視点
労務単価2025.02.21
賃金アップが先だ
国土交通省は2月14日、2025年度の「公共工事設計労務単価」を決定した。新たな単価は、年度変わりを待たずに3月から国が発注する公共工事に適用される。
新たな単価は、全国・全職平均で前年度比6.0%の引き上げ。昨年度の5.9%増を上回り、13年連続の引き上げとなった。
警備業の単価は、交通誘導警備業務1・2級の検定合格警備員の「警備員A」と、A以外の「警備員B」の2種類を設定。25年度の全国加重平均単価は、A・Bともに5.7%増となり、Aが1万7931円、Bが1万5752円となった。
新単価は、昨秋全国平均で51円という大幅な引き上げが行われた「地域別最低賃金」や「人手不足による人件費高騰」などを受けた。さらに、2月4日に開かれた政府の閣僚懇談会では、石破茂首相が物価高への対応の一環として、賃金上昇などを踏まえた労務単価引き上げを国交省に指示。中野洋昌国交相は「最新の賃金上昇の情勢などを十分に踏まえ、月内に総理指示に基づき適切な労務単価を設定したい」と述べるなど、当初予定よりさらなるアップが行われたようだ。
一方、労務単価引き上げについて議論される場で、国交省の担当者が常に口にするのが「単価は、これまでに実際に支払われた賃金の結果」という指摘である。
単価は同省が毎年10月に行っている、全国の公共工事に従事している労働者の賃金実態調査「労務費調査」の結果を元に、労働市場の“実勢価格”などを勘案して決定される。
ここ10年来、公共工事従事者の社会保険加入促進や経済対策などとして“意図的”に単価は引き上げられてきた。これが未来永劫続くことはあり得ない。
警備業が、これまで以上に労務単価を引き上げていく唯一の方法は、公共工事に従事する警備員の賃金を引き上げ、その結果を正しく労務費調査に反映させることだ。そのためには、警備品質をより高めて適正警備料金獲得や料金アップを実現し、これを原資に警備員の賃金を引き上げていく以外に方法は見当たらない。
「標準労務費」作成急げ
公共工事設計労単価は、公共工事に従事する人の賃金に関する国が定めた「公定価格」である。一方で、単価引き上げが続いているとは言え、元請け建設会社が請負代金抑制のための「相見積もり」「値引き要請」などを下請け業者に行い、警備業をはじめとする下請会社が国の示した単価を受け取れないケースも多い。
このため建設業では、現場施工を行う多くの専門工事会社の疲弊を招き、技能工の離職など「担い手不足」が深刻化した。事態を重く見た国交省は、建設業法など関連法を「担い手3法」と位置づけて改正を実施。労務単価を元に国が定めた適正水準の労務費を、“著しく下回る”ことを禁じる「標準労務費」とし、適正賃金が現場労働者に行き渡る仕組みをつくった。
標準労務費は今後、建設職種で順次作成されていく予定だが、警備業については作成の有無さえ不明だ。作成されたとしても建設職種の後になるに違いない。警備業としては、早急に“独自”の「警備業標準労務費」を作成して国交省に適用を求めていくことが求められる。
【休徳克幸】
DX推進2025.02.11
「2025年の崖」越えよう
「2025年の崖」は、経済産業省が7年前に発表したレポートに登場する言葉だ。日本企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を実現できない場合、2025年以降、年間最大12兆円の経済損失が生じると警鐘を鳴らした。それを受けて、業界ごとに崖を越える取り組みが進められてきた。
警備業は警備員の3人に1人が65歳以上と労働年齢が高い業界であることから今後、人手不足がさらに深刻化することが間違いない。DX化により人と技術で役割を分担し、効率化と省人化を図る必要がある。
警備業で今、広がりを見せているDXとして「管制システム」が挙げられる。管制業務や事務作業を効率化するシステムで、数社が開発・販売しており機能や使いやすさで切磋琢磨している。
基本的な機能は、警備員からの上・下番報告をスマートフォンのボタン操作で行ったり、管制員からの業務指示をLINEやショートメールで送るなどだ。これにより本部と現場の双方で手間と時間を削減できる。警備員の勤怠状況はデータ保存され、他のシステムと連携させることで請求書作成や給与計算の自動化を実現する。電子日報やデジタル簿冊の作成、警備員自動配置の機能も追加された。
システムを導入した警備会社に話を聞く機会があった。「管制業務が効率的になり、担当者はその分、他の作業を行うことができる」「警備員は報告時、話し中の電話待ちがなくなり、日報を毎日手書きで作成する手間が軽減された」などの効果があったという。
警備業でほかに進められているDXに「AI搭載交通誘導システム」がある。国土交通省は昨年2月に「交通誘導システムを活用した際の費用計上」「道路工事保安施設設置基準」を発出し地方整備局などに通知。AI搭載システムを活用した片側交互通行での警備業務に警察署から道路使用許可が下り、実用化が始まっている。
国交省は昨年、建設業法(担い手三法)の3回目の改正を行い施行した。「ICT(情報通信技術)を活用した生産性向上」が努力義務として盛り込まれ、交通誘導警備業務の発注元である建設会社は新技術を積極的に採用している。AI搭載交通誘導システムは省人化だけでなく、イメージアップの効果もあり若い担い手が集まる。交通事故による労働災害を減らすためにも浸透させてほしい。
施設警備でもDXは進められている。設置したICカードにスマホをタッチすることで警備記録を行う技術や、不審行動をAI搭載カメラが検知して通知し問題を未然に解決する技術などは今後、急速に広がりそうだ。
しかし実際にDX化に踏み出した警備会社は、残念ながらまだ一部である。経営者が躊躇する理由に、資金不足や専門知識を持つ人材の確保が難しいことがある。まずはペーパーレスによる経費削減やグループLINEによる情報共有など、身近な取り組みから踏み出すことが必要だ。
最新技術の情報収集も必要だろう。3月4日から7日までの4日間、東京ビッグサイトで「SECURITY SHOW」が開催される。AI搭載交通誘導警備システムは2社、管制システムも2社が出展し、実機を展示したりデモを行う。自社のDX化や課題解決のヒントをつかむチャンスだ。
【瀬戸雅彦】
青年部会2025.02.01
会員増やし裾野広げよう
警備業界では近年、青年部会が相次いで発足し、現在42都道府県の警備業協会に設置されている。新たに設置を検討している協会もある。
全国的に青年部活動が広がった背景には、慢性的な警備員不足の問題が横たわる。次世代を担う若手経営者や経営幹部がアイデアを出し合い行動力を発揮して警備業の広報などに取り組み、人材確保につなげてほしいという協会関係者の期待が、相次ぐ発足につながったといえよう。
県をまたぐ新しい交流も活発だ。石川の青年部会は昨年11月に仙台市を訪れ、宮城の青年部と「震災後の警備業」について意見交換を行った。12月には神奈川の青年部会が、能登半島地震の被災地・七尾市と内灘町を訪問。石川の青年部会員から発災直後の安否確認方法や備蓄品について聞き、非常時の対策に理解を深めた。
北海道・東北の「青年部サミット」は6回を数え、関東地区10県は各県警察と連携し防犯啓発キャンペーンを展開。京都、大阪、兵庫は警備員教育をテーマとする3府県合同勉強会を、四国4県は初の協議会を、九州8県は「G8会議」を今年度それぞれ開催。連携を図るとともに自県の活動に一層の力を注いでいる。
警備員の有効求人倍率が高い中、ハローワークで開かれる求職者向けセミナーでは、青年部会員が警備業について説明する取り組みがある。今年度、千葉県内4か所のハローワークで「警備のお仕事セミナー」が開かれ、講師を務めた千葉警協青年部会の大村太一副部会長(タイヨー)は、次のように話している。
「ハローワークの担当者から『求職中の人たちは企業にどのような情報を求めているか』を聞いた上で、警備業が担う役割などを伝える方法を部会員と練りました。警備員の仕事に関して求職者から寄せられるさまざまな質問に答えてセミナーを重ねる中で、採用活動全般に対する視野が広がったと思います」。
青年部活動は警備業界への貢献に結びつくものだ。しかし、部会員は働き盛りの年代。社業が多忙な中でスケジュールをやりくりし会議や各種活動に参加している。積極的に行動する新メンバーが加わるなら負担は軽減されることだろう。
青年部会の入会資格は経営者や経営幹部に限らず、幹部候補者などの若手社員に裾野は広がっている。「業界発展のために汗を流したい」と社員が決意した時、参加するには上司の理解を得て所属会社に快く送り出してもらうことが必須の条件となる。
より多くの経営者、業界関係者が今まで以上に活動を応援し青年部メンバー増加に向けてバックアップしてほしい。
多くの部会では「50歳以下」などの年齢制限がある。ある青年部会の役員は「今年度で3人が年齢のため“卒業”するが、同じ人数を補充するのは簡単でなく、会員会社に広く声を掛けなければならない」と話していた。活発な活動を継続していくために部会員の確保は必要不可欠だ。
警備業の将来像、一層の地位向上を見据え、情報を共有し意見を交わす。社業とは異なる活動で切磋琢磨し、視野を広げる。青年部活動は健全な業界発展に欠かせないものであり、参加して汗を流した経験は、いずれ社業の中で活かされるに違いない。
【都築孝史】