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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特任教授、国際厚生事業団理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

改造は終わった。選挙はいつだ
-やりたい解散ができない理由-2023.10.01

「総裁再選」。今、岸田文雄首相の頭を占めているのは、この4文字だ。党役員人事、内閣改造、解散――。全ては来秋の「自民党総裁再選」への道程に過ぎない。

では、「再選」から逆算すると今回の改造人事はどう位置付けられるのだろう。「決定的ミスはないが、積極的なプラスにもならなかった」ということだろう。9月第3週、各メディアが行った世論調査でも明らかだ。支持率は横ばいか微増に終わった。

盟友の林芳正外相を降ろしてまで増やした女性閣僚。だが、首相自ら「女性ならではの感性と共感力」を強調、ジェンダー音痴ぶりを露呈した。続く副大臣・政務官人事では54人の枠に女性登用はゼロ。実力ある女性なら民間にいくらでもいるのに。党内の派閥均衡ばかりを見ているからこんなチグハグが起きる。

在任1年10か月で林外相を更迭した人事は失敗だ。総合商社からハーバード大学院で鍛えた語学力、得意のジャズを駆使したコミュニケーション能力に期待していた。何より相手がしたたかなのだ。

ウクライナ戦争の最中、ロシアのラブロフ外相は、在任10年、中国の王毅中国外相も政治局員を経て2度目の外相を務めている。欧米の外相もほぼ一内閣一外相が常識。上川陽子外相は語学力抜群かもしれないが、これだけ緊迫した政治情勢の中で名刺交換から始めるのは容易ではない、国益に反する。

永田町解散ストーリー

ともあれ人事が終わり、10月16日に臨時国会が召集されれば世の関心は、解散に流れる。

永田町雀がさえずる解散パターンは三つ。まずは冒頭解散。総合経済対策を取りまとめ10月20日に補正予算を提出した直後、信を問う。11月14日公示、26日投開票が有力だ。

第2は、補正予算成立を待っての解散。この場合、11月初旬解散、12月10日の投開票となろう。残るは、来年、通常国会冒頭解散だ。しかし、筆者は、このいずれも不発に終わるのでは、と見ている。

首相が常に、「好機さえあれば解散権を行使したい」と構えていることは疑いない。首相周辺は今年6月の通常国会末にも解散説を流したがブラフ(対野党脅し)に終わった。なぜできなかったか。秘書官にした長男の「公邸忘年会」スキャンダル、マイナカード運用の混乱による支持率低下のためと言われている。

その反省が人事に見えない。当の河野太郎デジタル相は留任。ある意味、秘書官問題以上に深刻な爆弾を抱える木原誠二補佐官を前例のない幹事長代理、政調会長特別補佐に“抜擢”した。つまり失敗に懲りず世論を無視、派閥均衡優先、情実人事を繰り返している。これに物価高が追い打ちを掛けるから支持率が上がるはずもない。

注目すべきは政治潮流の変化だ。9月3日の岩手県知事選、5日の立川市長選、10日の牛久市長選結果である。

岩手県知事選挙は、自公候補に対し小沢一郎氏を軸とする野党連合の勝利。立憲民主の岡田克也幹事長、共産小池晃書記長ら野党幹部が一斉に入り「全野党共闘」で小沢帝国を守った。

立川市長選は、立憲の元都議、酒井大史氏が自公推薦の元都議、清水孝治氏、国民民主、都民ファースト推薦の伊藤大輔氏を下した。この地域で自公選挙協力協議が難航したことが敗因の一つと言われている。

そして茨城県牛久市長選では、昨年の県議選で自民現職2人を落とした維新が近畿圏外で初の公認首長実現を目指したが、自公の無所属候補に敗北した。

三つの選挙の教訓は、(1)全野党共闘は地域により有効(2)「野党がバラバラだから支持率が低くても自公は勝てる」説はまゆつば(3)今を盛りの維新人気も無敵ではない――ことを示している。

つまり何が起こるか分からないのが次の総選挙だ。結果、慎重居士の首相は、なかなか解散に踏み切れまい。といって来年9月の自民党総裁選挙までに行わないわけにはいかない。

詰まるところ、限りなく「追い込まれ型の解散」になるのではとの予感しきりだ。