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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特任教授、国際厚生事業団理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

参議院選挙後に起こること2019.07.21

-政権、終わりの始まりに差し掛かる-

この原稿が皆さまの目に触れる頃、参議院選挙の投開票は終わっているから結果を予測することは無意味だ。どの調査結果を見ても自公で過半数を確保することは間違いないし、注目点は自民プラスで改憲に必要な3分の2議席を確保するかどうかだが、確保したところで選挙前と同じ状態に戻るというだけだ。

それより選挙後、自民党内力学(ポスト安倍政局)がどう動くのか。今ある材料をもとにその動向を分析、予測することの方がはるかに面白いと思う。

さて、この分析作業の出発点はやはり、「安倍首相は何故、衆参同日選挙に踏み切らなかったのか」という疑問の解明である。これがクリアされないと、次の「では安倍首相はどのタイミングで解散に踏み切るのか?」という疑問に答えようがなくなる。

この点について筆者は最近創刊した「全国警備業連盟ニュース」7月号に、「長期政権の重しと疲れのせい」と書かせてもらった。平たく言うと安倍政権は、史上最長の内閣になることが確実視されている。にもかかわらず憲法改正であり、北方領土問題の解決であったはずの後世に残すべき業績の達成が見えてこない。権力は永きをもってのみ善としない。吉田内閣は独立を回復した。岸内閣は安保条約を改定した。佐藤内閣は沖縄返還を実現した。田中内閣は日中国交回復を成し遂げた。では安倍政権は何を達成した、あるいはするというのか?

確かに戦術的には同日選挙が有利には決まっている。しかし野党の体たらくを見ると、公明党の反対を押し切るという危険を冒さなくても参院選は乗り切れる。なら無理をするまでもない。安倍政権で行える衆議院解散は、よほどのことがない限りあと1回。有終の美を飾る上でも大向こうをうならせる大義名分が欲しい――と考えたのではないか、という見立てである。

安倍・麻生・二階・菅力関係の変化

この見方を裏付ける事実も明らかになってきた。その一つが参院選前、安倍首相と麻生副総理が2回行った密談の中身である。巷間、同日選挙を強く迫る麻生副総理に安倍首相が応じなかったと伝えられているが事実は違ったようだ。この推測が生まれた原因は既視感にある。

2017年9月10日夜、麻生副総理は安倍首相を私邸に訪ね密談。28日、首相は消費税延期の是非を理由に衆議院を解散、自民党は10月22日の選挙で284議席を得、大勝した。

今回、推測を間違った人達が見落としたのは、この2年間で「安倍―麻生」の力関係が大きく変わった事実だ。財務省の相次ぐ不祥事、福岡知事選の挫折、自派議員の“忖度発言”――で麻生は大きく傷ついた。「総理の専権事項」に口を挟むご意見番は過去のものとなった。会談では安倍が一方的に語った内容が伝わってくる。「消費税は3期9年間で落とし前を付けます。解散で世に問うのは憲法改正しかないが、発議は内閣でなく議会が行う。その自民党案すら固まってないではないか」。

つまり選挙後に必ず起きることは安倍政権を支える麻生・二階・菅+岸田の力関係の変化だ。麻生副総理、高村副総裁、谷垣幹事長でスタートした安倍政権の基盤構造からまず、高村(引退)、谷垣(事故)が消えた。82歳の二階、79歳の麻生は留任するかもしれないが力の限界は明らか。他方、「令和のおじさん」を看板に派閥形成に乗り出した菅だが、安倍は“番頭”以上の価値を置いてないという。

いずれ増税前、即位の礼後、オリンピックの前後に解散はある。安倍は、その後を条件付き(憲法改正実現)で岸田に託すという声が出始めている。