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視点

諸刃の剣2025.10.21

労務費基準を武器に

「労務費基準(標準労務費)」導入(施行)の12月まで残りわずかとなった。

建設業界では型枠や鉄筋など専門職種ごとの「基準」策定へ向け、各団体と国土交通省との協議が大詰めを迎えつつある。

建設工事で交通誘導警備業務を担う警備業も他人ごとではない。

同制度は、建設技能者はもとより、交通誘導警備員など建設工事に従事する人の適正賃金の原資となる適正水準の労務費を、工事の全ての請負契約段階で確保しようという取り組み。全国警備業協会も現在、警察庁と連携しつつ国交省との協議を進めている。

労務費基準(標準労務費)=適正な水準の労務費の基本となるのは、国交省が毎春公表する公共工事設計労務単価だ。同単価を元に国交省の審議会が労務費の「基準」を作成、これを下回る見積もりや契約締結を禁止する。違反した業者は指導・監督、発注者は勧告・公表の対象とする。従前見られた、労務費を犠牲にした「ダンピング受注」や「中抜き」の排除にも期待が寄せられる。

警備員の「最低保証賃金」

導入されれば、警備業でも適正な労務費の確保が期待される労務費基準(標準労務費)。これを原資とした適正水準の賃金など処遇改善が進めば、警備員の定着や確保にもつながる心強い武器となる。

一方、国が示すこととなる「労務費基準(標準労務費)」は、いわば交通誘導警備員の「最低保証賃金」でもある。同額水準以上の賃金支払いは今後、警備各社の必須事項ともなるだろう。

25年度の公共工事設計労務単価の全国加重平均額は、有資格者の交通誘導警備員Aが1日当たり1万7931円、それ以外のBが同1万5752円。今夏決定した地域別最低賃金の大幅引き上げを受け、来春の労務単価アップも予想される。

今も全国多くの警備会社からは「(警備業務発注者の)建設業からは国の労務単価どおりはもらえない」との声を聞く。しかし、基準=最低保証賃金を下回る賃金しか提示できない企業に人は来るだろうか。警備各社には、建設業者とのこれまで以上の価格交渉が求められる。

労務費基準(標準労務費)は「諸刃の剣」でもある。武器とするのか、自らに向かう刃にするかは、各社次第だ。

【休徳克幸】

羽田事件2025.10.11

待遇・労働環境と犯罪

警視庁は9月15日、東京・羽田空港の保安検査場で保安検査員として働いていた警備員の男(21)を窃盗の容疑で逮捕したと発表した。今年8月以降、手荷物検査中に約80人の乗客の財布などから現金計約150万円を盗んでいたという。

特段大きな話題もなかった連休最終日に行われた同発表は、テレビ局の格好の“ネタ”となり、ニュースやワイドショーでも大きく取り上げられた。

これまで全国警備業協会を先頭に、業界を挙げて警備業の理解促進やイメージアップが図られてきた。その甲斐あって、ようやく「生活安全産業」「安全・安心を担う警備員」の社会への認知・定着という“曙光”がさしてきただけに、警備業関係者には残念な事件だった。

保安検査の現状と今後

空港での現行の保安(手荷物)検査は、各航空会社が実施主体となり、実際の検査は警備会社に委託して行われている。

一方で、航空業界はLCC(格安航空会社)参入などにより厳しい競争環境に置かれている。その“しわ寄せ”は保安検査の現場に及んでいる。各社ともに警備会社との保安検査の契約では「検査員(警備員)が長時間の拘束を強いられるにもかかわらず、料金支払いは実働に対してのみ」「料金単価は長期間にわたり据え置き」などの問題が指摘、警備会社は人員の確保にも苦労してきた。

このため国土交通省は、全警協の「航空保安部会」のメンバーも加えた有識者会議を設け、その改善に着手。保安検査の実施主体を現行の航空会社から国や自治体、空港会社に順次移行する方針だ。これに伴い警備会社の契約も見直され、検査員(警備員)の待遇や労働環境の改善が期待されている。

羽田空港での事件で逮捕された保安検査員(警備員)の男は、犯行理由として「スリルを味わいたかった」に加え、「仕事がきつくて辞めようと思い、生活の足しにしようと思った」とも述べたという。

いかなる理由があったにせよ、今回の犯行は許されるものではない。しかし、警備員教育で法令順守の精神を叩き込まれた警備員であっても、他に劣る待遇や過酷な労働環境は、犯罪に手を染めるきっかけにもなる。今回の事件が投じた一石を業界・企業として看過してはならない。

【休徳克幸】

獣害問題2025.10.01

警備ノウハウ活かそう

クマによる被害が相次いでいる。

環境省は「今年4〜8月に69人が人身被害に遭い、そのうち5人が死亡」と発表。過去最悪レベルの状況に警鐘を鳴らし、「クマ出没対応マニュアル」を公式サイトに掲載して注意を呼び掛けている。秋季は冬眠に備えて食物を探すため活動が活発になることから、一層の警戒が必要だ。

クマの目撃情報が多い地域では隊員の安全を確保する必要がある。北海道内の一部の警備会社では「クマ撃退スプレー」を隊員に携帯させている。秋田県の警備会社はクマが嫌がる臭いを発する「忌避きひ剤」を販売し地域の安全に貢献している。北関東地区にはクマの出没に向けて警備用「防護盾」を備える自治体があるという。

獣害問題は「人的被害」だけではない。農作物を食い荒らす「農業被害」も深刻だ。こちらは主にシカやイノシシによるもので、農林水産省によると2023年度の農作物被害は約164億円(前年度比約8億円増)に及んだ。

警備業は日ごろの業務で培ったノウハウを活かし「農業被害」に向き合っている。ALSOKは13年に鳥獣対策事業に参入。現在はグループ会社9社とともに鳥獣捕獲に必要な法人資格「認定鳥獣捕獲等事業者」を取得した。害獣捕獲用わなにカメラやセンサーなど警備用資機材を組み合わせた効率的な対策を提供している。

群馬県に本社を置くシムックスも同時期に資格を取得し「鳥獣対策課」を開設。わなが作動すると電話やメールで通知したり、電話回線など通信が確立されていない場所向けには送信機で通報するシステムなどを提供している。

ALSOK千葉は「ジビエ工房茂原」を開設し、捕獲された野生動物を食肉に加工・販売する「ジビエ事業」を展開。農業被害を減らし地域資源の有効活用につながる取り組みとしてエコプロアワード(主催=サステナブル経営推進機構)の優秀賞を受賞した。

ALSOK秋田は今年1月、県と暮らしの安全・安心を柱とする「包括連携協定」を締結。同社が認定鳥獣捕獲等事業者であることから佐竹県知事(当時)は「クマ対策に期待したい」と要望した。

生活安全産業である警備業は、被害が拡大している獣害問題にも積極的に関わり、社会からの信頼を高めてもらいたい。

【瀬戸雅彦】