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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特任教授、国際厚生事業団理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

目指すべき防衛力強化とは
-最優先は、人と弾丸(タマ)-2022.09.21

「たまに撃つ弾がないのが玉にキズ」。

80年代、防衛専門紙「朝雲新聞社」が募集した防衛川柳の第一作。作者は現役自衛官だった。

半年たったウクライナ戦争でロシア軍について一つだけ感心している点がある。連日ミサイルを打ち、砲爆撃を繰り返しても弾切れにならない点だ。北朝鮮にロケット弾、イランにドローン購入を打診するなど苦しい状態ではあるようだが。

生産も急いでいるだろう。しかし、弾道ミサイルなど精密兵器と異なり砲弾、銃弾は保管状態が良ければ長期間の備蓄が可能。冷戦期の蓄えを喰い潰しているに違いない。

それに比べ旧日本軍の弾薬備蓄と兵站(へいたん)軽視ぶりは目を覆うばかりだ。日露戦争の実相を描いた「機密戦史」(谷寿夫元陸軍中将著)によれば、旅順攻撃に際し現地軍は、主力砲36門(この少なさにも驚かされるが)、一門当たり800発、補給800発を要求したのに対し、陸軍省は、「過大なりと批判し在庫品なしとして追送を約したが第一回攻撃には間に合わず(準備弾薬一日一発の折あり)」という有様。結果、緒戦で戦死傷者1万数千人を出す悲惨な結果に終わる。

残念ながら戦後の自衛隊も、この伝統を引きずっている。予算の制約から戦車、大砲、ヘリコプターなど正面装備に配分が偏り弾薬購入費は、極めて低く抑えられてきた。

筆者は防衛庁(当時)担当記者時、「こんな備蓄量では、一会戦分(正面勢力が激突した際の一回分の必要弾薬量)にも足りないのでは」と問うた。答えは「米軍が朝鮮戦争以来、国内の弾薬庫に残している分を使う。一週間頑張ればアメリカから補給が来るだろう」だった。あれから40年、弾も期限切れだし、砲も口径も変わった。「だろう」で兵士は戦えない。

何をどう強くするのか

岸田首相は今回の内閣改造に当たり、「防衛力の抜本的強化が最優先課題」と述べた。問題は「何をどう、いつまでに」強化するかである。

伝えられるところ、敵基地攻撃のため射程の長いミサイルを持ちたいようだ。三菱重工が開発した「12式地対艦誘導弾」の射程(現200キロメートル)を中国沿海部まで届く1500キロメートルに伸ばす。これを約1000発程度(小野寺五典元防衛相)保有したいとしている。

他方、日本を射程に収める中国の弾道ミサイルは約1900発、巡航ミサイルが約300発といわれる。北朝鮮も数百発保有している。相手の半分以下の数。しかも都市など戦略目標でなく、軍事目標をピン・ポイントで狙う「反撃能力」が、いかほど抑止力を発揮できるか。心もとない。

このミサイルの弾頭炸薬は、250キログラム程度で、ビル一つぐらいなら破壊できるが、敵基地機能を破壊するためには最低、数十発必要だろう。1000発で足りるはずはない。推進力は、ジェットエンジンだから極超音速に達せず、飛行中、相当数が撃墜されるだろう。

反撃という以上、第一撃は敵から来ることを想定している。1000発の半分は艦船、航空機に搭載されるので第一撃で全滅されることはないだろうが地上発射型は、撃つ前に相当数がやられるだろう。

さらに続く第二波、第三波攻撃をどう耐え抜くのか。抗堪性(生き残り闘い続ける力)強化の方策が見えない。

最も心配なのがマンパワーだ。自衛隊の充足率は現在、定員24万人に対し約8割とされている。幹部自衛官は9割、兵士にあたる士が7割という。

しかし、これは数字のマジック。07年度、27万人だった定員を順次、下げているから充足率が上がって見えるだけだ。特に海上(海中)勤務の多い海上自衛官の定員割れは深刻である。

自衛隊もIT導入で200人乗り組み護衛艦乗員を90人に減らす、女性自衛官を倍増させる、採用年齢を引き上げる――などの手を打っているが改善しない。少子化、セクハラ、18万円台という初任給の低さが壁となっている。

軍事力は、「人と弾」の総和。強化策の出発点は、ここだ。