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視点

最低賃金2024.08.21

処遇改善につなげる

今秋から適用される2024年度「地域別最低賃金」が40都道府県で決定した(8月14日現在)。月内には残り7県の新たな最賃額が決まり、10月から適用される見込みだ。

厚生労働省の中央審議会は7月、24年度の最賃について過去最大の引き上げ額の目安「50円(5.0%増)」を示した。ここ数年、コロナ禍だった20年度を除き大幅な引き上げ傾向が続いているが今回もこれを踏襲。全国加重平均の最賃額(時間給)は現行の1004円から1054円となる。

政府は目標に「2030年代半ばまでに1500円」を掲げ、審議会の構成員である労働組合は「2年程度で全都道府県で1000円以上、中期的には一般労働者の賃金中央値の6割」を主張。審議会のもう一方の構成員である事業主団体は大幅な引き上げを「企業の実態を無視するもの」と反発するものの、深刻な人手不足などから引き上げを容認せざるを得ないのが実情だ。

それを如実に物語るのが、働く人が最賃の高い近県に流出するのを防ぐため、昨年度は24県の最賃額が目安額を上回ったことだ。今年度もすでに最賃が決定した40都道府県中、鳥取県が57円増、鹿児島・沖縄56円増など20県で目安額50円を上回り、他の地域でも同様の動きが予想される。23年度の最賃が全国で最も低い岩手では、県知事が労働局長に最賃のさらなる引き上げを要請した。

これらのことからも最賃の大幅引き上げは今後も続くものと思われる。警備業経営者には、これまで以上の覚悟と有効な対策の速やかな実施が求められる。

価格転嫁、もはや不可避

最賃引き上げは事業主、とりわけ中小事業主には深刻な問題だ。特に業務遂行に多くの警備員を要し、人件費がコストの多くの部分を占める警備業にとってはなおさらだ。人件費上昇分の警備料金への上乗せ「価格転嫁」は、もはや不可避である。

朗報もある。政府が6月に閣議決定した今後の経済財政運営の拠り所とする「経済財政運営と改革の基本方針2004(骨太の方針)」には、初めて警備業を明記。「賃上げに向け労務費の価格転嫁を進める」などが記された。

全国警備業協会(村井豪会長)も「警備業における適正取引推進等に向けた自主行動計画」を抜本的に改訂。価格転嫁に関する取り組み事項を新設するなど、加盟社の価格転嫁への取り組みを後押しする。公正取引委員会や中小企業庁などの下請Gメンなどを活用した下請法の執行強化、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」策定など価格転嫁のための各種支援もある。何よりも価格転嫁に対し社会が容認する機運が醸成されつつある。

「ポスト数を減らされた」「他社に乗り換えられた」――。警備業の価格交渉がいかに困難かは、全国の多くの経営者から聞かされてきた。しかし、いつまでも“言いなり”では現場で汗する警備員が可哀そうだ。

「生活安全産業」としての自負と、質の高い警備業務の提供という武器を手に、価格転嫁に果敢に取り組み、警備員の処遇改善につなげてほしい。最賃引き上げは経営には大きなピンチだが、それを適正料金確保や処遇改善のチャンスに変えられるかは経営者一人ひとりの行動にかかっている。

【休徳克幸】

広報活動2024.08.01

警備の魅力、伝えよう

警備業では今「広報活動」が重要視されている。業界最大の課題である「慢性的な人手不足」を改善するため、業界が一丸となって警備の仕事の魅力について広く伝える必要がある。

全国警備業協会は6月の定時総会で「広報活動の積極的推進」を事業計画の重要項目に据えることを報告した。全警協では青年部会を中心とした広報プロジェクトチームを昨秋立ち上げ、効果的な施策について協議を重ねてきた。理事会の承認を受け、2つのプランを現在進めている。

一つは「プロモーション動画の制作」。生活者の視点から「つつがない日々をどう提供するか」をテーマに警備の仕事の魅力を伝える内容だ。2〜3分の動画のほかSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の広告用ショートバージョンも制作する。完成した動画は各警協や会員各社、ハローワークなどで視聴してもらう。

もう一つは「小学校や図書館への寄贈書籍の提供」。警備の仕事の大切さをアピールする「学習漫画」を制作し、小学校や図書館に寄贈するプランだ。子供だけでなく保護者にも読んでもらい警備業のイメージアップを目指す。

動画、書籍とも今年度中の完成を予定している。警備業は他の業界と違って専門性が高く、法定教育の受講が必要で、世の安全に貢献するやり甲斐を持てる仕事であることを訴求してもらいたい。

警備業の魅力を発信する取り組みとして、各警協ではこれまでになかったユニークな取り組みを始めている。秋田警協は7月、秋田市内の夏祭りに参加し、DXツールを使った広報活動を展開。来場者は警備員教育用の交通誘導警備業務VR(バーチャル)システムを体験し業務への理解を深めた。

山梨警協は10月、甲府市内で予定されている建設業協会主催のイベントに参加する。警備業務の発注元である建設業関係者に、警備業への認知を広める。イベントの企画運営を担当する建設業協会青年部会との交流も含め多くの成果が見込まれている。

若年層に効果あるSNS

人手不足に苦しむ警備会社では何より「人材確保」が広報活動の大きな目的となる。広告宣伝費をかけて募集しても応募がない若年層に向けて、SNSを使用した広報活動が成果を挙げている。

多くの年配者にとって馴染みが薄いSNSだが、スマートフォンが生活の中心となっている若年層には効果がある。投稿は基本的に無料であることから採用コストを抑えることができ、今後は活用が広がりそうだ。

トーセイコーポレーション(静岡県沼津市、杉山喜乃社長)は4年前にSNSを使った広報活動をスタートさせた。若い社員が中心となりTikTokやインスタグラム、YouTubeの企画、撮影、編集を行って、自社の取り組みや日々の出来事を発信している。「職場の雰囲気が楽しそう」と20代の応募があるという。

広報活動は「パブリック・リレーションズ(PR)」という米国の考え方が基となり、組織が社会と良好な関係を築くため時代に合った方法で行われてきた。警備業界を挙げてPR活動に尽力する「11月1日・警備の日」まで3か月。各警協は青年部会を中心に知恵をしぼり、例年以上に斬新で効果的な広報活動を期待したい。

【瀬戸雅彦】