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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特任教授、国際厚生事業団理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

自民楽勝ムード先行の参院選
-まさか!はあるのか?-2022.04.11

プーチン・ロシア軍のウクライナ侵攻以来、「それ以外の」ニュースに目が行かないという日々が続いている。

ウクライナ国民4000万人のほとんどが持つスマホからSNS発信される現場情報の衝撃波が世界中で共有され、共感と怒りを呼び対ロ統一戦線を形成している。これに洪水のような既存メディア報道が重なって、「つらい」と思いつつ眼をそらすことができない。おそらく2022年ロシア・ウクライナ戦は、従来の陸海空、宇宙という戦闘領域にSNSによるコミュニケーション戦が加わった新しい戦争として記憶されるだろう。

千葉大学の神里達弘教授(科学史)は、ウクライナ事態後、国内で新型コロナ感染症への関心が劇的に下がった「空気の変化」を指摘している(朝日新聞3月25日付)。「人間は一般に、同時に多くの問題を処理することが苦手である。とりわけリスクの認知は、ひとつの対象に集中しやすい。要するに戦争への恐怖感が、感染症のそれを上回った、ということだろう」と分析する。

一方、ウクライナの惨状から眼を国内政治に向けると、与野党とも国の舵をどう取る気なのか、真剣さ、切実さが伝わってこない。結果、残念ながら7月に行われる参院選挙への関心は薄れるばかりだ。

3月のNHK世論調査を見ると、岸田内閣の支持率は53%でやや上昇傾向。政党支持率は、自民38.4%、立憲民主5.9%、維新4.4%、公明3.8%、共産2.3%、国民民主1.0%。この数年、コロナ感染状況と内閣支持率が完全にシンクロしているのを見ても、野党はすでに政府自民党の敵でなくなったことが分かる。

維新と都民ファーストがどの程度、かく乱要素となり得るか、という点は残るが、そのダメージを受けるのは自民より既成野党だろう。この数字を見る限り、政治的立場を超えて国民の多数が次の参院選挙でドラスティックな変化が起きるとは思っていないことがよく分かる。

とはいえ小泉元首相の名セリフ、「上り坂に下り坂。しかし政界には、もうひとつ“まさか”がある」ということもある。今夏の参議院選挙で起こり得る「まさか」を、あえて占ってみると…。

ウクライナ・インフレで生活危機

国債発行残額が1000兆円を超える日本で、金利を米国並み2%まで上げれば、利払い費用が年間20兆円に達する。一年分の消費税収が吹き飛ぶ数字だ。進むも退くも地獄だからそれ自体、大変な時限爆弾なのだが、政府日銀は国債の無制限買取を進めるしかない。

内外金利差はさらなる円安を生み輸入食料、資源は高騰。公共料金は跳ね上がりスーパーの棚は空になる。すでに始まった値上げラッシュは、序の口に過ぎない。これにウクライナ危機が重なった。年金が下がり医療費が上がる中、ガソリン1リットル500円、ラーメン一杯3000円台というハイパー・インフレの最中に投票日が重なれば? 「まさか」が起きる可能性大。泣き面に蜂で、コロナ第7波も重なるかもしれない。

戦術的に与党が失敗する可能性もあり得る。兵庫県で起きたように候補者の公認調整をめぐる自公さや当ての根っ子には維新というプレイヤーをどう扱うか、思惑の違いがある。20年間連携した公明党を大事にするか、若くて元気、体質もより近い維新を取り込むのか。派閥間、実力者間で打算が交差、亀裂が生じている。間隙を突いて何が起こるか?

今や与党には、国民民主まですり寄って来た。与党勝利ムードの椅子取りゲームに加わりたい。舞い上がるな、と言っても無理かも知れないが、楽観論、油断が大敵となって“まさか”を呼ぶかもしれない。