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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特任教授、国際厚生事業団理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

バイデン外交に大きな期待は無理
―中国には戦略的寛容で臨むだろう―2021.02.21

政権交代時の恒例行事ではあるが、先月24日から28日にかけ日米政府首脳間による一連の電話会談が行われた。1月24日が岸防衛相とオースティン国防長官、27日に茂木外相とブリンケン国務長官、最後が28日未明の菅首相とバイデン大統領の順であった。

マスコミの関心は、「会談が各国の中で何番目に行われたか」と、「日米安保条約第5条が尖閣諸島に適用されることを再確認した」点に集まった。首脳会談に関して日本は、カナダ(22日)、メキシコ、英国(23日)、フランス(24日)、ドイツ(25日)、ロシア(27日)の次となった。隣国から始まり欧州主要国、戦略兵器削減条約期限の迫るロシアという順はうなずけるものの、バイデン政権の外交優先度が欧州重視という米外交の伝統的立ち位置に戻ったと見ることもできる。

筆者が気になったのは、日米首脳電話会談の時間設定が28日午前零時47分から約30分間だったという点だ。日本と米東部標準時(冬期)との時差は14時間。緊急時でもない限り日本時間の午前9〜10時(ワシントン午後7〜8時)あたりが妥当だし従来もそうだった。しかし、この日は、いったん帰宅した菅首相が急遽、未明に官邸入りしての会談となった。「大統領の健康管理上、ワシントン時間の午前中に設定された」と外交筋は説明するが、深夜呼び出された菅首相も決して若くはない。今後も78歳、高齢大統領の健康ファクターに振り回されそうな予感と不安を抱かせた。

他方、「いい加減にしたらどうだ」と言いたいのが、尖閣諸島への日米安保5条適用問題である。改めて安保5条を読んでみよう。「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するよう行動することを宣言する」とある。

アメリカに尖閣防衛を乞う愚

この問題は、クリントン政権で駐日大使を務めたモンデール氏がある場で、尖閣諸島が適用範囲と明言しなかったことに自民党の一部が反発したことに発する。日米間で調整を続け米側は、オバマ政権時に公式に条約適用範囲であることを認めた。いわば終わった問題を政権、閣僚が代わる度に「本当に守ってくれますか?」とばかり、乞いすがるような姿勢は情けない。今回は米側からの発言だったというが裏を返せば「尖閣カード」が高く売れることをアメリカ側に読まれているということである。

自国の領域が他国から武力攻撃を受けたら平和憲法下であろうと、日米安保条約の有無にかかわらず自衛に立ち上がることは自明の理。その覚悟と態勢があって初めて同盟国も自国兵士の生命を賭ける。しかも2月1日付本欄で指摘したように中国が尖閣諸島、台湾、韓半島を勢力圏に置こうという長期戦略は“戦争に至らぬハイブリット戦”を想定している。漁民を装った民兵が尖閣諸島に上陸する、主要インフラに大規模サイバー攻撃がかけられたという事態が、「武力攻撃」か否かは微妙だ。日頃から国、自衛隊において、こうしたグレー・ゾーン事態への準備、態勢作りが必要だがそれは出来ているのだろうか。

当面、バイデン政権で外交への優先度は低い。新大統領の支持率は歴代最低水準だし、未だ選挙結果を認めない国民が半数近くいる。一日の新規感染者9万人、死者2000人台というコロナ制圧が最優先。次に景気と雇用の維持だ。つまずけば2年後の中間選挙で民主党は両院で敗北するだろう。

サキ大統領報道官の「中国には戦略的忍耐で当たる」という発言が問題化したが現状、それしか手がないのだ。外交に関し、この政権に多くの期待を持ってはいけない。