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警備業ヒューマン・インタビュー2025.11.21
安東純吉さん(新京都パトロール 代表取締役社長)
青年部活動、「継続は力」
<<京都府警備業協会青年部会の第5代部会長を務めました>>
当青年部会は設立から11年目を数えます。警備業のイメージアップ、認知度の向上、警備員の資質向上を合言葉に一丸となって活動を重ねてきました。地域のイベントでPRブースの出展、警察と連携した防犯啓発活動、労災事故防止に向けたVR動画の作成、さらに京都・大阪・兵庫の3府県青年部会の合同勉強会などを行いました。
私は部会の立ち上げから参加しています。当初は同業他社の知り合いが非常に少なかったので、青年部活動に携わって横のつながりが広がることは新鮮な体験でした。多くの出会いがあり、先輩方は優しく、皆と打ち解ける中で、人材確保や警備員の地位向上など自分が抱えている悩み、課題は共通しているものだと分かったのです。
<<青年部会長として心掛けたのはどのようなことですか>>
年齢や在籍年数に関係なく皆が率直に意見を交わすことのできる雰囲気づくりは大切です。会議で全員が発言する機会をつくるとともに、事業ごとに担当者を決めグループ分けして、一人ひとりが主体的に活動に関わることを意識しました。
歴代の部会長がバトンをつなぐ形で障害者雇用の調査研究にも取り組んできました。今年1月には京都府立宇治支援学校で「警備業務の体験授業」に協力する機会があり、高等部の生徒さんに施設警備と交通誘導警備の疑似体験で触れてもらいました。この体験授業の様子は学校のHPに掲載されており、地域社会と警備業の交流を知っていただく機会にもなったと思います。
障害者雇用については来年7月から民間企業の法定雇用率が引き上げられます。支援学校での体験授業などを通じて、将来的には警備の仕事に就こうとする生徒さんが出ることを願っています。
私は6月に部会長の任期を満了しました。新たに就任した宮下永吉部会長(ライフガード)と部会員は先日、警察と連携して協会広報委員と大型商業施設で「警備の日」を家族連れなどにPRしました。伏見区総合庁舎で行われた地域イベントに参加し、京都市消防団フェスタでアピールします。広報活動は「継続は力なり」で回数を重ねていくことが重要になります。“警備業をもっと良くしていこう”と同じ志を持つ仲間と汗を流すことで得るものは大きいと実感します。
<<社業では「新京都パトロール」代表取締役社長を務めています>>
交通誘導警備は厳しい人材不足が続いていますが、一方でお客さまとの価格交渉は以前よりもスムーズに進むようになったと感じます。採用強化と人材育成などのコストについて、ご理解をいただいています。お客さまのニーズに応える質の高い警備を安定的に提供するために当社は、教育の充実を図り、巡察指導を強化しています。私は現場に出向くことが好きなので、隊員から会社への要望や悩みごとなどを聞いて、コミュニケーションを深めています。
<<2026年に創業45周年を迎えられます>>
当社は私の父・安東正一(故人)が創業しました。子供の頃は、父と隊員さんの背中を見て「警備の仕事は、暑い日も寒い日も大雨の日も、外に出て働いて大変だ」と思ったものでした。
「隊員さんは宝」と父はいつも言っていました。毎日現場で懸命に働いている隊員と、そのサポートをして経営陣の方針を現場へ円滑に伝えてくれる内勤者のおかげで会社は成り立っています。価格交渉による上昇分は、従業員にしっかりと還元していくことが大切だと考えます。
<<警備業の魅力発信は、業界の課題となっています>>
わが家には10歳の娘、8歳と1歳の息子がいます。今年の春に全国警備業協会が小学校などに寄贈した書籍「警備業のひみつ」(学研)をうちの子も読みました。
小学5年生の娘は「学校の図書館にあったよ。警備員さんの仕事には、いろいろな種類があるのね」などの感想を話していました。小学2年生の息子は先日、急に「将来は、お父さんと一緒に早起きして警備会社の仕事をしてみたい」と言いまして、微笑ましく嬉しく感じました。
青年部活動でめざしているイメージアップにおいて、「警備員を子供が憧れる職業に」という目標があります。警備業は、社会になくてはならない職業です。近年は熱中症対策用品など各種の装備品の活用、AIの開発と活用が広がって、働く人の安全を守り職場環境を整備する取り組みが進められています。
これからも“処遇改善とイメージアップ”が両輪となって、警備員は魅力ある職業となり、社会的な評価が一段と高まっていくことを念頭に取り組みを続けたいと思います。
警備業ヒューマン・インタビュー2025.11.11
坂口英里さん(ゼンコ―大宮支社)
警備業務と野球を両立
<<ZENKOBEAMSは今年8月、第20回全日本女子硬式クラブ野球選手権大会で優勝しました。読売ジャイアンツや阪神タイガース、西武ライオンズなどの球団傘下の女子チームも参加する、大変レベルの高い大会です>>
優勝した瞬間は、うれしくて胸がいっぱいになりました。
私たちの強みは「チーム力」です。今年から試合後の全体反省会に続いて、選手ミーティングを取り入れました。入団から間もない選手も含めて全員が発言できる場として話し合います。一人で考えていたことをチームで共有すると、「他の人の言葉にそういう考え方もあるのか」と視野が広がったり、考えが深まったりします。このこともチーム力向上の一因と思います。
10月には会社で祝勝会を開いていただき、社員や支えてくださる皆さんからお祝いの言葉をもらいました。暑いなかグラウンドに来て太鼓やトランペット、メガホンで声援を送ってくださったり、結果をYouTubeなどで見て「よかったよ」と社内で声をかけてくださったり、ありがたい環境で野球ができていることも大きな力や励みになっています。
<<小学5年生から始めた野球を、ずっと続けられています>>
野球はチームスポーツで、喜びも悔しい気持ちも仲間と分かち合うことができ、その中で成長していけるところに惹かれています。
BEAMSは、高校の先輩が一期生で入団されていて、私が高校生のときに練習試合の機会に恵まれ、「強くて元気のあるチーム」という第一印象でした。入団が決まったときはうれしくて、チームに貢献できるよう全力で頑張ろうと決意しました。
<<選手たちは野球に打ち込む一方で警備の仕事もされています>>
私が勤務する大宮支社では午前7時30分から午後4時30分までが勤務時間。その後練習に向かいます。チーム全体での練習は金曜日のみで、他の曜日は個別練習です。シーズン中は土・日に試合です。
私は警備課に所属し、今は管理の仕事が中心ですが、警備服を着用してイベントなどでの雑踏警備の現場に行くこともあります。年末はイルミネーションの会場、夏は花火大会などの警備を担当します。現場ではお客さまへの言葉遣いや接し方に心を配り、笑顔で応対することを心掛けています。
イベント警備では誘導のご案内をしたお客さまから帰り際に「先ほどはありがとう」と感謝のお声掛けをいただけたりします。警備業務は人々が安心してイベントなどを楽しめるように支える、社会に貢献できるやりがいのある仕事だと思います。
<<警備業界は男性が多くを占めています>>
例えばスタジアムへ入場するときの手荷物検査など女性に求められる警備業務があり、女性の活躍する機会は多くあります。女性がもっと増えていくといいなと思います。ゼンコーの社員として私自身、今後も社会貢献につながる仕事に力を注いでいきたいです。
<<野球と仕事の両立、大変ではないですか?>>
BEAMSは、女性ならではの目線や発想によって新たな事業を開拓し、女性自らがその担い手となって活躍する場を追究するというゼンコ―グループの挑戦のなかで、女子硬式野球部として誕生しました。
チームの理念の1つに「仕事と野球の両立を通じた人間形成」があり、「仕事一流、野球一流、人として一流」を目指しています。
私は入社・入団して5年目ですが、今年からキャプテンになったこともあり、この言葉の意味がより身に沁みて感じられるようになりました。仕事は仕事、野球は野球でしっかり向き合い、それにより人としても一流になれるように努めていきたいと思います。
<<警備業務検定にも積極的にチャレンジしていると聞きました>>
現場で役に立つので、取得できる資格は取りたいと思い、野球のオフシーズンに勉強して検定試験を受けています。これまでに、施設警備業務検定2級、雑踏警備業務検定2級、交通誘導警備業務検定2級を取得しました。
<<休日はどのように?>>
のんびりする日もありますが、富士急ハイランドなどへ行って絶叫系マシンに乗る日もあります。遊ぶ時は思いきり遊んでいます。
<<仕事と野球、それぞれの目標をお聞かせください>>
大宮支社警備課の主任は、BEAMSで活躍されていたOGの先輩なのですが、てきぱきと仕事をする姿がかっこよく、私の憧れであり、将来の目標です。
野球は、全日本女子硬式クラブ野球選手権大会と全日本女子硬式野球選手権大会の両方で優勝することが目標です。全日本女子クラブ野球選手権大会は今年優勝して、来年は追われる立場ですが、勝つことにこだわってよりチーム力を高めて大会に臨みたいと考えています。
<<座右の銘は?>>
「人間は考える葦である」というパスカルの言葉です。何事も「考えること」を常に怠らず、「考える内容」を深めて目標に向かって進んでいきたいと思います。
警備業ヒューマン・インタビュー2025.11.01
樋口建史さん(全国万引犯罪防止機構 理事長)
「RFID」で万引き対策
<<全国万引犯罪防止機構は今年、設立20周年を迎えました>>
当機構は万引きを防止し、地域の安全・安心を取り戻すことを目的としたNPO法人です。
警察庁によると昨年の万引き認知件数は9万8292件で、全刑法犯の約13%を占めます。警察に届けられていない事案が多く、実被害は認知件数をはるかに上回っていると思われます。
小売業を対象に行った実態調査の結果、昨年の万引き被害額の推計値は約3460億円でした。商品の単価を1000円と仮定すると3460万件となり、認知された件数は約0.3%に過ぎません。こうした万引き被害の深刻さを広く社会に認識してもらうことが重要と考えています。
<<外国人グループによる大量窃盗が頻発しているそうですね>>
万引きには大きく2種類あります。1つは一般の人による万引き。もう1つは犯罪ビジネスとしての万引きです。
窃盗グループによる大量万引きは後者で、特にドラッグストアや衣料品店が大きな被害を受けています。盗品を他国に送付したり、インターネットオークションでさばいたりしています。
当機構では、警察・メルカリやLINEヤフーなどのネット事業者・被害企業との情報共有会議を主催し、不審なネット出品物を特定し、不正流通の防止に取り組んでいます。
<<6月の機構定時総会で、ICタグの情報を非接触で電磁的に読み取るシステム「RFID(アールエフアイディー)」の導入が、万引き対策としても非常に有効であると述べました>>
RFIDは本来、特にサプライチェーン(供給の流れ)の川中、川下における商品管理の合理化・効率化のための仕組みです。各タグには固有のIDが割り当てられていて、商品ごとの識別が可能で、一括して高速で商品情報を読み取ることができます。
商品にRFIDタグが付いていること自体で心理的に万引きを抑止する効果が期待できますし、正規に会計処理されていない商品を持って出口のゲートを通過すればアラートが表示されます。警察も、万引き事件で押収した商品が不正に店舗から持ち出されたものかどうかの特定が可能になります。犯罪捜査にとっても非常に有用です。
RFIDは、これまで数十年にわたって導入が検討されてきたのですが、川上・川中・川下の事業者間の合意形成が難しかったことと、ICタグの単価が高かったことから、本格的な導入が見送られてきました。しかし、ICタグの単価も随分安くなりましたし、何より年間8350億円もの不明ロスが出ていて、しかも不明ロスは薄く広く一般消費者に(価格上乗せなどで)転嫁されることにもなる訳ですから、抜本対策としてのRFIDの導入は、単に関係企業の経営上の課題ではなく、社会全体の課題です。RFID導入拡大に向けて、社会的な機運を盛り上げていきたいと思います。
<<RFIDの他にもIT機器を活用した防犯対策が進められています>>
防犯カメラをはじめ高性能な資機材の設置・活用は随分進んできたように見えますが、これからの課題は、被害企業間の「情報共有」だと思います。
当機構が2019年にスタートさせた「渋谷書店万引き対策プロジェクト」は、渋谷区内の3書店で防犯カメラに記録された対象者の画像を、個人情報保護法の規定の範囲内で、共同で利活用する取り組みです。一定の成果があがっていますので、渋谷区内の参加店の拡大や他地区への運用拡大を図りたいと考えています。
書店間だけでなく、個人情報保護法の下で、肖像権やプライバシーに十分配慮しながら、被害企業間で防犯カメラ画像を共同利用することは法令上可能なのですが、現実には進んでいません。この点、世論の理解がなければ、経営者は共同利用に慎重にならざるを得ませんので、まずは万引き被害の深刻な実態を広く知ってもらう取り組みに注力したいと思います。
<<万引き犯罪は、少年の場合には、より悪質な犯罪につながるおそれがある「ゲートウェイ犯罪」と言われています>>
保護者向け万引き予防マニュアル冊子「中1の保護者さまへ」は全国約1万校の中学校に約119万部を配布し、少年の規範意識向上を図っています。同様に万引き防止啓発ポスター「壁新聞」約3万枚を全国の中学校に配布しています。そのほか小中学校で「防犯講話」を開催して万引きに手を染めないよう啓発し、青少年の健全育成に寄与しています。
日本が「世界一安全で安心な国」といわれる理由は、事件や事故の起きにくい優れた社会づくりができているからです。その根幹を成すのは「高い規範意識」です。日本では長年にわたって官と民が連携し、規範意識を高いレベルで保持するための弛みない取り組みが継続的に実施され、社会に根付いています。私はその象徴的な取り組みが「万引き対策」だと考えています。
小さな違反も小さな犯罪も安易に見て見ぬ振りをしない、見とがめるべきはきちっと見とがめる、そういった社会の姿勢が規範意識を育むのだと思います。
