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視点

外国人雇用2024.12.11

「検討」そのものが「財産」に

警備業界では、少子高齢化や他業界での人手不足など複合的な要因により、ますます人材確保が困難になっている。こうした中、外国人を雇うことで人材不足を解決できないか全国警備業協会をはじめ業界内で検討が進んでいる。

外国人警備員の雇用を実現する際の有力な適用制度が2019年にスタートした特定技能制度だ。人手不足が深刻な業種を国が特定産業分野に指定し、一定の専門性や技能を持つ即戦力の外国人に最長5年の在留資格「特定技能1号」を与えている。特定1号の指定分野には国土交通省が所管する建設や、厚生労働省が所管する介護、ビルクリーニングなどが指定されている。5年を経過し熟練した技術などが試験などで認められた外国人材は、更新さえすれば継続的に日本で働ける「特定技能2号」への切り替えが可能だ。

警備業界では現在、外国人材を雇い入れるために整備しなければならない制度づくりをどうするかなどについて調査している段階。さまざまな角度から調査、検討することが警備業界の現状を見つめ直すことにもなり、意義のあるプロセスとなるはずだ。外国人を適切に受け入れるために準備することにより、日本人の採用条件も見直され、応募が増えたり、在職中の隊員たちの待遇が改善するかもしれない。検討のプロセスそのものが警備業界の財産になるはずだ。

特定技能外国人を介護事業者などに仲介する会社(登録支援機関)の代表者は「誤解している事業者がいるかもしれませんが、特定技能外国人の雇い入れには時間もカネも相当のコストがかかります。安く紹介してもらえるルートから採用した外国人が実は日本語が理解できないということもあります。職場になじめず、全員が離職したという会社の採用コストは数百万円の損失でした。同じ国から来た特定技能外国人でも学んだ日本語学校の良しあしで語学力が全然違います」という。

外国人警備員の雇い入れについて、筆者は不安と期待が半々だ。だが、外国人警備員には人手不足を補う役割以上の効果を期待している。海外からの観光客が増え、施設や交通誘導、雑踏・イベントなどの警備業務に外国人警備員が配置されれば、多言語対応や異文化理解が求められる場面の対応が円滑になり、顧客からも旅行者からも喜ばれることだろう。語学スキルや異文化に対する感度の高い人材は、警備会社にとって貴重な存在となるに違いない。

外国人警備員の雇い入れに向けては、乗り越えなければならない最大の難関は言葉の壁だろう。特定技能1号に求められる日本語能力は日本語能力試験の「N4」相当となっている。基本的な語彙や漢字で書かれた日常生活や身近な話題の文章を、読解でき、ややゆっくりとした会話なら、内容がほぼ理解できるというレベルだ。警備現場で通用するとは思えない。独自に警備員に必要な日本語教育体制を作るなどの対策が必要だ。

前出の仲介会社の代表は「日本人も外国人も、人に変わりないというスタンスで、社内の教育担当者やメンターのようなスタッフが親身に相談相手になってあげることが大切です」という言葉に強く賛同する。警備業が教育産業の一面を持つことを社会に知ってもらう好機だ。

【木村啓司】

慰霊と誓い2024.12.01

労働災害のない警備業に

11月11日、今年も全国警備業協会主催による「全国警備業殉職者慰霊祭」がしめやかに執り行われた。村井豪・全警協会長や檜垣重臣・警察庁生活安全局長をはじめ、都道府県警備業協会の会長が参列、祭壇に花を手向けて殉職警備員の冥福を祈った。

殉職者の関係者として、事件に巻き込まれて26歳の若い警備員を失ったALSOK(東京都港区)の栢木伊久二社長と、国道で脇見運転のトラックを身を挺し止めようとして亡くなった女性警備員が勤めていたタスクマスター(山梨県甲州市)の秋山一也社長が追悼の辞を捧げ故人を悼んだ。

今回で3回目となった慰霊祭では、この2人を含め新たに6人の名が慰霊者名簿に記載され、合祀された御霊は45柱となった。

一方で「警備業にさえ入らなければ…」「警備員になりさえしなければ…」と、全警協による慰霊や合祀を断った遺族がいたことは想像に難くない。

厚生労働省の調べでは、2023年に警備業において労働災害で亡くなったのは35人。前年より10人増えた。死亡と休業4日以上を合わせた死傷者数は248人増の2178人。死亡、死傷ともに過去10年間で最多となった。

他業種の死亡者数をみると、建設業223人、製造業138人、陸上貨物運送事業110人など。「他の業種と比べれば警備業はまだまし」との意見もあろう。しかし、就業者数は建設業(技能者)302万人(国土交通省、22年)、製造業1044万人(総務省労働力調査、23年)などと、警備員数約58万人(警察庁、23年末)を大きく上回っており、労災発生率では警備業も他業種と大差ないことが分かる。

ちなみに24年1〜10月(11月7日現在)の警備業の労災発生状況は、死亡者数16人(前年同期比5人減)、死傷者数1564人(同19人減)。若干の減少となっているものの、これから年末年始や年度末など警備業務の繁忙期を控えており、予断を許さない状況であることに変わりない。

企業にさまざまな責任

労働災害が発生すると、事業者や企業はさまざまな責任・罪を問われることとなる。労働安全衛生法による安全措置義務違反、刑法による業務上過失致死罪、労働契約法による安全配慮義務違反――などの法的責任だ。加えて、指名停止や営業停止などによる公的調達からの排除、得意先からの取引停止措置、さらには民事損害賠償の請求などによる経済的損失。社会的には新聞・テレビなどの報道による企業イメージの低下と、これらによる人材確保難による事業活動の縮小なども予想される。適切な労働安全衛生管理などが行われていない企業では、労災事故が従業員の離職のきっかけともなりかねない。企業防衛の観点からも、労働災害は決して起こしてはならないのである。

人が働くのは、自身や家族、さらには社会の幸せのためだ。労働災害により「元気に仕事に出掛けた人が、変わり果てた姿で戻ってくる」など、当人の無念さや家族の悲しみに思いを致せば、あってはならない。

「労働災害のない警備業」「安全な警備業」の一日も早い実現を目指し、「警備業殉職者慰霊祭」を“慰霊の日”とともに労災根絶の“誓いの日”にしなければならない。

【休徳克幸】