視点
価格交渉2024.07.21
めざそう「ウィン・ウィン」
「積極的に、粘り強い価格交渉を」「誇りと勇気をもって交渉を」――。先ごろ開かれた都道府県警備業協会の定時総会では、多くの会長があいさつの中で価格交渉の促進を呼び掛けた。
昨年来、政府の後押しを受けて価格交渉の動きは広がっている。中小企業庁の「価格交渉促進月間」フォローアップ調査結果(本紙7月11日号)によると、今年3月に全国の中小企業と発注企業との間で交渉が行われた割合は、微増し59.4%だった(アンケート回答企業4万6461社)。
同庁は「価格交渉できる雰囲気は、更に醸成されつつある」との見方を示す一方、「コスト増加分を価格転嫁できた企業とできない企業で『2極化』の兆しもあり、転嫁対策の徹底が重要」と指摘している。
より多くの警備業者が価格転嫁を図って交渉に臨んでほしい。労務費を反映した適正料金の確保は、警備員の待遇改善を進める上で必須の条件。発注者からの価格提示を待つのではなく、適正な価格を示して話し合う積極的な姿勢が求められている。
交渉の席では、全国警備業協会が作成した「警備業における適切な価格転嫁の実現に向けて」のリーフレットが役立つはず。「最低賃金の上昇率は、直近5年間で11.4%」など、リーフレットに記載された各種コストの上昇率を織りまぜながら、価格転嫁は警備業界を挙げての切実な取り組みであることを伝えたい。
一般に交渉においては、Win―Win(ウィン・ウィン)が望ましい形とされる。「両者とも勝つ」「互いに利益を得られる」などを意味する言葉。警備会社のウィンは、適正料金の確保に尽きる。生活必需品の物価が上昇する中で警備員の賃金アップを進める原資を獲得し、定着促進、経営基盤の強化を図らなければならない。
一方、発注者にとってのウィンは、適正な価格に裏打ちされた質の高い警備業務によって安全安心が守られること、それによる顧客満足度の向上などがある。
警備業者はウィン・ウィンをめざし、価格改定の根拠、労務費や装備関連費などのコスト上昇について根気よく説明を行って、発注者の理解を勝ち取ってほしい。
1回で駄目なら2、3回
6月に高松市内で開かれた四国地区警備業協会連合会の総会では「適正価格の実現に向けての取り組み」と題し、4県から出席した会長4人と副会長7人が協会活動などについて述べた。この中で、交通誘導警備を主に手掛ける企業の経営者が、自社の交渉手順を次のように話した。
「価格転嫁リーフレット」を持って取引先を回っている。怪訝な顔をする方もいるが話を聞いていただく。警備員教育、資格取得、夏場の熱中症対策、社内の安全衛生大会開催などの取り組みを説明し適正な価格をお願いする。お客さまに響く言葉を心掛け、1回で駄目なら2回、3回と話を聞いていただく。1年では変わらなくても2年かけて認めてもらえることもある――。
真摯で粘り強い価格交渉の輪が広がることで、警備業のコストを理解し新価格に納得する顧客は増えるのではないか。
より多くのウィン・ウィンは、警備業発展と地域社会の安全安心に結びつくことだろう。
【都築孝史】
痴漢撲滅2024.07.11
「生活安全産業」の役割
痴漢犯の検挙件数が増加傾向にある。コロナ禍で減少していたが、5類移行で人流が戻ったことなどが背景にあるとみられる。生活安全産業の警備業に、犯罪抑止へのさらなる取り組みが期待される。
警察庁によると、2023年の痴漢犯検挙件数は2254件。前年を21件上回った。この数字はあくまで警察が検挙したものであり、実際の被害はそれより多いと考えるのが自然だ。
23年の検挙件数を発生時間帯別でみると、通勤通学の時間帯に当たる午前6〜9時が657件で最も多く、全体の29.1%。帰宅時間帯の午後6〜9時が413件、18.3%で続く。発生場所別では「電車等」が最多の1068件。全体の47.4%を占めた。次いで路上が400件(17.7%)、商業施設が326件(14.5%)だった。
国は昨年、「痴漢撲滅に向けた政策パッケージ」を策定した。▽痴漢は重大な犯罪である▽痴漢の被害は軽くない▽被害者は一切悪くない▽被害者を一人にしてはいけない▽痴漢は他人事ではない――を基本認識として示した。関係の府省庁が連携し、取り締まりの強化や社会の意識改革などを進めている。
一方、東京都は昨年、痴漢に関する大規模調査を初めて実施した。約27万人に「事前調査」を行い、電車や駅構内で痴漢被害に遭ったことがある人、痴漢を目撃したことがある人を抽出。被害者約2200人、目撃者約1300人から「本調査」への回答を得た。
調査結果の1つによると、電車内で「被害者が対応した」場合は71.7%、「目撃者が対応した」場合は92.7%、それぞれ痴漢行為が止まっていた。周囲が見て見ぬふりをせずに行動することが、被害軽減につながることを裏付けた。
キャンペーン協力
警察や鉄道事業者による「痴漢撲滅キャンペーン」が各地で行われている。社会全体で問題意識を共有し、「行動する人の輪」を広げていく上で大切な取り組みだ。
埼玉県警備業協会大宮支部は6月に、大宮駅で行われた撲滅キャンペーンに今回も参加した。会員会社のうちの20社から40人が集まり、駅構内を通勤通学で行き交う人に啓発品を配布。警備服姿での活動はひときわ目を引いた。参加した警備員は「安全安心を守る業界として、事案がなくなるように協力したい」と話した。
千葉県警備業協会は今年、県警による痴漢・盗撮防止グッズの作成に協力した。担当者は「安全安心産業として、できることを考えた」と語った。グッズは反射キーホルダーで、「痴漢・盗撮除」の文字が入り、お守りの形になっている。犯人を寄せ付けないために、バッグに付けてもらうことを願って作った。6月に八千代市内の商業施設で行われた撲滅キャンペーンで来場者に配布。被害に遭わないための対策はもちろん大切であり、警備業がその一助となった一例だ。
千葉では昨年、電車で通勤途中だった警備会社の社員が盗撮犯を取り押さえ、駅のホームで警察官に引き渡した事例があった。「被害者が悲しそうにしていたので、何とかしたかった」という。
こうした行動は結果として、業界イメージの向上につながっていく。卑劣な犯罪の撲滅は生活安全産業である警備業の重要な役割であり、業界としてできることがあるはずだ。
【伊部正之】
人材確保2024.07.01
求人票に「具体的情報」を
5月から6月まで開かれてきた都道府県警備業協会の定時総会で、多くの会長があいさつの中で強調した業界の喫緊の課題は「警備員不足」だ。
人手不足は現在、さまざまな業種で起きている。警備会社各社が他業種よりも好条件を示さなければ人材獲得で競り負けてしまう。警備員の処遇を改善することは警備業のイメージアップにもつながり、人材確保に追い風となる。
一般的な採用の方法としてハローワークの活用が挙げられる。民間の求人誌やウェブサイトのように情報掲載に費用負担がないことがメリットだ。若い求職者を中心にハローワークの利用が減少傾向にあるとも言われ、SNSなどを用いた採用活動も広がりを見せてはいるが、依然ハローワークを通じた採用を軸にしている中小の警備会社は多い。
全国のハローワークのうち117か所に設置されている「人材確保対策コーナー」では、警備業をはじめ介護・建設・運輸など人材不足が深刻な6業種への就職支援を行っている。各都道府県協会が取り組むハローワークや学校などと連携した「仕事セミナー」の開催は、警備の仕事内容への理解を深めながら警備業に興味を持ってもらう重要な機会だ。
先日、東京近郊のハローワークの同コーナーで「就職コーディネーター」として求職者の相談に応じている職員に話を聞いた。
コーディネーターは、窓口での面談の段階で迷っている人に対し「お話だけでも聞いてみましょうよ」と警備業関連の説明会やセミナーへの参加を促している。参加に慎重な人には「視野を広げるためにも話を聞いてみましょう」といった具合に、背中を押すそうだ。参加をきっかけに警備の仕事に興味を持ち、自ら警備会社の求人情報を集める求職者もいる。
このコーディネーターが勤めるハローワークでは昨年度、警備員として就業した人の半数近くが、ハローワークで開催した仕事セミナーや会社説明会に参加した人だったという。「警備の仕事を知っているようで知らないという人が多いというのが窓口での印象です。面談した際の説明で初めて施設警備と交通誘導警備という仕事を認識する人もいます」という。
求人票を取り扱う職員は「具体的な情報」を掲載した方が求職者の目に留まりやすく、ミスマッチによる早期離職を防げると指摘する。労働条件はそのままでも仕事内容を具体的に示すことで応募が増えることもあるという。
例えば、仕事内容の欄に「○○など」と書かれている場合、明記していない「など」の業務が早期離職の原因となる場合がある。施設警備の経験者がハローワークを通じて転職した際、「防災センターでの警備業務」とあり、経験が生かせると思って応募したが、実際は求人票に示されていない、未経験の「事務作業」をさせられた、あるいは「施設の営繕作業」があったから辞めたケースがあったそうだ。
また「資格支援制度あり」だけでは中身が分からない。法定教育のことなのか、別の資格取得に要する経費を会社が補助することなのかなど具体的に記すと求職者はメリットを感じやすいという。
ハローワークの求人票では人を集められない、という嘆き節の採用担当者はもう一度、求人票の記載内容を見直してみてはいかがだろうか。
【木村啓司】