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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特任教授、国際厚生事業団理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

4月衆参補欠選挙の裏表
-自民勝利でも首相が喜べぬ事情-2023.03.11

自民党全国幹事長会議が2月25日、都内で開かれた。岸田文雄総裁(首相)は、4月23日に行われる見通しの衆参5補欠選挙にふれ、「今後の政局に大きな影響を与えるかもしれない大事な選挙」と強調、一致結束を訴えた。

「与野党対決」と言わず、「政局」という言葉を選んだのがミソ。この言葉には、政党間対決より党内権力抗争のニュアンスがある。「勝利」とも言わず、「一致結束」を強調したのも意味深長。もっとも長く続いた安倍政権下で「保革逆転」とか、「与野党対決」という言葉は死語に近くなった。

NHKが1月に行った世論調査の政党支持率を見れば一目瞭然。自民党38.9%、次が「支持政党なし」で36.7%。以下、立民5.7%、維新3.4%、公明3%、共産2.5%、国民1.0%と続く。

今や国政選挙は「支持政党なし」層が(1)どの程度、投票に行く気になるか(2)その票が自民党以外の党にどのくらい流れるか――で決まる流動的な気分選挙となってしまった。

五つの補選の現状を見てみよう。まず山口県。安倍元首相の死去に伴う山口4区と、安倍氏の実弟、岸信夫衆院議員の引退に伴う同2区の選挙は、野党も候補者を模索中だが自民2議席確保となるだろう。

問題は4区が次回選挙からなくなること。今回当選者は、合併される新3区で現職の林外相とぶつかることになり勝算は薄い。だから安倍未亡人を含め手を上げる人がなく候補者擁立は難航した。安倍派対林氏の属する宏池会対決図式だ。2区は、信夫氏の長男出馬で無風に近い。

選挙より党内事情

和歌山1区の事情も似ている。革新系現職の岸本周平氏が知事選に出馬(当選)したための補選だが、同県も選挙区が3から2に減る。次回衆院選では、2区の現職、石田真敏氏(岸田派)が新1区に回るから、今回当選者はブロック比例などに活路を見出すしかない。

このため衆院転出を目指す同県選出、世耕弘成参院議員(安倍派)は、ここでなく新2区で二階俊博元幹事長(84)の跡を伺う。が仮に二階氏が引退しても3人の息子のいずれかが出馬するから二階対安倍派の対決は続く。

こうした中、今回の補選に世耕氏は門博元衆院議員を、地元の二階派は、鶴保庸介参院議員を推し紛糾した。候補指名を一任された二階県連会長は、意外にも門氏に白羽の矢を立てた。

岸本氏に4回連続、選挙区選挙で敗れた門氏をあえて推したのは「世耕氏が自民が過半数を割っている参院からの鶴保氏転出に反対したロジックを逆手に取って世耕氏の転出を阻止する狙い」と見る向きもある。

他方、維新は40代女性和歌山市議を出馬させる。岸本票の動きによっては、門氏が苦杯を喫する可能性も。その場合、責任を問われるのは、門氏を推した世耕氏という“打算”も透ける。

残る衆院千葉5区と、参院大分選挙区選挙は、与野党対決型だ。千葉5区は「政治とカネ」で辞職した薗浦健太郎・前議員の補欠選挙。都市圏の市川市中心で、与野党伯仲選挙区だ。野党が勝つためには、共闘体制が必要だが国民、共産はすでに独自候補擁立を決めている。現状では、自民の女性新人が善戦しそうだ。

大分県参院選挙区は、野党統一候補として当選した安達澄参院議員の知事選出馬を受け空席を争う。同県は、自治労、日教組など官公労が強い連合主導で、立憲、国民、社民に共産党も加わる「野党共闘」が形成されてきた。しかし、今回は、現時点で統一候補擁立のめどが立ってない。

つまり自民は、悪くても3対2(山口2プラス1)に持ち込めそう。ただちに首相の責任が問われる事態は避けられるだろう。

問題は、むしろ候補者調整、選挙を通じて派閥間のあつれきと反目が深まること。首相の心配する「政局」の火種となりかねない。5月、広島サミットを乗り切って解散の機会を伺いたい首相。しかし、未だ道遠しだ。