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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特任教授、国際厚生事業団理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

コロナ解散の行方
-都議選の結果をどう読むか-2021.07.21

7月4日に行われた都議選で有権者が投げたサインが見えただろうか?見過ごせば今秋の衆院選、「コロナ解散」の行方も五里霧中に消える。

結論を先に言おう。第一に、自民党については都議選敗北の影響は、限定的に止まるはず。現有議席を一定程度減らすだろうが、公明を合わせ衆議院の過半数は獲得できるとみる。理由は、国政の舞台に「都民ファースト」がないこと。変動要素は小池新党だが、二番煎じで新鮮さがない。さらに本人の健康、日程(五輪開催、コロナ対応)を考えると新党運動は、間に合わないだろう。

第二に、その裏返しで立民・共産両党の選挙協力は、ある程度の効果を上げるだろう。もともと野党は、オウンゴール状態で「負けすぎ」だったから一定の議席回復は当然。といっても過半数獲得はもとより、主要委員長ポストを取れる伯仲状況の実現は、難しいだろう。共産党との共闘に、立民の最大のスポンサー、連合が背を向けているし、国民民主党が加わる気配もない。

最後に、都議選で健闘した公明は、次の国政選挙では、組織の高齢化、運動力の低下からかなり厳しい戦いとなるだろう。

都議選結果を受けたメディア各社の分析、解説は“白ける”の一言に尽きた。答えすべてを、「小池ミラクル」に求めようとする態度が見苦し過ぎる。選挙中、「自民50議席に届く勢い」、「都民ファースト苦戦、自公で都議会の過半数奪還へ」と流し続けてきた予測報道が外れた。何か説明が要る。そこで小池知事のパフォーマンスに飛びついたのだ。

無論、「寝たふり」効果や、「バタッと倒れても本望」発言への同情という要素を無視することはできない。しかし、知事が最後の一日、18人の都民ファースト候補の事務所を駆け巡っただけで「全て」がひっくり返った、と言わんばかりのストーリーは、強引で、精緻な分析を欠いていた。

自民退潮は大きな流れ

各社が犯した最大の誤りは、相も変わらず各党の支持率増減に目を奪われ、最大の票田である「無党派票」の行方分析を怠ったこと。朝日新聞の出口調査によると、今回無党派層の投票先は、都民ファが25%で最大(前回からは10%減)、共産16%、自民15%、立民15%の順。注目すべきは、自民党支持者で自民党候補以外に投票した人が3割いたことだ。つまり都民ファ支持率とは関係なく、自民党への不信が高まるほど都民ファへ票は流れる仕組みになっているのだ。

今回は低投票率であったから、従来以上に無党派層の票の行方が結果を左右した。ここに絞って取材すれば、予測の誤りは最小限に止められたろう。もっとも低投票率は、公明党にはプラスに働いた。巧みな票割りで、僅差滑り込み当選の候補が目立った。しかし、この手法は、総選挙で通用しないだろう。

自民党の当選者数、得票率のピークは、2012年12月から14年12月の両衆院選挙である。14年選挙は、誰も拒まぬ「増税延期」を争点に仕立てたテクニカルな勝利。結果、291議席を獲得、公明を合わせ衆議院の3分の2を制した。以降、衆参獲得議席、得票率とも下がり続けている。19年参院選挙では、改選議席を9議席下回り改憲勢力の3分の2を維持できなかった。この長期低落がさほど関心を集めなかったのは、野党の不甲斐なさに助けられ、無党派票が行き場を失い、低投票率が続いてきたためである。

赤木ファイルの公表で再燃する森友学園問題、ワクチン接種の遅れ、五輪の不首尾。国民の自民への不満はつのる一方だが行き場はない。結果、自民党は、多少「お灸をすえられ」議席を減らすものの全面的な不信任には至らないだろう。