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特集ワイド 「大阪・関西万博」守る2025.04.11

質の高い警備提供

4月13日から半年にわたり開催される大阪・関西万博は、国内外から訪れる人々に「安全安心を守る日本の警備員」の存在感を示す機会となる。会場警備の取り組み、大阪府警備業協会が行った研修会、警備で使用される通信機器を取材した。

大阪・関西万博では、警備共同企業体(東洋テック、セコム、シンテイ警備)とALSOKで編成する「2025年日本国際博覧会協会警備隊」(協会警備隊)が会場内の警備を行う。また、博覧会協会が発注した会場外の交通誘導警備、各パビリオンの発注による警備もそれぞれ行われる。

会場全体は約155ヘクタール、東京ドーム33個分の広さ。会場のシンボルとなる世界最大級の木造建築「大屋根リング」は全周約2キロメートルに及ぶ。協会警備隊は、雑踏事故の防止、要人警護、テロ対策などの観点から関係機関と連携し警備を行う。

協会警備隊による「ゲート警備」は、東西の来場者ゲートで手荷物検査を実施。東ゲートは大阪メトロ中央線・夢洲駅からの来場者が主で、西ゲートは主要駅からのシャトルバスなどでの来場者が主となる。会期中の来場者は約2820万人を想定し、X線検査装置、金属探知機、液体検査装置などでスクリーニングを行う。

ゲート警備隊の大隊長を務める菊池満氏は「危機管理センターや関係機関、隊員相互の緊密な連携は重要。『制服は違えど気持ちは一つ』で一致団結し質の高い警備を提供したい」と決意を述べた。

「会場警備」は、パブリックスペースの警備を担当、5つの「方面隊」と「直轄警備隊」が立哨や巡回を行う。地上と大屋根リングの昇り降りでの事故防止など、任務は多岐にわたる。

会場警備隊の大隊長・阪上学氏は、25年前に兵庫県内で開催された「淡路花博」から警備に携わってきた。「隊員一人ひとりが力を発揮し、力を合わせることで、来場したお客さまの笑顔につなげたい」と話している。

巡回では、セコムが博覧会協会に運営協賛として提供したセキュリティロボット「cocobo(ココボ)」も活用。4台が巡回ルートを自律走行し、搭載のカメラでとらえた映像をリアルタイムでAI解析、転倒者を検知すると危機管理センターに通報する仕組みだ。

4月1日には総合防災訓練が行われ、協会警備隊が参加した。パビリオンでの火災発生を想定、警備員は避難誘導を行い、警察官や医療救護隊とともに避難者への対応を確認した。

4月2日に行われた協会警備隊の発隊式で、博覧会協会・石毛博行事務総長は「東西のゲートに到着したお客さまが最初に接するのは警備員です。会場内で迷った人から声を掛けられることもあるでしょう。違反やトラブルを見逃さない頼もしさとともに『万博の顔』として努めていただきたい」と強調した。

外国人来場者に向けては、警備員は30か国語に対応する翻訳アプリ「EXPOホンヤク」などを活用して対応する。

同日の会場内では、パビリオンの内覧会が行われて関係者が行き交い、関係車両が通過していた。大屋根リング付近で会期前の車両誘導業務を行う岡田和樹さん(シンテイ警備)は「万博という国際的なイベントの警備に参加する機会に恵まれ、円滑な誘導を通じて安全安心に貢献していきたい」と話した。

大阪府警備業協会・池田博之会長

まもなく2025大阪・関西万博が開幕します。

このナショナルイベントに対し、開催地である大阪の警備業協会会長としての決意に加え、私にはもうひとつの特別な想いがあります。

万博誘致も大詰めに差し掛かった2018年、前職での経済界のめぐり合わせもあり、関西経済同友会代表幹事として誘致活動に携わりました。政官界、大阪府市、経済界が一体となった、文字通りオールジャパンでの誘致活動であり、同年11月23日にパリで開かれたBIE総会にも出席し、発表直前まで誘致活動を行っていました。大阪が万博開催地に決定した瞬間、日本チームは歓喜に湧き、松井一郎大阪府知事や吉村博文大阪市長(いずれも当時)らと喜びを分かち会えた経験は、私の一生の宝物です。

時が経ち、今度は大阪府警備業協会会長として、万博の安心・安全を守っていく立場となりました。

大阪府警備業協会では、2018年からイベント対策特別委員会を設置し、博覧会協会への提言や従事者向けの各種研修会を開催し、万全な万博警備に向けて取り組んできました。開幕後においても、万博警備従事企業や警備員のサポートにしっかりと取り組んでまいります。

万博における警備の成功は、東京2020大会の警備と同様レガシーとなり、我々警備業界をさらなる発展に導いてくれるものと思います。業界が一丸となって、安全・安心な大阪・関西万博を実現し、世界に向けて日本の警備品質をアピールしましょう。

大阪警協研修会

大阪府警備業協会(池田博之会長)は2025年に入って「大阪・関西万博」の警備業務を行う警備員を対象に、協会内で4テーマで研修会を開催した。約6か月間にわたって続く万博警備に向けて、警備員は基本的知識について理解を深めた。

2月28日には「熱中症予防対策研修会」と「救急法・救命技能研修会」を開催した。中央労働災害防止協会・安全管理士兼衛生管理士の髙田隆寿氏が講師を務め、命に関わる熱中症を防ぐ対策を伝えた。

大阪市消防局が製作した「普通救命用テキスト」を使い、心臓が細かくふるえる心室細動が起きた人への応急手当を学んだ。胸骨圧迫とAEDを使った心肺蘇生法の訓練を行った。

3月10日は「マナー教育担当者研修(入門編)」を行った。講師はイオンディライトセキュリティの阿久津菜実乃氏が担当。身だしなみの重要性や適切なクレーム対応についてレクチャーした。

「無線通話要領の基本」と題した研修会も開いた。大阪警協の委嘱講師が無線通話の基本や訓練方法、通話事例などを紹介した。

3月17日には「あいサポート研修会」と題し、障害者対応について学んだ。講師は大阪市障害者相談支援研修センターの担当者。▽「あいサポート運動」についての説明▽障害について理解するためのDVD視聴▽「あいサポート運動」ハンドブックの解説▽あいさつなど簡単な手話の紹介――の内容で約75分行った。

「あいサポート運動」は、障害者に必要な配慮を理解し、困っている様子に気付いたら一声掛けるなど共生社会を目指す運動のこと。日本国際博覧会協会は「警備員に対する事前教育・教養」として「あいサポート研修」を推奨している。

Buddycom

「大阪・関西万博」の警備業務では、最先端の機器やシステムが活用される。その一つにサイエンスアーツ(東京都渋谷区、平岡秀一社長)の「Buddycom(バディコム)」がある。

サイエンスアーツは2023年11月、「大阪・関西万博」にサプライヤー(供給者)として協賛し「Buddycom」が「万博警備と防災活動に使用するIP無線アプリ」として提供されることが決まった。

「Buddycom」はスマートフォンで無線機のようなグループ通話が可能となる。警備現場で発生するさまざまな事案を発信することで、危機管理センターと情報共有して迅速な対応が可能となり、日本国際博覧会協会や医療、警察、消防などとの連携がスムーズとなる。

万博警備に活用できる特長として次の点がある。▽専用端末を必要とせずスマホ1台で運用できる▽軽量で持ち運びしやすく警備員の負担軽減につながる▽会話の内容はテキスト化でき事後の記録として活用できる▽画像や映像、位置情報をグループ間で共有でき現場の状況などを迅速に伝達する▽インターネットを介すことで安定した回線の確保と遠隔支援が可能となる▽専用の周辺機器が豊富でスマホ操作が最小限で済む――など。

サイエンスアーツは3月3日、「うめきたグラングリーン大阪」(大阪市)内の中核機能施設「JAM BASE」に拠点を開設することを発表。万博警備を機に西日本エリアの事業拡大を図る。