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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特任教授、国際厚生事業団理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

習近平の「夢」にどう向き合うのか?2019.02.01

-朝鮮半島を勢力圏、次に台湾併合へ-

中華人民共和国は今年、建国70周年を迎える。記念すべき年を迎え習近平国家主席は、昨年12月31日から1月4日まで3つの重要な演説を行った。任期となる2023年春までに習体制が目指す路線を内外に示したものだ。もっとも「主席は2期10年間」とする規約は昨年、撤廃されているから理論的には、「終身主席」も可能となっている。逆に言えば「終身主席」を正当化するためのロードマップと見ることもできる。

まず昨年12月31日の「新年の辞」では、「我々はみな夢追い人」とし、「一帯一路を推進し、人類運命共同体を構築、改革開放を徹底加速する」と述べた。具体的には、米主導のGPSに代わる北斗測地衛星システムの完成、人類初、月の裏面探査の成功(正式発表は1月3日)、第2空母の就航などを見据えて高度な宇宙戦と台湾進攻能力を得たことを謳い上げたものだ。

1月2日の「台湾同胞に告げる書」では、「平和統一、一国二制度の枠組みは維持するが統一は必須・必然であり武力の使用は放棄せず台湾同胞は“正しい中国人”たれ」と述べた。言い替えれば“正しくない台湾同胞”は敵性分子ということになる。そういえば最近、中国メディアには、「日本かぶれした台湾人」といった表現が多出している。

最後が1月4日、中央軍事委員会、軍事工作会議での演説。ここでは「新時代の党の強軍思想を深く貫徹し、新たな起点に立って軍事闘争に備える活動にしっかり取り組め」という従来にない表現が盛り込まれた。3つの演説に流れるのは、2023年までに何としても台湾併合を実現する。そのためには軍事行動も辞さないし、米国などとの衝突も恐れない。歴史的快挙を遂げて習近平王朝の終身化を実現したいという“正夢”である。

朝鮮半島を勢力圏に置くことの重要性 

台湾併合という目標を見据えると、まず朝鮮半島を平和裏に中国の勢力圏下に置く必要がある。台湾正面、朝鮮半島正面という両面作戦を遂行する能力は、さすがに備わっていないからだ。中国は独立直後の1950年、台湾解放のため対岸に終結させた解放軍を朝鮮戦争に投入するため朝鮮半島に転進せねばならなかった。結果、併合の絶好のチャンスを失ったという苦い歴史の教訓がある。

中国にとって、このために南北朝鮮の統一は必要条件ではない。むしろ双方がけん制し合い“宗主国”中国への依存を高めることが望ましい。その最大の障害となるのが在韓米軍の存在である。ここに1月7〜10日、北京で行われた北朝鮮との首脳会談の意味がある。

会談後表明されたのが習主席の「4つの支持」だ。(1)半島無核化の方向(方向である点に注意)(2)南北関係改善(朝鮮戦争終結、在韓米軍の撤退)(3)米朝第2回会談の成功(制裁解除)(4)関係諸国との対話(日本からの北朝鮮復興資金の獲得)である。この間、日本をあまり刺激せず正常な関係を維持することが中国の利益だ。

日米韓軍事提携に距離を置き、対中国シフトを強めることについては、韓国文在寅左派政権も基本的に同調しているとみられる。そこから考えれば先日の自衛隊機に対する火器管制レーダー照射事件も偶然ではない。そもそもトランプ大統領自身、一昨年フロリダでの米中首脳会談で在韓米軍の撤退に含みを持たせ、最近ではキッシンジャー元国務長官が、それを裏付けたという説もある。

問題は新冷戦の最前線が38度線から玄界灘に南下し、しかも北朝鮮の復興資金はむしり取られそうな我が国の立場だ。巧みな中国の微笑外交に、「最近、日中関係が良くなった」などと惑わされてはいけない。正念場である。