視点
不当要求防止2025.09.21
会社と警備員を守る
コンプライアンスが重視される時代、あらゆる業種の企業にとって暴力団排除「暴排」は必要不可欠な取り組みだ。とりわけ警備業者は、都道府県公安委員会の認定を受けて営業している。暴排宣言に則して反社会的勢力との関係を遮断し、毅然と不当要求を拒む姿勢が求められる。
反社は正体を隠して企業に接近してくる。企業のリスク回避として契約時には相手方が暴力団等反社会的勢力でないことの「表明・確約書」の署名、契約書に「暴排条項」を盛り込むことは欠かせない。
全国警備業協会が3月に都内で開催した「全国青年部会長等会議」では、警視庁の担当官が「不当要求に屈しないために」と題する講演を行った。万一、反社勢力や悪質クレーマーから不当要求があった場合、窓口となる担当者が孤立することのないよう「企業の組織的な対応」が重要であると強調。マニュアルを作成して備え、早い段階で警察や暴追センターに相談するよう呼び掛けた。
不当要求のターゲットは会社に限らず、個人が狙われる場合もある。警備員は日頃、不特定多数の相手に接して業務を行っていることから注意が必要だ。
2号警備を手掛ける会社の幹部から聞いた話では、交通誘導警備員が車のドライバーから“誘導に問題があって車に傷がついた”などと難癖をつけられ、修理代を要求された。金額は数千円で、こじれることを恐れた警備員がポケットマネーから修理代を渡したところ、後日、改めて高額な要求があった。警備員は上司に打ち明け、幹部社員が対応して不当要求の被害を防いだという。
経営者は、不当要求のリスクから自社を守り、現場の警備員も守らなければならない。会社に立ち寄らず「直行直帰」することの多い警備員が、現場で起きた事案、トラブルを抱え込むことなく、速やかに上司に報告・相談しやすい関係づくりをさらに進めてほしい。
近年は匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)が社会問題化している。犯行メンバーを入れ替え特殊詐欺や強盗、窃盗、闇カジノ、悪質リフォーム詐欺など犯行は多岐にわたり、暴力団員と共謀するケースも確認されている。社員とその家族が巻き込まれないための注意喚起、地域社会の防犯啓発活動は一層大切だ。
【都築孝史】
心の健康2025.09.11
安心できる職場環境を
働く人の安全や健康を考える「全国産業安全衛生大会」(主催=中央労働災害防止協会)が9月10日、大阪市内で開幕した。
今年で84回目となった大会では11日から2日間の日程で分科会が行われ、メンタルヘルス(心の健康)もテーマの一つ。人材の定着が中小警備会社などで課題となっているなか、職場のメンタルヘルス対策は重要だ。安心して働ける環境をつくり、離職リスクを低減させる必要がある。
厚生労働省によると、仕事での強いストレスが原因で精神疾患を発症し、2024年度に労災認定を受けたのは1055件。前年度に比べて172件の大幅増となり、6年連続で過去最多を更新した。
労災認定された人を年齢別でみると、「40〜49歳」「30〜39歳」が多く、まさに働き盛りに当たる。精神疾患の原因は「パワーハラスメント」「仕事内容・仕事量の大きな変化」「カスタマーハラスメント」が上位だ。
職場のメンタルヘルス対策では「ストレスチェック」を取り入れている事業場が最も多い。ストレスチェックは2015年から、従業員数50人以上の事業場に年1回以上の実施が義務付けられ、警備業に多い50人未満では努力義務となった。それから10年を迎える中、50人未満での実施率が50%台にとどまっていることを受けて法改正が行われ、今後3年以内に全事業場へ義務化されることになった。
ストレスチェックの目的は、働く人が調査票への記入や検査結果を通じ、自身のストレス状態、原因に気付いてセルフケアにつなげること。国が推奨する調査票のチェックリストは仕事の量、やりがいや周囲とのコミュニケーションに関することなど57項目に及ぶ。個々の検査結果を専門家に、部署単位などの「集団」で分析してもらうことによって、事業者が職場環境の改善を図ることも目的であり、具体例として相談窓口の設置や業務配分の見直しなどにつながっている。
これまでストレスチェックを取り入れてこなかった中小企業・小規模事業者にとって、義務化は負担になると言える。実施方法の決定などやるべきことがあり、コストもかかることになるが、義務化を「人への投資」と捉え、職場環境を点検してより良くする契機としてほしい。
【伊部正之】
災害支援2025.09.01
被災地ある警備ニーズ
9月1日は「防災の日」。自然災害が頻発化・激甚化するなか、警備業はどのように災害と向き合い、被災地に安全・安心を提供していけばいいのか――。
今年7月、「災害対策基本法」が改正された。昨年の能登半島地震の教訓を踏まえ、ボランティア団体の登録制度の創設などが盛り込まれた。同法は警備業界とも関わりがある。都道府県警備業協会が自治体や都道府県警察と締結している災害時支援に関する協定では「災害の定義」を「災害対策基本法が定める災害で、甲(警察本部・自治体)が協力を必要とする災害」などと定めている。
ただ、「災害の定義」にある通り、必要とされなければ支援の機会は訪れない。過去、協定に基づく支援活動を行ったことがある都道府県警協は4警協のみ。昨年、地震と豪雨災害に見舞われた石川県でも、県と協定を結んでいる石川警協に要請はなかった。
しかし、協定の相手方の要請はなくとも被災地には発災初期から警備ニーズは存在する。地震発生後、石川警協は七尾市から避難所の夜間パトロールの要請を受けた。中部3警協(愛知・岐阜・三重)の有志が駆け付け、1月6日から7日間、無償で警戒にあたった。
活動を通じ課題も見つかった。有志は車両とともに青色回転灯も持ち込んだが、登録した活動地域以外では法律上、青色防犯パトロール(青パト)活動はできない。避難所前に停車して点灯させることしか認められなかった。
全国から応援に駆け付けた警察も発災初期は人命救助が優先で、広範囲のパトロールに手が回らない状況も想定される。地元の警備会社や青パト団体も被災している恐れもある。他県から駆け付けた警備業者がいち早く被災住民の不安を取り除くことができるかもしれない。
複数の警協では現在、協定の見直しを進めている。相手方を警察のみから自治体を追加または変更、支援内容の明確化や、出動警備員の安全や補償の明記など、実効性を高めていく流れだ。
一方、近い将来発生が懸念される南海トラフ地震に代表される大規模な災害では、広域的な支援は不可欠だ。被災自治体の警備ニーズに応えるため、協定の見直しと併せて、全国の警備業が速やかに活動できるよう、柔軟に運用できるルール整備が進むことを願っている。
【木村啓司】
