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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特任教授、国際厚生事業団理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

とんで火に入る?ワシントン詣で
―菅首相は覚悟を固めて出発したのか―2021.04.21

菅首相とバイデン米大統領との対面会談が16日行われた。原稿を書いている14日時点で会談内容がどこまで明かされるか予測できないが、焦点は間違いなく中国・台湾問題だ。突っ込んだやり取りが行われただろう。

それにつけても暗たんとする。3月末に来年度予算が成立して国会論戦も一段落したが、「台湾問題」をめぐる丁々発止のやりとりは、たえてなかった。平和ボケ症候群としか言いようがない。

4月の10日間余りだけでも台湾情勢の深刻さは肌身に沁みる。3日、空母「遼寧」を中心とする中国艦隊が沖縄本島と宮古島の間を抜け太平洋側から台湾周辺に向かった。4日、米空母「セオドア・ルーズベルト」が南シナ海に入った。大量の大形漁船を集結させフィリピンを恫喝する中国へのけん制だ。5日、王毅中国外相の申し入れで急遽、日中外相電話会談が行われ同外相は、日米会談に向け「日本が独立自主国家として客観的、理性的に中国の発展を見るよう」要請した。これは外交辞令で、本音は、日米外相・国防相会議(ツー・プラス・ツー)後の外交部報道官発言にある。「日本は自身を米国の戦車に縛り付けて、戦略的従属国になるようなことはするな」。

5日からインド洋で仏主催の海軍合同演習が米、豪、印、日本の参加で始まった。7日、中国戦闘機、爆撃機など15機が台湾の防空識別圏に侵入した(12日は25機)。同時に台湾東海岸沖で空母「遼寧」艦隊による訓練が行われた。7日付、人民日報の英字版「環境時報」は、「台湾を完全に包囲する体制を示した」と称賛。同日、米海軍の護衛艦「ジョン・マッケイン」が台湾海峡を通過した。9日、米政府は台湾との政府間接触制限を緩和した。

火花散る米中のつばぜり合いだ。3月8日、米インド太平洋軍司令官が議会証言した、「6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性」が現実味を帯びる。6年後の27年には来年の党大会で3選されるだろう習主席の任期が終わる。それまでに能力を意図(台湾解放)に合わせようということだろう。

尖閣防衛と台湾有事協力は一体

日米は、すでに先のツー・プラス・ツーで、「双方は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調」している。同様文言を首脳会談後の共同声明に盛り込むかで折衝が難航、会談も1週間延期された。仮に日米首脳会談の共同声明で「台湾」に触れれば1969年、沖縄返還を決めた佐藤・ニクソン会談以来となる。核抜きの代償として韓国、台湾条項(両国の安全は日本の安全上、緊要)が盛り込まれた。

今回は、「尖閣を守ってやる以上、台湾有事にはきちんと対処しろ」ということだ。米国から見れば台湾から170キロメートルしか離れてない尖閣諸島は、台湾防衛の延長線上にある。

さて、「台湾危機」に日本はどう対処するのか。2015年成立した国際平和支援法では、「わが国と密接な関係のある外国に対し武力攻撃が行われ、その事態がわが国の安全に重大な影響を及ぼす可能性があるときは、わが国が直接攻撃されていない場合でも、その国の明示の要請、または同意を得て、必要最小限度の実力を行使して、この攻撃の排除に参加し、国際の平和及び安全の維持、回復に貢献できる」としている。

台湾危機が現実化したら、適用第1号とするのか? 戦後最大の試練となろう。しかし、現実の尖閣諸島対処は海保による警察行動に止まっている。これを、「外務省の“口だけ抗議”と防衛庁の奪回作戦との間に広がる“政策の真空状態”」と呼ぶ評論家もいる。「真空」を埋める菅首相の覚悟のほどが示されたのだろうか? 万一にも各国に先駆けてとか政権浮揚、解散戦略などといった打算で出かけたならば手痛いしっぺ返しを喰うだろう。