警備保障タイムズ下層イメージ画像

TOP NEWS

東京高裁、和解を勧告
「警備の不備、事実関係は不明確」2022.07.21

焼津マラソン・ランナー死亡訴訟

東京高裁は7月12日、静岡地裁が3月に「ランナーが死亡したのは警備の不備だ」としてマラソン大会を主催した静岡県焼津市(中野弘道市長)に損害賠償の支払いを命じた控訴審で、「(死亡と警備の)事実関係が明確ではない」と和解を勧告した。今後のイベント警備にも大きな影響が予想される訴訟だけに高裁の判断が注目されていた。

12日の東京高裁第1回弁論で渡部勇次裁判長は、一審の静岡地裁判決を不服として控訴した市と遺族の代理人弁護士の両者に和解を勧告した。また、控訴審の判決日を9月22日とすることを明言した。

高裁の和解案を提示された市の代理人弁護士によれば「高裁は警備の不備によってランナーが海に転落、死亡したという事実関係は明確ではない」とし、地裁が認定した警備の責任を否定。損害賠償ではなく「見舞金」による解決を勧めたという。

一方で、今回の控訴に際し市は、地方自治法に基づき「市に何ら責任はない」ことを前提に市議会で控訴を決議。「見舞金」による和解とはいえ一部、市に責任があるとも取れる内容だけに議会の反発も予想され、「見舞金」の支出が認められるかは不透明だ。市担当者によれば「最終的には市長と議会の政治判断になる」としている。

遺族側も一審の地裁判決で示された約4000万円の損害賠償が、見舞金では大幅に減額されるだけに、和解案が両者に受け入れられるかは流動的だ。

高裁が示した和解期日は8月26日。同日までに和解が成立しなければ高裁が9月に新たな判断を示すこととなる。一般的に今回のような損害賠償訴訟では、和解が成立しなければ高い確率で一審判決通りの判断が示されるという。

しかし、今回のケースについて市の代理人弁護士は、市の不法行為は認定されておらず、一審判決破棄の可能性が高いと指摘している。

焼津マラソン・ランナー死亡訴訟

2014年に静岡県焼津市などが主催したマラソン大会「女子29歳以下、5キロメートルコース部門」に参加した女性が、ゴール後に気分が悪くなって何らかの理由でゴール近くの岸壁から海に転落した。女性は救助されたものの、低酸素性脳症による意識障害で3年間意識が戻らずに17年に亡くなった。遺族は「海に転落したのは警備を怠ったため」と、警備を委託した主催者の市に損害賠償を求め提訴した。

今年3月4日に判決を言い渡した一審の静岡地裁は、女性が海に近づくのを発見できずに転落を防げなかったことに対し「警備員は見通しのよいところに配置されていた。警備の監視が不十分だった」と指摘、大会で警備会社を指揮監督する立場にあった市に約4000万円の損害賠償の支払いを命じた。

「女性が落ちるのを誰も見ておらず、警察も特定できていない。転落の予見は不可能」と裁判で主張してきた市は、判決を不服とし同18日に東京高裁に控訴していた。

大会の警備を請け負ったのは市内の警備会社。業務内容はランナーや車両の交通誘導警備と岸壁からのランナーの転落防止対策で、当日は30人の警備員を会場に派遣、うち15人が岸壁付近の転落防止を含む警備業務に従事していた。

認定業者、過去最高を更新2022.07.11

警察庁 21年「警備業の概況」

警察庁は7月1日、2021年の「警備業概況」を公表した。全国の警備業者数は1万359業者で、前年より246業者(2.4%)増加。警備員数は58万9938人と同1574人(0.3%)増加した。東京2020大会の閉幕や新型コロナによる景気低迷などがあったにもかかわらず、業者数・警備員数ともに“微増”した。

全国1万359社

21年12月末時点の警備業法第4条に基づく全国の認定業者数は対前年比246業者増の1万359業者。20年に続き1万社を超え、過去最多を更新した。

一方で、全国警備業協会(中山泰男会長)が調査した加盟社9098社の21年末の売上高は3兆4537億円。前年の3兆4734億円を約200億円下回り、業者数の増加が1社あたりの売上高を引き下げたことがうかがえた。

業者数の内訳は、「1号警備業務」が前年比56業者減の6897業者、「2号」同220業者増の7854業者、「3号」14業者減の670業者、「4号」3業者増の661業者。増加が著しかった2号の内訳は、「交通誘導」が同245業者増の7624業者、「雑踏」が同163業者増の4226業者だった(一の業者が複数の警備業務を実施している場合、それぞれの区分に計上しているため合計は一致しない)。

警備業者の警備員数別の状況は、「5人以下」が最も多く2690業者。全体の26%を占めた。次いで「10〜19人」1929業者(18.6%)、「30〜49人」1266業者(12.2%)など。警備員数100人未満は計9301業者で全体の約9割を占めた。

警備業者が全国に設けている営業所の数は計1万6106営業所。「1営業所のみ」が最も多く8755業者で、全体の84.5%を占めた。「5営業所以下」は1万87業者の97.4%。

認定を受けた都道府県以外に営業所を設けている「9条前段業者」は延べ2536業者。前年に比べ45業者増加した。認定を受けた都道府県以外に営業所を設けずに業務を行っている「9条後段業者」は、同231業者増の延べ5519業者だった。

警備員58万9千人

警備員数は、前年より1574人(0.3%)増の58万9938人。業者数と同様、過去最多となった。

警備員の雇用別状況は、「常用警備員」53万6237人、「臨時警備員」5万3701人。警備員総数に占める臨時警備員の割合は9.1%だった。

女性警備員は前年より280人増の3万9812人。前年と同じ全警備員数の6.7%を占めた。

警備員の在職年数は、「3〜10年未満」が最も多く19万9157人。全体の33.8%を占めた。次いで「10年以上」16万7017人(28.3%)、「1〜3年未満」12万6850人(21.5%)。年齢は、「50〜59歳」が最も多く11万3631人(19.3%)。次いで「70歳以上」10万5820人(17.9%)。50歳以上は64.4%だった。「30歳未満」は6万1918人で全警備員に占める割合は前年と同じ10.5%だった。

「生の声」に耳傾ける2022.07.01

3地区連総会 全警協・中山会長が出席

6月17日から同23日にかけて東北・九州・四国地区の警備業協会連合会総会が開催された。いずれにも全国警備業協会の中山泰男会長、黒木慶英専務理事、小澤祥一朗総務部次長が出席。中山会長が掲げる「加盟員の生の声が各協会を通じ全警協に伝わることが肝要」を、自ら現地に足を運んで実践した。

九州地区連 秋に3年ぶり「青年部G8」

九州地区警備業協会連合会(会長=折田康徳・福岡警協会長)は6月22日、福岡市内で定時総会を開催した。九州・沖縄各県の会長と専務理事が出席した。

折田会長は、コロナ禍で昨年・一昨年の総会は会長のみの出席だったことに触れ、「専務理事の皆さんが出席するのは3年ぶりで喜ばしいことです」と、活発な議論に期待を寄せた。

事業計画では折田会長が、コロナ禍で開催できなかった各県の青年部会が一堂に会する「青年部G8」を今秋実施することを明言。今後詳細を詰める。

各県の取り組みでは、福岡や長崎、熊本など5県が適正取引推進や入札制度の見直しをそれぞれの自治体に要望する。

教育関係では、宮崎が警備技術向上のため、県に「認定職業訓練機関」指定を申請。福岡は、特別講習講師の「補助講師制度」を導入、新たな講師育成につなげる。

大分は、振り込め詐欺被害防止へ向け、7月中にも県警と協定を結ぶ。

各県情勢では、中止となっていた花火大会や夏祭りなどが今夏は再開されることが報告。一方で警備員不足に拍車がかかることを懸念する声が相次いだ。

鹿児島の上拾石秀一会長は、全国的な警備会社増の背景にある警備業への参入障壁の低さを指摘。モラルの低い業者参入によるダンピングに懸念を表明した。

これに対し全警協・中山会長は「警備業全体の売上高3.5兆円は増えておらず、会社増で1社あたりの売り上げは減少しています。これは業界の発展とは言えません」と、上拾石会長の懸念に理解を示した。

東北地区連 「災害協定」見直しに着手

東北地区警備業協会連合会(会長=氏家仁・宮城警協会長)の総会は6月17日、仙台市内で開かれた。6県の会長や専務理事、オブザーバーとして宮城警協の2人の副会長が出席した。

氏家会長は、各県警協が警備業務の適正な運営と警備業の健全な発展に努めてきたことに謝辞を述べるとともに、諸課題に積極的に取り組み、警備業界に求められる役割と使命を果たしていく決意を表明した。

全警協・中山会長は、政府の「パートナーシップによる対価創造のための転嫁円滑化」について、同会長が出席した政府会議での発言や目指す方向性について説明。また、全国に先駆けて地区連内の青年部会が一堂に会する「サミット」を開催するなど積極的な活動を展開する青年部活動を称賛した。

議事では、10月に青年部“プレサミット”の秋田県内での開催と、11月に岩手県内で4回目となる「青年部サミット」を全警協関係者を来賓に招き開催することを決定した。

大規模災害への対応として、各警協が県警本部と締結している「災害支援協定」を見直し、より実効性のある協定となるよう担当部局との調整を進める。

教育については、特別講習の合同開催実施で受講者減少に歯止めをかける。

四国地区連 「AI交通誘導」を検討

四国地区警備業協会連合会(会長=北川豊彦・香川警協会長)は6月23日、高松市内で四国4県の会長と専務理事による通常総会を開いた。

北川会長は「直面する最も深刻な課題は人手不足です。警備員の高齢化も進み、若者に就職先として選択してもらうためにはあらゆる努力が必要となる。全警協eラーニングやAI交通誘導システムの導入を検討するなど、効率化と質の向上を図り魅力ある職場づくりを実現することが重要になります」と述べ、四国が一丸となった取り組みに協力を求めた。

全警協・中山会長は、昨年末からの各省庁の動きの中で警備業を後押ししてくれる取り組みとして(1)公正取引委員会が創設した優越的地位の乱用を調査する「優越Gメン」(2)経済産業省が発注元に求めた下請けとの年1回の価格交渉(3)国土交通省による公共工事発注者への品確法を踏まえた対応の強化――を挙げた。

中山会長は「国の施策は各社が適正取引を行い経営基盤強化を図る追い風となります。全警協が加盟員に行っているフォローアップ調査の結果を踏まえ『警備業における適正取引推進等に向けた自主行動計画』の改訂を行う。それは業界最大の課題『低賃金の是正』に直結する」と強調した。

会議では、香川警協が6月12日に高松市内で行った「AIを活用した交通誘導システム実証実験」について報告した(実験の詳報を6面に掲載)。

参加者からは「AI交通誘導システムは、他業種が開発・導入した際には自家警備につながりかねない」「交通誘導の現場は地形的に電波が届きにくい環境もありシステム導入に向けて慎重な検証が重要」などの意見が出た。