考えたからです。

経営者として心掛けてきたことは、時代に即した環境をつくること。具体的には、社員のプライベートの充実です。完全週休2日制を導入し、祝日も全て休日にしたほか、夏季・冬季休暇や誕生月の「バースデー休暇」を取ってもらっています。しっかり休んで、充実したプライベートを送ることは仕事にもプラスになっています。会社の業務では、警備員が必要とされる現場を私たちでつくっていくことに取り組んでいます。

警備業界は、なかなか人が集まらず、離職率が高い。業界を挙げて時代の流れについていくことが課題です。

<<独自の活動を行っている埼玉県警備業協会青年部会の副部会長を務めています>>

埼玉警協の炭谷勝会長、岩根忠専務理事をはじめとした役員、事務局のおかげで、青年部会は自由に活動しています。他県の青年部会がやっていることを真似るのではなく、変わったことをやろうという気持ちが強いです。

活動の一つとして、闇バイトへの注意を呼び掛けるポスターを作成し、県内の高校や大学に配布したことがあります。女性講談師と作り上げた闇バイト対策の講談、企業の協力を得たDX体験セミナーも青年部会の取り組みです。ポスター、講談、セミナーは「自由に使って下さい」というスタンスを取っているので、全国に波及してくれればと思います。

長谷川功一青年部会長は、決めたら突っ走る「行動派」。副部会長の私の役割は「違うと思った時は違うと言う」ことだと思っています。

埼玉の青年部会は、次の世代につなげるための準備を始めます。警協に六つある支部ごとの集まりで、活動報告とともに部会員募集の説明を行っていくことにしています。

<<趣味はありますか>>

いまは本を読むことです。六法全書や小説、ビジネス書を読んでいて、六法全書はポケットサイズを車に置いています。仕事のことだけ考えていると疲れてしまうので、本を読むことがリフレッシュになっています

警備業ヒューマン・インタビュー2025.10.11

上川高太郎さん(CGSコーポレーション 常務取締役)

反響大きい「静かなヒーロー」

<<山口県警備業協会の青年部会長を務めています>>

青年部活動では「警備業界の未来を自分たちの手で創る」という当事者意識を持つことが大切だと考えます。単なる親睦団体ではなく、業界の構造的な課題と向き合い「変革の推進者」となるよう取り組んできました。

協会加盟員の皆さまの役に立てる活動を考えた時、最優先の課題は「採用」です。昨年から県内ハローワークと連携して警備業の説明会を重ねています。

青年部会員は、求職者の方々に業界の現状を率直に伝えた上で、働く魅力や離職防止の方策などを話して、旧来のイメージ刷新を図っています。

併せて、ハローワークの担当職員の方々に、警備業への理解を今まで以上に深めていただくことが重要と考えました。山口労働局の職員研修会で警備業について説明したところ、担当職員から「業界の現状や警備業務の具体的な内容が分かり、これまで以上に自信を持って求職者に説明できます」との言葉をいただきました。

加盟員からは、少しずつですが「ハローワークの警備業説明会が採用実績に結び付いた」との報告が協会に寄せられ、関係者一同うれしく思っています。

ここ数年、警備業界の青年部設立が全国的に広がったことは危機感の表れであり、希望でもあると思うのです。15年後の2040年には1100万人の労働力が不足すると言われる中、業界の若い世代が主体的に動き始めたことは大きな前進に違いありません。

<<全国警備業協会HPで公開中のスペシャルムービー『静かなヒーロー』の制作に携わりました>>

都道府県協会の青年部会長などで構成する「全警協広報ワーキンググループ(WG)」のメンバーは、活発に意見を交わして制作を進めました。人の安全を守る使命感、内に秘めた誇りなどを映像でどのように伝えるか話し合う中、警備業には“物語の力”があると感じたものです。

公開後の反響は予想以上で、一般の方からは「警備という仕事の奥深さを初めて知った」などの声が多く寄せられています。

業界内からは「誇りを持って子供に仕事を説明できる」との声が多くあり、職業の社会的価値を再確認する機会になったようです。個人的には、完成した美しい映像を見て「警備士冥利に尽きる」と感動しました。今後も、より多くの方々に「静かなヒーロー」を見ていただきたいと願っています。

現在、広報WGでは第2弾のムービー作成に取り掛かっていますので、ご期待下さい。

<<特別講習の主任講師として大切にしていることは何でしょう>>

最も大事にしているのは「現場感覚」です。教科書的な知識にとどまらず、実際の現場で役立つ知恵や経験を伝えるよう努めています。

講師陣は、互いに得意分野を尊重して良きチームワークにつながっています。法令に詳しい人、現場経験が豊富な人など、それぞれの強みを活かすとともに、講習では失敗を恐れない雰囲気づくりも心掛けています。特に実技は緊張しがちな受講者も多いので“失敗から学ぶ姿勢”を示すようにしています。

特別講習の最後には必ず「なぜ、この仕事をするのか」という本質的な問い掛けをします。技術の習得だけでなく、社会的な使命感を持った警備士を育てたいと考えています。

<<「CGSコーポレーション」の常務取締役を務めています>>

警備業は、かつて「旗振り」などと呼ばれた時代を脱却して大きく発展を遂げ、現在は安全のプロフェッショナルとしての地位を強固にする転換期にあると思います。当社では業界の進化を5段階で捉え、現在はレベル3、人と機械による「ハイブリッド警備」からレベル4「AI支援」への移行期と位置づけています。

当社が手掛ける「高速道路AI退出支援システム」は、山口大学との「産学連携」で開発し、全国各地の現場で稼働中です。車種の判別とスピード検知によって、高速道路での安全な交通誘導を実現しています。

当社のDX推進は、重大労災事故の根絶を原点として「技術が人を守る」という理念を実践するものです。単に省人化を図るのではなく、警備士の安全確保と業務の価値向上をめざしています。

また、警備士の継続的なスキルアップに向けた当社のトレーニングセンターや、防災の拠点となるBCPセンターは「人こそ資本」という企業理念の具現化です。

これから警備業界の未来は「安全担保の専門性」にあると考えます。より専門性の高い知識と技術を結集して安全を守り、警備業の価値を社会に示してふさわしい対価をいただく“安全と算盤の両立”によって、さらに発展すると確信しています。

<<リフレッシュはどのように>>

ゴルフと読書です。経営書と歴史書が好きで、過去の知恵から未来の戦略を考えるヒントをもらっています。

警備業ヒューマン・インタビュー2025.10.01

秋山一也さん(一般社団法人・交通誘導DX推進協会代表理事、KB―eye代表取締役、タスクマスター代表取締役)

「交通誘導警備」より安全に

<<秋山社長に話を聞くのは2018年2月21日号以来となります。当時はAI交通誘導システムの開発をスタートした頃でした>>

AI交通誘導システム「KB―eye」は、片側交互通行を制御する「KB―eye交通制御」と、脇道・枝道・通行止めに使う「KB―eye交通誘導」の2システムを、レンタルとリースで提供しています。

「KB―eye」の普及は全国に広がり、32都道府県の現場で所轄警察署からの道路使用許可を取得し稼働しています。

<<実用化までは困難な道のりだったのでは?>>

山梨県内で実績を作り、AI交通誘導システムを導入・活用しているユーザーと連携して各地域で稼働させ、全国の警察本部に出向き、AI交通誘導の安全性と高機能を説明してまわりました。

2024年2月に国土交通省から「交通誘導システム等を活用した費用計上方法」と「道路工事保安施設設置基準」が発出されたことで関係各所の理解が進みました。

<<21年には、秋山社長が代表理事を務める「一般社団法人・交通誘導DX推進協会(以下、推進協)」を創設しました>>

AIなどの先進技術を使った交通誘導警備を普及させることを目的に、同じ志を持ち汗を流してきた警備会社経営者が理事を務めています。現在、正会員123社、賛助会員4社、特別会員13社で構成しています。

活動としては、定例会を毎月開いて情報交換・共有を図っています。主にオンラインで開催しますが、3月・12月の定例会と6月の総会は都内で対面で行います。各地のAIシステム稼働状況や開発などの最新情報を報告し共有します。研究発表会や専門講師を招く研修会も行っています。

次世代の交通誘導警備の担い手育成にも注力しており、推進協主催の取扱責任者講習とオペレーター講習を山梨県を中心に全国各地の会場で定期的に実施しています。

当推進協は「交通誘導警備の未来」のため活動する団体で、警備業の発展に尽力する全国警備業協会と歩みを共にしています。私は特別講習講師を約20年務めていますし、推進協の理事をはじめ会員は全警協加盟員でもあります。交通誘導警備に関する最新技術や活用状況などの情報は、全警協に伝えて共有しています。

<<秋山社長が警備業と関わるきっかけは?>>

私は大学卒業後、故郷の山梨県に帰り警備会社に就職しました。私が住む地域に警備会社がなかったことから、独立してタスクマスターという2号警備の警備会社を創設しました。

しかし正社員にならずに離職し他の業種に移る警備員が多い現実に直面しました。また、脇見運転によって現場内に車両が突っ込み、隊員がはねられ重大事故に巻き込まれる事案が相次ぎました。私はこの現実を前に「交通誘導警備を事故のない安全な労働環境に改善し、若い人が家庭を持ち一生安心して続けられる仕事にしたい」と強く思うようになりました。

そんなとき、ある経営者勉強会でIT企業の経営者である橘田きった孝一氏と知り合いました。警備業の将来について相談したことがきっかけで、AIを活用した交通誘導システムの開発に着手することになり、共同代表でKB―eyeを創設しました。

KB―eyeは昨年6月に警備業の認定を取り今年10月から山梨警協に加盟します。これまで警備会社に交通誘導システムの提供をしてきましたが、これからは先進技術を活用する警備会社としても業務を行います。すべての交通誘導警備でAIシステムを活用していきます。

<<YouTube番組「REAL VALUE(リアルバリュー)」に橘田社長が出演してKB―eyeを紹介し、大きな反響があったそうですね>>

これまでメディアには積極的に露出してこなかったのですが、よい人材を集めてシステムを普及させていくため試みました。一般の人たちに広く交通誘導警備の現状を知ってもらう目的もありました。YouTubeを観た多くの人が道路でAIを使った交通誘導警備に目を止めてもらうことは業界のイメージ改善にもなります。

<<6月に山梨県警備業協会の青年部会長に就任しました>>

交通誘導警備だけではなくバックオフィスや教育、営業など、警備会社の業務全体のDXを進める意見交換や研修会を計画しています。建設業協会青年部との意見交換や建設業の展示会に出展するなど、他業界に警備業をアピールする活動も行います。

テクノロジーを活用できないと生き残れない状況は、すべての業種にいえます。交通誘導警備も前進していかないと、仕事自体がなくなる可能性があります。業界外部の力でそうなる前に自分たちで行動し、業界を守っていきたいと思います。

タスクマスターは3年連続で新卒社員を採用しました。若い人はAIシステムに興味を持ちますが、それ以上に「AIの力で地域社会の安全を守る」というビジョンに共感し入社してくれます。

警備業は地場産業です。全国に1万社以上の警備会社が地域に根付き、雇用を守り、暮らしの安全を支えています。私はそんな地域に根を張りながら、誇りを持って働ける警備会社を増やしたいのです。