視点
労災防止2024.05.21
情報感度、高めよう
労働災害に歯止めをかけるため、7月1日から7日まで行われる「全国安全週間」では6月が準備期間となる。仕事中の熱中症を防ぐ「クールワークキャンペーン」は5月1日から実施されている。あらためて、労災防止の意識を新たにする機会としたい。
厚生労働省のまとめでは過去10年(2013〜22年)で、警備業での労災による死傷者数(死亡と休業4日以上の合計)は年平均1641人、死亡者数は同26人。労災の多い業種であり、人材確保・定着の観点からも対策の徹底と継続が求められている。
全国警備業協会は、昨年作成した「受傷事故防止対策マニュアル」をホームページに掲載している。その中で警備業の労災を例示。道路工事現場での一般車両の交通誘導中に重機にひかれたケースや、炎天下の屋上駐車場での車両誘導中に熱中症を発症したケースを取り上げ、原因と再発防止策を示している。
また、作業開始前に行う危険予知活動(KYT)に触れている。KYTとは、その作業にどんな危険が潜み、どのような災害が起こり得るかを話し合い、対策を共有する取り組み。マニュアルでは事例学習の一環として問題が出されており、実践に役立つ内容だ。
厚労省によると、警備業の死亡労災の原因では道路交通事故が最も多い。マニュアルでは主な防止ポイントとして▽車両の運転手からよく見える場所に立つ▽分かりやすく、大きな動作で合図を行う▽自己防衛を心掛ける――を挙げる。どれも基本的なことと言えるが、仕事への慣れは時として、気の緩みや過信を生む。それが事故に巻き込まれることにつながる恐れがある。ベテランを含め、注意が必要だ。
若者向けに漫画教材
労働災害は高年齢層で多い半面、若年層での発生も決して少なくない。それを踏まえ、中央労働災害防止協会(中災防)は新たに、若い世代向けに「漫画教材」(全9話)を作った。視覚的に親しみやすく、分かりやすい漫画の方が自分事として、労災を捉えてもらえるのではと考えた。中災防のホームページで静止画を読み、約20分の動画を視聴できる。
漫画の主人公は犬のキャラクターで、名前は「あん犬くん」。タイムリープという能力を持っていて、漫画では過去に戻り、労災の原因を突き止めていく。男性社員と女性社員が主人公に同行し、労働安全衛生について学ぶストーリーだ。同行社員2人は入社6年目と1年目の設定で、若い世代が感情移入しやすくなっている。
労災の原因で最も多い転倒については、漫画の第3話で扱い、予防3か条(ながら歩行をしない、急いでいる時・慌てている時ほど注意、清掃清潔を徹底して足元の安全確保)を紹介。第5話では「報連相」を取り上げ、第6話では服装の乱れへの注意喚起を行っている。
一方、中災防は、9月30日までが実施期間のクールワークキャンペーンの事業として、熱中症対策のリーフレットを作成。漫画教材と同様にホームページで公開している。
こうした情報は、待っていて得られるとは限らない。アンテナを張り、感度を高めることが大切だと思う。労災ゼロへ向けた取り組みの1つとして、情報を集め、活用することを積み重ねてほしい。
【伊部正之】
BCP策定2024.05.01
社会的信用に応える
豊後水道を震源とするマグニチュード6.6の地震が4月17日深夜に発生した。南海トラフ地震との関連を心配した人もいたことだろう。有事に対する心配は尽きないが、安心のためには、日ごろの備えが肝要だ。企業であれば業務の再開に向けたシナリオをあらかじめ文書化しておくことが求められる。事業継続計画(BCP)のことだ。
BCP(Business Continuity Plan ビジネス・コンティニュイティ・プラン)は「防災計画」と混同されがちだが、BCPの中に災害発生初期の人や財産を守るための防災計画は含まれている。切れ目のない業務遂行のため、会社の存続に関わる最も重要性・緊急性の高い「中核となる事業」への影響度評価や「ボトルネック」となる資源(資機材、車両など)リストなどが盛り込まれている。
機械警備を中核事業と位置づけている島根県の北陽警備保障(松江市、松本泰由社長)は12年前にBCPを策定。ホームページで中核事業、目標の復旧時間とその復旧レベルを示すことで、安全安心を途切れさせない警備会社であることのアピールにつながっている。事業継続方針では(1)人命の安全確保(役員・従業員・家族・顧客)(2)社会的な供給責任の遂行(3)自社の経営維持と雇用の確保(4)地域との協調と地域貢献(5)二次災害の防止――を掲げ、社会的信頼にどう応えるのかを明記している。
BCPの策定は中小企業庁が推進している。「中小企業BCP策定運用指針」の公開のほか、BCPを策定しその準備に要する支出は税制優遇や低利融資が受けられる認定制度を設けている。既に複数の警備業者が認定を受けている。
全国警備業協会も昨年9月、中企庁の同指針を基に、ライフラインの復旧に3日かかる災害を想定した「警備業者としての事業継続計画ひな形」を公開した。ひな形のファイルは警備業者が利用しやすいようアレンジされている。
介護業界では、4月の介護報酬改定に伴い、介護事業者のBCP策定が義務化された。エッセンシャルワーカーである介護事業者が有事でもサービスを提供する姿勢をBCPを通じて示せば利用者は安心だ。サービスを選ぶ際、BCPの有無が判断材料になりうる。義務化に伴い未策定事業所の基本報酬を減算する制度も設けられた。厚生労働省は未策定の事業所を把握した場合、把握時点ではなく「基準を満たさない事実が発生した時点」にさかのぼって適用すると公平な運用方針を示している。
帝国データバンクが全国の企業を対象に実施したBCPに関する意識調査では「策定意向あり」の回答が3年連続で半数を割った。中小企業の策定率は15%程度にとどまっている。策定していない理由は「必要なスキル・ノウハウがない」「人材を確保できない」「時間を確保できない」「書類作りで終わってしまい、実践的に使える計画にすることが難しい」などが上位を占める。
警備業が有事に社会ニーズに応えていくには、いち早い業務再開が大前提だ。平時のうちにBCPを策定し内外に発信しておけば、ユーザーは安心するし、新たな取引につながるかもしれない。他業界での策定が低調のいま、警備業界が率先して策定し、発信することで、エッセンシャルワーカーであることのPR、社会的な信頼の獲得、地位向上につながると思う。
【木村啓司】