警備保障タイムズ下層イメージ画像

視点

現任教育2024.11.11

スキルアップ、企業発展

ある民間調査によると、2024年度は各業界で7割以上の企業が「従業員教育費」を増額している。企業発展のため、他社に負けない人材を育成するコストは欠かせないことがうかがえる。

質の高い警備業務は、手厚い教育から生まれる。警備会社は新任教育、年度ごとの現任教育、さらに特別講習や各種の教育訓練に取り組むことによって、安全を守り顧客の信頼を勝ち得てきた。現在、警備業界を挙げて推進する価格転嫁、適正料金の確保は、質の高い業務の提供と表裏を成すものだ。

警備員は毎年度、基本教育と業務別教育で合わせて原則10時間以上の現任教育が義務付けられている。すでに習得した技能について再確認するとともに、法律改正などの新しい知識を増やしている。

勤続年数の浅い警備員も経験豊かなベテランも受講する現任教育は、一人ひとりのスキルアップを図り、業務に対する意欲を一層引き出す重要な機会だ。

ある中小警備会社の経営幹部は「現場への直行直帰が多い隊員たちが社内に集まり、会社の方針や現況について説明を聞いた上で教育を受ける。教育担当者の熱意や工夫によって、より多くの隊員がやる気を出すと結束が高まって会社の強みになる」と話した。

別の会社では現任教育の中で、交通誘導警備2級検定の問題を分かりやすく解説したところ「検定はハードルが高い」と敬遠していた複数名の警備員が「やればできるかもしれない」と前向きになった。進んで特別講習の受講を希望、勉強を続けて資格を取得した例もあったという。

施設のユーザーや建設現場の監督などから「引き続き◯◯さんに警備をお願いしたい」と指名を受ける警備員がいる。スキルアップして指名される警備員が増えると、企業の信頼は高まる。顧客にとっては“他社に代えがたいパートナー警備会社”となるに違いない。

「エデュセキュア!」

現任教育に携わる各社の教育担当者には「毎年、意欲的に受講してもらうにはどのような内容にするか」といった課題があるようだ。

静岡県警備業協会が10月に開催した警備員指導教育責任者研修会の中で「エデュセキュア! 現任内容シェア会」と題する新しい試みが行われた。

企画立案したのは青年部会。協会会員が自社の教育を話し合い、互いに刺激を受けて“教育の引き出し”が増える一助になれば――との趣旨だ。

「教育について話す」となると、肩に力が入りがち。そこでエデュケーション(教育)とセキュリティーを合わせた造語「エデュセキュア」と名付けることで、固くならず話しやすい雰囲気づくりを図った。各社の教育には「カスタマーハラスメント」に対する実践形式の訓練、「闇バイト」など犯罪傾向の解説と侵入盗対策など、時代を映すテーマが盛り込まれていることが明らかになった。

多様化する社会のニーズに応えていくため、警備員教育に一段と工夫を凝らし力を注がなければならない。警備各社、警備業協会は各種の教育を行って警備員のスキルを磨いている。こうした取り組みについて、より多くの顧客や求職者、世間一般の人々に知ってもらう情報発信は大切だ。それは警備業に対する理解の促進、警備員のイメージアップに結びつくことだろう。

【都築孝史】

人材確保2024.11.01

「警備の日」を生かそう

全国警備業協会が制定した「警備の日」(11月1日)は2015年、記念日として登録された。警備業法が1972年11月1日に施行されたことに、記念日はちなんでいる。警備業への理解、信頼を高めることが制定の目的であり、それを果たすことは警備員の地位や待遇の向上に結び付く。

47都道府県警備業協会では毎年この時期、足並みをそろえる形で広報啓発活動を行っている。主な内容として、人が集まる駅、商業施設、公園での物品配布やサイネージ(表示装置)、車両を活用したPRのほか、キッズ制服の着用体験会や子どもたちから募集した作品の展示会がある。

警備業界で人材確保が最大の課題となる中、「警備の日」を生かし、課題解決へつなげることが期待される。

各警協が開いている「経営者研修会」では、人材確保をテーマに扱うケースも少なくない。千葉は9月に、長野は10月にそれぞれ、ジョブズリサーチセンター(リクルート調査研究機関)の宇佐川邦子センター長を講師に招いて開いた。

研修会で宇佐川氏は離職防止の必要性について語った。離職に伴う採用・育成にコストと時間がかかることや、離職が続くと教育担当者のモチベーションが下がってしまうことを理由として挙げた。退職者が悪評を流す可能性にも触れ、地域密着の企業ほどダメージが大きいことを指摘した。

また、自社で行った警備員離職調査の結果を説明。業界特有の離職原因を明らかにした上で、警備の仕事が▽どのように社会を支えているか▽なくなったら、どれだけのリスクを社会は負わざるを得ないのか――について言語化し、仕事の意義や価値を社員に伝える必要があるとした。調査結果を踏まえた提言は説得力を持っていた。

埼玉警協では離職防止の取り組みとして、「警備の仕事Q&A」と題した小冊子を求職者向けに作成。入社後の「聞いていない」「知らなかった」をなくし、離職の芽を摘むことができればと考えた。「警備の日」に合わせるように、10月中に県内15か所のハローワークに配布した。

小冊子では警備業務別の仕事内容を紹介。その上で、働き方や装備品、業務上のリスクなどに関するQ&Aを記載した。ハローワークを訪れた求職者に、自由に持っていってもらう形ではなく、警備の仕事に興味を持った人へ“ピンポイント”に職員が手渡す形を取っている。

人材確保ではもちろん、採用活動も欠かせない。例えば、警備員に占める女性の割合は2023年末時点で7%にとどまっているが、伸びしろがあるとの見方もできる。柔軟な勤務日数・時間を提案し、フルタイムでは働けない子育て中の女性を呼び込むことや、「体力的にきつい」というマイナスイメージを払しょくし、求人数の少ない事務職を希望している女性に警備の仕事へ目を向けてもらう取り組みなどが望まれる。

「警備の日」が記念日になって、今年は節目の10年目に当たる。この時期は1年で最も、警備業のことを広く社会に知ってもらえる機会であり、業界を挙げたPR活動がこれまで積み重ねられてきた。「継続は力なり」を信じ、人材確保をはじめとした課題の解決に挑み続けてほしい。

【伊部正之】