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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特任教授、国際厚生事業団理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

不都合な日本の真実③ 社会保障制度2020.03.01

――低負担・高福祉から高負担・低福祉へ――

例年、4月は値上げのシーズンといわれるが今年は、とりわけ家計へのダメージが強まりそうだ。入学、転居など新生活に必要な多くの出費に消費増税がのしかかる。追い打ちをかけるのが各種社会保険料の負担増だ。

例えば4月から引き上げられる介護保険料。40歳以上の人にかかる介護保険料は所得水準に応じて金額が決まる「総報酬制」となったから所得の多い人ほど支払額が上がる。年収600万円の会社員で年間の負担額は6万円強。19年度比で負担は、1万4400円増えた。年収1000万円なら2万4000円だ。3年ごとに改定される介護保険料は2000年度、一人当たり平均月額2900円でスタートした(1号被保険者保険料)。それが今では5869円と倍以上になっている。国、自治体の負担を加えた総コストは3兆円台から10兆円台へと約3倍超に膨れ上がった。

それでも値上げで、「100年安心」が保障されるなら払い甲斐もある。しかし、現状は保障どころか、このままでは介護保険、年金、医療保険というセキュリティーネットの根幹が崩壊の瀬戸際にある。

介護保険に関して言えば2010年、被保険者に占める受給者の割合は13パーセントだった。逆に言えば9割近くの被保険者が「掛け捨て」だったわけだ。10年たって、この比率は16パーセント台を超えた。団塊の世代が75歳の後期高齢者になる2024年以降、2割を超えることは確実。今でも足りないのだから3年ごとに保険料を倍々にでもしない限り追いつかないだろう。一方、残り半分を負担する国、自治体財政は破綻状態に追い込まれかねない。だからこそいま必要なのは、目先の保険料をいじくることでなく、「低負担・高福祉から高負担・低福祉」への軌道修正に理解を求める努力なのだ。

こうした事態を受けて安倍首相の肝入りで昨年9月、発足したのが、「全世代型社会保障検討会議」である。同会議は昨年12月、中間報告を発表した。何を目指しているのか、改革の方向性を探ってみよう。

◇医療改革◇

現行、1割負担が原則の後期高齢者窓口負担率を2〜3割負担へ。紹介なし大病院受診への課徴金増などがうたわれているが効果のほどはどうか。後期高齢者への所得に応じた負担増は、すでに今年度から実施されている。つまり織り込み済みだ。さらに、厚労省は一般診療は地元クリニックで、大病院は救急、重症者のみ、しかも入院期間を短くしたいと躍起になっている。だが、市中のクリニックは内科、外科、耳鼻科など臓器別になっているからさまざまな症状に対応、適切に病院紹介ができる総合医は育っていない。体制整備が先決なのに逆行していないか。

◇年金改革◇

年金受給開始年齢の選択幅を広げる提言をしている。現在でも70歳まで遅らすことができるが、利用者は「もらい損」を恐れ1パーセント足らず。真にサービスとコストのバランスを考えるなら男性平均16年間、女性平均22年間という受給期間を欧米並みの10年間前後まで縮めるしかない。受給開始年齢を少なくとも75歳まで引き上げる厳しい判断が必要になるが、今回は批判を恐れ見送った。

世代間不公平感の解消

高齢者に偏りがちな社会保障給付を若年勤労層にも育児保育面で広げようという考えは共感できる。ただ問題は、その財源を消費税に求めている点だ。消費税財源は、世界的にも高水準な赤字国債依存を解消するためにこそ充てられるべきではないか。

秋の本答申を受けて安倍内閣は、これを解散の大義名分するとの見方もあるが、この内容で信を問えるのだろうか。