視点
適正取引2025.03.21
価格交渉、前進させよう
政府は3月11日、下請法の改正案を閣議決定した。改正は約20年ぶりで、発注側である親事業者の対象、義務の拡大や受注側の下請け事業者の利益保護を強化する。法律上の用語も変更し、下請け事業者を「中小受託事業者」に改める。適正取引への環境整備がさらに進むことが期待される。
今国会での成立を目指す改正法案には、公正取引委員会と中小企業庁の有識者会議がまとめた報告書の内容が反映された。下請法の適用基準に関し、現行の資本金規模のほか、従業員数を加える。
警備などサービス提供の委託では現行、資本金5000万円超の企業が5000万円以下の企業に、同様に1000万円超5000万円以下が1000万円以下に委託した場合が下請法の規制対象。だが、企業が資本金を減らすことで対象外となる「下請法逃れ」のケースがみられている。従業員数は「事業規模を表し、恣意的な変更が難しい」(有識者会議)として基準に加えるもので、サービス提供の委託では発注側が100人超で受注側が100人以下の場合に適用される。
改正法案には、親事業者が価格交渉に応じず、一方的に取引価格を決めることを禁じることも盛り込まれた。現行法でも「買いたたき」を違反としているが、該当する「著しい低価格」の算定に難しさもあり、新たな禁止規定を設けることになった。
上昇している転嫁率
国は2021年9月から、9月と3月を価格交渉促進月間に定めている。受注側の中小企業がコスト上昇分を取引価格に転嫁し、賃上げの原資を確保するための啓発に力を入れてきた。
24年9月の月間後に行われたフォローアップ調査によれば、平均の価格転嫁率は49.7%。24年3月比で3.6ポイント上昇した。受注側からは一例として、「公共工事設計労務単価に基づく価格を提示し、ほぼ満額の回答をもらった」との声が寄せられた。ただ「全く転嫁できなかった」割合も少なくなかった。
同9月のフォローアップ調査では新たに、発注側の価格交渉・転嫁への対応をまとめ、公表した。リストアップされた企業は、調査に回答した受注側の多くから主要取引先として挙がった211社。対応状況について点数化し、4段階で評価した。公表に踏み切ったのは、取引慣行の改善を発注側に促すためだ。
価格交渉・転嫁の進展には受注側の自発的な取り組みも欠かせない。全国警備業協会は、適正取引に向けて2018年に策定した自主行動計画の改訂を重ねている。行動計画では受注側の取り組み事項として、全警協が作成したリーフレットを価格交渉で積極的に活用することを明記。価格転嫁を求める際のコストアップの根拠には公表資料を使うことを呼び掛けている。
価格交渉について、中小警備会社の経営者に尋ねると、全警協のリーフレットを活用しているとした上で「取引先の個別の事情を勘案し、タイミングをみて交渉している」と話した。価格転嫁に関しては「希望額の8割ぐらいでいいと思っている」と語っていた。
適正取引への道のりは会社の数だけあると思う。取り巻く環境に好転の兆しが見える中、より良い方法を見出し、前進させてほしい。
【伊部正之】
「3月11日」2025.03.11
支援と復興担う警備業
小紙は今号で430号、創刊13周年を迎えました。全国の警備業有志の皆さんのご尽力によって発刊された警備保障タイムズは、「警備業による、警備業のための、警備業新聞」として、これまで歩みを進めてまいりました。
これもひとえに、読者の皆さまのご支援・ご協力によって刻むことのできた小紙の歴史であり、改めて心より感謝申し上げます。
編集部一同、これまで以上に警備業専門新聞として警備業経営者や教育担当者、警備員の皆さんのお役に立つ情報の発信に努めてまいります。引き続きのご支援・ご協力、お願い申し上げます。
◇ ◇
小紙の創刊日は、東日本大震災発生翌年の2012年3月11日である。「国民の安心と安全に寄与する生活安全産業である警備業の業界新聞。創刊日は3・11以外ない」という、当時の弊社代表の強い思いを受けた。
以来、編集方針の一つに「被災地(の警備業)に寄り添う」を掲げ、甚大な震災被害を被った岩手・宮城・福島の被災3県を訪問、取材してきた。震災発生10年目にあたる21年まで続けてきたこの取り組みでは、現地の警備業に携わる皆さんの“今”を紙面で伝えてきた。
被災地での取材では、津波で警備員を失った当時のことを思い出し、涙で言葉を詰まらせる経営者もいた。原発事故で故郷を長期にわたり離れることを余儀なくされ、行き場のない悔しさを口にした女性経営者にも会った。関東から警備業協会の災害支援隊の一員として被災地に赴いた若者は、「復興を見届けたい」と現地の警備会社に身を転じた。
想像を絶する悲しみや苦難を乗り越え、警備業務を通して震災からの復興に取り組む警備関係者の姿からは「震災被害を風化させていけない」との強い思いが伝わってくる。
しかし、「未曽有の災害」と言われた大震災後も、全国では熊本地震や能登半島地震など甚大な被害をもたらした自然災害が相次いで発生。今も復興への取り組みが続いている。
見直し相次ぐ支援協定
今年2025年は1995年の阪神・淡路大震災発生から30年という節目の年である。同震災を機に多くの都道府県警備業協会が地元警察や自治体と災害時の支援協定を結んだ。
支援内容は、復旧・復興工事での交通誘導警備や、被災住民が身を寄せる避難所警備など多岐にわたる。
近年は協定の実効性や支援の持続性を高めようと「支援の有償化」や、従事する警備員の「安全や補償」などに主眼を置いた協定見直しが相次いでいる。
近い将来発生が危惧される南海トラフ地震では、被害地域が広範囲にわたることから、災害支援においても広域での警備業協会の連携も求められている。
警備業は今や、災害支援活動では欠くことのできない重要な役割を担っている。被災住民を警備員として雇用するなど被災地復興にも大きく貢献している。
警備保障タイムズは今後も、国民の安心・安全に寄与する生活安全産業である「警備業」はもとより、「災害支援活動と被災地復興を担う警備業」も応援していきたい。
【休徳克幸】
街頭犯罪2025.03.01
「青パト活動」のすすめ
国民の「体感治安」が悪化しているという。警察庁が昨年10月に行ったアンケート調査では、「この10年間で日本の治安は悪くなったと思う」という回答が76.6%を占めた。
刑法犯認知件数は2002年の約285万件をピークに減少傾向で、21年に戦後最少を記録。しかし、コロナ禍収束後に増加に転じ、2月に警察庁が発表した24年犯罪統計では、認知件数約73万件となった。ピーク時の4分の1程度とはいえ3年連続増加している。
特に近年は、闇バイトで実行犯を募る匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)による強盗殺人や高額被害の詐欺など凶悪事件が全国で相次いで発生していることから、治安が悪化したと考える人が増えているのだろう。
一方で日常生活圏でも体感治安を悪化させる要因もある。自転車盗をはじめ、車上ねらい、ひったくりなどの「街頭犯罪」の増加である。街頭犯罪の認知件数は昨年、全国で約22万件で前年比4.6%増加。刑法犯総数の押し上げ要因となっている。
街頭犯罪の撲滅に向けては各地域で防犯カメラの設置や自主防犯パトロールの増強などの取り組みが行われている。自主防犯パトロールや児童の登下校見守りなどの活動は、住民や企業のボランティアによって支えられている。生活安全産業である警備業界でも積極的に取り組んでいる会社や団体も多い。活動を通じて住民やほかの企業や団体と交流の輪が全国に広がれば、警備業の存在意義やいち早く不審者の存在や街の違和感に気づくプロの技能を示す機会にもなるだろう。
新経済対策で助成金
国民の体感治安の悪化を受け、政府は昨年11月、新たな経済対策を策定した。この中に「国民の安心・安全の確保」として、防犯カメラの設置や、青色防犯パトロール(青パト)団体への活動助成が盛り込まれた。国民の安全安心を守るため政府の経済対策を、警備業の認知度を高める好機として活用できないだろうか。
青パトは車両に青色回転灯を装着し、児童の登下校の見守りなど自主防犯パトロールを行う04年12月に全国で始まった活動のこと。団塊世代の警察職員の大量退職や交番の統廃合などに伴う不安を払拭するため、警察や運輸局の許可を得た町内会などが、自主防犯パトロールに臨んでいる。青パトも20年を経て、各地で高齢化や人手・資金不足により継続が困難になるという団体が現れている。人口減少と高齢化が進む地方では、地元企業が関わることで担い手を確保しているケースもある。
警備業協会として青パト活動に取り組んでいるのが山形警協(我妻寿一会長)だ。13年12月に警協会長名で県公安委員会に青パト団体として登録した。現在は会員49社中10社の車両28台、実施者58人を登録し、警協は車両に取り付ける青色回転灯や「防犯パトロール実施中」と記されたマグネットシートの貸し出し、実施者向け講習会を開催している。ガソリンは会員の“自腹”だが、業務車で地域の防犯活動に参加することで、誰が地域の安全安心を守っているのか、住民にも伝わりやすい。
山形県の24年の街頭犯罪認知件数は458件。前年比17.5%減少した。警備業界が地域の防犯活動に貢献することで、安心して暮らせる住民が増えることを願っている。
【木村啓司】