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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特任教授、国際厚生事業団理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

コロナがカギを握る米中対決の行方
-アキレス腱を抱えた中国-2021.07.01

<中国が米国と欧州NATO加盟国、アジア同盟国との分断を図れば、米国は中露間の離間を策す>――。

現在進行形の国際政治力学を単純化すればこうなる。だからこそ今回の「温かい雰囲気ではなかったが、激しい対決も避けられた」(ニューヨークタイムズ紙)米露首脳会談にも、それなりの意味があったのだろう。バイデン大統領自身、記者会見で語っている。「(プーチン大統領を)信頼するかどうかの問題ではない。互いの国家利益(損得)を確認しあうことが大事だったのだ」。

米中ソ三角関係といえば、すぐ思い出されるのがニクソン政権下、キッシンジャー国務長官が策した1971年の外交劇だ。一時は、中国・毛沢東主席が対ソ戦を思い詰めるまで悪化した中ソ対立を逆手に取って米中和解を演出、大国の面子を守りながらベトナム戦争撤退の道筋をつけた。

しかし、今の米国に当時のような切り札があるだろうか?外交消息通が謎解きをしてくれた。「日米から始まって米韓、新大西洋憲章、サミット、NATO首脳会議、米露首脳会談まで、一連のコミュニケ、記者会見を精査するといい。共通のキー・ワードが出てくる。それが米国の切り札だ」。

「いずれも“影の出席者”である中国への言及がある。しかし中国包囲網形成は、ロシアは無論、ドイツ、フランスも二の足を踏んで成功しなかったではないか」。私の答えに消息通は鼻を鳴らし、「それでは50点。正解はコロナ+中国だよ」と語った。

確かにバイデン大統領が行った一連の会議では、必ずコロナと中国が議題となっている。日米首脳会談では、「生物学的な大惨事に対応する健康安全保障の推進、協力。新型コロナウイルスの起源、あるいは将来の起源不明の感染症の検証に関する、干渉や不当な影響を受けない、透明で独立した評価および分析を支持」した。6月10日の新大西洋憲章では、「民主的諸価値を従来からの、そして新しい挑戦からも守る」と宣言した。13日のサミット宣言では、人権問題や新型コロナウイルスの起源調査について中国を名指し批判した。

そして14日のNATO首脳会議。コミュニケは、「中国が表明している野心と積極的な行動によってルールに基づく国際秩序と同盟の全体的安全保障が挑戦を受けている」と指摘。ストランベルグ事務総長は、「私たちは同盟として中国の台頭がもたらす安全保障上の挑戦に共同で対処する」と述べた。

これまでのロシアの脅威から米国が西欧を守るNATOから、中国の脅威にアジア・太平洋で米国と共同対処するNATOへ。大転換だ。英国、仏、ドイツがアジアへ艦隊派遣する真の意味がここにある。力のベクトルが変化することで利益を享受するのはロシアだ。米露首脳会談の核心はここではなかったか。

武漢ウイルス発生源説の真偽

18日、インドのITメディア「Republic World」が衝撃的なニュースを配信した。今年2月、中国国家安全部の董圣緯副部長(次官)とその娘が米国に亡命し、武漢生化学研究所が新型コロナウイルスの発生源である証拠を米国に提供したというのだ。世界の反応は、「完全なフェイク(偽)情報」から、「中国からの戦後最大の亡命劇」まで錯綜している。

事実は董氏の履歴など一切が削除されたこと。董氏に情報を提供したとみられる武漢生科研勤務経験のある公安部高官が逮捕されたこと。この直後からバイデン大統領が生化研への再調査を強く求めていること。米政府が沈黙を守る中、米共和党系のメディアが積極的に情報を拡散している――ことだ。

仮に全世界で384万人が死んだ(22日現在)コロナ発生源を中国が作り出したことが確実となれば中国の孤立、対中包囲網の形成は、不可避であろう。