視点
賛同者づくり2024.10.21
小さな青年部会、広く発信
今年も11月1日の「警備の日」が近づいている。警備業のことを世間一般に広く知ってもらうには、警備会社や警備業協会が単独で活動するよりも、行政機関や他業界などと関わりながら活動すると、これまで縁遠かった分野とのつながりができ、警備業に理解のある賛同者を増やすことにつながっていくのではないかと考えさせられる。
協会や青年部会、女性部会が広報活動を単独で行うと、場所の選定や手配、集客、配布物の作成など大変な労力がかかる。広く知らせるという点ではマスメディアの力を利用することも有効な方法だ。協会事務局職員の警察での経験と人脈が活かされることがあると思う。
最近の広報活動で目を引いたのは、山形警協(我妻壽一会長)の青年部会(松田大輔部会長=山形警備保障)が地元警察とともに、登校する高校生ら駅利用者に向けて「駐輪する自転車に施錠しよう」という趣旨の防犯キャンペーンに参加した件だ。少ない労力で発信効果を最大化する狙いを感じさせる取り組みだった。
電車通学する高校生を対象とする広報活動のメリットは、活動時間が朝の通学時間帯に限られるため、現場が近ければ午前中に業務に復帰することができること、現場の人の流れが駅と駐輪場までの動線に限定できるため、効率的にチラシなどを配ることができる、などが挙げられる。
ただ、駅を利用する高校生にしか広報できないことは難点だともいえる。
それを補ったのが当日取材に来た地元のテレビ局2社の存在だった。青年部会が活動している様子は松田部会長のインタビューとともに当日夕方のローカルニュースで流れた。
自転車盗難の増加自体が地域のタイムリーな問題であり、夏休み前の高校生に警察と警備業協会が呼び掛けたという点も相まって「ニュース性あり」を判断した地元放送局が撮影、放送した。チラシを渡した高校生のみならず電波によって不特定多数の人の目に触れる機会を作った意義は大きい。
松田部会長には前号「提言」欄に寄稿してもらったばかりだ。山形は全国最少メンバーで活動しているという。メンバーの手が足りなければ、周囲の協力を得るという考えは合理的だ。
地方都市での広報活動は、チラシなどを用意しても、手渡すメンバーが少ない、市街地の衰退で通行人が少ない、天候などの影響で活動時間の短縮などの制約を受けることがある。活動を着実に実行し、広報効果をより大きくするには、部会メンバーだけでなく、協会事務局や地元警察など周囲の協力や実施のタイミングを戦略的に練っていくことが欠かせない。
さらに、松田部会長が取材を受けている様子を、取材クルーごと撮影していたカメラが存在する。「カメラマン」は山形警協の細矢正明専務理事だ。動画は警協ホームページとYouTubeで公開している。
山形に限らず会員数が100社に満たず事務局員も少数な協会は少なくない。青年部会や女性部会のメンバー集めが大変だという話も耳にする。周囲の力を借りることにより、制約のある中で行われた活動を広く発信することは可能だと、小さな協会事務局と最少の部会が示している気がする。
【木村啓司】
高齢者・障害者2024.10.11
誰もが働ける職場を
9月の「障害者雇用支援月間」に続き、10月は「高年齢者就業支援月間」だ。ともに厚生労働省や関係機関が障害者や高年齢者の雇用への理解促進のために定めた月間である。同省や全国の自治体では月間中、これら雇用に積極的に取り組み大きな成果を上げている企業を表彰している。
警備業では9月にリライアンス・セキュリティー(広島市中区、田中敏也社長)が県から「障害者雇用優良事業所表彰」を受賞。10月4日には厚労省と独立行政法人の高齢・障害・求職者雇用支援機構が主催する「高年齢者活躍企業コンテスト」で、ドリーム(静岡県浜松市中央区、今釜伸也社長)が「厚生労働大臣表彰優秀賞」を、ヤオコービジネスサービス(埼玉県川越市、松浦伸一社長)が同特別賞を、それぞれ受賞した。“大臣表彰”は、警備会社としては10数年ぶりのことだ。リライアンス・セキュリティーは、障害者雇用に加え、同コンテストでも「理事長表彰優秀賞」を受賞するなど、警備業における障害者雇用や高年齢者活躍の進展を内外に示すものとなった。
一方で、わが国の労働力人口の減少を受け、障害者や高年齢者の雇用については近年、その意味合いも大きく変化した。障害者、高年齢者ともに、これまで以上に企業活動に不可欠な存在となり、雇用をめぐる各種制度も大きく変化しつつある。
体制整備待ったなし
障害者雇用については、22年に障害者雇用促進法が改正され、短い時間で働く精神障害者を「法定雇用率」の算定対象とすることなどが順次施行。「5年ごとに定める」とされている法定雇用率については、今年4月に2.3%から2.5%となり、26年には2.7%へと段階的な引き上げが決定している。さらに、同雇用率計算の際に、一定の割合で雇用労働者数を控除できる「除外率制度」についても、25年4月に一律10ポイント引き下げることとされ、警備業は現行の除外率25%が15%になる。
高年齢者雇用については、21年の高年齢者雇用安定法の改正により、70歳までの就業確保のための制度整備が事業主の努力義務となった。年金受給開始時期も段階的に引き上げられ、現在は65歳からの受給となっているが、さらなる引き上げも予想される。警備業各社においても障害者や高年齢者の雇用のための体制整備は待ったなしだ。
一方で施設警備や交通誘導警備の現場では、今も多くのシニア警備員を見掛けるように、これまで警備業では高年齢者を貴重な戦力として位置付けてきた。前記「コンテスト」で大臣表彰優秀賞を受賞したドリームでは、交通誘導警備業務2級の検定を昨年取得した93歳の交通誘導警備員が現場の要として活躍している。これまで警備各社に蓄積されてきた高年齢者雇用や活躍のためのノウハウを業界全体で共有、一層の雇用促進につなげていく必要がある。
「警備業では難しい」と言われてきた障害者雇用についても、「車いす警備員」が施設警備業務2級の検定を取得するなど活躍の場は広がりつつある。
高年齢者や障害者が安全に安心して“いきいき”と働ける職場は、取りも直さず若者も女性も働きやすい職場でもある。そんな職場や業界に優秀な人材が集まるのは言うまでもない。
【休徳克幸】
危機管理2024.10.01
「リスコン」へ行こう
10月9日から3日間、東京ビッグサイトで開催予定の「危機管理産業展」が話題になっている。今年で20回目の節目を迎える危機管理に関するトレードショー(見本市)だ。
「危機管理」は災害や犯罪の発生時に被害を最小限に抑え、最悪の状況から早く適切に脱出することが基本となる。元日に発生した「能登半島地震」の被災地は、復興の矢先に記録的な大雨に見舞われ再度の打撃を受けた。ニュース映像などから社会の危機管理への関心は高まっている。
今年の危機管理産業展は、防災・減災の取り組みが広いスペースを占める。「震災被害の写真と映像」「避難所の再現ゾーン」「備蓄食料を試食する防災カフェ」などの企画展示が行われる。被災地のインフラ点検や物資輸送に活用されたドローンの実演、体験コーナーも設置される予定だ。
災害発生時の警備業への期待は、阪神淡路大震災の被災地警戒活動以来大きい。そうした状況を受けて全国警備業協会は危機管理産業展に協賛しながら今年で11回連続の出展となる。東日本大震災など災害発生時の警備業の支援活動などを紹介する。
安全安心の付加価値
危機管理産業展と併催する国内唯一のテロ対策展示会「テロ対策特殊装備展」には、警備会社が出展を予定している。
初参加の国際警備(群馬県高崎市、山﨑健社長)は、ケブラー製のひもを発射し不審者に巻き付け“お縄”にする米国製の携帯拘束機器「ボラ・ラップ」を展示の目玉にする。同社・特殊装備部の土屋正徳氏は「米国には『ディ・エスカレーション』という考え方があります。『事態を段階的に縮小する』意味で、当社は犯行を早期に収束させるための商材を今後、警備業務の付加価値として販売していきます」と話す。
展示会の第1回から参加を続けるセキュリティーの幾田弘文代表取締役(岐阜警協会長)は、創業して間もなく「警備会社は大手以外は限界があり付加価値を持つ必要がある」と感じたという。
警察庁に特殊部隊「SAT」が設置された1997年にテロ対策資機材の商社業務を開始し、SATにナイトビジョン(夜間暗視装置)を納入。現在は商材を金属探知機やX線検査装置に広げ、今年は新たな商材としてVR(バーチャルリアリティー=仮想現実)トレーニングシステムも展示する。
付加価値を持つことは競合他社との差別化を図り、売上を向上させて価格転嫁による警備員の処遇改善、企業イメージ向上などを実現する。「安全安心」をキーワードに警備会社の商材は無限にあることから、柔軟な発想でオリジナルの付加価値を持つことは、各社の発展につながる。
危機管理産業展の略称「RISCON(リスコン)」は、リスクとコントロールから成る造語で「リスクを完全に回避することは困難だが可能な限りコントロールしたい」という主催側の思いが込められている。生活安全産業として顧客や公共の安全を守ることを生業とする警備業にとって、危機管理について最新情報を把握しておくことは重要なはずだ。
臨時情報が今夏に発出された南海トラフ地震の発生、来年開催される「大阪・関西万博」の警備・警戒を見据え、会場に足を運んで「危機管理の現在と未来」をぜひ知ってほしい。
【瀬戸雅彦】