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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特任教授、国際厚生事業団理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

中国は21世紀の覇者になるのか?2019.04.01

-再び日本の選択肢について考える-

21世紀に入って19年間が過ぎた。残る81年間を推理するのは難しいが当面、最大のイフは、「中国が21世紀の覇者になるか」どうかだろう。これに関連し最近、感銘を受けた二つのインタビュー記事を紹介しよう。

ひとつは、小林善光経済同友会代表幹事の「技術は米中が席巻、激変に立ち遅れたのに挫折の自覚ない」、という日本への警鐘。もうひとつは村上憲郎元グーグル社副社長の「21世紀は中国の圧勝」という分析だ。いずれも朝日新聞に掲載されたインタビューだからお読みになった方も多いと思うが、私なりにその“キモ”を抜き出してみる。

小林氏は最近、「平成の30年間、日本は敗北の時代だった」と発言し物議をかもしたエピソードを紹介。「しかし事実を正確に受け止めなければならない」と訴える。確かにIMF統計を見ると過去20年間、世界各国の名目GDPの伸びは平均で139パーセント。先進各国が150〜200パーセントの成長を遂げる中で日本だけがマイナス20パーセントとダントツの最下位だ。平均年収も先進国で日本だけ140万円も下がっている。

小林氏は続ける。「30年前、世界の企業の株価時価総額を比べるとNTTや大手銀行など日本企業が8割がたを占めていた。いまでは米中のネット企業が上位を占め日本はトヨタ自動車が40数位で大きな差がついた」「半導体、太陽電池、光ディスク、リチウムイオン電池など最初は日本が手がけて高いシェアーを取ったものがいつの間にか中国や台湾、韓国などに席巻されている。もはや日本を引っ張る技術がない状態だ」。にもかかわらず内閣府調査では74・7パーセントの国民が今に満足していると答えている。18〜29歳では83.2パーセント。「心地よいゆでガエル状態なんでしょう…カエルはいずれゆで上がります」。歯ぎしりするような切迫感が伝わってくる。

一方の村上氏。最近の「GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)」批判、規制の動きを「情緒的な反応だ」と退ける。村上氏の見立てでは、「21世紀は中国の圧勝になる。米国で教育を受けた優秀な人たちが帰国し、一党独裁の下で量子コンピューターなどの技術に集中投資できる。GAFAもいずれ中国企業に取って代わられるかもしれない。規制なんてしている場合じゃない」。

狭まる日本の将来図

「5GもAIもサイバーセキュリティーも本当に遅れてしまい、基幹的技術を欧米や中国から手に入れなければ産業、社会が立ち行かなくなる」(小林氏)日本。その進路を小林氏は「米国への従属をさらに強める、あるいは中国のひとつの都市になる、もしくは米中間で中立を保つ」の三つを挙げる。三つめはいささか自信なさそうだ。

米国の会計ビジネス会社、プライスウォーターハウス・クーパーズによると中国のGDPは、購買力平価(PPPベース)で2014年に米国を抜いている。16世紀、中国、インドで世界GDPの7割を占めていた。1820年、中国は世界GDPの28パーセント、インドは10パーセントで半分を占めていた。その意味では欧米が席巻した時代からアジア・インド(あるいはアフリカ)時代への回帰は自然なのかもしれない。

しかし、18世紀の大航海時代、19世紀の産業革命から植民地主義の時代、20世紀、二度の世界大戦と原子力エネルギーに象徴されるアメリカ主導の時代には残酷ではあったが、前世紀のくびき、価値観を解き放つ時代精神があった。中国覇権の象徴は一帯一路なのかもしれないが、これが時代精神とは思えない。それよりも、こうした中で日本のとり得る選択肢の少なさに暗澹とする。子供のケンカではあるまいに“どちらにつくか”しかないのか。知恵を絞れニッポン!