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視点

BCP策定2024.05.01

社会的信用に応える

豊後水道を震源とするマグニチュード6.6の地震が4月17日深夜に発生した。南海トラフ地震との関連を心配した人もいたことだろう。有事に対する心配は尽きないが、安心のためには、日ごろの備えが肝要だ。企業であれば業務の再開に向けたシナリオをあらかじめ文書化しておくことが求められる。事業継続計画(BCP)のことだ。

BCP(Business Continuity Plan ビジネス・コンティニュイティ・プラン)は「防災計画」と混同されがちだが、BCPの中に災害発生初期の人や財産を守るための防災計画は含まれている。切れ目のない業務遂行のため、会社の存続に関わる最も重要性・緊急性の高い「中核となる事業」への影響度評価や「ボトルネック」となる資源(資機材、車両など)リストなどが盛り込まれている。

機械警備を中核事業と位置づけている島根県の北陽警備保障(松江市、松本泰由社長)は12年前にBCPを策定。ホームページで中核事業、目標の復旧時間とその復旧レベルを示すことで、安全安心を途切れさせない警備会社であることのアピールにつながっている。事業継続方針では(1)人命の安全確保(役員・従業員・家族・顧客)(2)社会的な供給責任の遂行(3)自社の経営維持と雇用の確保(4)地域との協調と地域貢献(5)二次災害の防止――を掲げ、社会的信頼にどう応えるのかを明記している。

BCPの策定は中小企業庁が推進している。「中小企業BCP策定運用指針」の公開のほか、BCPを策定しその準備に要する支出は税制優遇や低利融資が受けられる認定制度を設けている。既に複数の警備業者が認定を受けている。

全国警備業協会も昨年9月、中企庁の同指針を基に、ライフラインの復旧に3日かかる災害を想定した「警備業者としての事業継続計画ひな形」を公開した。ひな形のファイルは警備業者が利用しやすいようアレンジされている。

介護業界では、4月の介護報酬改定に伴い、介護事業者のBCP策定が義務化された。エッセンシャルワーカーである介護事業者が有事でもサービスを提供する姿勢をBCPを通じて示せば利用者は安心だ。サービスを選ぶ際、BCPの有無が判断材料になりうる。義務化に伴い未策定事業所の基本報酬を減算する制度も設けられた。厚生労働省は未策定の事業所を把握した場合、把握時点ではなく「基準を満たさない事実が発生した時点」にさかのぼって適用すると公平な運用方針を示している。

帝国データバンクが全国の企業を対象に実施したBCPに関する意識調査では「策定意向あり」の回答が3年連続で半数を割った。中小企業の策定率は15%程度にとどまっている。策定していない理由は「必要なスキル・ノウハウがない」「人材を確保できない」「時間を確保できない」「書類作りで終わってしまい、実践的に使える計画にすることが難しい」などが上位を占める。

警備業が有事に社会ニーズに応えていくには、いち早い業務再開が大前提だ。平時のうちにBCPを策定し内外に発信しておけば、ユーザーは安心するし、新たな取引につながるかもしれない。他業界での策定が低調のいま、警備業界が率先して策定し、発信することで、エッセンシャルワーカーであることのPR、社会的な信頼の獲得、地位向上につながると思う。

【木村啓司】