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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特任教授、国際厚生事業団理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

世論調査の虚実2020.7.11

-政治を翻弄するデータの魔力-

世論調査への信頼が揺らいでいる。6月19日にフジテレビと産経新聞が発表した「世論調査の入力データ不正について」という発表には驚かされた。

これによると、FNN(フジニュースネットワーク)と産経新聞社が共同で行ってきた世論調査で、業務委託先のコールセンターが実際には電話していないにも関わらず、架空の回答を入力するという不正が2019年5月から2020年5月まで計14回行われてきた。この間、調査一回当たり約1000サンプルにつき百数十サンプルの不正が見つかり、14回の調査での不正サンプル数は、2500にのぼった、というのだ。当然、両社は、過去14回分の世論調査報道、記事を取り消した。

このケースは論外だが「警備保障タイムズ」読者の皆さんも毎月発表される各社世論調査を見て、その差が大きいことに疑問を感じておられるのではないだろうか。例えば6月初旬に新聞社、通信各社が発表した内閣支持率を見てみよう。最も低かったのが毎日新聞の27パーセント、ついで朝日新聞が29パーセント、NHK37パーセント、共同通信社40.7パーセント、読売新聞社42パーセント、産経新聞社44.1パーセントとなる。この中で安倍内閣支持が不支持を上回っていたのは、産経のみ。また各社とも前月調査に比べて支持率が6〜10ポイント減る傾向では一致している。7月調査でもこの傾向は継続している。

それにしても支持率最高の読売調査(産経は調査結果を取り消したので除外)と、最低の毎日調査との差は15ポイントもある。これはどういうわけなのだろう。調査の仕方自体は、各社とも大差ない。乱数番号(RDD)方式により無作為に選ばれた電話番号にオペレーターが電話をかけ調査を実施している。朝日新聞が6月に実施した調査では、ランダムに選ばれた固定電話1999人、携帯電話2172人に電話をかけ、うち固定電話1035人、携帯電話1030人から回答を得た。つまり全国で2065人が回答に応じたわけだ。

これはジャーナリストの山田肇氏が指摘しているようにテレビの視聴率調査会社、ビデオリサーチが行っている関東圏の調査数2700世帯よりも少ない。ビデオリサーチでは統計誤差も発表しており関東圏では視聴率20パーセントに対しプラスマイナス1.5パーセントとしている。全国規模になれば誤差は広がるだろうが、それを勘案しても読売調査と毎日調査の差を埋めるほどではない。 

回答データは設問次第

差の生まれる理由は、聞き方にあるのではないか。社によっては、内閣を「支持する」、「どちらかといえば支持する」、「支持しない」、「どちらかといえば支持しない」の4択から選ばせている。一方の朝日新聞、毎日新聞は「支持する」、「しない」の2択である。当然、回答の幅は異なってくるだろう。だから各社とも調査結果解説記事の下にさりげなく、「質問の仕方や時期が異なるので毎回の数値は、社ごとに違う。一定期間を比べれば上昇や下降は、似た数値となる」(日経新聞6月9日)と断りを入れてある。

ワシントン特派員当時、米上下院議員に対日意識のアンケート調査をしたことがある。質問項目についてジョージワシントン大学の専門家にチェックしてもらったが、こちらが客観的に書いたつもりでも、「これは誘導質問」、「意図的」と徹底的に直されてしまった。各社調査が金太郎あめになる必要はないが、首を傾げられるほどギャップが生まれるのは世論調査自体の信頼性を損なわないだろうか。

そういえば最近の調査で傑作だったのは、「都政新報社」が今年1月、都職員223人に行ったアンケート結果。この中で小池再選を望むのは、わずか20パーセント、歴代最低だった。都民の判断は違ったようだが。