河内 孝の複眼時評
河内 孝 プロフィール |
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特任教授、国際厚生事業団理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。 |
2023年、終わりと始まりの年
-ウクライナ戦と国内政局と-2023.01.01
2023(令和5)年は、干支で言うと、癸卯年。癸は、物事の始まり終わりを表す。12年前は、東日本大震災があり、36年前は国鉄民営化が行われた。卯は、ウサギで繁殖する、増えるとあるから吉祥。終わって始まる。変化に富んだ年になろう。
召喚された? ゼレンスキー
世界を覆う暗雲は、ウクライナ戦争だ。行方を占うカギは、12月21日、ワシントンで行われたバイデン・ゼレンスキー会談ではないだろうか。
長距離対空ミサイル、パトリオットの供与、上下両院合同会議での拍手喝采。まさに温かいクリスマス・プレゼントに見えるが、それは表の話。「どこで矛を収めるのか」、ギリギリの詰めが行われたに違いない。
首脳会談には伏線があった。11月14日、トルコのアンカラでCIAバーンズ長官とロシア対外情報庁(SVR)ナルイシキン長官が会っている。この種の会談にしては珍しく公表されたが、会談後の米側発表は空々しかった。
「会談については事前にウクライナ側に説明。バーンズ氏はいかなる交渉も、ウクライナ戦争の解決についても議論しない。ウクライナ抜きでウクライナのことを行わないとの基本原則を守っている」。これが本当なら何のために会ったのか。
第2の伏線は12月1日、ホワイトハウスにマクロン仏大統領を迎えた会談後の記者会見でバイデン大統領が上げた観測気球だ。「プーチンが侵攻を終わらせる考えがあるのならば話す用意はある」。
2日後、NSC(国家安全保障会議)のカービー広報官は、「(会談は)ウクライナが決めること」ととぼける。ロシアの大統領報道官も「条件が整ってない」と足並みをそろえた。
一連のパントマイムは、何を物語るのか。筆者は、米ロ間で停戦条件について話が進んでいると見る。中身は昨年11月1日号の本欄で指摘した現状固定、朝鮮半島型休戦である。
ウクライナはあくまで全領土奪還に固執する。ロシアも併呑4州を返さない。「終わりなき交渉」の始まりだ。小競り合いは続く。しかし大規模戦闘は止み、空爆は収まり捕虜交換は進むだろう。
政権転覆の恐れなしとしないゼレンスキーがキエフを空ける理由は、パトリオットでは説明がつかない。「召喚」と見るのが素直だ。米軍機での機中泊トンボ返りという日程からも伺える。
停戦交渉に現実味を与えているのが、増大するロシア側の犠牲だ。12月17日付けニューヨークタイムズは、ロシアの反体制メディアMediazona(メディアゾナ)の調査報道を詳しく伝えた。
地方紙の「英雄の帰還」など葬儀報道を細かく拾い、墓場まで訪ねる取材で当局が発表した戦死者数5900人(昨年11月現在)は、実数の半分以下と報じた。
無論、戦傷者はこの数倍になる。「ロシアの人々に戦争の実際のコストを知らせる必要がある」(編集者)という渾身の報道だ。こうした背景を考えると停戦交渉は、「いつ。どこで」始まるかがポイントとなる。
統一選、衆院補選前にも一波乱
岸田首相もバイデン大統領との約束に翻弄されている。
3月末に予算が成立。統一地方選と衆院補選の結果次第だが5月広島サミットまでは、まず平坦か、とみられた政治展開。しかし人気低迷にあらがう岸田政権の打つ手が“愚手の連鎖”で自縄自縛となりつつある。
首相は、1月末の国会召集までに内閣改造と日米会談を行いたいようだ。
昨年5月の日米首脳会談で約束した(させられた)「防衛費GNP2%増額、敵基地攻撃能力、台湾事態共同対処」への答案を持参し、点数を上げたいところだろう。
しかし、「数字先行」の予算の積み上げには、防衛専門家も首を傾げる。まして、増税で支持率回復は無理だし閣僚ドミノ辞任で政権基盤は緩み切っている。パッチワークで挽回できる状態にない。
4月の統一地方選と衆院千葉補選で負ければ即、政変のゴングが鳴る。